WLS国際民事訴訟法(2019年度)

                                                                                                                (a):青笹真理

(b):君島憲和

(j):稲田珠青

(k):箸本明雄

(l):君島憲和

(a)

 1 日本の裁判所に国際裁判管轄が認められるかは、民事訴訟法(以下、民訴法)3条の2以下に定められており、本事案が該当する可能性が考えられる規定について以下検討する。

 2() 民訴法3条の38号は「不法行為に関する訴え」について、「不法行為があった地が日本国内にあるとき」に日本に裁判管轄を認めている。本問は民訴法3条の33号の該当性も考えられるが、不法行為の訴えは特に別の規定で定められていることから8号から検討する。「不法行為があった地」とは、加害行為地と結果発生地の両方が含まれると解する。

  () 本問においてMらは、Aの社の製造物責任に基づいて損害賠償請求しており、製造物責任は、不法行為責任に含まれる(関西鉄鋼事件、全日空羽田沖墜落事件、ナンカセイメン事件、中華航空事件、光モジュール事件)[このような引用の仕方では判決を特定できないこともあり、避けるべきです。]ため、本問Mらの訴えは「不法行為に関する訴え」に該当する。では、日本が「不法行為があった地」に該当するか検討すると、本問においてβ1が日本国内で製造されたとの事情はうかがえず、Mらが被害にあった事故は乙国内で発生しているため、日本が「不法行為があった地」にはあたらない。

  したがって、民訴法3条の38号によって日本に裁判管轄は認められない。

 3() 民訴法3条の33号は「財産上の訴え」について、「請求の目的が日本国内にあるとき、又は当該訴えが金銭の支払を請求するものである場合には差し押さえることができる財産が日本国内にあるとき」に日本の裁判所に裁判管轄を認める。

  () 本問におけるMらの訴えは、損害賠償請求という債権であるから「財産権上の訴え」に該当する。そして、損害賠償請求として15億円を請求する訴えであるから「金銭の支払を請求するもの」に該当する。また、A社は日本に乗用ドローンに関する複数の日本特許権を有しているため、「差し押さえることができる財産が日本国内にある」といえる。また、当該日本特許権の価値は30億円であり、「財産の価額が著しく低い」とはいえない。

   したがって、民訴法3条の33号に基づき日本の裁判所に裁判管轄が認められる。

  () では、民訴法3条の9の特別の事情はみとめられないか。民訴法3条の9の「特別の事情」とは事案の性質や、被告の負担の程度、証拠の所在地等を総合考慮して日本に裁判管轄を認めることが当事者間の衡平を害し適正かつ迅速な審理の実現を妨げる場合に認められる。

   本問において、A社は甲国法人であるから日本での訴訟は負担となるとも考えられる、また不法行為があった地は乙国内であるから、本問事故に関する証拠は乙国内に存在する。しかし、A社は日本市場もその経済活動の対象としているため日本での裁判の提起は予測困難また負担とはいえない。また、本問事故を起こしたβ1はB社直営店で購入したもので日本に所在するB社においてもβに関する証拠はあるといえ、日本にはA社の特許権も存在するのであるからβの製造についての資料も日本にあるといえる。したがって、当事者間の衡平を害し又は適正迅速な審理を妨げる事情はなく、民訴法3条の9によって訴えは却下されない。

  以上より、日本の裁判所は裁判管轄を有する。

(青笹真理)

(b)

 1 本件における乙国裁判所の判決の効力が日本で承認されるか否かは、民訴法118条各号の要件を充足しているか否かによる。

 そこで、以下、民訴法118条各号要件の充足性を検討する。

 2 まず、1181号については、本件は乙国内で発生した不法行為に関する訴えであるから、民訴法3条の38号により乙国裁判所に間接管轄が認められる。

 3 では、1182号の要件を充足するか。1182号は「敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼び出し若しくは命令の送達を受けたこと」を要する。

(1)同号の趣旨は、被告が訴訟の開始にあたって必要な通知または送達を受け、応訴するに相当な機会が与えられなければならないという、最低限の適正手続の要請を充足する点にある。〔4〕

 そして、1182号の要件が充足されているかの判断枠組みについて、最判平成1048日は、@被告が現実に訴訟手続の開始を了知することができるものであること、A被告の防御権の行使に支障のないものであることを要件とした上で、さらにB送達に関して判決国と我が国との間に司法共助に関する条約があれば、条約に定められた方法を遵守しない送達はそれだけで2号の要件を充足しないとした。〔5〕

(2)本件では、M2からM50は原告団であり「被告」ではないことから、1182号要件との関係においては問題はない。

 4(1)もっとも、これは手続的要件のうちで、よく問題となるものが1号や2号として括りだされているのであって、それ以外にも手続的に問題となるものはある。1号や2号から漏れた受け皿として機能するのが、3号のうちの「訴訟手続」が公序に違反しないことという部分である。〔6〕このような3号の機能からすれば、2号によって保護されない原告の手続保障について、それを没却するものは3号の手続的公序に反するものと解する。

(2)ア 本件では、M1の代理人からM2からM50に対して、訴訟委任について連絡したとあるが、その連絡手段が訴訟委任について現実に了知することができるものである必要がある。そして、現実に了知することができるものであれば[たとえM2ら全員が現実に了知していたとしても、このようなopt-out方式での訴訟委任が果たして日本の手続法に関する基本原則に適合するのかは検討の余地があると思われます。201610月に施行された「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」により、特定適格消費者団体がいわゆる日本版クラスアクションと呼ばれる集団訴訟・集合訴訟を提起することが可能となったが、opt-out方式は採用されていません。上記の日本法では、@「共通義務確認の訴え」とA「対象債権の確定手続」との2段階に分かれており、@は、内閣総理大臣の認定を受けた「特定適格消費者団体」が原告となり、事業者が相当多数の消費者に対して、共通する事実上および法律上の原因に基づく金銭支払義務を負うことについて、裁判所の確認を求める共通義務確認の訴えであり、特定適格消費者団体は、個々の消費者からの授権を受けずに訴えを提起することができる。他方、Aは、共通義務確認の訴えにおいて事業者が共通義務を負うことが確定したことを前提に、個々の消費者の事業者に対する個別の債権を確定する手続であり、)「特定適格消費者団体」が、個々の消費者から授権を受けて、裁判所に対し債権の届出を行う等の方法によるものであり、消費者に有利な内容の判決であることを条件としつつ、あくまでopt-in方式が採用されている。]、一定の期間内に反対の意思表示が到達しないときはM1に訴訟委任をするものとみなすとしても、原告の手続保障が害されないといえる。この場合、M2らは自らの意思で訴訟委任をするか、もしくは原告団から外れて自ら訴訟追行をすることを選択できたといえ、自己の訴訟追行権の行使に対して支障が生じたとは言えないからである。

イ 他方、訴訟委任を現実に了知できないような手段で連絡したのであれば、その意思が明確でないにもかかわらず、訴訟委任をするものとみなされることから、その訴訟追行権に支障が生じたといえ、手続保障を害するものとして手続的公序に反するといえる。このような考え方は、手続保障を目的として、了知可能性を擬制する公示送達その他これに類似する送達方法は2号要件を満たさない(2号かっこ書き)としていることからも見受けられる。

 5 また、1184号に関する事情は不明である。

 6 以上からすると、M2からM1が訴訟委任について現実に了知することができ、その訴訟追行権に支障が生じていないと言える場合には、本件判決の効力は日本で承認される。

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〔5〕中西・北澤・横溝・林 リーガルクエスト国際私法〔第2版〕2018 有斐閣 p190

〔6〕同上 p192

(君島憲和)

(j)

1 乙国裁判所の下した判決が日本から見て、民訴法1181号の間接管轄の要件を満たすか検討する。

2 1 間接管轄(同条1号)を求める趣旨は、事案と十分な関連性をもたない国の裁判機関で不利な判決を受けた被告の手続的保護を図る点にある。そうだとすると、間接管轄の有無は、判決を下した国の基準ではなく、判決を承認する国の基準に照らして判断されなければならない。

2 本問において、承認国は日本であるから、間接管轄の有無は日本法により判断する。

3 判断の基準が承認国にあるとして、その基準について、最判平成10428日民集523853頁(百選108)は、「どのような場合に判決国が国際裁判管轄を有するかについては、これを直接に規定した法令がなく、よるべき条約や明確な国際法上の原則もいまだ確立されていないことからすれば、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念により、条理に従って決定するのが相当である」としていたが、民訴法3条の2以下の規定が設けられた平成23 年改正法の下で、最判平成26424日民集684329頁は、直接管轄と間接管轄の両者の基準は必ずしも一致する必要がないとする説を採用することを明示した。

しかし、そもそも日本で直接管轄を否定すべき場合に間接管轄を肯定することは訴訟法上の正義や主権の理念に反するものというべきであり、直接管轄と間接管轄は全く同じルールに服すべきであると考えられるから、ここでは、鏡像理論を採用する。そこで、民訴法3条の2条以下の規定を準用し、「日本」を当該外国と読み替えて判断する。

3 本問において、C社は、B社に対し、債務不履行を理由に解除し、損害賠償を求めている。そうすると、当該請求は、「契約上の債務の不履行による損害賠償の請求」を目的とする訴えで、sd契約上、B社のβ引渡債務の履行地は乙国であるから、「契約において定められた当該債務の履行地」が当該外国、本問では乙国、にあるときにあたり、民訴法3条の31号に基づく契約債務履行地管轄が認められる。

3 したがって、乙国裁判所の下した判決には日本から見て、民訴法1181号の間接管轄が認められる。

(稲田珠青)

(k)

 1 国際訴訟競合の規律方法

国際裁判管轄ルールは、1つの事件について複数の国に管轄が認められることを予定している。そのため、実際に複数の国に訴えが並行して提起され、訴訟手続きが競合することがあり得、どのように調整を行うかについての何らかの規律が必要となる。

国内における二重起訴に関する民訴法142条を、外国裁判所に訴訟が係属する場合に直接適用することはできない。規律の仕方としては、外国判決承認・執行制度とのバランスから、先行する外国訴訟において将来下される判決がわが国で承認できると予測される場合には、それと抵触する訴えを提起することを認めるべきではないという立場(承認予測説)と、国際裁判管轄の判断における民訴法3条の9の適用の中で、「特別の事情」の1つとして訴訟競合の点も考慮するとの立場(特別の事情説)が存在する(入門P.354)。

2 両説の妥当性

承認予測説は、先に係属した外国訴訟において、将来下される判決が日本において承認されると予測される場合には、その外国訴訟係属は国内の他の裁判所での訴訟係属と同一視でき、後から提起された日本での訴えは、訴えの利益(権利保護の利益)を欠くとするものである。これに対し、特別の事情説は、国際裁判管轄の枠組みの中で、様々な事情を考慮することを許容する民訴法3条の9を活用することにより、柔軟な対応が可能となるとするものである(入門P.355)。

この点、米国との訴訟競合が問題となった事案において、上記「特別の事情説」を判旨で述べた上で、「特段の事情はない」として日本における裁判管轄を認めた裁判例がある(東京地裁平成19年3月20日中間判決)。しかし、訴訟競合は日本に国際裁判管轄があってはじめて問題となるものである。体系的にみて、訴訟競合と裁判管轄とは別の訴訟要件であり、この点で、特別の事情説は個別の訴訟要件の検討が不明確なものとなってしまうと言え、体系的にみて問題がある(入門P.355)。

また、外国判決の承認ルールは、一定の要件を備えた外国判決に対して、一国の司法制度が言わば「礼譲」を示すものと言え、そのようなルールを実効的なものにするためには、確定すれば承認がなされるべきものに対しては、訴訟手続きの段階から一定の配慮をすべきである。こうした観点からは、外国判決の承認ルールとの関係において国際訴訟競合を規律することが論理的であり、承認予測説が妥当である(入門P.356)。

3 本問での検討

これを本問についてみると、B社が日本で提起した債務不存在確認訴訟(後訴)は、C社が乙国で提起した損害賠償請求訴訟(前訴)の反対形相と言うべきものであり、両訴訟は言わば国内訴訟における同一の訴訟物についての訴えである。

まず、後訴が日本の裁判管轄を満たすかについて、民訴法3条の2以下に照らし検討すると、被告住所地をはじめ、裁判管轄を肯定できるものは見当たらない。本件は「財産権上の訴え」(民訴法3条の3第3号)には当たるが、「金銭支払いを請求する訴え」ではない。被告の財産として5億円の日本国債が日本国内にあるが、差押えの目的物でもなく、このことのみをもって裁判管轄を肯定することはできないと解する。従って、そもそもわが国の裁判管轄が認められず、訴訟競合の問題を生じない。裁判例(東京地判昭和62年7月28日)も、民訴法3条の3が規定される前の事案について同様に述べている。

仮にわが国の裁判管轄があるとした場合について検討する。C社の乙国での訴訟は、設問(j)で検討の通り、民訴法118条1号の要件を満たす。B社の手続き保障に欠けるとの事情は窺われず、判決内容が公序に反するとの事情も認められないため、2号、3号の要件も満たすと考えられる。従って、4号要件である「相互の保証」が日本と乙国との間にある場合は、「将来下される判決が日本において承認されると予測される場合」に当たり、日本の裁判所はC社の抗弁を認め、B社の訴えを却下すべきである。

以上の通り、いずれにしても日本の裁判所としては、C社の抗弁を認め、訴えを却下すべきである。

(箸本明雄)

 (l)

 1 BA社間のd1契約には、甲国裁判所を専属とする管轄合意がある。このような状況において、B社がA社を被告とする訴えを日本の裁判所に提起することは、上記専属的管轄合意が無効でない限り認められない。そこで、本件専属的管轄合意の効力を検討する。

 2(1)まず、本件専属的管轄合意は平成24年改正民訴法3条の7の要件を全て満たすものである。この点、改正前における外国裁判所を指定する専属的管轄合意の有効性について最高裁は、@当該事件が我が国の専属的管轄に服するものではないこと、A指定された外国の裁判所が、当該外国法条当該事件につき管轄権を有すること、B当該管轄合意がはなはだしく不合理で我が国の公序法に反するものではないこと、という基準を示していた。〔18〕 この判断枠組みは改正民訴法3条の7において明文化されたが、同条にはBについての規定はない。そこで、民訴法3条の7においても明文にないBの要件が必要か、必要であれば、形式的に3条の7の要件を満たす専属的管轄合意であっても無効となる可能性があることから問題となる。

(2)この点、予見可能性が重視されるべき国際取引における管轄合意の有効性が不明確な基準により左右されることはできる限り避けるべきであることから、Bの要件の適用には慎重であるべきである。もっとも、管轄合意を有効として指定の裁判所に管轄を認めることが極めて不合理又は不当な結果となる場合もあり得ることから、Bの要件を必要とすべきと解する。〔19

(3)よって、Bの要件は必要であり、本件のような民訴法3条の7の要件を形式的に満たす専属的管轄合意であっても、無効となる余地がある。

 3(1)では、いかなる場合に無効となるか。本件では甲国裁判所を専属管轄とする合意があるにもかかわらず、日本の独禁法上の優越的地位の濫用に該当する旨主張して、日本で訴えを提起することができるかどうかが問題となっている。そこで、どのような場合に我が国の強行的適用法規との関係で専属的管轄合意が無効とされるかが問題となる。

(2)裁判例はこの点につき、専属的管轄合意が無効となるのは、「当該専属管轄裁判所が準拠する全ての関連法規範を適用した場合の具体的な適用結果が、日本の裁判所が準拠する独禁法を含む全ての関連法規範を適用した場合の具体的な適用結果との比較において、独禁法に係る我が国の公序維持の観点からみて容認しがたいほど乖離したものとなるような場合」に限るとしている。〔20

 しかし、このような比較を要求するほどの多大な労力を管轄決定の段階で裁判所に要求するのは妥当ではない。

 そこで、基準の明確性、当事者の予測可能性の観点から、当該管轄合意において我が国の強行的適用法規を潜脱する意図がある場合に限るものと解する。〔21

(3)本件d1契約は、契約締結の日から3年後以降、日本の乗用ドローンに関する法整備が完了しているか否かを問わず、βの引取義務を負わすものである。そして、仮に引き取りをしなくとも毎月5億円もの債務を負わすものであることから、「正常な商慣習に照らして不当に」「商品」を「購入させる」(独禁法295号ハ)ものであり、不公正な取引方法に該当する(同法19条)。このような不公正な取引方法の禁止は、独禁法1条の規定からしてその中核的規定といえるため、強行的適用法規に当たる。

 確かに、A社は日本市場におけるディーラー網の拡大を目的としてB社と契約していたことからすれば、日本での法整備が遅れ、本件のような不公正な取引方法が生じてしまうことは本望ではなかったといえる。もっとも、d1契約における「法整備が完了していてもいなくても」や「仮に実際の引き取りをしなくても」という部分は、法整備が遅れた場合に備え、かつ、B社がβの販売ができないために引き取りを拒絶することを見据えた規定であると考えられる。そうであるとすれば、A社は契約時点において、不公正な取引方法が生じる可能性があることを予見していたといえる。その上で、甲国の裁判所を専属とする合意管轄をしていることからすれば、A社には本件管轄合意において我が国の強行的適用法規を潜脱する意図があるといえる。

(4)よって、甲国の裁判所を専属とする本件管轄合意は無効である。

 4 本件専属的管轄合意が無効であっても、日本で訴えを提起するには管轄原因が別途必要である。〔22〕 B社の訴えは債務不存在確認の訴えであることからすれば、上述した問題(k)と同様の状況にあるといえる。もっとも、「特別の事情」(民訴法3条の9)があるとして訴えを却下した知財高裁平成291225日判決を参考に考えると、本件は、日本の法整備や日本の独禁法の問題が争点となる推測されることから、日本の裁判所において審理判断することが当事者間の衡平を害し、適正かつ迅速な審理の実現を妨げる「特別の事情」があるとはいえない。

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18〕最高裁昭和501128日判決

19〕澤木・道垣内 国際私法入門〔第7版〕2014 有斐閣 p309参照

20〕東京地裁平成28106日判決

21〕横溝大 独禁法事例速報 ジュリスト 20178月・1509号 p7

22〕澤木・道垣内 国際私法入門〔第7版〕2014 有斐閣 p310

(君島憲和)