2005年度慶応義塾大学「国際取引法総合」試験問題

 

問題1

 

 ブラジル法人のXは、日本法人の船会社Yに、ホンコン及びマカオからブラジルのマナウス港まで<製品>を海上運送することを委託した。Yは、マナウス港において、船荷証券を所持していない訴外M社に対し前記製品を引き渡したが、これはMの詐欺行為であった。その結果、Xは損害を被ったと主張し、Yに対する損害賠償請求訴訟を東京地裁に提起した。

 Yの責任の有無等を判断する準拠法として、Xは日本法の適用を主張したのに対し、Yは、マナウス港において船荷証券原本の呈示なしに本件製品を引き渡した点については、マナウス港において適用されているブラジル法上有効とされる慣例が適用されると主張した。

 この点について、東京地裁は次の通り判示して準拠法は日本法であると判断した。

 

「(1)海上運送人と船荷証券所持人との間に傭船契約が存在しない場合は、両者の関係は、原則として、船荷証券によって証明される運送契約による。この場合の準拠法は、法例7条の定める当事者自治の原則に従い、船荷証券の発行人である海上運送人の指定意思によって決定される。
 これを本件についてみるに、証拠(...)及び弁論の全趣旨によれば、本件各船荷証券の裏面約款25条には、「この船荷証券によって証明され、あるいは締結される運送契約は、ここにおいて別に定めがなければ日本法を準拠法とする」との記載があることが認められる。前記約款25条によれば、運送人である被告は、本件運送契約上で生じる法律問題について、原則として日本法を準拠法とする指定意思を有していたと認めるのが相当である。
(2)ところで、証拠(...)及び弁論の全趣旨によれば、本件各船荷証券の裏面約款161(h)には、「運送人は、荷主に通知することなく、いつでも、法律上、事実上若しくは商業上のものであるかを問わず、地域的、全国的若しくは国際的に普及しているか否かを問わず、さらに荷主が運送品の受取、船積み、積付け、保管、運送、荷揚げ及び・又は引渡に関する慣習若しくは慣例を直接知っているか否かを問わず、いかなる港又は場所の慣習若しくは慣例に従うことができる。特に運送人は慣習若しくは法律によるか否かを問わず、慣例として認められている地域においては、船荷証券原本の呈示なしに、運送品を引き渡すことができる。かかる慣習若しくは慣例に従うことは、本船荷証券のもとで運送契約を正当に履行したものとみなされる」との記載があることが認められる。
 被告は、本条項を根拠に、本件は荷揚地であるブラジルでの債務の履行が問題となっており、その準拠法はブラジル法であると主張する。しかし、国際海上運送契約を細分化し、履行部分に限りブラジル法を準拠法とすることは、法律関係を複雑にするとともに、荷送人又は船荷証券所持人の立場を不安定にする。したがって、船荷証券の約款の記載内容が明確であり、かつ、荷送人又は船荷証券所持人が不測の損害を被るおそれのないといった特段の事情があればともかく、そのような特段の事情がない限り、1つの国際海上運送契約の準拠法の分割は認めるべきでないと解するのが相当である。
 これを本件についてみるに、本件各船荷証券の裏面約款161(h)は、履行地法を履行に関する準拠法と定める旨明言していない。したがって、履行に関する準拠法を定めた規定であるとは解されず、むしろ、本条項は、履行に関する準拠法も日本法であるとの理解に立ちつつ、運送人が履行地の慣習若しくは慣例に従って履行すれば、日本法を適用しても免責されることを定めた規定であると解するのが相当である。そして、他に、本件各運送契約のうち、履行地における履行部分に限っての準拠法がブラジル法であると定めたものであるとの特段の事情を認めるに足りる証拠は存在しない。
(3)以上によれば、本件の準拠法は日本法であると認めるのが相当であり、この点について被告の主張は理由がない。

 

(1)            Y者の代理人として、上記引用の部分について、東京地裁の事実認定を前提とし、控訴理由書を起案しなさい。

(2)            以下は上記とは一部異なる事実関係を前提とした仮定的な問いである。

 

仮に、法例に次のような規定があるとする。

 

「当事者は、法律行為の成立及び効力の準拠法を変更することができる。ただし、その変更は、法律行為の方式についての有効・無効に影響を与えず、また、第三者の権利を害することとなるときは、その変更を第三者に対抗することができない。」

 

一審段階において、Y社の代理人は準拠法について深く検討することなく、X社の日本法に基づく請求に対して、日本法上の抗弁を提出して争ったところ、一審裁判所は日本法を適用してX社の請求を認め、Y社は敗訴した。Y社は、控訴に向け、それまでの代理人を解任し、新たな代理人を指名した。そして、その新たな代理人は、控訴審において、裏面約款161(h)の存在を指摘しつつ、それによれば、本件で問題となっている争点についてはマナウスで適用されている慣行が適用されるべきであり、その慣行によれば、Y社の行為は適法であると主張している。これに対して、X社の代理人は、上記の規定により、すでに一審段階で準拠法を日本法とする合意はできており、いまさら一方的にその合意を破ることはできないと主張している。

控訴審の裁判官として、この点についてどのように判断しますか。

 

問題2

 

 A国の法人がB国に設置したサーバーを用いて運営しているインターネット上のショッピング・モールに出店しているC国法人のY社が、そのモールにおける自社の宣伝文の中で、比較広告を行っている。その比較広告の記載の中に事実に反する部分があり、C国、D国及び日本で消費者向けの商品を主体として営業をしている日本法人X社の信用を毀損しているとX社は判断した。そこで、X社は、Y社に対して不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起しようとしている。

 

(1)            その訴訟について日本に国際裁判管轄はあるか。

(2)            日本も、Y社の本社所在地であるC国も、「民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約(いわゆるハーグ送達条約)の締約国であるところ、C国が同条約10Aの拒否宣言をしていない場合、日本からC国のY社宛に直接郵送により送達を行うことが可能か。

(3)            仮に日本の裁判所で訴訟をすることになったとして、その不法行為の成立及び効力に適用されるべき準拠法は何か。

(4)            X社がサーバー設置国であるB国でY社に対する訴訟を提起して勝訴判決を得た場合、日本にあるY社の財産に対してそのB国判決に基づく強制執行をすることは可能か。

 

[参照条文]

民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約(昭和4565日・条約第7号)

 

 この条約の署名国は、
 外国において送達又は告知を行なうべき裁判上及び裁判外の文書をその名あて人が十分な余裕をもつて知ることができるための適当な方法を設けることを希望し、
 そのため、手続の簡素化及び迅速化によつて司法共助を改善することを希望し、
 そのための条約を締結することに決定して、次のとおり協定した。

1
この条約は、民事又は商事に関し、外国における送達又は告知のため裁判上又は裁判外の文書を外国に転達すべき場合につき、常に適用する。
 この条約は、文書の名あて人のあて先が明らかでない場合には、適用しない。

1章 裁判上の文書

2
各締約国は、次条から第六条までの規定に従い他の締約国からの送達又は告知の要請を受理しかつ処理する責任を負う中央当局を指定する。
 各国は、自国の法律に従つて中央当局を組織する。

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10
この条約は、名あて国が拒否を宣言しない限り、次の権能の行使を妨げるものではない。
(A)
 外国にいる者に対して直接に裁判上の文書を郵送する権能
(B)
 嘱託国の裁判所附属吏、官吏その他権限のある者が直接名あて国の裁判所附属吏、官吏その他権限のある者に裁判上の文書の送達又は告知を行なわせる権能
(c)
 裁判手続の利害関係人が直接名あて国の裁判所附属吏、官吏その他権限のある者に裁判上の文書の送達又は告知を行なわせる権能

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