2005年度上智大学「国際民事紛争処理」試験問題

 

問題1

 

 アメリカ企業A(カリフォルニア州に本店を有する同州法人で州外に支店等はない)の注文を受けた日本企業B社が日本で製造し、A社宛に輸出した製品に瑕疵があり、A社の顧客からのクレイムにより損失を被ったと主張するA社がカリフォルニア州の裁判所にB社に対する損害賠償請求訴訟を提起した。これに対し、B社はカリフォルニア州の裁判所でその裁判管轄を争うとともに、東京地裁にA社に対する債務不存在確認請求訴訟を提起した。この日本での訴訟について、 A社は、(a)国際裁判管轄を欠くこと、(b)カリフォルニア州での訴訟との関係で訴訟競合であることを理由として、訴えの却下を求めた。これらの本案前の主張について、東京地裁は、A社の主張を退ける中間判決を下した上で、A社敗訴の本案判決を下した

この中間判決に対して控訴したA社は、一審段階での弁護士を解任し、新たにあなたがA社の代理人となったとします。

 

(1)            (a)の国際裁判管轄の有無の争点について、中間判決では次のように判示されている。これに対して考えられる反論をドラフトしなさい。

 

 「一般に売買の目的物に契約の趣旨に合致しない欠陥があるために生じた損害についての賠償責任は、債務不履行によるそれと不法行為によるそれとが競合して成立すると解されること、しかも、本件においては、いずれの性質の損害賠償請求権と構成したとしても、両者は請求の基礎を同一とする請求であり、結局、本件<製品>の瑕疵の有無が主要な争点となることを考えると、この不法行為に基づく損害賠償請求権(債務)の不存在を求める訴えが許されないと解すべき根拠はなく、これを認める以上その訴えの管轄は、不法行為に関する訴えについてのそれとして判断すべきである。

 

(2)            (b)の国際的訴訟競合を理由とする訴え却下の主張につきドラフトしなさい。

(3)            Aカリフォルニア州での訴訟では懲罰的損害賠償請求されている場合、たとえそれが認められてもBの財産に対する強制執行ができないその支払いを余儀なくされるリスクについて、どのようにアドバイスしますか。

 

問題2

 あなたが弁護士として次の質問に対するアドバイスをする場合、どのような回答をしますか。

 

 衣料品の輸入販売を業とする日本法人M社は、新たに甲国法人P社との間で契約を締結し、M社の提供するデザインに基づきP社が製品を生産してM社が日本に輸入して販売するというビジネスを開始しようとしている。

 M社から、紛争解決の方法に関する条項に関して、次の選択肢のそれぞれについて、どのような問題があり、どうするのがよいかアドバイスをほしいという依頼があったとする。これに対する回答をドラフトしなさい。

 M社の担当者によれば、予想されるトラブルとしては、@P社の生産した本件製品の品質がM社の求める基準に達していないとの理由でM社が受け取りを拒否し、これに対して、P社がM社に対して損害賠償請求等をするケース、AP社がM社のデザインによる本件製品を他社向けに出荷し、これに対してM社がP社に対して差し止め又は損害賠償請求をするケース、B何らかの理由でM社がP社との契約を破棄した場合に、甲国の下請け企業保護法や不公正取引取締法などに基づいて、P社がM社に対して損害賠償請求等をするケース、などであるが、これに限られない。

 

(1)            誠実に話し合いを行う条項だけを置く。

(2)            東京地方裁判所を指定する専属的管轄合意条項を置く。

(3)            M社が訴える場合には甲国の裁判所、P社が訴える場合には東京の裁判所が、それぞれ専属的に管轄を有する旨の条項を置く。

(4)            東京での仲裁を行う条項を置く。