2007年度「スポーツ法」(早稲田大学法科大学院)

道垣内正人担当分

 

スポーツとADR

日本スポーツ仲裁機構(JSAA)とそのもとでの仲裁・調停の概要

 

1.         組織

n                        JSAA(Japan Sports Arbitration Agency)200347日設立。

n                        背景は、反ドーピングの強化とそれに伴う紛争への対応。

n                        ローザンヌに本拠を置くCAS(Court for Arbitration for Sport)(1984年設立)がモデル(千葉すず事件)。

n                        設立母体(運営資金拠出団体) - 紛争処理のout-sourcingの性格 → 仲裁対象の限定・申立料金5万円

-                     財団法人日本オリンピック委員会

-                     財団法人日本体育協会

-                     財団法人日本障害者スポーツ協会

n                        中立性の確保

 

 日本スポーツ仲裁機構規程 第14

1 理事のうち名は、次の組織が各名づつ任命した者とする。           

        (1) 財団法人日本オリンピック委員会

        (2) 財団法人日本体育協会

        (3) 財団法人日本障害者スポーツ協会      

2 前項の各組織が任命する者のうち少なくとも名は、競技者又は元競技者でなければならない。        

3 前項の規定により任命された名の理事は、理事名を選任する。この3 名の理事は、中立的な立場の者とする。

4 ...          

5 機構長は、理事会において、理事の中から互選により選任する。 ...            

 

日本スポーツ仲裁機構の運営及びそのもとでのスポーツ仲裁又は調停手続に関係する法律家の中立性の確保についての指針   (2006 年6月23日公表・2007年3月30日改訂)

 日本スポーツ仲裁機構(以下、「JSAA 」という。) は、スポーツに造詣の深い法律家が、JSAA の運営者およびそのもとでのスポーツ仲裁手続の仲裁人・代理人、又はスポーツ調停手続の調停人・助言者・        代理人として、積極的に参画することが重要であると考える。ただし、そのことがスポーツ仲裁又は調停の公正性をいささかでも害することがあってはならない。そこで、この指針を作成し公表する。          

 1. 機構長は、その任にある期間中、競技団体及び選手団体並びにそれらと密接に関係する団体の理事等の役員、これらの団体及び選手の顧問弁護士その他これらに準ずる地位に就いてはならない。機      構長はまた、JSAA のもとでのスポーツ仲裁手続の仲裁人・代理人、又はスポーツ調停手続の調停人・助言者・代理人になってはならない。

 2. 専務理事、顧問、事務総長及び事務局員は、その任にある期間中、JSAA のもとでのスポーツ仲裁手続の仲裁人・代理人、又はスポーツ調停手続の調停人・助言者・代理人になってはならない。             

 3. 理事・監事は、その任にある期間中、JSAA のもとでのスポーツ仲裁手続の仲裁人、又はスポーツ調停手続の調停人・助言者になってはならない。     

 4. 仲裁人、調停人、又助言者候補者が競技団体若しくは選手団体又はそれらと密接に関係する団体の理事その他の役員、これらの団体の顧問弁護士その他これらに準ずる地位に就いている場合、その         者がその団体等を当事者とする仲裁手続又は調停手続における仲裁人、調停人、又は助言者となることは、スポーツ仲裁規則第20 条第1 項及び第2 項・・・に定める独立性、公正性等に反するものとする。仲裁人、調停人、又助言者候補者がJSAA のもとでのスポーツ仲裁手続、又はスポーツ調停手続における当事者の代理人となることについては、相手方の当事者のための法律業務をしている場合等、一般的な利益相反禁止のルールに反する場合は格別、そうでない限り、差し支えない。

 

n                        予算:上記3団体から各300万円の計900万円と寄附金(2006年度は200万円)

n                        仲裁・調停手続以外の活動 スポーツ法シンポジウム(1)・スポーツ仲裁法研究会(3)・スポーツ団体への働きかけ

2.         仲裁

(1) スポーツ仲裁規則

 

スポーツ仲裁規則

2 この規則の適用)

1 この規則は、スポーツ競技又はその運営に関して競技団体又はその機関が行った決定(競技中になされる審判の判定は除く。)について、競技者等が申立人として、競技団体を被申立人としてする仲裁申立てに適用される。ただし、ドーピング紛争に関するスポーツ仲裁規則によるべき仲裁申立ては除く。

...

3 この規則は、競技団体の規則中に競技者等からの不服申立て等についてスポーツ仲裁パネルによる仲裁にその解決を委ねる旨を定めている場合において、その定めるところに従って競技者等が申立人として、競技団体を被申立人とする仲裁申立てをしたときにも適用される。この場合には、仲裁申立ての日に前項の合意がなされたものとみなす。          

3 定義)

1 この規則において「競技団体」とは、次の各号に定めるものをいう。    

              財団法人日本オリンピック委員会               

              財団法人日本体育協会             

              財団法人日本障害者スポーツ協会             

              各都道府県体育協会                

              4 号に定める団体の加盟若しくは準加盟又は傘下の団体        

2 この規則において「競技者」とは、スポーツ競技における選手及びそのチームをいう。チームは監督その他の代表者により代表されるものとする。

37 (手続の非公開・仲裁判断の公開・守秘義務)

1 仲裁手続及びその記録は、非公開とする。

1 2 前項の規定にかかわらず、審問は、当事者全員が公開で行われることに合意する場合には、これを公開する。

2 日本スポーツ仲裁機構は、仲裁判断を適当な方法により公開する。ただし、特段の事情がある場合には、その一部又は全部の公表を差し控えるものとする。

3 前項に規定する範囲を除き、仲裁人、当事者及びその代理人又は補佐人、並びに日本スポーツ仲裁機構の関係者は、仲裁事案を通じて入手した秘密を他に漏らしてはならない。

43 仲裁判断の基準)      

スポーツ仲裁パネルは、競技団体の規則その他のルール及び法の一般原則に従って仲裁判断をなすものとする。ただし、法的紛争については、適用されるべき法に従ってなされるものとする。

 

スポーツ仲裁料金規程

3 申立料金)    

申立料金は50,000円とする。

 

スポーツ仲裁人報償金規程

2 仲裁人報償金)            

仲裁人報償金は、原則として1 事案5 万円とする。日本スポーツ仲裁機構は、仲裁人の経験、事案の難易度その他の事情を考慮して10 万円までの範囲内で増額を決定することができる。                  

       

2) ドーピング紛争に関するスポーツ仲裁規則

 日本政府は、2005年10月19日にパリで採択された「スポーツにおけるドーピングの防止に関する国際規約」の受諾書を2006年12月26日に国際教育科学文化機関事務局長に寄託し、その第37条2の規定に従い、2007年2月1日に日本国について発効(2007年1月18日外務省告示第25号)。

 これに伴い、文部科学省は、5月9日、「スポーツにおけるドーピングの防止に関するガイドライン」を策定。  http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/19/05/07051421.htm#a01

 これらを受け、財団法人日本アンチ・ドーピング機構は、2003年3月5日にコペンハーゲンで採択された「世界アンチ・ドーピング規程」(The World Anti-Doping Code)Version 3.0に準拠して、「日本ドーピング防止規程(version 1.0)」を定め、2007年7月1日施行。http://www.anti-doping.or.jp/doc/1_code.html

 この規程の第13条では、JSAAでの仲裁による紛争処理を義務付けているため、JSAAとして新たに対応する規則を制定。

 

ドーピング紛争に関するスポーツ仲裁規則

2 この規則の適用)

1  この規則は、日本ドーピング防止規程に基づいて次の団体がした決定に対する不服申立てを対象とする。          

        日本アンチ・ドーピング機構  

        日本ドーピング防止規律パネル           

        財団法人日本オリンピック委員会         

        財団法人日本体育協会       

        財団法人日本障害者スポーツ協会       

        都道府県体育協会             

        国内競技連盟     

2  この規則による仲裁の申立人には、少なくとも次の者を含む。         

        仲裁申立ての対象となっている決定において対象とされている競技者その他の者     

        仲裁申立ての対象となっている決定がされた事案における関係者(1 号に掲げる者を除く。) 不服申立ての対象となっている決定の対象者又は事項に関係する国内競技連盟及び国際競技連盟        

        財団法人日本オリンピック委員会         

        財団法人日本体育協会       

        財団法人日本障害者スポーツ協会       

        日本アンチ・ドーピング機構  

        1 号に定める競技者その他の者が服する日本アンチ・ドーピング機構以外の国内ドーピング防止機関    

        世界ドーピング防止機構      

3  この規則による仲裁においては、日本ドーピング防止規律パネルは被申立人とはならない。

4 仲裁合意)    

本規則に基づく仲裁については、日本ドーピング防止規程に基づいて不服申立てを行う限りにおいて、仲裁合意は存在しているものとみなす。

41 手続参加)

1  不服申立ての対象となっている決定の対象者又は事項に関係する国内競技連盟及び国際競技連盟、財団法人日本オリンピック委員会、財団法人日本体育協会、財団法人日本障害者スポーツ協会、並びに世界ドーピング防止機構は、審理の終結に至るまではいつでも、オブザーバーとして仲裁手続に参加することができる。オブザーバーは、権利としては自己の請求、主張その他をすることはできず、スポーツ仲裁パネルの許可又は要請がある場合にのみ、発言、資料の提出等をすることができる。          

2  日本アンチ・ドーピング機構は、審理の終結に至るまではいつでも、当事者又はオブザーバーとして仲裁手続に参加する権利を有する。          

3  前項の規定による日本アンチ・ドーピング機構の当事者としての参加がスポーツ仲裁パネルの成立以前である場合であって、独立の利害関係を有するときには、仲裁人の選定は第25 条第3 項の規定により行い、その他の場合には、その構成に影響を及ぼさない。             

4  2 項の規定による日本アンチ・ドーピング機構の主張等については、第16 条から第22 条までの規定を準用する。

53 仲裁判断の効力)      

仲裁判断は最終的なものであり、当事者双方を拘束する。ただし、日本ドーピング防止規程に従い、スポーツ仲裁裁判所(Court of Arbitration for Sport )へ申立てを行うことができる事案について、スポーツ仲裁裁判所への申立てが可能な期間が経過するまで、又は実際にそこへの申立てがされた場合はこの限りではない。            

 

3) 特定仲裁合意に基づくスポーツ仲裁規則

 スポーツに関する紛争であればすべてを対象。ただ、仲裁料金等は通常の商事仲裁と同様なので、実際にはスポーツ・ビジネス紛争を主な対象としている。事例なし。

 

3.         調停 - 特定調停合意に基づくスポーツ調停(和解あっせん)規則

 

特定調停合意に基づくスポーツ調停(和解あっせん)規則

2 条(適用範囲)       

1 この規則は、当事者がスポーツに関する紛争を日本スポーツ仲裁機構の本規則による調停に付託する旨の合意(以下「調停合意」という。) をした場合に適用される。

2 前項の規定にかかわらず、次の紛争については、事実関係について当事者双方が確認し、理解することの手助けをすることを目的とする手続のみを行い、その限りでこの規則を準用する。   

a 競技中になされる審判の判定に関する紛争 

b スポーツ競技又はその運営に関して競技団体又はその機関がした懲戒処分決定に関する紛争

15 (当事者間の合意による調停人の選定)        

1 当事者は、調停人の選定方法について合意をしているときは、その合意に従い調停人を選定し、調停人の受諾書を添えて、遅滞なく日本スポーツ仲裁機構にその氏名、住所、連絡先(電話番号、ファックス番号、電子メールアドレス)及び職業を記載した調停人選定通知書を提出しなければならない。     

2     日本スポーツ仲裁機構は、前項により通知された調停人について、第5 条のスポーツ調停人候補者リストに掲載する際に適用される基準に照らして、同リストに掲載されている調停人候補者と同等の能力を有するもの       と認められ、かつ、前条及び民事訴訟法第23 条第1 項各号(必要な読替えを行う。) に照らして、問題がないことが確認された場合にはこれを調停人とすることを認めるものとする。日本スポーツ仲裁機構が問題があると判断した場合には、当事者にその旨通知し、第15 条又は第16 条による調停人の選定手続を行う。

16 (調停人の選定)

15 条の規定によることができない場合には、日本スポーツ仲裁機構は、以下の各号の定めるところにより調停人を選定する。

a.         日本スポーツ仲裁機構は、第5 条に規定するスポーツ調停人候補者リストのうち第14 条に照らして問題ないと判断される者を複数特定し、これらの候補者を記載した選定調停人候補者名簿を各当事者に作成し送付する。各当事者は、選定調停人候補者名簿を受領後7 日以内に日本スポーツ仲裁機構に対し、異議のある候補者については×印を、その他の各候補者については調停人への就任を希望する順位をそれぞれ付してそのリストを日本スポーツ仲裁機構に返送する。その期間内に当事者がその希望を記した選定調停人候補者名簿を返送してこない場合、日本スポーツ仲裁機構は、当該当事者は調停人候補者について特に意見はないものとして扱う。      

b.         日本スポーツ仲裁機構は、前項の規定により当事者から返送された選定調停人候補者名簿を受領後遅滞なく、当事者が共通に希望する候補者から、その順位を考慮し、調停人を選定する。ただし、当事者に共通の候補者がいないときは、当事者が付した×印にも妥当な考慮を払いつつ、日本スポーツ仲裁機構が調停人を選定する。         

c.           前号の規定により日本スポーツ仲裁機構が調停人を選定したときは、その者を候補者として、当事者にその者の氏名を通知する。

d.         当事者は、日本スポーツ仲裁機構による調停人の選定に異議があるときは、理由を添えて、調停人選定通知の受領後5 日以内に日本スポーツ仲裁機構にその旨を通知しなければならない。 

e.         前号の規定により当事者から異議の通知があったときは、日本スポーツ仲裁機構は遅滞なく当該調停人を別の調停人に差し替えるか否かを決定し、当該調停人を維持する場合にはその旨を、差し替える場合には新たな調停人を当事者に通知する。新たな調停人の選定に対しては、本条d 号及び本号の規定を準用する。       

f.             c 号に定める通知を両当事者が受け容れた場合もしくはd 号に定める通知をしなかった場合、又は、d 号に定める通知に対して日本スポーツ仲裁機構が諸般の事情を考慮して最終的なものとして調停人決定の通知をした場合には、調停人は確定するものとする。         

 

特定調停合意に基づくスポーツ調停料金規程

2 (調停申立料金)             

調停申立料金は25,000 円とする。

3 (調停応諾料金)             

調停応諾料金は25,000 円とする。