国際私法T

 

林 保宏

 

1問                                                          

 

<省略>

          

第2問                                                          

 

主文

 

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

 

理由

 

第1 上告人の上告申立理由第1について

 上告人は、原審判決が、法の適用に関する通則法(以下「通則法」と略す。)38条3項にいう「規則」は、米国に存在しないとしたことは、同法の解釈を誤ったものである旨を主張している。

 ここで、通則法38条3項が「規則」を媒介とした間接指定主義を採用しているのは、ある者が不統一法国内のいかなる法秩序に属するかの決定は、その不統一法国の法体制に委ねる方が、最密接関連地法を選択するという国際私法の理念に合致するとして、同条項の「規則」とは、その国の準国際私法を指すとの考え方もある。しかしながら、38条3項の「規則」は、外国の国際私法によって自国法が本国法として指定されたときにいずれかの地域の法を本国法とするかを定めるものと解すべきであり、その国の国内事件について、どの地域の法を適用するかを定めるものに過ぎない、準国際私法を「規則」と解することは出来ない。

そして、米国内においては、外国の国際私法によって自国法が本国法として指定されたときにいずれかの地域の法を本国法とするかを定める規定は存在しないことから、米国に通則法38条3項の「規則」は存在しないとした原審判決は正当であり、この点に関する判旨に理由誤りはない。

 

第2 上告人の上告申立理由第2について

上告人は、原審判決が、米国籍のXの本国法をアリゾナ州法と認定したことは、通則法38条3項括弧書きにおける「最も密接な関係がある地域の法」の解釈を誤ったものである旨を主張している。

ここで、米国のような地域的不統一法国における当事者に最も密接な関係がある地域の法の特定にあたっては、常居所がその米国内にあるときには、その常居所地が所在する地域の法律を本国法とすべきであり、常居所が米国内に存在しない場合には、当事者をめぐる具体的な諸事情を総合的に勘案して決定すべきと解される。

Xは1980年から原審口頭弁論終結時に至るまでの間は日本に居住していたことが認められることから、常居所を米国内に認めることは出来ないため、Xの本国法に関しては具体的な諸事情を総合的に勘案して決すべきこととなる。

原審の確定した事実関係によれば、Xが米国籍を取得した地はアリゾナ州であるものの、米国におけるXの最後の居住地がメリーランド州であることや、同地に3年6ヶ月間居住しており、Yと婚姻後、最も長く婚姻生活を営んだのも同地であるという点を勘案するならば、米国内におけるXに最も密接な関係がある地域の法はメリーランド州法と解すべきである。

よって、Xの本国法をアリゾナ州法とした原判決は法令解釈適用に誤りがあったといえ、通則法27条による離婚の準拠法は、XとYの共通本国法たるメリーランド州法となる。よって、離婚請求の可否、離婚に伴う慰謝料の額及び財産分与に関しては、メリーランド州法を適用した上で判断する必要がある。

 

第3 上告人の上告申立理由第3について

上告人は、原審判決が、米国籍のAの本国法を米国内に認めなかったことは、通則法38条3項括弧書きにおける「最も密接な関係がある地域の法」の解釈を誤ったものである旨を主張している。

ここで、通則法38条3項は、当事者との関係の密接度を基準として本国内の特定の地域を選択すべきことを規定したにとどまり、準拠法とすべき地域法と当事者との間に実効的な結び付きのあることまで要求するものではない。したがって、Aが米国籍を有する以上、その本国法としては、米国内のいずれかの法秩序が選択されなければならない。仮に、米国内において居住経験がないような場合においては、父または母の本国法等を手がかりに、最も密接な関係がある地域の法を認定することとなる。

原審の確定した事実によれば、Aは日本で出生して以来、引き続き原審口頭弁論集結時に至るまで日本に居住し、米国には二ヶ月間旅行したことがあるに過ぎない。このような場合においては、父または母の本国法等を手がかりに最も密接な関係がある地域の法を認定することとなるが、先に認定したとおり、父たるXと母たるYの本国法はともにメリーランド州法であることから、米国内のAに最も密接な関係がある地域の法はメリーランド州法と解すべきである。

よって、Aの本国法を米国内に認めなかった原判決は法令解釈適用に誤りがあったといえ、親権者の指定にかかる準拠法は、通則法32条による父又は母と子との同一本国法であるメリーランド州法となる。よって親権者の指定に関しては、メリーランド州法を適用した上で判断する必要がある。

 

第4 結論

以上のとおり、上告人の上告理由2及び3は理由があるため、原判決を破棄する。また、各法律関係についてメリーランド州法を適用した結果について更に審理判断する必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。

以上