20066月実施

道垣内正人担当

 

国際私法応用演習(成績評価の50%分の試験問題)

 

-                   法の適用に関する通則法(以下、「通則法」という。)が施行されていると仮定します。http://www.moj.go.jp/ の「法案・法令」の項の「第164回国会(常会)」の項参照。

-                   参考文献その他の調査を行うことは自由ですが、他人の見解を求めること及び他人の見解に従うことは禁止します。

-                   610日正午までに、答案を添付したe-mailを下記あてに送付してください。
[email protected]


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 A国に本店を置くA国法人Yは、商品P(1個あたり日本円で10万円)を製造販売する事業者である。Yは、インターネット上に英語、フランス語及び日本語のウェブ・サイトを用意し、商品Pについての宣伝と受注を行い、注文があれば、クレジット・カードでの決済ができ次第、宅配業者に委託して商品Pを発注者が指定した届け先に送付するというビジネスを展開している。Yは契約準拠法をA国法と定めた契約書を用い、発注者は画面上でこれに同意する操作をしている。

 日本に通常居住している個人であるX1からX200の計200名は、上記のウェブ・サイトのうち、日本語のものを見て、商品Pを注文してそれを入手した。

 また、上記のウェブ・サイトには、「日本のお客様向けのお買い得キャンペーン」として、「20063月1日から331日までの間に、その期間内に日本からA国までの航空券の半券(搭乗したことを示すもの)を提示したお客様が、YA国本店において商品P10個以上購入される場合には、30%ディスカウントという特価となります。」との宣伝があったことから、日本に通常居住している個人であるX201からX300の計100名は、商品Pの購入を目的の一つとし、観光も兼ねてA国に出かけてそれぞれ10個以上の商品PYの本店で購入した。

 さらに、X301は、B国に居住する者であるが、日本に短期滞在中のホテルからインターネットにアクセスし、Yのウェブ・サイトを見て商品Pを発注し、B国の自宅でこれを受領した。

 しかし、X1から301はそれぞれ商品Pを短期間使用したものの、その品質が悪いことを理由にYに対して解約を申入れた。Xらの解約請求に対して、Yは解約には応ずるものの、契約に定めのある通り、@商品PXらの費用でYに返却すること、A解約違約金として1個あたり99000円を徴収し、返却額は1個あたり1000円になること、B短期間であっても一旦使用した以上は商品Pの市場価値はほぼ失われるので、この違約金の定めは妥当であること、以上の回答をした。

 X1-X200X201-300、それにX301を加えた計301名は原告団を結成し、Yに対して契約解除に伴う代金返還を求める訴えを東京地裁に提起した。国際裁判管轄についてはYが応訴したために肯定されるとして、以下の問題に答えなさい。

 

問題1 

 

 訴訟において、Yは契約準拠法であるA国法上、本件違約金の定めは有効であると主張しているが、Xらは、そのように高額の違約金は日本の消費者契約法91号に反して無効であると主張している場合、X1からX301の代金返還請求について適用される法はどのようになるか。必要があれば場合分けをして答えなさい。

 

問題2

 

 一審においてXらは日本の消費者契約法について何らの主張もせず、東京地裁はA国法を適用し、契約通り、商品PYに送付することを条件に、1個あたり1000円をYXらに支払うべき旨の判断を下したとする。そして、Xらは控訴し、控訴審では、次の2点を主張したとする。すなわち、(a)消費者契約法9条1号は、いわゆる日本の絶対的強行法規であり、通則法111項の「適用すべき旨の意思」が表示されなくても、当然に適用されるべきであり、一審判決がこれを適用しなかったことは誤りであること、(b)仮にそうでなくても、控訴審において適用意思を表示しているので、消費者契約法91項は適用すべきであること、以上の通りである。

 これに対し、Yは、(a)について、消費者契約法8条及び10条は公序的性格が強い規定であるので、絶対的強行法規であるとしても、9条はそれほどまでに公序的性格は強くなく、通則法111項の意思表示がない限り、適用すべきものではないこと、(b)について、通則法111項の意思表示は訴訟の早い段階ですべきであり、控訴審段階での主張を認めることは、Yから審級の利益を奪うことになり不当であること、以上を主張している。

 (a)及び(b)の点について控訴審裁判所としてどのように判断すべきか。

 

問題3 

 

 X1X201は、契約当時、19歳の未成年の日本人であったため、日本民法52項により契約の取消を主張している。ちなみにA国法上の成年年齢は18歳である。また、X2X202は、契約当時、日本で後見開始の審判を受けた成年被後見人である日本人であったため、日本民法9条により契約の取消を主張している。

 これらの者の取消の主張は認められるか。

 

() 問題2について、消費者契約法の次の規定を参照のこと。

 

(事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効)

第八条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。

一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項

二 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項

三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する民法の規定による責任の全部を免除する条項

四 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する民法の規定による責任の一部を免除する条項

五 消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるとき(当該消費者契約が請負契約である場合には、当該消費者契約の仕事の目的物に瑕疵があるとき。次項において同じ。)に、当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除する条項

2 前項第五号に掲げる条項については、次に掲げる場合に該当するときは、同項の規定は、適用しない。

一 当該消費者契約において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに、当該事業者が瑕疵のない物をもってこれに代える責任又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合

二 当該消費者と当該事業者の委託を受けた他の事業者との間の契約又は当該事業者と他の事業者との間の当該消費者のためにする契約で、当該消費者契約の締結に先立って又はこれと同時に締結されたものにおいて、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに、当該他の事業者が、当該瑕疵により当該消費者に生じた損害を賠償する責任の全部若しくは一部を負い、瑕疵のない物をもってこれに代える責任を負い、又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合

 

(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)

第九条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。

一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分

二 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年十四・六パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分

 

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

第十条 民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。