早稲田大学法科大学院2007年度「国際民事訴訟法」試験問題解答

大久保 裕史

問題 第1問について

小問(1)ないし(3)につき、まず、第1として結論、次に第2として各小問を判断する前提としての国際裁判管轄の一般的な判断枠組みを説明した上で、最後に第3として各小問につき具体的に検討する。

1 結論

小問(1)ないし(3)全てにつき裁判管轄は認められる。

2 前提として

 本件問題を検討する前提として、@まず、我が国における国際裁判管轄権の一般的判断枠組みを示し、A次に判断枠組みが確立している財産関係事件に触れた後、B身分関係事件の判断枠組みに関して以下に説明する。

1 国際裁判管轄権の一般的判断枠組み

  国際裁判管轄権の判断に関しては我が国には明文の規定がなく、また、国際的に承認された一般的な準則や成熟した国際的慣習法も存在しない。したがって、当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により条理に従って国際裁判管轄権の有無を決定するというのが確立した判例となっている(最判昭和561016日民集3571224頁(財産関係事件・債務不履行に基づく損害賠償事件)、最判平成8624日民集5071451頁(身分関係事件・離婚事件)、最判平成91111日民集51104055頁(財産関係事件・預託金返還債務)。

 2 財産関係事件における判断枠組み

財産関係事件については、我が国の民訴法の規定する裁判籍のいずれかが我が国内にあるときは、原則として、我が国の裁判所に国際裁判管轄権が認められる。もっとも、我が国で裁判を行うことが当事者間の公平・裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があると認められる場合には、我が国の国際裁判管轄が否定される(上記最判平成9年判決・逆推知説)[1]というのが確立した判断枠組みである。

 3 身分関係事件における判断枠組み

他方、身分関係事件については上記最判平成8年事件が、国際裁判管轄権に関する一般的判断枠組みの下に国際裁判管轄権について判断を示したものの、国内法の裁判管轄規定を明示していない。したがって逆推知説が身分関係事件においても必ず妥当するかは不確定である。

また、身分関係事件は(a)離婚事件のように財産関係事件と同様に当事者が原告・被告として対立する構造があるものと、(b)そのような対立構造がない例えば本件のような親子関係事件がある。

身分関係事件について国際裁判管轄権の判断枠組みを示した最高裁判例としては(a)の離婚事件についてのものしか存在しない(上記最判平成8年判決のほか、最大判昭和39325日民集183486頁)。よって、(b)事件については、最高裁判例は存在しない。

 4 養子縁組事件における判断枠組み

(1) 国内土地管轄の規定、判例法理について

養子縁組についての裁判管轄について養子縁組許可審判につき家事審判規則63条は養子となるべき者の常居所に、断絶型養子縁組である特別養子縁組成立審判につき、同規則64条の3は、養親となるべき者の常居所の家庭裁判所の国内土地管轄を定めている。

もっとも、上記各規則は国際裁判管轄を規定ない類推せしめるものではないとされている(小瀬保郎 「渉外判例研究」 ジュリスト27779頁参照)。

よって、養子縁組の国際裁判管轄については、明文の規定はなく、また、養子縁組事件は親子関係事件の一類型であるので上記第2 3 で述べた(b)事件に属するところ、上記にのべたように(b)事件については確立した判例も存在しない。

 (2)養子縁組事件における判断枠組み

   ア したがって、養子縁組事件の国際裁判管轄権の判断は養親となるべき者と養子となるべき者のそれぞれにつき我が国との関連を基礎として、さらに養子縁組類型(断絶型養子縁組なのか、非断絶型養子縁組なのか)ごとにその特殊性を加味した条理によって決せられることとなる。

   イ 養子縁組の成立に関する国際裁判管轄の認定基準としては@国際裁判管轄に関して財産関係事件と同様に国内土地管轄の規定から逆推知する立場A養子の常居所(子の福祉の観点)又は養親の常居所(縁組後の共同生活に着目)があれば管轄を認める見解B特別養子縁組については試験養育等を重視する家事審判規則64条の3の趣旨から原則として養親の常居所がある場合に管轄を認める見解Cその他、本国管轄を認める見解や養子の出生・養育地に着目する見解などが主張されている。(以上につき、西島太一 「養子縁組事件の国際版管轄」 国際私法判例百選 〈新法対応版〉 188頁 参照)

   ウ 非断絶型の養子縁組(小問2、小問3)の成立に関する国際裁判管轄の判断基準

養子縁組事件は、新たな親子関係を創設するという点において一般の親子関係事件よりもさらに子の利益保護の観点が重要といわれている(不破茂 「養子縁組許可・決定の国際裁判管轄」 渉外判例百選 〈第3版〉 216頁)。

子の利益保護の観点からすれば、未成年者の養子縁組の場合は親が子による扶養を期待するという場面ではないことので、まず、養子縁組の機会をできるだけ保障することに重点を置くべきであろう。

そうすると、当事者と関連性がある可能な限り多くの地に裁判管轄を認めることが条理に適うので、少なくとも養子の常居所又は養親の常居所であれば問題なく裁判管轄が認められると解される(上記A説)。

また、A説の立場が我が国における実務における取扱いと一般的にいわれており、(吉田健司 「家庭裁判所における渉外事件の取扱い」 判例タイムズ臨時増刊号996号164頁、裁判例としては、札幌家裁平成4年6月3日審判家月44巻12号91頁)、本件もA説によって判断される可能性は高いと思われる。

   エ 断絶型の養子縁組(小問1)の成立に関する国際裁判管轄の判断基準

実親子関係の断絶を意味する断絶型の養子縁組については養子縁組の私的斡旋の横行という現状を踏まえ、子の利益保護の観点から養子の常居所を管轄する機関による子の保護の徹底を期待して、原則として養子の常居所に国際裁判管轄を認める立場も存在する(石黒一憲 「国際的養子斡旋・養子縁組の諸問題」 講座・現代家族法(3)399頁)。

しかしながら、縁組後に共同生活を営む地としては、養親の常居所である蓋然性が高い。したがって、子の利益保護の観点から、その後の子の法的地位の安定のために、養親の常居所に裁判管轄を認めるのが条理に適うと思われる。

また、我が国においては特別養子縁組について試験養育等を重視する家事審判規則64条の3という規定があることからすれば、外国における試験養育を審判手続の一環として行うことは困難であることに鑑みて、我が国裁判所は、試験養育が行われる養親の常居所に裁判管轄を肯定する可能性が高いと思われる(上記B説)。

(3) 以上の検討に従い各小問について判断する

3 各小問についての具体的検討

 1 小問1について

   断絶型養子縁組の成立に関する国際裁判管轄は養親の常居所に上記の第2 4(2)エの検討からすれば認められると思われる。

   本件においては、養親となるA・Fは共に日本に常居所を有しているので、国際裁判管轄は認められると思われる。

   この点、養子であるBCに関して常居所をどこに有しているのかは判断が困難である。もっとも、仮に常居所が我が国ではなく、甲国にあると判断されても、国際裁判管轄は、養親の常居所に認められると思われることは上記に述べたとおりであるので、我が国に裁判管轄があるとの上記結論は左右しない。

 2 小問2、小問3について

   非断絶型養子縁組の成立に関する国際裁判管轄は養子又は養親の常居所であれば、認められるのは上記の第2 4(2)ウに述べた通りである。

   (1)小問2について

    本件においては、養親Aは日本に常居所を有しているので、我が国に国際裁判管轄が認められると思われる。

   (2)小問3について

    本件においては、養親Fは日本に常居所を有しているので、我が国に国際裁判管轄が認められると思われる。

なお、小問3の場合においてFは乙国人であるが、養子縁組の成立に関する国際裁判管轄は常居所を有するか否かによって決せられるので、かかる事実は上記結論を左右しない。

 

<一般論に終始するのではなく、当てはめの段階では本件の事実関係、特に、BCの国外連れ出しの方法、甲国でAが刑事犯の容疑者とされていること、甲国からのBCの帰国要請などを踏まえた論述がない必要かつ十分とは言えないでしょう。(道垣内)

 

問題 第3問について

 

第1 外国判決について執行判決を求める訴えは、民事訴訟法(以下、「民訴法」、という。)118条各号が規定する要件を満たさなければならない(民事執行法24条3項)。本問における外国判決(以下、「本件外国判決」という)は民訴法118条1号2号、4号の要件を満たしているので、本件外国判決の執行の可否を検討するにあたっては民訴法118条3号の要件を本件外国判決が満たすのかが問題となる。

具体的には、(ア)まず、1億ドルという多額の損害賠償を認める本件外国判決が懲罰的損害賠償に当たり、民訴法118条3号要件のいう「判決の内容」が日本における公序に反する場合に該当しないのか、(イ)次に、本件外国判決は、本問における@ないしCの制裁のもとYの訴訟活動は制約された上での判決である。そしてそのような場合は、民訴法118条3号要件のいう「訴訟手続」が日本における公序に反する場合に該当しないのか、の2点が問題となる。

結論としては、本件外国判決は、場合によっては(ア)において、また(ア)で公序に反しないとしても(イ)において公序に反すると考えるので、本件外国判決を執行することはできないと考える。以下(ア)、(イ)の順に検討する。

 

第2 (ア)本件外国判決の内容の公序則との抵触性について

  1 本件外国判決は懲罰的損害賠償を請求するものといえるのか

  (1) 本件は1億ドルのもの多額の損害賠償を命じる判決である。本件外国判決が懲罰的損害賠償を命じる判決に該当すれば、後述のように公序に反する外国判決として民訴法118条3号の要件を満たさないため、本件外国判決を承認・執行することはできない。

    本件外国判決は、それが懲罰的損害賠償を命じるものであるのかは明示していない。そこで、賠償を命じた根拠規定、認定された実際の損害額と命ぜられた損害賠償額との比較等を考慮して、それが懲罰的損害賠償を命じるものであるのかを決すべきである。

  (2) 本件外国判決は、XがYに対して特許権侵害を理由として損害賠償を求めたものである。そして特許権侵害にもとづく損害賠償に関しては、アメリカ特許法284条(35 U.S.C. 284)が、3倍賠償に関して規定している。

     同条に基づく損害賠償は、裁判所が裁量的に、評決または決定された額の3倍まで損害賠償を増額することができるというものである。古くからの確立した判例法により、この3倍までの過重は懲罰の趣旨のものであって、故意または不誠実な侵害の場合にだけ行使できるものとされている(Donald S. Chisum, Patents, Vol.5 Matthew Bender 1992  at 20-174.3)

   したがって、本件損害賠償が同条によって、裁量的に実際の損害額の数倍というものを課すものであったとすれば、それは懲罰的損害賠償と評価してよいと考える。

  (3) 他方、1億ドルという損害額が、実際に発生した損害額と同等と評価できるものである場合には、本件外国判決は懲罰的損害賠償を命じるものとはいえない。したがってこの場合においては、本件外国判決の内容は公序にしないので、本件外国判決の執行の可否は専ら(イ)によって決せられる。

  (4) 以下、仮に本件外国判決が懲罰的損害賠償を命じるものであった場合に、それが公序則(民訴法1183号)に反するのかについて論ずる。

  2 懲罰的損害賠償を命じる判決と民訴法118条にいう外国判決の関係について

同条に基づく損害賠償は、裁判所が裁量的に懲罰的損害賠償を命じる外国判決がそもそも、民訴法118条のいう民事判決としての外国判決に当たらないとの立場も学説上有力である(石黒一憲 「国際私法」 新世社、1994年など)。もっとも、最高裁は懲罰的損害賠償を命ずる判決も、民事判決であるとの前提に立っている(最判平成9年7月11日民集51巻6号2573頁)。

懲罰的損害賠償判決といっても、(a)それが私人の提訴がきっかけとなって始まる民事訴訟によって下されるものであること、(b)賠償金が私人たる原告が取得する場合が多いこと、(c)懲罰的損害賠償は訴訟費用・弁護士費用の償還や精神的損害の填補の機能をもつことがあること、(d)民訴法118条の規定する承認・執行制度の趣旨が外国判決をできるだけ尊重すべきことに有ること、に鑑みれば、懲罰的損害賠償といっても、一律に承認の対象から外すのは適当ではないと思われる。

したがって、懲罰的損害賠償を命じる外国判決も民事判決として、その承認・執行の可否を民訴法118条3号に照らして個別的・具体的に検討して決するのが相当であると解される。

  3 懲罰的損害賠償を命じる外国判決の承認と公序違反

    懲罰的損害賠償制度の有する加害者に対する制裁的、一般予防機能は、我が国においては、刑事上又は行政上の制裁に委ねられているものである。よって懲罰的損害賠償制度は、実損害の填補を目的とする我が国の損害賠償制度の基本原則ないし基本理念と相容れない。

よって、懲罰的損害賠償を命じる判決のうち、懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じる部分は公序に反し、民訴法118条3号の要件を満たさないとするのが判例である(最判平成9年7月11日民集51巻6号2573頁)。

    本件外国判決が、懲罰的損害賠償を命じる判決である場合や、懲罰的損害賠償を含む判決である場合は、当該判決は、または当該判決のうち懲罰的損害賠償を命じる部分は、効力を有せず、その執行はできないこととなる。

  4 小まとめ

    したがって、本件外国判決の執行の可否を判断するに当たっては、本件外国判決における賠償を命じた根拠規定、認定された実際の損害額と命ぜられた損害賠償額との比較等をして、本件外国判決が懲罰的損害賠償を命じるものにあたるものかどうかについてさらに調査する必要がある。

もっとも、本件外国判決は、それが懲罰的損害賠償を命じるものであるかどうかを調査するまでもなく、下記のとおり、その訴訟手続において公序に反する可能性が高いと考えられる。

 

第3 (イ)本件外国判決の訴訟手続と公序則との抵触性

  1 上記第2で述べたとおり、本件外国判決が懲罰的損害賠償を命じるものである場合には、その部分につき執行はできない。

    さらに、本件外国判決が懲罰的損害賠償を命じるものでない場合であっても、当該外国判決の訴訟手続が、民訴法118条3号にいう、「訴訟手続が日本における公の秩序」に反する場合に該当すれば、本件外国判決を執行することはできない。

    以下に、本件外国判決の訴訟手続が、公序に反するものであるのかについて検討する。

  2 (1)訴訟手続が公序に反する場合とは、問題となる訴訟手続が一般的・抽象的に公正な裁判を受ける権利を害するような訴訟手続が行われた場合をいう。そして、公正な裁判を受ける権利を害する場合とは、例えば裁判の中立性が保たれていなかった場合や外国裁判所での被告の防御権が保障されなかった場合をいう。

    (2)陪審員制度と訴訟手続の公序則違反

本件外国判決は、一般私人である陪審員が事実認定をなす陪審員制度によるもので、我が国の訴訟手続とは大きく異なるものといえる。もっとも、我が国の訴訟手続とは異なる制度にもとづくものであっても、そのことのみをもって、訴訟手続が公序に反するとはいえず、当該制度が我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相容れない場合に限り、公序則に反すると判断される(上記平成9年判決参照)。

そして、事実認定を一般私人がなす陪審員制度も、その他の訴訟手続等により中立性や、被告の防御権の保障がなされているのであれば、一般的・抽象的に公正な裁判を受ける権利を害するおそれがあるとはいえないと解される。

したがって、本件外国判決が陪審員制度のもとの判決であるということだけでは訴訟手続が公序に反する場合とはいえないと思われる。

    (3)本件における制裁と訴訟手続の公序則違反

     (ア)制裁を課すこと自体と訴訟手続の公序則違反

       本問において被告Yは、ディスカバリーに対して、”unavailable”との回答をしたところ、後の証人尋問により、Yは実際にはこれを保有していることが判明したため、本問における@ないしCの制裁を受けている。

       このように、当事者の一定の態度をもとに、訴訟手続上不利益を課すこと自体が公序則に反しないのかが問題となる。

       ディスカバリー制度とは、裁判が始まる前に、当事者間で争点に関する全情報(書類、データなど)を開示しなくてはならないという制度である。

       我が国にはディスカバリー制度と同様の制度は存在しないものの、訴訟提起後に行われる文書提出命令手続(民訴法221条)と類似の制度が存在する。そして同手続にも一種の制裁条項(民訴法2241項、3項)があることに鑑みれば、当事者の一定の態度をもとに、訴訟手続上不利益を課すこと自体をもって、訴訟手続が公序に反する場合であるということはできないと解する。

       よって、本件外国判決の訴訟手続が公序に反するか否かは、課された制裁の種類・程度や目的等を個別的・具体的に検討して判断しなければならないと思われる。

     (イ)制裁@ないしCを課すことと訴訟手続の公序則違反

本件において被告Yは、本件外国判決を下した裁判所から@無条件で忌避することができる陪審員の数を、X4名、Y2名とするAYの冒頭陳述はXのそれの2分の1とするB特許の非侵害を立証するためのY側の専門家証人の申請は認めないCYの最終陳述はXのそれの3分の1とする、との制裁を受けている。

以下に、上記@ないしCの制裁が、裁判の中立性や防御権を侵害するもので、一方当事者の公正な裁判を受ける権利を害するおそれがあるものかについて検討する。

      (あ) 制裁@について

日本においても忌避制度は存在する(民訴法24条)。その趣旨は、具体的な事件において裁判官が事件あるいはその当事者等と特別な関係がある場合に、その裁判官を個別事件の職務執行から排除することで、裁判の公正(裁判の中立性)を保つことにある。

アメリカにおける特許権侵害訴訟においては、陪審員が事実認定をなし、この点においては、日本の民事訴訟手続における裁判官と同様の役割を果たしている。そして制裁@により忌避することができる陪審員の数が相手方よりも少なくなることは、事実認定に関して、Xに利益ないしYに不利益に事実認定をするおそれがある者をYが排除できないことを意味する。よって、この点において制裁@は、裁判の中立性を相当程度害するおそれがあるものといえる。

      (い) 制裁AとCについて

         冒頭陳述は裁判の冒頭においての当事者の印象を陪審員に与える機会であり、他方、最終陳述は、陪審員を説得する最後の機会である。双方は共に、防御権行使の重要な一場面であるといえる。

         しかるに、制裁AとCはそのような重要な防御権行使の時間を冒頭陳述は2分の1に、最終陳述は3分の1にするものであり、Yの防御権を相当程度侵害するおそれがあるものといえる。

      (う)制裁Bについて

         制裁Bは特許の非侵害を立証するためのY側の専門家証人の申請を認めないものである。そして、特許権侵害の関する攻撃防御にはその性質上高度な専門性が必要とされることに鑑みれば、制裁BはYの防御権を著しく侵害するおそれがあるものといえる。

      (え)まとめ

        以上の検討にしたがえば制裁@ないしCはどれも裁判の中立性や、防御権を侵害するおそれがあるものであり、またその程度も相当程度もしくは著しいものである。

さらに、我が国の民訴法上の文書提出命令違反に対する制裁(民訴法22413項)が、あくまで当該文書に対する相手方の主張を真実と認める等の制裁にとどまるものであり、その目的が立証活動の実質的公平の担保にあるのに比べて、制裁@ないしCはディスカバリーの対象となった証拠とは関係のない場面での被告Yの訴訟活動を制約するものである。

すなわち、制裁@ないしCの目的は当事者間の立証活動の実質的公平の担保というよりも、ディスカバリー制度違反者に対する懲罰、もしくはみせしめによる一般予防を図るものであるといえる。

したがって、制裁@ないしCは、その種類・程度が公正な裁判を受ける権利を害するものであり、かつその目的も懲罰的なものであって、当事者間の立証活動の実質的公平の担保という我が国の法秩序の基本原則とは相容れないものと解される。

よって、制裁@ないしCのもとに下された本件外国判決の訴訟手続は日本における公の秩序に反するものであり、民訴法1183号の要件を満たさないと認定される可能性は極めて高いと思われる。

以上の検討により、本件外国判決の執行はできないと思われる。

以上



[1] 民事訴訟法上の土地管轄の規定を類推適用して国際裁判管轄の有無を判断したものと一般に理解されており、逆推知説と呼ばれている(高田裕成「特段の事情の考慮」国際私法判例百選(新法対応補正版)168頁)