早稲田大学法科大学院2019年度夏

「国際私法I「国際私法II「国際民事訴訟法」試験問題

ルール

-       文献その他の調査を行うことは自由ですが、この試験問題について他人の見解を求めることは禁止します。答案作成時間に制限はありません。

-       答案送付期限は、2019年7月7日(日)18:00です。

-       答案は下記の要領で作成し、[email protected]宛に、添付ファイルで送付してください。

         メールの件名は、必ず、WLS国際私法I」・「WLS国際私法II・「WLS国際民事訴訟法」のいずれかとして下さい。複数の科目を受験する場合には、それぞれ別のメールで送って下さい。

         原則として、マイクロソフト社のワードで、A4サイズの標準的なページ設定にして下さい。

         最初の行の中央に「WLS国際私法I」・「WLS国際私法II」・「WLS国際民事訴訟法」のいずれか、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載して下さい。

         頁番号を中央下に付けて下さい。

         注を付ける場合には脚注にして下さい。

         10.5ポイント以上の読みやすいフォントを使用し、また、全体として読みやすくレイアウトしてください。

-       枚数制限はありません。不必要に長くなく、内容的に十分なものが期待されています。

-       判例・学説の引用が必要です。他の人による検証を可能とするように正確な出典を記載して下さい。

-       答案の作成上、より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成してください。

-       これは、成績評価のための筆記試験として100%分に該当するものにするものです。

-       各設問記載の事実関係は、当該設問においてのみ妥当するものとします。

-       以下の問題につき、日本の裁判官の立場で、事案の発生時点がいつであれ、すべて現在の法の適用に関する通則法、民事訴訟法、民事執行法(以下、それぞれ「通則法」、「民訴法」、「民執法」という。答案において同じ。以下同じ。)等のもとで検討しなさい。

事案

甲国法人のドローン・メーカーA社は、人が乗ることができる実用ドローンβの販売開始に先立ち、ディーラー網の構築するため各国の候補会社との交渉を開始した。日本市場については、A社は、日本法人B社との間でディ−ラーシップ契約(d1契約)を締結し、B社は日本で、βの販売を可能とするための法整備促進活動をするとともに、販売開始後は一定期間内に35店舗を展開することとなった。そして、B社からの申し入れにより、A社は乙国市場もB社に任せることにし、A社とB社との間でこのこと等を定めたディーラーシップ契約(d2契約)が締結され、乙国では、B社は自社直営の5店舗を展開するとともに、A社の承認を受けた上で乙国法人C社をサブ・ディーラーとすることになった。そして、B社・C者間でサブ・ディーラーシップ契約(sd契約)が締結され、C社は7店舗を展開することとされた。

乙国は乗用ドローンに関する法整備を世界で一番早く完了した。βは乙国の基準を全て満たし、乙国で世界初の一般販売が開始された。乙国におけるB社直営の初店舗にA社から納入された最初の100台は2週間で完売し、暫く品切れ状態になった頃、最初の事故が乙国内で発生した。乙国在住の日本人Lが乙国のB社直営店舗で購入し、乗車していたβ(特定するためβ1とする。)が、休日で混雑する遊園地に墜落し、Lは死亡し、地上にいたM1からM50までの50(全て乙国在住の乙国人。まとめてMらという。)が重傷を負った。この事故の原因が製品の欠陥か否かは現時点では不明である。

1.    乙国においてMらがA社に対して提起した訴えの間接管轄

(a) [国際民事訴訟法の1] Mらは、乙国で裁判をしても乙国判決は甲国では執行できないため(乙国判決は甲国における外国判決執行の要件の1つである相互保証の要件を具備しない。)、日本の裁判所において、A社に対して製造物責任に基づく損害賠償請求訴訟(請求額は日本円に換算して約15億円)を提起した。日本の裁判所は国際裁判管轄を有するか。なお、日本には、A社の資産として、乗用ドローンに関する複数の日本特許権があり、その価値は30億円を超えるとされている。

(b) [国際民事訴訟法の2] A社に対する製造物責任に基づく損害賠償請求訴訟は乙国で行われるとする。M1の訴訟代理人は、法廷地法である乙国法に従い、まず共通争点確定訴訟をすることとした。これは、多数の原告と被告との間で共通する争点がある場合、その争点について原告の代表者と被告との訴訟で争い、その訴訟結果は代表原告に訴訟委任した当事者全員との間で既判力を有することとなる手続であり、たとえば、不法行為事件の被告の責任の有無について一つの手続で確定させ、責任なしとなれば訴訟委任をした当事者の被告に対する請求権はすべて否定され、逆に責任が肯定されれば、それを前提としてそれらの当事者が個々に損害賠償額を決定する手続をとることになるというものである。この乙国法に従い、M1の代理人は、M2からM50に対して、@M1が共通争点確定訴訟をすること、AもしM1に訴訟委任しないのであれば、一定期間内にM1の訴訟代理人に反対の意思表示をすれば原告団から外すこと、Bその期間内に反対の意思表示が到達しないときにはM1に訴訟委任をするものとみなすこと、以上を連絡した。その期間内に反対の意思表示は全くなく、乙国法上、M1M2からM50までから訴訟委任を受けて共通争点確定訴訟を行った。

この訴訟の結果、A社にはβ1の事故について責任はないことが確定した。この判決の効力は日本で承認されるか。

2.    Lの損害賠償債務のNによる相続

(c)  [国際私法I1] Lには唯一の相続人として乙国在住の丙国人妻Nがいるとする。Nとは日本での投資ビジネスで形成した資産があり、ほとんど全ては日本の会社の株式であり、日本の証券会社の口座に入っている(総額約20億円)。他方、Lにはめぼしい資産は有していなかった。Lの事故の原因はβ1の欠陥ではなく、Lの故意・過失によるとされた場合、NLの損害賠償債務(Mらの請求が全て認められると約15億円の債務)を相続しているか否かが問題となる。

β1の事故が発生した乙国の法は、不法行為については日本法と同じ内容であるが、他方、相続については日本と異なり精算主義が採用されており、死亡によりその遺産について管理手続が開始し、遺産管理者によりプラスの資産とマイナスの資産(債務)とが集められて精算された結果マイナスになれば債権者に割合弁済がされ、プラスになれば相続割合に応じて相続人に相続されることになっている。日本から見ると、NLMらに対する損害賠償債務を相続するかという問題についての準拠法は何か。なお、反致は成立しないとし、また、LNとの婚姻は有効であることを前提とする。

(d) [国際私法I2] LNとの婚姻の有効性にも検討を要する点があるとする。Lは乙国に旅行で訪れたところ、乙国到着後すぐにNと出会い、その翌日、乙国所在の丙国(Nの本国)の大使館において丙国法上認められている第三者立会いの下での婚姻の儀式を行い、そのまま乙国に住み着いたのであった。Nは乙国在住の乙国人O男との離婚後わずか1週間でのLと婚姻であったが、丙国法には待婚期間(再婚禁止期間)という制度は存在せず、その他にも丙国法上婚姻障害事由はなく、丙国法に照らせばこの婚姻は有効とされた。そして、乙国においてもこの婚姻は有効とされていた。日本からみて、LNの婚姻は実質的成立要件及び方式の点で有効か。なお、反致は成立しないものとする。

3.    Lの損害賠償債務のQによる相続

(e) [国際私法Iの3] 乙国でのLの事故がA社のある甲国で大きく報道されたことから、かつて日本においてLと同棲していた甲国人P(日本在住)は、Lとの間にできた甲国人子Qがいることをマス・メディアの取材に対して答えた。この取材があったのは、18歳になるQが起業したIT企業が急速に成長し、1年後に大手IT企業に30億円で売却したからであったが、仮にβ1の事故の責任がLにあるとすれば、Qが相続人としてMらに損害賠償をすることになる可能性がある。この点を判断するために必要となる単位法律関係のそれぞれについての準拠法は何か。それを導くプロセスを説明しなさい。

(f)  [国際私法I4] (e)において、Lは事故の前に、乙国から郵便でLの戸籍のある市役所宛にQを認知する旨の届出をしていたとする(その用紙は事前にその市役所から入手していた。)。甲国法も乙国法も裁判による認知しか認めていないとする。この認知は方式上有効か。

4.    A社・B社・C社の争い

(g) [国際私法II1] β1の事故の結果、乙国ではβの売れ行きが激減した。そのため、C社は乙国でのサブ・ディーラー網の構築方針を覆し、当面は店舗用地の買収や店舗工事を行わないこととした。これに対して、A社は強気であった。d2契約によれば、A社がβの乙国向け出荷をできる状態にあることを条件として、販売開始後、B社には契約に定める台数のβの引き取る義務がB社にはあり、また、sd契約によれば、βの乙国での販売開始後、B社が引き取ったβのうち、契約に定める割合の引き取りの権利・義務がC社にあるとされていた。d2契約にもsd契約にも契約の準拠法の定めはない場合、日本から見ると、これらの契約の準拠法は何か。

(h) [国際私法II2] (g)の対立の最中、C社はそのウェブサイトにおいて、A社・B社は、β1の事故にも拘わらず、βの販売を従来通り進めようとしており、利益至上主義の冷酷な会社経営をしていると非難する声明文を甲国語・乙国語・英語で掲載した。これに対して、B社はC社に対して信用毀損行為に基づく損害賠償請求をすることを検討している。日本では、この請求を判断する準拠法は何か。

(i)   [国際私法II3] 甲国・日本・乙国政府の合同調査委員会の調査の結果、β1の事故はLの故意によるものであり、安全装置を解除して無謀な運転をした結果であることが判明したとする。そして、乙国でβは再び売れ行きが好調となり、B社は3店舗目、C社は2店舗目をそれぞれ開店した。その矢先、甲国と乙国との間の安全保障上の対立が深まり、甲国政府は、甲国企業に乙国との取引を禁止し、また、乙国以外の企業であっても、乙国との取引があるものとの取引を禁ずる大統領令を発布した。そこで、A社はB社に対して乙国での直営店舗の閉鎖に加え、C社とのsd契約の解除を求めた。sd契約の準拠法が日本法であるとして、C社がB社に対する訴えを日本の裁判所に提起した場合、この甲国の大統領令はB社の契約解除を正当化することになるか。

(j)  [国際民事訴訟法の3] 上記の大統領令を受け、B社は乙国からの撤退を開始した。これに対して、C社は、B社のβの引き渡し義務(sd契約上C社指定の乙国内店舗での引き渡しが明記されている。)の不履行を理由にsd契約を解除して損害賠償(日本円で約50億円)を求める訴えを乙国の裁判所に提起した。乙国の裁判所が本案判決を下した場合、この判決は日本からみて、民訴法1181号の間接管轄は認められるか。

(k) [国際民事訴訟法の4] B社は、(j)の訴訟に対抗して、C社を被告として債務不存在確認の訴えを日本の裁判所に提起した。C社は日本での訴えの却下を求めている。日本の裁判所としてはこのC社の本案前の抗弁をどのように扱うべきか。なお、日本には、C社がB社のサブ・ディーラーとなるため、契約履行担保としてB社に差し入れた5億円の日本国債がある。

(l)  [国際民事訴訟法の5] A社は多くの国で乗用ドローンに関する法整備が進展し、各国の安全基準を満たしているβは好調に売れ行きを伸ばした。しかし、日本では法整備が遅れ、βの販売時期の見通しが立たないままであった。d契約によれ、B社はd契約の締結の日から3年後以降、日本の乗用ドローンに関する法整備が完了していてもいなくても、A社がβの乙国向け出荷をできる状態にある限り、毎月最低50台のβを引き取る義務があり、仮に実際の引き取りをしなくても、その代金支払いの義務があるとされていた(βの日本での小売価格は3000万円であり、B社のA社からの購入価格は2000万円であるので、毎月5億円になる)。そのため、A社はB社に支払いを求めており、先月末までで累積額は5か月分25億円になっている。

d1契約には甲国の首都の地方裁判所を専属とする管轄合意があり、これは民訴法3条の7に定める要件は全て満たしているとする。それでも、B社は、A社の請求は日本の独禁法上は優越的地位の濫用に該当する旨主張して、日本でA社を被告とする債務不存在確認の訴えを提起することができるか。なお、日本には、A社の資産として、乗用ドローンに関する複数の日本特許権があり、その価値は30億円を超えるとされている。

(m) [国際私法II4] (l)の訴えについて日本の裁判所は審理することができるとする。d1契約には甲国法を準拠法とする条項があるとして、日本での裁判において、日本の独禁法上の優越的地位の濫用の法理を適用して判断をすることができるか。

 

[参考]

A社:甲国法人のドローン・メーカー

B社:日本法人のディーラー

C社:乙国法人のサブ・ディーラー

d1契約:日本市場についてのA社・B社間のディーラーシップ契約

d2契約:乙国市場についてのA社・B社間のディーラーシップ契約。C社は当事者ではないが、C社が乙国においてサブ・ディーラーとなることはA社が承認している。

L:乙国在住の日本人で、β1の事故により死亡

M1-M20(M):β1の事故の被害者である乙国在住の乙国人

N:乙国在住の丙国人で、Lの配偶者?

O:乙国在住の乙国人で、Nの元配偶者

P:甲国在住の甲国人で、Lとの間にQをもうけたとされる。

Q:甲国在住の甲国人で、Lが生んだ子。Pの子?

sd契約:乙国市場についてのB社・C社間のサブ・ディーラーシップ契約