2005年度早稲田大学「国際私法基礎A・B」試験問題
問題1
次の事件の国側代理人であるとして、次の判決の引用部分について、控訴理由書を起案しなさい。
事案の概要は次の通りである。ラス・ヴェガスでカジノを経営するネヴァダ州法人Xは、「ジャンケット」または「大名旅行」と呼ばれる契約により、旅費・食費・宿泊費をXが負担して日本在住の日本人Aらをラス・ヴェガスに招待した。Aらはその契約に基づき持参した一定金額以上の現金を使ってカジノで賭博をし、それを使い果たした後も、Xから借金をして、賭博を継続した。しかし、Aらはさらに賭博で負け、債務を負って日本に帰国した。そして、Aらはその弁済を怠っていた。そこで、Xの雇ったBらが債権回収に当たったが、その過程でBらは恐喝未遂・外為法違反の容疑で日本の警察に検挙されてしまった。Bらの手元にあった回収金の1億9000万円余りにつき、被害者への返還のための手続がとられたが、Aらは申し出をしなかったため、日本国の国庫に編入されてしまった。そこで、Xは日本国(Y)を相手取って、不当利得等を理由とする返還請求訴訟を提起した。
東京地裁は、ジャンケット契約の準拠法は当事者の意思解釈によりネヴァダ州法であり、同州法上はジャンケット契約が有効であることを前提に、そのようなネヴァダ州法の適用結果は公序違反とはならないことにつき、次の通り判示してXの訴えを認容した。
「本件事案を日本人客がラス・ヴェガスにおいて我が国で行われれば犯罪を構成するような種類の賭博を信用によって行うことができ、それによって負担した債務は帰国後に日本国内において円貨で支払えばよいものとすることによって我が国の外為法の規制を潜脱しようとするものであるとして捉えるときには、いかにも我が国の法秩序に対して著しい衝撃となるものであるとの印象を与えることを否定できない。」
「しかしながら、Xと日本人客との間におけるジャンケットにかかる契約の目的とされた賭博ないし日本人客がXの経営するホテルのカジノで行った賭博は、……一般的には賭博を違法としてこれを禁止する法制の下における例外として、主宰者を賭博免許保持者に限定したうえで、ネヴァダ州法並びに同州賭博委員会及び賭博管理局の規則の規制と州賭博管理局の管理の下に行われている公認のものであって(その意味では、これを我が国における競輪、競馬等の公営賭博に類比して考えることもできないわけではない。)、そこでは公正の確保、弊害の防止及び財源の確保の観点から賭博の種類、方法、主宰者、従業員等について厳重な管理がなされており、日本人が彼地において円貨をもって返済するとの約束の下に信用によって賭博を行うこと自体は、私法上、公法上又は刑事法上、これを違法とする理由は全くない(……)。そして、確かに、Xと日本人客との間のジャンケットに関する契約は、公認賭博の主宰者自身が賭客に信用によって賭博をすることを認める点において顕著な特色を有するけれども、これによって生じた債務については、債権者は、それを訴求して裁判所に出訴し、その判決に基づいて強制執行をすることができないものとされていて、我が国における自然債務と同様の弱い効力を持つに過ぎないものとされているのであり、また、公認賭博の主宰者自身が信用を供与するという点も、非違行為等による賭博免許の取消し等を含む州賭博管理局による管理を実効あらしめるのに役立つということもでき、第三者による信用の供与よりもかえって弊害が少ないとみることもできる。」
「また、およそ公序条項を適用して外国法の適用を排除すべきかどうかは、当該外国法の内容自体が内国の法秩序と相容れないかどうかということではなく、当該外国法を適用して当該請求又は抗弁を認容し又は排斥することが内国の社会生活の秩序を害することになるかどうかによって決すべきものであると解すべきところ、本件におけるいわゆる本問題は、Xの日本人客に対する賭金債権の請求権の存否でもなければ、Xの賭金債権の回収業務の受託者に対する回収金の返還請求権の存否でもなく、既に日本人客が任意に回収業務の受託者に支払った賭金債務の弁済金又はそれを化体した小切手等が前記のような経緯によって国庫に帰属したことによってXが被った損失ないし損害について、XがYに対して不当利得の返還請求権又は不法行為による損害賠償請求権を有するかどうかなのであって、そのような意味においては、Xと日本人客との間の信用による賭博にかかる前記のような契約関係は、内国社会との牽連関係において間接的かつ希薄であるものといわなければならない。」
問題2
あなたは、下記のCから相談を受けている。弁護士として次の質問に対するアドバイスをする場合、どのような回答をしますか。
5年前に来日し、日本所在のインベストメント・バンクで働く甲国人女性Aは、1年半前に、幼少の頃から日本に住む乙国人男性Bと婚姻したが、ここ1年は別居中であり、近く離婚の予定である。そして、Aは、離婚後、日本生まれでずっと日本に住んでいる日本人男性Cと婚姻予定である。
(1)
AとBの間では離婚について合意ができているので、日本法に基づく協議離婚をしたいようであるが、可能か。
(2)
女性について要求される待婚期間について、日本民法733条では離婚後6か月を経過した後でなければ再婚することができないとされているところ、この点について、甲国法にはそのような制度がなく、乙国法では、日本よりも長い10か月が要求されている。AはBとの離婚後、いつになったらCと再婚することができるか。
(3)
AとCとの婚姻について、Aは日本にある甲国大使館で甲国法上の方式による外交婚をしたいと希望しているが、問題はないか。
(4)
AもCも相当な資産を有しており、周囲から、念のために離婚の際の紛争を防ぐため、夫婦財産契約を締結しておくことを勧められている。どのような点に気をつけて夫婦財産契約を締結すればよいか。