国際私法応用演習 試験解答(後半50点分)

匿名

問題1

(1)第1案による場合、A社の有する世界各国の著作権法上のQについての著作権の譲渡、乙国所在の土地・建物・機械その他の備品の譲渡、A社トイ事業部関連の売掛債権の譲渡、A社トイ事業部関連の債務の譲渡のそれぞれが、当事者間において及び第三者に対して有効と判断されることが必要である。そのためには、それぞれの譲渡の準拠法上、譲渡が有効とならなければならない。

以下において、それぞれの譲渡の準拠法を検討する。

(2)A社の有する世界各国の著作権法上のQについての著作権の譲渡について

ア 著作権の譲渡の準拠法について、どう考えるべきか。

著作権は、権利の内容及び効力がこれを保護する国の法令によって定められ、著作物の利用について第三者に対する排他的効力を有することから、物権と類似する性質をもつ。従って、物権の譲渡の場合と同様に考え、著作権の譲渡の原因関係である契約等の債権行為と、著作権の支配関係の変動とを区別し、それぞれについて準拠法を決定すべきである。

まず、譲渡の原因となる債権行為については、譲渡契約の準拠法によるべきである。法律行為の成立及び効力の準拠法について定める通則法7条から9条、及び法律行為の方式の準拠法について定める通則法10条によることとなる。

次に、著作権の支配関係の変動については、著作権の保護を受けたいと考える国の法によるべきである。物権の得喪についての準拠法は、物権の問題が所在地と最も密接な関係をもち、また物の利用や取引秩序の保護は所在地法によって最もよく実現されることから、所在地法とされる(通則法13条)。著作権についても、同様の理由により、その保護を受けたいと考える国の法を準拠法とすべきである。

イ 本問において、A社とB社との間の一括譲渡契約には日本法を準拠法とする条項が置かれている。従って、A社とB社との間のQについての著作権の譲渡についての契約関係の準拠法は、日本法となる(通則法7条)。

著作権の支配関係の変動の準拠法は、Qについての著作権の保護を受けたいと考える世界各国それぞれの法となる。

(3)乙国所在の土地・建物・機械その他の備品の譲渡について

ア 土地・建物・機械その他の備品の譲渡は、物権の譲渡である。

物権の譲渡の原因となる契約の成立及び効力の準拠法は通則法7条から9条により、契約の方式の準拠法は通則法10条による。

物権の得喪についての準拠法は、譲渡の当時における目的物の所在地法となる(通則法132項)。

イ 本問において、A社とB社との間の一括譲渡契約には日本法を準拠法とする条項が置かれている。従って、A社とB社との間の土地・建物・機械その他の備品の譲渡についての契約関係の準拠法は日本法となる(通則法7条)。

それらの物の所有権の得喪についての準拠法は、譲渡の当時における目的物の所在地法である乙国法となる(通則法132項)。

(4)A社トイ事業部関連の売掛債権の譲渡について

ア 債権譲渡の準拠法について、どう考えるべきか。対象債権の譲渡可能性、債権譲渡の成立及び当事者間の効力、債権譲渡の第三者(債務者を含む)に対する効力に分けて考える。

(ア)債権の譲渡可能性について

対象債権の準拠法によると考える。債権の性質にかかわる問題であり、対象債権の準拠法によるものとして、当事者間及び対第三者関係で統一的に考えるべきである。

(イ)債権譲渡の成立及び譲渡人・譲受人間の効力について

譲渡の原因行為の準拠法によるべきである。これに対して、債権譲渡は譲渡人・譲受人間の原因行為とは別個の準物権行為であって、債権譲渡の成立及び譲渡当事者間での効力の問題は対象債権の準拠法による、との考え方がある。しかし、単一の準拠法による方が簡明であり、また、物権変動については目的物所在地法の秩序と密接な関係にあるのに対して、債権譲渡については譲受人・譲渡人間の関係までも対象債権の準拠法による必要はないと考える。

(ウ)債権譲渡の第三者(債務者を含む)に対する効力について

通則法23条により、対象債権の準拠法による。

イ 本問におけるA社トイ事業部関連の売掛債権の譲渡の準拠法は、以下のとおりとなる。

債権の譲渡可能性についての準拠法は、それぞれの債権の準拠法となる。

A社とB社との間の一括譲渡契約には日本法を準拠法とする条項が置かれている。従って、債権譲渡の成立及びA社とB社との間の効力についての準拠法は、契約準拠法である日本法となる(通則法7条)。

債権譲渡の第三者(債務者を含む)に対する効力の準拠法は、それぞれの債権の準拠法となる(通則法23条)。

(5)A社トイ事業部関連の債務の引受について

ア 債務引受の準拠法について、どう考えるべきか。債権譲渡と同様に、対象債務について債務引受が許されるかどうか、債務引受の成立及び当事者間の効力、債務引受の第三者(債権者を含む)に対する効力に分けて考える。

(ア)対象債務について債務引受が許されるかどうかについて

対象債務の準拠法によると考える。債務の性質にかかわる問題であり、対象債務の準拠法によるものとして、当事者間及び対第三者関係で統一的に考えるべきである。

(イ)債務引受の成立及び元の債務者・引受人間の効力について

引受の原因行為の準拠法によるべきである。債務引受は債権者の被る影響が大きいことから、債権譲渡に比べてより債権者の予測可能性を重視すべきであるが、元の債務者・引受人間の問題については、原因行為の準拠法によることで問題はない。

(ウ)債務引受の第三者(債権者を含む)に対する効力について

対象債務の準拠法によるべきである。債務引受は債権者の被る影響が大きいことから、債権譲渡に比べてより債権者の予測可能性を重視すべきであるが、債権譲渡と同様に対象債務の準拠法によることで、結果として債権者の予測可能性を十分に確保することができる。

イ 本問におけるA社トイ事業部関連の債務の引受の準拠法は、以下のとおりとなる。

対象債務について債務引受が許されるかどうかについての準拠法は、それぞれの債務の準拠法となる。

A社とB社との間の一括譲渡契約には日本法を準拠法とする条項が置かれている。従って、債務引受の成立及びA社とB社との間の効力についての準拠法は、契約準拠法である日本法となる(通則法7条)。

債務引受の第三者(債権者を含む)に対する効力の準拠法は、それぞれの債務の準拠法となる。

(6)以上より、本問の譲渡について日本の裁判所で争いになった場合に、一括譲渡契約が当事者間及び第三者に対して有効と判断されるためには、一括譲渡契約が日本法上有効であることに加えて、以下の点が必要である。

@ Qについての著作権の保護を受けたいと考える世界各国の法上、Qについての著作権の支配関係の変動が有効であること。

A 乙国法上、乙国所在の土地・建物・機械その他の備品の所有権の得喪が有効であること。

B 譲渡される債権それぞれの準拠法上、当該債権に譲渡可能性が認められ、当該債権譲渡について第三者(債務者を含む)に対する効力が認められること。

C 引き受けられる債務それぞれの準拠法上、当該債務について債務引受が許されており、当該債務引受について第三者(債権者を含む)に対する効力が認められること。

 

問題2

(1)会社分割における第三者保護についての準拠法が問題となる。

企業再編は、国際私法の立場からは、一つの単位法律関係と捉えるべきではなく、財産が移転する局面や会社組織の消滅成立の局面などを区別して考えるべきである。会社分割においては、新たな会社の設立と、設立された会社への財産や債務の移転が異なる単位法律関係となると考える。

(2)会社分割において保護されるべき第三者は、会社分割に伴う財産・債務の移転に利害関係を持つ者である。では、会社分割に伴う財産・債務の移転の問題の準拠法について、どう考えるべきか。

会社分割に伴う財産・債務の移転の問題は、財産・債務の性質に応じてその移転の準拠法が定まると考えるべきである。以下において、会社が有する物権、債権、債務の移転について、それぞれ論じる。

ア 会社が有する物権の移転について

物権の得喪の準拠法による。

従って、会社分割に伴う物権の移転を第三者に対抗することができるかについては、物権の準拠法によるべきである。通則法132項により、会社分割の効力が発生した日における目的物の所在地法が準拠法となる。

イ 会社が有する債権の移転について

会社が有する債権の移転の問題を会社分割の効果の問題ととらえると、分割当事会社の従属法を準拠法とすべきとも考えられる。しかし、移転する財産の性質に応じてその移転の準拠法が定まると考えることから、債権の移転については、債権譲渡の準拠法によることとなる。

従って、会社分割に伴う債権の移転を債務者その他の第三者に対抗することができるかについては、債権譲渡の第三者に対する効力の準拠法による。通則法23条により、譲渡に係る債権の準拠法が準拠法となる。

ウ 会社が負担する債務の移転について

債務引受の準拠法による。

債務引受の第三者に対する効力の準拠法は、第1問(5)ア(ウ)において検討したように、対象債務の準拠法と考える。

(3)以上より、第2案を実行する場合には、日本法の定める第三者保護手続を踏むことに加えて、以下の点が必要である。

@ 会社が有する物権の移転を第三者に対抗できるかという点について、会社分割の効力が発生した日の目的物の所在地法上、問題がないようにしておくこと。

A 会社分割に伴う債権の移転を債務者その他の第三者に対抗することができるかという点について、譲渡に係る債権のそれぞれの準拠法上、問題がないようにしておくこと。

B 会社が負担する債務の移転を第三者に対抗できるかという点について、それぞれの債務の準拠法上、問題がないようにしておくこと。

 

問題3

(1)問題2において述べたように、企業再編は、国際私法の立場からは、一つの単位法律関係と捉えるべきではない。そして労働者保護の問題は、財産が移転する局面や会社組織の消滅成立の局面と区別された、一つの単位法律関係となると考える。

(2)では、会社分割における労働者保護の準拠法について、どう考えるべきか。

会社と労働者との関係は、法人格の発生の問題や株主と会社との関係の問題のような会社組織の消滅成立に関する問題ではなく、労働契約という会社と労働者との契約に関する問題である。従って、労働者保護については、労働契約の準拠法によるべきと考える。これは、通則法7条から9条及び12条によって決定される。

(3)よって、本問において、労働者保護については、会社分割に伴って移籍する労働者のそれぞれの労働契約の準拠法による。会社分割に伴って移籍する労働者の労務の給付地として考えられるのは、日本、又はトイ生産工場とその関連施設のある乙国である。日本が労務給付地である労働者と乙国が労務給付地である労働者のそれぞれについて、準拠法を検討する。

ア 日本が労務給付地である労働者について

日本法が労働契約の準拠法として指定されている(通則法7条)場合、又は指定がなく日本法が最密接関係地法である(通則法81項)場合(労務給付地が日本であれば、日本法が最密接関係地法と推定される。通則法123項)には、日本法が準拠法となる。

日本法以外の法が指定されている場合、指定された法が準拠法となる(通則法7条)。ただし、労務給付地である日本法が労働契約に最も密接に関係する地の法であると考えられ、当該労働者が日本法中の特定の強行法規を適用すべき旨の意思表示をしたときには、その強行法規も適用される(通則法121項)。

イ 乙国が労務給付地である労働者について

乙国法が労働契約の準拠法として指定されている(通則法7条)場合、又は指定がなく乙国法が最密接関係地法である(通則法81項)場合(労務給付地が乙国であれば、乙国法が最密接関係地法と推定される。通則法123項)には、乙国法が準拠法となる。

乙国法以外の法が指定されている場合、指定された法が準拠法となる(通則法7条)。ただし、労務給付地である乙国法が労働契約に最も密接に関係する地の法であると考えられ、当該労働者が乙国法中の特定の強行法規を適用すべき旨の意思表示をしたときには、その強行法規も適用される(通則法121項)。

(4)以上より、労働者保護については、日本法の定める保護以外に必要となるのは以下の点である。

@ 日本が労務給付地である労働者について

労働契約の準拠法として日本法以外の法が指定されている場合には、その法の定める会社分割に伴う労働者保護が必要である。

A 乙国が労務給付地である労働者について

労働契約の準拠法として乙国法が指定されている場合、又は指定がない場合には、乙国法の定める会社分割に伴う労働者保護が必要である。

乙国法以外の法が指定されている場合には、指定された法の定める会社分割に伴う労働者保護が必要であり、それに加えて乙国法の強行法規の定める会社分割に伴う労働者保護が必要である。

 

以上