国際私法T
朴漢暎
第1問
小問(4)
1.本問においては養子縁組の法律関係が問題となるところ、法の適用に関する通則法(以下「通則法」とする)31条によると、養子縁組は、縁組当時における養親となるべき者の本国法によるとされている。
本問では、夫婦が養父・養母となって養子縁組をしようとする場合であるが、養親となるべき夫婦であるAとFの本国法が異なるので、両者の本国法である日本法と乙国法の適用をどのように行っていくべきかが問題となる。この点、通則法31条は、夫婦共同縁組の場合の特則規定を置いておらず、よって、本国法の夫婦が養親になる場合にも、それぞれの養親につきそれぞれの本国法を個別的に適用すれば良いと考える。ただし、例えば、養父の本国法上は夫婦が共同でなければ養子縁組が認められないとされている場合には、養父については問題ないとしても、養母の本国法上は養子縁組が認められないときには、実質法上の制約により、養父との縁組もできない場合があることには注意を要する[1]。
2.それでは、本件において断絶型の養子縁組が認められるか。まず、Aについては、その本国法である日本法、つまり、民法817条の2以下の規定が適用されることになり、夫婦共同で特別養子縁組をしなければならないことになる。したがって、Fの本国法である乙国法上断絶型養子縁組が存在し、その要件をすべて満たすは夫婦共同で特別養子縁組をすることができるが、本問においては、Fの本国法たる乙国法上断絶型養子縁組制度は存在せず、よって、A・Fは特別養子縁組をすることができないことになろう。このように解する理由は、養親の一方の関係では特別養子、他方の関係では普通養子となるということでは、夫婦共同によってのみ特別養子縁組をすることができるとした民法817条の3の規定の趣旨に反することになること、また、実親との断絶が相対的になるというのでは、説明の困難な法律関係になってしまうからである[2]。
3.よって、A・FとB・C間の断絶型養子縁組は認められない。<なお、後述のように非断絶型養子縁組は認められることになるので、断絶型養子縁組が認められないという結論はB・Cの福祉に鑑みても酷な結果とはならず、通則法42条の公序則を発動する必要はない、ということにも言及しておいた方がよりよいと思います。(道垣内)>
小問(5)
1.AとB・C間の非断絶型養子縁組が認められるか否かは養親となるべき者であるAの本国法、つまり、日本法によって判断される。非断絶型養子縁組は日本民法でいう普通養子縁組に当たるものであるが、日本法上普通養子縁組が認められるためには、主観要件としての縁組意思の合致及び民法792条以下が定める客観的要件を満たす必要がある[3]。
2.民法792条以下の規定によれば、養親となるべき者の年齢要件等が定められているが、本問においてとりわけ重要なものは民法798条及び同795条である。まず、前者につき検討すると、本件は未成年を養子とする縁組に当たるので、単なる法律行為によって養子縁組を成立させることはできず、家庭裁判所の許可が必要である(民法798条)。よって、AとB・Cとの間の普通養子縁組が認められるためには家庭裁判所の許可の審判が必要ということになる。
しかし、むしろ本件において困難問題が生ずるのは、民法795条の要件である。民法795条は、配偶者のある者が未成年者を養子とするには、配偶者とともにしなければならないと規定しており、原則として夫婦共同縁組を強制しているのであるが、Fの本国法である乙国法が二人以上の養子縁組を禁止している【ため、結局AはB・Cの共同縁組をすることができないことになる(片方との共同縁組しか認められない)。ただ、本件のような事案においては、民法795条はそのただし書で、「配偶者の嫡出である子を養子とする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合は、この限りでない。」として、配偶者が縁組をすることができない場合には、例外的に共同縁組を強制していないことから、外国人配偶者の同意さえ得られれば、日本人配偶者のみによる単独縁組を認めてよいと解される[4]。この点、戸籍実務においても同様に解されており、日本人夫により外国人妻と共同で妻の非嫡出子を養子とする縁組届が行われた場合に、当該外国法自己の子を養子とすることを認めていないので、外国人妻の養子縁組はできないが、日本人夫については単独の養子縁組にその提出を訂正の上受理して差し支えないとしている[5]】。
私は結論としてFとB・Cとの間における非断絶型養子縁組も認められると考えており(この点については小問(6)において詳しく述べる)、【上記の例外的措置に依らなくとも、日本法上AとB・C間の非断絶型養子縁組は認められると考えるが、仮に乙国法上の制約によりA・Fの共同縁組ができないとしても、】AとB・C間の非断絶型養子縁組は日本法上の問題は生じない【(本問において民法796条要求する同意をFから得ることは容易であると考えられる)】。(この【 】で囲った部分は不要でしょう。特に戸籍実務として引用しているものは、外国人妻との間では親子関係があることが重要な事実であって、本件に当てはめることはできないのではないでしょうか。(道垣内))
3.以上が、AとB・Cの非断絶型養子縁組におけるAの本国法である日本法上の問題であるが、通則法31条はいわゆるセーフガード条項を設けており、養子となるべき者の本国法によればその者若しくは第三者の承諾もしくは同意又は公的機関の許可その他の処分があることが養子縁組の成立要件であるときは、その用要件をも備えなければならないとしているので、本件においてそれが具備されているかの検討が必要である。
これに関して問題となりうるのは、養子が15歳以下であれば実父母の同意が必要であり、実父母がない場合には、検察官の同意が必要であるという甲国法規定と未成年者を養子とするには、家庭裁判所の許可を得なければならないとする日本民法798条に相当する甲国法上の規定である。このうち、前者の規定は二つに分けて検討すべきであると考える。つまり、養子が15歳以下であれば必要とされる実父母の同意の部分は通則法31条でいう第三者の同意にあたるものであるが、実父母がない場合に必要とされる検察官の同意は甲国が公法上の見地から要求している公法的なものであり、第三者の同意というよりは、むしろ公的機関の許可その他の処分に当たるものと捉えるのが相当である。
そうすると、実父母が既に死亡している本件においては、その実父母の同意がないことは問題とならず、甲国法上定められている公的機関の関与、つまり、検察官の同意及び家庭裁判所の許可のみが問題となる。この問題に関してどのように考えるべきかについては、考え方が分かれるところではあるが、私は養子となるべき者の本国法上、一定の公的機関の関与が定められているとしても、その特定の機関の関与という点は公法的性格を有するその国の手続法であって、そもそも国際私法上の問題ではないと考える。つまり、国際私法の役目は養子縁組を法律行為だけでできるのか、公的機関の関与が必要なのかを養子となるべき者の本国法に問うまでであって、その先は、養子縁組をする法域で用意されている手続法に従うほかない[6]。このような手続要件については、基本的に養子決定の審理手続の有り方の問題であり、手続は法廷地法によるという一般手原則からすれば上述のことは当然とも言えよう。よって、Aは法廷地である日本の手続きである家庭裁判所の許可審判に基づき養子縁組の許可を得ることができると考える。これとは違って、養子となるべき者の本国法が要求している特定の機関の関与という点も国際私法上の問題となるという立場からは、養子となるべき者の本国法上要求されている公的機関の関与を日本の家庭裁判所が代行できるかという問題の立て方になると思われるが、仮にこの立場に依拠したとしても、本件では日本の家庭裁判所の許可によって、これを代行できるという結論が得られると考える。
4.以上、本件において、AとB・Cとの間の非断絶型養子縁組は認められる。
小問(6)
1.FとB・Cの間の非断絶型養子縁組が認められるか否かは通則法31条により養親となるべき者であるFの本国法、つまり、乙国法によって決まることになる。乙国法上も日本民法795条及び同798条に対応する規定が存在するので、FがB・Cを養子にするためには夫婦共同縁組によらなければならず、また、家庭裁判所の許可を得なければならないことになろう。小問(5)で述べたとおり、AとB・C間の非断絶型養子縁組は認められるので、Fさえ要件をクリアできれば夫婦共同養子縁組は可能である。また、小問(5)で述べたとおり、乙国法上要求しているのは乙国の家庭裁判所の許可であるが、この点は公法的性格を有する乙国法上の手続法であるから、この問題は乙国に送致されず、法廷地である日本の家庭裁判所の許可審判の手続きに従ってこれを行うことになろう。
2.次に養子となる者が15歳未満である場合には、実父母の同意が必要であり、実父母がない場合には親族会の長又は養子となる者が住所を有する行政区画の長の同意のいずれを要するという規定はどうか。本件においてはB・Cの実父母は既に亡くなっているので、親族会の長の同意又は養子となるべきものが住所を有する行政区画の長の同意のいずれかを要するという部分だけが問題となる。しかし、甲国にはこの規定が想定しているような親族会制度は存在せず、この規定は適用しようがないというべきである。結局、行政区画の長の同意が問題となるのであるが、既に述べたとおり、このような公的機関の関与を定めた規定はその国の手続き問題であって、国際私法の蚊帳の外であるから、結局、Fは法廷地たる日本での手続きに従って非断絶型養子縁組をすることになる。
よって、この規定の存在がFとB・Cの間の非断絶型養子縁組を妨げることにはならない。
3.それでは、乙国が一人の養子との間でのみ養子縁組を認めていることはどうか。この規定が適用されると、FはBかCどちらか一方としか養子縁組をすることができないことになる。しかし,同規定は,乙国において実施されている、人口抑制のため実子を一人に限るという少子化政策を反映した規定であると解されるところであり、こうした国家的政策を採用せず、未成年者の福祉に適うものならば複数の未成年者を養子とすることも当然のこととして許容している日本において、同規定をそのまま適用することは、養子制度に関する日本の社会通念に照らして相当でないというべきである。特に、Fは乙国の国籍を有するが既に日本に常居所を有し、日本人夫と結婚し日本で夫婦生活を営んでいる者である。そして、A・FとB・Cの間には実親子関係のような信頼関係が構築されつつあり、養子となるべきものであるB・Cの両親が既に死亡してしまっている現在において、乙国法上の同規定を適用して、FとB・C間の非断絶型養子縁組を認めない、あるいは年齢も近い兄弟であるB・Cを切り離していずれか一方だけについて養子縁組を許可する、というようなことは,子の福祉を目的とする未成年者養子制度の趣旨を著しく損なうものであって相当でなく,同規定は,通則法42条によって適用を排除されるというべきである[7]。
4.なお、いわゆるセーフガード条項については小問(5)と同じように考えれば良い。よって、本件では問題とならないということになろう。
5.結論として、FとB・C間の非断絶型養子縁組は認められる。
第2問
<省略>
【参考文献】
内田貴「民法W補訂版」2004年、東京大学出版
加藤文雄「渉外家事事件整理ノート」2000年、新日本法規
国際私法学会編「個人と家族」2001年、三省堂
最高裁判所事務総局家庭局監修「渉外家事事件執務提要(下)」1992年、法曹会
桜田嘉章・道垣内正人編「国際私法判例百選」2004年、有斐閣
澤木敬郎・道垣内正人「国際私法入門第6版」2006年、有斐閣双書
司法研究所編「渉外養子縁組に関する研究」1999年、法曹会
竹之内義弘「養子・特別養子・国際養子」1997年、中央経済社
道垣内正人「ポイント国際私法総論」1999年、有斐閣
道垣内正人「ポイント国際私法各論」2000年、有斐閣
南敏文「改正法例の解説」1992年、法曹会
山田鐐一「国際私法第三版」2004年、有斐閣