2006年度前期「国際私法応用演習」(後半50点分)

 

日本のA社は多分野へ事業を広げて一時は大きな利益を上げていたが、いくつかの事業部門が大幅な赤字に陥り、会社全体としての業績は大きく落ち込み、その再生を危ぶむ声も上がっていた。そのころ、甲国のB社は、A社の事業部門の一つであるトイ事業部門に目を付け、その部門だけの買収を企図していた。このトイ事業部門の中核は、アニメーション・キャラクターQを活用したものであり、自らQの人形を乙国所在の工場で生産して世界各国に販売している。また、A社は、Qの利用をコンピュータ・ゲーム、文房具、アパレルなどの分野で世界各国におけるビジネスを展開する事業を営むC社、D社、E社などにライセンスし、ライセンス料を受領している。

買収の方法について以下の2案に絞り込まれている。第1案は、A社の有するQについての各国法上の著作権、乙国所在のトイ生産工場とその関連施設、その他契約上の地位等を譲り受けるとともに、トイ事業部門の社員の移籍を受け容れるという方法である。これに対して、第2案は、A社のトイ事業部門を日本の会社法に基づいて会社分割をした上で、分社化されたトイ事業会社の株式をB社が現金で買い取るという方法である。

 

問題1

 第1案において、A社の有する世界各国の著作権法上のQについての著作権、乙国所在の土地・建物・機械その他の備品、A社トイ事業部関連の売掛債権・債務(準拠法は様々)、以上を一括してA 社からB社へ譲渡することを主たる内容とする一括譲渡契約(日本法を準拠法とする条項が置かれている。)を起草中である。この譲渡について日本の裁判所で争いになった場合に有効でありかつ執行力ある判決を得ることができるようにすることを確保するために、この一括譲渡契約が日本法上有効であることに加えて、どこの国の法律上どの点が有効であることが必要か。

(なお、社員の移籍問題については触れる必要はない。)

 

問題2 

 第2案を実行しようとする場合、日本法の定める債権者保護手続を踏むだけでよいか。そうでないとすれば、どの点についてどの国の法律上問題がないようにしておく必要があるか。

 

問題3

 第2案について、労働者保護の点についてはどうか。