早稲田大学法科大学院2007年度冬「国際私法I」+「国際民事訴訟法」試験問題
ルール
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参考文献その他の調査を行うことは自由ですが、他人の見解を求めること及び他人の見解に従うことは禁止します。
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解答作成時間は自由ですが、解答送付期限は、2008年1月1日(火)10:00a.m.です。
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解答は下記の要領で作成し、[email protected]宛に、e-mailへの添付ファイルとして送付してください。
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E-mailの件名は、受験科目に応じて、必ず、「国際私法I」又は「国際民事訴訟法」として下さい(分類のためです)。両方の科目を受験する場合にも、答案は別々に作成して別々のe-mailにそれぞれ添付してください。
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文書の形式は下記の通り。
・ A4サイズの紙を設定すること。
・ 原則として、マイクロソフト社のワードの標準的なページ設定とすること。
・ 頁番号を中央下に付け、最初の行の中央に受験科目名、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載してください。
・ 10.5ポイントから12ポイントの読みやすいフォントを使用し、また、全体として読みやすくレイアウトしてください。
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枚数制限はありません。ただ、あなたが法律事務所のアソシエイトであり、パートナーからメモの作成を依頼されたと想定して、不必要に長くなく、内容的に十分なもの(判例・学説の適度な引用を含む。)が期待されています。
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これは、成績評価のための筆記試験として、100%分に該当するものにするものです。
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問題文中の特定の単語2つに色を付けているのは、読み間違いを避けるためです。答案においてもこれらの単語にはこの色を付けてください。
問題
第1問 【国際民事訴訟法受験者は小問(1)から(3); 国際私法I受験者は小問(4)から(6)】
日本に常居所を有する日本人Aは、独裁国である甲国の実情に関心を持ち、何度も甲国を訪問して精力的に取材活動を続けてきているフリー・ジャーナリストである。その取材過程で、甲国で生まれ育った甲国人B・Cという兄弟(5歳の姉と2歳の弟)の存在を知った。B・Cの両親である甲国人・D・Eはともに、反政府的な姿勢で甲国の惨状を告発していた活動家であったところ、1年前にひき逃げ事故(犯人は不明のまま)で2人同時に死亡し、B・Cは児童保護施設に預けられていた(この施設は独裁者の親衛隊養成のための施設であるとの噂がある)。
Aは、B・Cにスポット・ライトを当てることで社会的関心を喚起し、彼らの両親の死亡が甲国特殊警察による暗殺であることを世界に告発する計画を立てた。そこで、Aは、2007年8月1日、B・Cが収容されている施設を訪問した際に彼らを連れ出し、かねて打ち合わせておいた協力者の車で警備の少ない山岳地帯の国境を越えて隣国に出国し(甲国政府内の協力者からB・Cの正規のパスポートを入手していた)、そこからB・Cとともに日本に帰国した。
甲国の警察当局は、これをAによるB・Cの誘拐事件と断定し、国際指名手配の手続をとった。そして、甲国政府は日本国政府に対して(両国間に外交関係はある)、犯罪人としてAを引き渡すとともに、犯罪被害者であるB・Cを甲国に帰国させることについての協力を要請している(日本国政府の対応は未定)。なお、AによるB・Cの国外連れ出しについては、Aのジャーナリストとしての名声を上げるためのパフォーマンスであって、そのために幼い子らに危険な逃避行をさせ、その上、彼らを甲国の圧政の象徴的に使おうとしているとの批判的な報道もされている。他方、B・Cは、Aとその妻F(日本に常居所を有する乙国人)と生活をしており、A・FとB・Cとの間には実親子関係のような信頼関係が構築されつつある。
このような状況において、Aは、その妻F(日本に常居所を有する乙国人)とともに、B・Cとの間で断絶型養子縁組(実方の血族との親族関係が終了する養子縁組)をすることを希望している。そして、これができないのであれば、非断絶型養子縁組でもよいとしている。
ちなみに、養子縁組に関する甲国法・乙国法の概要は以下の通りである。
Ø
B・Cの本国法である甲国法:
(a)
非断絶型養子縁組とともに断絶型養子縁組が認められている。
(b)
断絶型養子縁組の場合、甲国の国教である宗教上の特別裁判所の決定を要する。
(c)
断絶型養子縁組の場合、養子は3歳以下でなければならない。
(d)
断絶型養子縁組の場合、実父母の同意が必要であり、実父母がない場合には、検察官の同意が必要である。
(e)
断絶型養子縁組については、上記(b)・(c)・(d)のほか、日本法と同じ。
(f)
非断絶型養子縁組の場合、養子が15歳以下であれば実父母の同意が必要であり、実父母がない場合には、検察官の同意が必要である。
(g)
非断絶型養子縁組については、上記(f)のほかは、日本法と同じ。
Ø
Fの本国法である乙国法
(h)
非断絶型養子縁組しか認められない。
(i)
1人の養親は1人の養子との間でのみ養子縁組をすることができる。(これは乙国の人口抑制のため、実子を1人に限るという少子化政策が実施されており、この脱法行為を防止することが目的とされている。)
(j)
養子となる者が15歳未満である場合には、実父母の同意が必要であり、実父母がない場合には、親族会の長の同意又は養子となる者が住所を有する行政区画の長の同意のいずれかを要する。(甲国には乙国にあるような親族会の制度はないが、B・Cの父方の祖父が甲国政府高官の職にあることが判明しているとする。)
(k)
以上のほか、非断絶型養子縁組については、日本法と同じ。
小問(1)
A・FとB・Cとの間の断絶型養子縁組の決定を日本の家庭裁判所に求めた場合、国際裁判管轄は認められるか。
小問(2)
AとB・Cとの間の非断絶型養子縁組の許可審判を日本の家庭裁判所に求めた場合、国際裁判管轄は認められるか。
小問(3)
FとB・Cとの間の非断絶型養子縁組の許可審判を日本の家庭裁判所に求めた場合、国際裁判管轄は認められるか。
小問(4)
A・FとB・Cとの間の断絶型養子縁組は認められるか。
小問(5)
AとB・Cとの間の非断絶型養子縁組は認められるか。
小問(6)
FとB・Cとの間の非断絶型養子縁組は認められるか。
第2問 【国際私法I受験者のみ】
横浜地裁平成3年10月31日判決(家裁月報44巻12号105頁)(テキストのCase 3-1)について控訴審を経て(控訴審判決は全く同じ事実を認定し、全く同じ内容の判決を下したと仮定する)、上告され、その上告が受理されたとする。最高裁の立場で、判決を起案しなさい。適用されるのは、法例ではなく、法の適用に関する通則法とする。
なお、上告理由は、法の適用に関する通則法の適用を明らかに誤っており、結論に影響を及ぼすという趣旨のものであるとする。結論は、上告棄却、破棄差戻し、破棄自判、いずれでもよい。外国法を適用しなければならない場合、当該外国法の内容の正確さは採点の際に考慮しない。
第3問 【国際民事訴訟法受験者のみ】
アメリカ・テキサス州連邦地方裁判所での特許侵害訴訟の被告となった日本企業Yは、原告X(アメリカ人)からのコンピュータのソース・コードQの開示を求めるディスカバリーに対して、”unavailable”との回答をしたところ、後の証人尋問により、Yは実際にはこれを保有していることが判明した。その結果、テキサス州連邦地方裁判所は、次のような制裁を命じた。すなわち---、
@
無条件で忌避することができる陪審員の数を、Xは4名、Yは2名とする(陪審員の選定プロセスにおいて不適切であると考える者を一定のルールの下で排除することができる制度がある)、
A
Yの冒頭陳述はXのそれの2分の1とする、
B
特許の非侵害を立証するためのY側の専門家証人の申請は認めない、
C
Yの最終陳述はXのそれの3分の1とする、
---以上を主な内容とする制裁である。
その後、裁判の結果、Yは特許侵害によりXへの1億ドルの損害賠償を命じられ、上訴したが原判決は維持されたまま判決は確定した。Xはこの判決に基づいて日本における強制執行を求めている。この執行は認められるか。当該判決は外国裁判所の確定判決であり、民事訴訟法118条1号、2号及び4号の要件については問題ないとする。