国際私法基礎A/B-2006年度冬学期試験問題
道垣内正人出題 2007年12月26日-31日実施
1. 相続事件
次の事例について、各設問に答えなさい。以下のすべての事実は、「法の適用に関する通則法」(通則法と略す。)が施行される2007年1月1日以降に生じたものとする。
A(甲国人・男)とY1(日本人・女)は25年前に婚姻した夫婦であり(ただし、この婚姻の有効性は争われている。)、その間に、Y2・Y3の2人の子が出生している(現在19歳と16歳の甲国人)。
A・Y1・Y2・Y3はずっと日本で生活してきていたが、7年ほど前から、Aは仕事のため頻繁に乙国に旅行するようになり、そのうち、乙国在住のB(乙国人・女)との間に子Xをもうけるに至り、Aは甲国法に基づきXを認知した(Xは現在5歳で、甲国と乙国の二重国籍を有する)。そして、X誕生後、ここ5年間は、年間300日程度、乙国のB宅で生活をしていた。
そのことをめぐって、AとY1との間でトラブルが生じている最中、Aは死亡した。Aの主な財産は、次の通りであった。
・日本にある5億円の不動産(下記(2)(b)の1億円相当の石碑を含む。)
・日本の証券会社の口座にある3億円の投資信託。
・乙国のB宅にある2億円の書画骨董。
・日本の銀行からの借入金3億円。
XはY1・Y2・Y3を被告として日本で提訴して、日本及び乙国所在財産の引渡し及び乙国所在の財産の所有権確認を求めている。
(1) 先決問題・婚姻の有効性・死後認知
Xの親権者としてXを代理して、BはXがAの遺産を相続する権利があることを主張するとともに、A・Y1の婚姻は有効であるとは認められないのでY1には相続権がなく、また、Y2・Y3はAから認知を受けていないので、Y1・Y2にも相続権がないと主張している。
(a) 通則法36条によりXの相続に適用される甲国法上、Y1が配偶者であれば相続権があると規定されているとする。この「配偶者」に該当するかどうかの問題は甲国法の規定の解釈問題であるので、甲国法によるべきであるとXは考えているとする。Xの代理人として、この主張は日本での裁判では認められず、Y1が配偶者であるか否かはAとY1との婚姻の有効が有効であるか否かの問題であり、この婚姻の有効性については通則法24条で定まる準拠法が適用されるべきことをXに理解させるべく、説明しなさい。
(b) 通則法24条1項によれば、A・Y1の婚姻の実質的成立要件について、「各当事者につき、その本国法による」。婚姻当時、Aは18歳、Y1は20歳であったとする。Aの本国法である甲国法は男女ともに19歳を婚姻適齢としており、婚姻適齢を欠く婚姻は無効であり、日本民法744条1項但書・745条のような規定はないとする。この婚姻適齢の点で、この婚姻は訴訟においてどのように評価されるか。
(c) A・Y1は、在日甲国大使館で、甲国法上定められている婚姻のための公開の儀式を行い、甲国の婚姻証明書をもらい、それ以外のことはしていなかったとする。通則法24条3項但書によれば、この点でこの婚姻は方式を欠き、有効とは認められないことになりそうであるが、Y1側の代理人はそのような結果は公序良俗違反であるので、この婚姻は有効であると主張している。これに対して、X側の代理人としてはどのように主張すべきか。
(d) Y2・Y3は、A・Y1の婚姻が成立していないとされる場合には、Aとの親子関係を樹立すべく死後認知請求をすることを考えている。この認知には甲国法が適用されることになると考えられるところ、甲国法によれば、死後認知は、認知請求者が父の死亡を知ってから1年間しか許されない旨規定されているとする。本件ではY2・Y3がAの死亡を知ってから2年半が経過しているとして、死後認知請求ができないという結果は通則法42条の適用上、どのように評価されるか。
(2) 反致(通則法41条)
以下では、AとY1との婚姻は有効であり、Y2・Y3はAの嫡出子であること、また、XがAの非嫡出子であること、以上について問題ないと仮定する。
Aの相続の準拠法所属国である甲国の国際私法によれば、不動産の相続はその不動産の所在地法によるが、それ以外の相続は被相続人の常居所地法によるとされているとする。
(a) 不動産以外の相続について、日本法への反致が成立するか。
(b) Aの所有していた日本所在の不動産には、歴史的価値を有する約2tの石碑があり、これをある博物館が1億円で購入する意向を示しているとする。日本民法86条1項によれば、この石碑は土地の定着物として「不動産」に該当するが、甲国法によれば、「不動産」とは全く移動することができないもののみを指すとされている。この石碑の相続について、日本法への反致が成立するか。
(c) 甲国法によれば、相続について精算主義が採用されており、相続人への財産の移転の前に相続財産管理が行うべきこととされており、負債を弁済した上で余剰の財産が残った場合にのみ相続人に相続割合に応じて財産を分配することとされているとする。そして、甲国法によれば、相続割合は、配偶者・嫡出子・非嫡出子、すべて差は設けられておらず、平等とされている(本件ではY1、Y2、Y3、X、各25%)(なお、日本民法900条によればY1は50%、Y2は20%、Y3は20%、Xは10%)。上記の(a)・(b)を前提とし、かつ、すべてを手続費用ゼロで評価額通りに現金化したと仮定して、本件におけるY1、Y2、Y3、Xの各相続額を計算しなさい。
2. 国際私法について
国際私法について考えるところを1600字以内で述べなさい。テーマは何でもよく、また、国際私法基礎の講義の批判的考察でもよいが、国際私法を深く理解していることを示すべく工夫して下さい。
上記1の解答の記述の終了後、改頁をして、冒頭に「2.」と記載し、かつ、末尾に学籍番号・名前を( )をつけて記しなさい。これらすべてを含み1600字以内で記述しなさい(40字×40行との指定があるので、1枚に収まることになります。)。