2008年度上智大学「国際民事紛争処理」(1単位)試験問題

 

ルール

-         参考文献その他の調査を行うことは自由ですが、他人の見解を求めること及び他人の見解に従うことは禁止します。

-         解答作成時間は自由ですが、解答送付期限は、2008年6月5日(木)21:00です。

-         解答は下記の要領で作成し、[email protected]宛に、添付ファイルで送付してください。

-         メールの件名は、必ず、「国際民事紛争処理」として下さい(分類のためです)。

-         文書の形式は下記の通り。

A4サイズの紙を設定すること。

原則として、マイクロソフト社のワードの標準的なページ設定とすること。

頁番号を中央下に付け、最初の行の中央に「国際民事紛争処理」、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載すること。

10.5ポイント以上の読みやすいフォントを使用し、また、全体として読みやすくレイアウトすること。

-         枚数制限はありません。ただ、あなたが大手法律事務所のアソシエイトであり、直属のパートナーからメモの作成を依頼されたと想定して、不必要に長くなく、内容的に十分なものが期待されています。

-         判例・学説の引用が必要です。他の人による検証を可能とするように正確な出典が必要です。

-         解答の作成上,より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成してください。

-         これは、成績評価のための筆記試験として100%分に該当するものにするものです。

 

問題

 

イタリア人A(女性)は、幼少の頃から日本に住み、そのまま日本の大学を卒業して、アメリカのB銀行に就職し、その東京の営業所において日本在住の外国人富裕層向けの商品開発・販売に従事していた。そして、就職から5年後、キャリア・アップを図るため、アメリカのビジネス・スクールで勉強したいと希望するようになった。しかし、B銀行には留学制度はあるものの、上司はその適用を認めず、また休職等の措置も一切認めないとの態度をとったため、Aはこれに抗議し、若干のいざこざが生じた。Aは、最終的に、やむを得ないこととあきらめて退職を申し入れたところ、B銀行からAに対して、この留学の件をめぐる混乱により会社に損害を与えたことを理由に、その損害賠償債権と社内規則で定められている退職金支払義務とを相殺した結果、支払額は双方ともゼロである旨の通知がされた。

 

(1)            Aは退職金満額の支払いを求めてBを被告とする訴えを東京地裁に提起した。これに対して、B銀行は、AB銀行との間の雇用契約上、両者の間のすべての訴訟はニューヨーク南部連邦地方裁判所に提起すべき旨の専属的管轄合意があるとして、日本での訴えの却下を求めている。東京地裁はこの訴えについて国際裁判管轄を有するか。

 

この提訴の後、Aはアメリカ・ミシガン州の大学のビジネス・スクールに留学し、日本から留学してきていた日本人C(男性)と出会い、在学中に同州で婚姻をした。そして、卒業後、ともに英国の銀行(それぞれ別の銀行)に就職して、ロンドンで生活するようになった。そして、AC間には子Dが生まれたが、その頃からCのドメスティック・バイオレンスが始まった(Aの受けた傷害について医師の診断書がある)Dに危害が及ぶことを恐れたAは、ある日、Cがフランスへの出張で留守の間に、3歳のDとともにAの家族の住む日本に逃避した。

 

(2)            Aは、Cとの離婚及びDの親権者を自分とすることを求め、Cを被告とする訴えを日本の裁判所に提起した。訴状・呼び出し状の送達を受けたCは出廷して、このような訴えは英国で行うべきであると主張し、訴えの却下を求めている。日本の裁判所はこの訴えについて国際裁判管轄を有するか。

 

上記の事実関係と異なり、AC間には子Dが生まれた旨の記載以降の事実関係が次の通りであったとする。

 

ACDがロンドンで生活している間に、Cは、Aを被告として英国の裁判所に提訴して、離婚とDの親権者をCとすることを求めた。すでにAとDはCと英国内で別居していたが、この英国訴訟についてのAへの送達は英国法上適法に行われた。この裁判において、Cは、ADCから引き離さなければならないとの強迫観念にとらわれているようであるが、これは妄想であり、DのためにはACが離婚し、CDを育てる必要がある旨主張した。これに対して、Aは実質的な反論をしないまま、訴訟係属中、Cに無断で、Dを連れてAの家族の住む日本に逃避した。その後下された英国の裁判所の判決は、CAの離婚を認め、Dの親権者をCとするとのものであり、Aは控訴をしなかったため、そのまま確定した。これを受けて、Cは、A及びDが東京に住んでいることから、東京地裁において、DCへの引き渡しを求める訴えを提起した。

 

(3)            上記の英国判決に基づく日本での強制執行は認められるか。