国際民事訴訟法(早稲田LS) -2006年度冬学期試験問題
道垣内正人出題 2006年12月26日-31日実施
1. 合意管轄
日本法人X社と甲国法人Y社の間で、X社の有する甲国特許Mについての2002年にライセンス契約が締結された(本件ライセンス契約)。この契約によれば、Y社はM特許を用いて製品Pを製造し、これを甲国内においてのみ販売することとされ(本件販売地域限定条項)、紛争解決については、東京地裁を専属管轄とするとされていた(本件合意管轄条項)。もっとも、本件ライセンス契約の有効期間は2年間と定められており、2004年末に期間が満了したが、その後も特に契約を更新することなく、Y社は製造を続け、ライセンス料をX社に支払い続けており、X社も契約関係を問題とすることなくこのライセンス料を受領してきた。
そのような中、2006年10月、X社はY社が本件販売地域限定条項に違反して、乙国に輸出していると主張し、Pの製造差止めとこれまでの乙国への輸出によってX社が被った損害の賠償を求めて、東京地裁に提訴した。
(1) Y社は、本件ライセンス契約は2004年には終了しており、その後は、黙示的に同じ内容の契約が新たに締結され、履行されてきたのであって、その黙示の契約の中には合意管轄条項が含まれるかもしれないが、それは民訴法11条2項・3項の要件を具備していないので効力はなく、日本には国際裁判管轄がないと主張している。これについて、どのように判断すべきか。
(2) 仮に本件合意管轄条項は有効であるとして、Y社は、甲国特許は無効である旨の主張をしている。東京地裁は、この主張について判断をして、Xの請求の当否について結論を出すことができるか。
(3) 同じく仮に本件合意管轄条項は有効であるとして、Y社は、販売地域限定条項は甲国の独禁法に違反して無効である旨の主張している。東京地裁は、この主張について判断をして、Xの請求の当否について結論を出すことができるか。
(4) ここまでの記載のうち、「日本」と「甲国」を入れ替え、かつ、「東京」を「甲国の首都の」と入れ替えた事例において、上記(2)の点の争いがあり、これについて甲国の首都の裁判所が日本の特許を有効であると判断し、Y社に対して、Pの日本での製造差止めと損害賠償の支払いを命じたとする。
(a) 日本でこの判決を承認・執行することはできるか((b)の場合ではないことを前提とする)。
(b) 日本の特許庁において本件の特許無効審判事件の手続が係属している状況において、日本でこの判決を承認・執行することはできるか。
2. 外国判決の承認・執行
甲国の裁判所は、Y社(日本法人)はX社(乙国法人)に対して金銭の支払いを命ずる判決を下し、この判決の日本での執行が問題となっている。設問はそれぞれ別の状況を問題としており、相互に無関係である。
(1) 甲国が中華民国(台湾)である場合、「外国」判決に該当するか。
(2) 甲国裁判所は、管轄原因として、Y社は甲国に支店は設けていないものの、100%子会社である甲国法人を通じてビジネスを展開しており、本件は、その子会社がX社甲国支店からの借入金10億ドルについてY社が保証したことに基づくものであり(約定されている弁済地は乙国)、甲国との関連性は十分にあると判断している。これは民訴法118条1号に照らしてどのように評価されるか。
(3) 甲国と日本とは、ともにハーグ国際私法会議の作成した「民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約」(送達条約)の締約国である。しかし、この裁判では、送達条約の正規のルートによらず、X社の代理人である弁護士から、日本の弁護士に訴状の写しと呼び出し状が託され、その日本の弁護士がY社を訪れて、これを手交するという方法で行われ、Y社担当者の署名がある受領確認書が甲国裁判所に提出されている。これは民訴法118条2号に照らしてどのように評価されるか。これについて、Y社が甲国での訴訟手続に出廷して送達が不適法であることを争った上で、敗訴した場合と、Y社は甲国での訴訟手続には欠席したまま敗訴した場合とで異なるか否かにも留意して答えなさい。
(4) 甲国において、Y社は控訴・上告をし、控訴棄却・上告棄却となって、最上級裁判所の判決として確定しているとする。甲国法によれば、司法エネルギーの効率的な利用のため、控訴して控訴棄却になった場合には控訴の日から支払い済みまでの間、年率20%の遅延利息を支払うべきことを定め、さらに、上告して上告棄却となった場合には、上告の日から支払い済みまでの間、年率50%の遅延利息を支払うべき旨定めている。そのため、本判決は、そのような遅延利息の支払いを明示的に命じている。これは民訴法118条3号に照らしてどのように評価されるか。
(5) 甲国における外国判決の承認・執行制度は、日本の民訴法118条1号から3号とほぼ同様の内容であり、それに加えて、相互の保証があることも要求されているが、その解釈として、甲国判決の外国における承認・執行が甲国の定める要件に比べて同じ程度か又はより緩やかなものである場合に限って、相互の保証があるものとするのが甲国の確立した判例となっている。この場合、民訴法118条4号の相互の保証はどのように評価されるか。