200769日:(どう)垣内(がうち)正人(まさと)

「国際協力論」:国際結婚と法

1. 国際私法

 

 法の適用に関する通則法(平成18年法律第78(2007年1月1日施行) 抜粋

 

(不法行為)

第十七条 不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地の法による。ただし、その地における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは、加害行為が行われた地の法による。

(生産物責任の特例)

第十八条 前条の規定にかかわらず、生産物(生産され又は加工された物をいう。以下この条において同じ。)で引渡しがされたものの瑕疵により他人の生命、身体又は財産を侵害する不法行為によって生ずる生産業者(生産物を業として生産し、加工し、輸入し、輸出し、流通させ、又は販売した者をいう。以下この条において同じ。)又は生産物にその生産業者と認めることができる表示をした者(以下この条において「生産業者等」と総称する。)に対する債権の成立及び効力は、被害者が生産物の引渡しを受けた地の法による。ただし、その地における生産物の引渡しが通常予見することのできないものであったときは、生産業者等の主たる事業所の所在地の法(生産業者等が事業所を有しない場合にあっては、その常居所地法)による。

(名誉又は信用の毀損の特例)

第十九条 第十七条の規定にかかわらず、他人の名誉又は信用を毀損する不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、被害者の常居所地法(被害者が法人その他の社団又は財団である場合にあっては、その主たる事業所の所在地の法)による。

(明らかにより密接な関係がある地がある場合の例外)

第二十条 前三条の規定にかかわらず、不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、不法行為の当時において当事者が法を同じくする地に常居所を有していたこと、当事者間の契約に基づく義務に違反して不法行為が行われたことその他の事情に照らして、明らかに前三条の規定により適用すべき法の属する地よりも密接な関係がある他の地があるときは、当該他の地の法による。

(当事者による準拠法の変更)

第二十一条 不法行為の当事者は、不法行為の後において、不法行為によって生ずる債権の成立及び効力について適用すべき法を変更することができる。ただし、第三者の権利を害することとなるときは、その変更をその第三者に対抗することができない。

(不法行為についての公序による制限)

第二十二条 不法行為について外国法によるべき場合において、当該外国法を適用すべき事実が日本法によれば不法とならないときは、当該外国法に基づく損害賠償その他の処分の請求は、することができない。

2 不法行為について外国法によるべき場合において、当該外国法を適用すべき事実が当該外国法及び日本法により不法となるときであっても、被害者は、日本法により認められる損害賠償その他の処分でなければ請求することができない。

 

(婚姻の成立及び方式)

第二十四条 婚姻の成立は、各当事者につき、その本国法による。

2 婚姻の方式は、婚姻挙行地の法による。

3 前項の規定にかかわらず、当事者の一方の本国法に適合する方式は、有効とする。ただし、日本において婚姻が挙行された場合において、当事者の一方が日本人であるときは、この限りでない。

(婚姻の効力)

第二十五条 婚姻の効力は、夫婦の本国法が同一であるときはその法により、その法がない場合において夫婦の常居所地法が同一であるときはその法により、そのいずれの法もないときは夫婦に最も密接な関係がある地の法による。

夫婦財産制)

第二十六条 前条の規定は、夫婦財産制について準用する。

2 前項の規定にかかわらず、夫婦が、その署名した書面で日付を記載したものにより、次に掲げる法のうちいずれの法によるべきかを定めたときは、夫婦財産制は、その法による。この場合において、その定めは、将来に向かってのみその効力を生ずる。

一 夫婦の一方が国籍を有する国の法

二 夫婦の一方の常居所地法

三 不動産に関する夫婦財産制については、その不動産の所在地法

3 前二項の規定により外国法を適用すべき夫婦財産制は、日本においてされた法律行為及び日本に在る財産については、善意の第三者に対抗することができない。この場合において、その第三者との間の関係については、夫婦財産制は、日本法による。

4 前項の規定にかかわらず、第一項又は第二項の規定により適用すべき外国法に基づいてされた夫婦財産契約は、日本においてこれを登記したときは、第三者に対抗することができる。

離婚)

第二十七条 第二十五条の規定は、離婚について準用する。ただし、夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは、離婚は、日本法による。

 

2. 裁判例

 

水戸家裁平成三年三月四日審判(家月四五巻一二号五七頁、国際私法百選〔新法対応補正版〕4事件)

 [事実] 本件は、申立人妻X(フランス人)から相手方夫Y(イギリス人)に対する夫婦関係調整調停申立事件である。

 Yは、一九六三年に初めて観光目的で来日し、約半年間日本に滞在し、一九六七年からその前年にメキシコで婚姻した前妻とともに再来日し、新聞社の英字版のコピーライターとして働きつつ、約三年間東京に滞在し、その間に長女をもうけた。一九七〇年にはYは一旦イギリスに戻ったが、一九七一年に再び来日し、水戸市及び那珂湊市において長女とともに自作のヨットで船上生活をしながら語学教師等をしつつ約七年間日本において生活を続けた。その間に、Yは前妻と離婚し、一九七八年五月、長女とともにイギリスへ向けヨットで出航した。

 XとYとは、Yが右航海途中に立ち寄ったスリランカで出会った。そして、一九七九年五月からは、X・YはYの長女とともに日本に居住し、ヨットの製作や語学教師をしながら生活した。同年八月二一日、長男Aが出生した(Aはイギリス・フランスの二重国籍を有する)。その後も、X・Yはビザを更新しながら約三年八カ月を日本で過ごし、一九八三年三月にヨットを完成させて親子三人で世界一周の船旅に出た。三人は、ヨーロッパ、カナリア諸島、南アフリカ、南アメリカ等を経て一九九〇年五月に日本の小笠原群島に到達して世界一周の船旅を終えた。この間、フランスに二年間、ケニアに一年半及び仏領ギニアに一年滞在し、同地でそれぞれ働いて生活費を得ていた。X・Yは、Aのためにも正式に婚姻していたほうがよいと考えるようになり、一九九〇年四月二二日にグァムにおいて婚姻した。

 日本に戻ったX・Yは再び日本で生活するようになったが、Xは、自分が病気にかかったこともあり、Yとの放浪的な生活を嫌うようになり、離婚をしてAはYが養育監護することで当事者間の合意ができた。

 なお、今後はXは引き続き日本に居住し、相手方との離婚成立後には、日本人Tと結婚の予定であり、Yは一年前後は引き続き日本に留まるつもりであるが、いずれ長男Aを連れて、ケニアに行き、そこで事業をしながら生活して「ゆくものの如くである」(裁判所の認定)。

 

 [判旨] 離婚の準拠法について

 一 「法例一六条[通則法二七条]によれば、同法一四条[二五条]が離婚に準用されるところ、同法一四条[二五条]によれば、夫婦の本国法が同一であるときは、その法律により、その法律がないときは、夫婦の常居所地法が同一であるときは、その法律によるが、以上のいずれの法律もないときは、夫婦に最も密接な関係にある地の法律によることとされている。」

 二 「本件においては、当事者はその本国を異にし、また、Xの日本における滞在期間は、一九七九年五月から三年半余及び今回の一九九〇年五月以降現在までのもののみであり、Xは、その後Yとしばらくして別居しており、以上の生活状況からすると、法例一四条[通則法二五条]及び一六条[二七条]にいう常居所を日本に有するとはいえないので、結局本件に適用さるべき法律は、夫婦に最も密接な関係にある地の法律ということとなる。」

 三 「ところで、Yは、前記のとおり日本との関わりを持ち、一九六三年に初めて日本に来てからは、その後一九六七年から三年、一九七一年から約七年、一九七九年から三年半余日本に滞在して語学教師等をして生活し、日本を離れていた時は、殆どヨットで世界を転々と巡りながら生活してきており、ここ二〇年間は日本以外には落ち着いて生活したことがないような生活状態であった。以上であるとすれば、少なくとも現時点においては、Yは法例一四条[通則法二五条]及び一六条[二七条]にいう常居所を日本に有するということができ、その他の前記の日本とYとの関わり具合及びXも今後日本に引き続き居住し、日本人と早期に婚姻する予定であること等を勘案すると、夫婦に最も密接な関係にある地の法律は本件においては、日本法に他ならないということができる。」 (親権者指定の準拠法については省略。)