WLS国際私法I (2019年度)

(c):原芳紀

(d):野本和希・佐藤惇史

(e):山本駿吾

(f):青笹真理

 

(c)

1 NがLのMらに対する約15億円の損害賠償債務を相続するかという問題を検討するに当たり、まず、相続財産の構成を確定しなければならない。

2 どのような財産が相続財産を構成するのかについては相続の準拠法(通則法36条)によるが、それぞれの財産についてもその財産関係を規律する準拠法が存在する。そのため、相続準拠法によれば相続が認められるにも拘らず、財産準拠法によれば移転可能性が認められないこともあり得る。そこで、相続準拠法と財産準拠法との適用関係が問題となる。

この点について、財産準拠法が相続準拠法と異なる定めをしている場合には、相続準拠法が相続財産該当性を肯定していたとしても、いずれか一方を優先すべき根拠はないとして、結果的に相続準拠法と財産準拠法が相続財産の構成につき累積的に適用されるとする見解がある

しかし、法律関係の性質決定とは国際私法を構成する個別的な抵触規則の事項的適用範囲の確定の問題であるから、上記のような二重の性質決定は許されないはずである。

そこで、いかなる財産が相続財産に当たるかについては「相続」の問題として通則法36条によるが、当該財産が被相続性・移転可能性を有するかは個別の準拠法に依拠させるべきである

3⑴ 本問において、被相続人Lは、乙国に在住する日本人であるから、Lに帰属していた権利義務のうちどのような属性を持つものが相続の対象になるのかは、本国法たる日本法によって判断される(通則法36条)。そうだとすれば、一身専属性のある権利義務は相続財産に含まれない(民法896条但書)。

 ⑵ 一方で、ある権利義務が相続の準拠法の要求する属性、すなわち一身専属性を持つかは、当該権利義務自体の準拠法による。

本問の損害賠償債務は、乙国での事故による不法行為によって発生しているから、準拠法は結果発生地たる乙国法である(通則法17条)。なお、Lは乙国に在住しており、被害者のMらも全て乙国在住の乙国人であるから、当事者が法を同じくする地に常居所を有していたといえ、通則法20条に依っても準拠法は乙国法となる。

そして、乙国法が遺産管理手続を擁する精算主義を採用していることからすれば、[このことは理由にはならないと思われますので、(3)において、移転可能性が否定されていない限り相続財産に含まれる、とする方がよいと思われます。]乙国法上も損害賠償債務の移転可能性自体は認められており、一身専属ではないと解される。

 ⑶ したがって、本件損害賠償債務は、相続財産に含まれる。

[4 もっともなお、本問では、承継主義を採用する日本と異なり、乙国は精算主義を採用しているから、相続財産の管理・清算はいずれの準拠法によるべきかが問題となる。

この点について、相続人のあることが不分明である場合に、通則法13条の精神を根拠に、相続財産の管理・精算を管理財産の所在地法によらしめるとした裁判例がある

しかし、日本の相続法が財産管理と財産承継の区別を採用していないこと、相続統一主義のもとにおいては相続に関する諸問題は統一的に被相続人の本国法によるべきことから、相続財産がどのような方法で相続人へ移転し、それを管理・清算するのかという問題は、すべて「相続」の問題として通則法36条により決まる準拠法で判断するべきである。

なお、かかる見解に従い、外国法が指定された結果、遺産権利人の選任が必要とされる場合には、我が国の相続財産管理人の手続きを遺産管理人に適応させて、我が国における遺産管理人の選任を認めるべきである

よって、本問において、相続財産の管理・精算生産に関しては、Lの本国法たる日本法によって決する(通則法36条)。][この点への言及は必要ないと思います。]

(原芳紀)

(d)

(1)実質的成立要件

婚姻の実質的成立要件は通則法24条1項に規定されている。通則法24条1項では「各当事者につき、その本国法による」とされており、配分的適用を採用したとされている。問題はこの配分的適用に際し、婚姻障害要件をどのように適用するかである。

第一に、婚姻障害を国際私法上、一方要件と双方要件に区別して、一方要件は夫婦それぞれに自分の本国法上の定めか自分のみに、双方要件は夫婦双方の定めが累積的に適用されるという見解がある 。第二に、そもそも一方要件・双方要件という区別をすることは、通則法24条1項の単位法律関係は婚姻の実質的成立要件であるにもかかわらず、その中を男性側の一方要件・女性側の一方要件・双方要件の3つに区別することは解釈の限界を超えているとして無理があるとする見解がある

単位法律関係は1つである以上、送致範囲は準拠法上の婚姻の実質的成立要件に関するルール全てであって、通則法24条1項は当事者双方の本国法の累積適用を定めていると解するほかなく、戸籍実務においても、婚姻成立につき、実際上、男女それぞれの本国法上の全ての要件を具備していることが要求されており、第二の見解が妥当である

そうすると、LNは、日本法と丙国法のどちらもそれぞれ満たしている必要がる。本件では、NOとの離婚から1週間でLと結婚している。日本法には民法733条1項により再婚禁止期間制度が規定されている。そのためNは日本法の婚姻要件を満たしていないことになり、NLの婚姻について取り消しができる(民法744条)。もっとも、Nが民法733条2項の各号に該当すれば[本件ではON間にもLN間にもに子がいるとはされていないので、7332項が適用される場合ではないでしょうか。]、733条1項は適用されず、その結果、NLの婚姻は有効となる。

[なお、甲国法には待婚期間という制度がなく、この点で日本法と箱となるため、通則法42条の公序違反であるか否かが問題となり得るが、日本法によっても民法7332項により本件のLN間の婚姻は有効とされ、適用結果は同一であって、通則法42条が外国法の内容をチェックするのではなく、その適用結果をチェックするものである以上、公序違反にはならない。]

(2)方式

婚姻の方式は、通則法24条2項・3項に規定されている。通則法24条2項は、婚姻挙行地法主義を採用している。そのため、原則として、NLは、挙行地である乙国の法の方式により婚姻を行う必要がある。しかし、これを貫くと、当事者に困難を強いることになったり、思わぬ事態が生じたりと、弊害があるため、通則法は24条3項本文で例外を定めている。本件において、NLの婚姻は、Nの本国である丙国法上認められている儀式に則り行われているため3項本文にあたり、3項但書に該当する事由もなく、その他に丙国法上障害事由もないことから、有効である。

(野本和希)

1 婚姻の実質的成立要件については通則法241項、形式的成立要件については通則法242項、3項の単位法律関係である。

2 通則法241項は婚姻の実質的成立要件について配分的適用により、当事者それぞれの本国法によるとしている。本問においては再婚禁止期間について夫婦のどちらかの一方要件に属するか、双方要件に属するかが問題となる。

3 この点、再婚禁止期間は女性側に課せられることから、女性側についての一方要件であるという考えも出来るが、男性についても出生した子供がどの男性の血を継いでいるかということによる問題は、再婚の夫の方にも大きく関係する問題であることから、双方要件であると考えるべきである。

4 従って、再婚禁止期間については夫Lの本国法である日本法と妻Nの本国法である丙国法の双方によるべきところ、日本法においては民法7331項において女性は前婚の解消又は取消から100日経過する必要があるとされており、本問においては妻Nについて民法7332項の例外に当たらないのであれば、本問婚姻は実質的成立要件の点で有効とはいえない。

5 また、婚姻の方式については通則法242項、3項によるべきところ、242項では婚姻挙行地の法によるとしている。

6 本問においては乙国所在の丙国大使館において丙国の方式による婚姻を結んでいる。このような領事婚について挙行地である、乙国法が認容しているか不明であるが、仮に認めていないとしても通則法243項は2項の規定にかかわらず、当事者一方の本国法に適合する方式は有効であるとしている。本問についてはNの本国である丙国の方式による婚姻であるため、形式的成立要件の点では有効であるといえる。

7 従って、本問ではLN間の婚姻は実質的成立要件の点では民法7332項の例外に当たらないのであれば有効ではなく、形式的成立要件の点では有効である。

(佐藤惇史)

(e)

 [国際私法Tの1]をみるにQが相続人としてMらに損害賠償をすることになるか判断するためには、損害賠償債務が不法行為に基づくものであるから17条によって乙国法、相続が起こるため相続につき36条によって日本法が準拠法となり累積適用される。

[28条と29条の適用順序について、最高裁平成12127に触れる方がよい。]

そして、相続人であるかどうかはQの出生時、PL間に婚姻関係はなかったことから、28条の適用が否定される。

そうだとしても、29条により非嫡出親子関係が認められないか。

291は事実主義および認知主義双方からの出生当時の父の本国法を準拠法にしている。

本件では、QPLの同棲していた時の子であるから親子関係が成立するかにつき単位法律関系は嫡出でない子の親子関係の成立となり、出生当時の父であるLの本国法は日本法であるから準拠法は日本法となる。

認知についてはできるだけ容易に認めることがこの利益に資するため出生時されるとは限らず、出生後相当な期間を経てされることもあり、最密接関係地法は異なることがあり得るため、子の出生時の認知者の本国法(1)に加えて、認知当時の認知者の本国法(2)(本件ではつまり日本法)も準拠法とされており、また、認知当時の子の本国法(2) (本件ではつまり甲国法)選択的に準拠法とされている適用される(292)

以上のことから、本件では子の出生時の認知者の本国法(1)により、事実主義又は認知主義により非嫡出親子関係が認められるか、認知の場合にはさらに、認知当時の認知者()の本国法(2)として日本法、認知当時の子の本国法(2)として甲国法が選択的に適用され(292)、日本法、甲国法のいずれかで非嫡出親子関係が認められればそのような結果となるその国のほうが準拠法として指定される。

また、子にとって望ましくない認知から子を守るため子の本国法上その子又は第三者の承諾または同意があることが認知の要件であるときは、その要件も備える必要がある(291項後段2項後段)。つまり、子の本国法である甲国法がセーフガード条項として累積適用される。甲国法にそのような規定があればその要件が適用甲国法が準拠法として指定される。

(山本駿吾)

(f)

1 認知の方式は、通則法29条が定める認知という親族関係についての法律行為の方式の問題であるから、通則法34条が適用される。

通則法341項は、「通則法25条から33条までに規定する親族関係についての法律行為の方式は、当該法律行為の成立について適用すべき法による」とし、2項において、「前項の規定にかかわらず行為地法に適合する方式は有効とする」と定め、適用対象となる法律行為の成立の準拠法と行為地法の選択的連結を定めている。これは、方式が法律行為の成立の問題の1つであるため実質的成立要件の準拠法として定められている法によることがふさわしく、また方式要件具備のために他の国に赴いて法律行為を行うという不便を解消するためである。

() 通則法342項に基づき「行為地法」の方式に適合した場合、当該法律行為の準拠法を決定しなくても、有効か否かを判断できるため、まずは通則法342項について検討する。[29条により認知の準拠法は日本法になり、日本法の定める方式に適合するので方式上有効との結論を導く方が簡単かもしれません。]

本問において、Lは乙国から郵便でLの戸籍のある市役所に認知の届出をしておりLは日本人であるから「Lの戸籍のある市役所」は日本に市役所と解されるところ、届出を発送した地と受信した地の国が異なるため、発送した地と受信した地のどちらが「行為地」になるかが問題となる。

() この点について、法律行為の当事者は一国内に所在するのであり、本条の趣旨が当事者の便宜という点にあることからすると、当事者が所在する地の法を行為地と解することが考えられる 。これに対して、法律行為の方式を@当事者間での法律行為の意思表示の仕方を定める方式のものとA行政機関への届出や受理、聖職者・立会人の前での儀式といった方式の具備を求めるものの2種類にわけ、本問Lがした届出方式であるAについて、「行為地」とは意思表示の通知が受信された行政機関等の所在地と考える見解もある。この見解は、意思表示が当事者間でされるのではなく「公」に対してされる特徴に基づき、このような方式において重要なのはどこで通知が受信され、公にされるかという点であることを根拠とする。本条の趣旨が当事者の便宜にあることのみを理由にあらゆる法律行為の方式について一律に行為地を当事者の所在地とすることは合理的とはいえず、届出方式において重要なのは当該届出の効力がどこで発生するかという点にあることから、前者の立場は適当ではなく、後者の立場によるべきと解する。

() 上述の通り、本問においてLの届出を受信した地は日本と解される。日本では、認知は届け出ることによってする(日本民法7811)と定められているため、本問Lの認知の方式は日本民法上有効である。

したがって、Lは行為地法である日本法に適合する方式で認知を行っているため、本問認知は、有効である。

(青笹真理)