国際民事紛争処理

　　大山　摩由子

第一．問題（１）

１．問題の所在

ＡのＢに対する退職金支払請求訴訟について、東京地裁は国際裁判管轄を有するか。

Ｂ銀行は、ＡＢ間の雇用契約に、ニューヨーク南部連邦地方裁判所の専属的管轄合意がある旨を主張し、訴え却下を求めているが、この主張は認められるか。

２．国際裁判管轄の一般論

　国際裁判管轄は、条約があればそれによるが、日本は一般的な条約に加盟していない。そこで、国内法によることとなるが、国際裁判管轄を定めた一般的な規定は国内法にないとするのが、通説的見解である。

　そこで、国際裁判管轄の有無をいかにして判断するかについて、学説では、①逆推知説②管轄配分説③利益衡量説が対立している。

第一の逆推知説は、民事訴訟法の定める土地管轄規定のいずれかにより日本のいずれかの地方裁判所の管轄が肯定される場合には、日本に国際裁判管轄があるということが逆に推知されるという見解である。

第二の管轄配分説とは、国際裁判管轄の決定は、一国の利害を離れて普遍主義的な立場から、当事者の公平、裁判の適正・迅速を帰するという理念に基づいてなされるべきであるとする見解である。

第三の利益衡量説とは、事案の状況を個別的に考慮して、事件と法廷との実質的関連性の度合いを検討して管轄の有無を判断すべきとする見解である。[1]

　この点、マレーシア航空事件判決（最高裁昭和５６年１０月１６日民集３５巻７号１２２４頁）が、財産関係事件の国際裁判管轄の判断についてのリーディングケースとなっている。

　すなわち、「当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念により条理にしたがつて決定するのが相当であり、」「民訴法の規定する裁判籍のいずれかがわが国内にあるときは、これらに関する訴訟事件につき、被告をわが国の裁判権に服させるのが右条理に適う」として、利益衡量論を述べつつも逆推知説的な立場をとっている。

　また、その後の下級審により特段の事情を使った枠組みがなされるようになっている。

３．国際裁判管轄の合意　

（１）このような状況であるから、当事者はあらかじめ国際裁判管轄を特約によって合意しておくということが利用される。

　国際裁判管轄の合意は、釈�蓿繙就�粮㏍芍��轣蛹≒鳫�笏蜿遐�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就經禮禝甦竅瘁⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿畩�弖鎰∧�悪ＭⅣ棏弖鎰じ��稟燭陵㌣気�￢簑蠅箸覆襦�

　この点についてチサダネ号事件判決（昭和５０年１１月２８日民集２９巻１０号１５５４頁）がリーディングケースとなっており、船荷証券の裏面の運送約款に専属的管轄合意条項があった事案について、以下のような判断をしている。

ア．国際裁釈�蓿繙就�粮㏍芍��轣蛹≒鳫�笏蜿遐�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就攻粤痰甓粭甬聰皺筝瘋羆甼祿皺筝箒盡筝⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿畩�砲弔い董吻´◆�

少なくとも当事者の一方が作成した書面に特定国の裁判所が明示的に指定されていて、当事者間における合意の存在と内容が明白であれば足り、その申込と承諾の双方が当事者の署名のある書面によるのでなければならないと解すべきではない。

イ．その効力について（③）

「国際的専属的裁判管轄の合意は、（イ）当該事件がわが国の裁判権に専属的に服するものではなく、（ロ）指定された外国の裁判所が、その外国法上、当該事件につき管轄権を有すること、の二個の要件をみたす限り、わが国の国際民訴法上、原則として有効である。」外国法が国際的専属的裁判管轄の合意を有効と認めることや、民事訴訟法１１８条４号の相互保証は要件ではない。

ウ．「管轄の合意がはなはだしく不合理で公序法に違反するとき等の場合は」例外（④）である。

（２）もっとも、労働契約は当事者間に力の差があるため、対等な二当事者間の契約であるチサダネ号事件とは異なるとことがありうる。

そこで、国際的雇用契約について、ユナイテッド航空事件判決（東京高裁平成１２年１１月２８日判例時報１７４３号１３７頁）がある。

ア．専属的裁釈�蓿繙就�粮㏍芍��轣蛹≒鳫�笏蜿遐�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就延亀屋温鬼峨薫街騎牡戟俄憾街騎灸崖騎⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿畩�砲弔い�

雇用契約締結の検討期間は内容を理解するのに不十分だったとはいえない。本件雇用契約書がことさら困難な英文となっているわけではなく、その自然な解釈で裁判管轄についても理解が得られるような内容である。説明がなされなかったとしても、質疑応答の機会は保障されていた。そうだとすれば、仮に控訴人が本件雇用契約書の内容を理解できなかったとしても、本件において専属的裁釈�蓿繙就�粮㏍芍��轣蛹≒鳫�笏蜿遐�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就慨激姐旭隙扱宜碓戟遺騎梓怯碓撃郡堰戟⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿畩�靴討い襪箸靴拭�

　イ．専属的管轄合意の効力について

説明が不十分であるとまではいえない。使用者である被控訴人が圧倒的優位な立場を背景に労働条件を一方的に定めたということはできない。労働者たる控訴人がこれに従わざるを得なかったということもできない。事前雇用契約の内容を理解してこれを締結したものと認められ、不利益についても承認したうえで契約を締結したものとみられる。世界のあらゆる地域において業務を営んでいる被告が、日本において従業員を採用する際に、雇用条件に関する裁判管轄を米国の裁判所に帰属する旨の契約を締結する自由を否定される理由は見出し難い。本件における被告の主張を、権利の濫用と評価することはできない。

よって、本件における専属的裁判管轄の合意は有効であるというべきである。

　これに対し、学説は、①労働契約の両当事者の交渉能力には大幅な格差が見られる、厳しい規制が要求される、使用者の本拠及び労働者の本拠以外の法廷地を選択することは原則として許されないとする見解がある[2]

　また、本件はＡＦＡ（米国法上の労働者団体association of flight attendants）を前提としていることを指摘し、労働組合による保護が著しく形骸化しているか否かを検討すべきであるとする見解がある。[3]

４．本件について

　上記２判例を踏まえて、本件について、専属的管轄合意が成立しているとして、Ｂの主張する専属的管轄合意は有効か、を検討し、東京地裁がＡのＢに対する退職金支払請求訴訟について、東京地裁は国際裁判管轄を有するか判断する。

本件は国際雇用契約であるから、チサダネ号事件判決の要件を満たしたとしても、「管轄の合意がはなはだしく不合理で公序法に違反するとき等の場合」にあたり、例外として効力が否定されないかが問題となる。

確かに、雇用契約においては当事者の地位は格差が見られる。

しかし、Ｂ銀行はアメリカの銀行であり、東京に営業所を持っていることから、国際的な業務を営んでいるとみられ、ニューヨーク南部連邦地方裁判所というアメリカの裁判所に管轄をすることは合理的である。また、労働者側としてもそのような専属的管轄合意があることは容易に予見できるものである。

また、具体的に見ても、Ａは、日本在住の外国人富裕層向けの商品開発・販売に従事していた者であり、アメリカのビジネス・スクールで勉強したいと希望していたような女性であるから、ニューヨーク南部連邦地方裁判所に管轄がされたとしても、著しい不利益を被るものではなく、むしろ、Ａが最終的に退職し、留学しようとしていることからすれば、東京地裁に管轄を有するとするよりも、ニューヨークに管轄がある方が便宜であるともいえる。そのような状況をみれば、公序良俗に反するようなはなはだしい不合理が本件専属的管轄合意にあるとはいえないから、例外にあたらない。

よって、本件専属的管轄合意は有効である

よって、ＡのＢに対する退職金支払請求訴訟について、東京地裁は国際裁判管轄を有しない。

第二．問題（２）

１．問題の所在

　ＡのＣに対する離婚請求及びＤの親権者指定申立ての訴えについて日本の裁判所は国際裁判管轄を有するか。

　Ａ（イタリア人女性）とＣ（日本人男性）がアメリカで婚姻し、ロンドンで生活していたところ、ＡはＣのドメスティック・バイオレンスから逃れるために、子Ｄ（3歳）を連れて日本に戻ってきた。

　そこで、ＡはＣとの離婚及びＤの親権者をＡとする訴えをＣを被告として日本の裁判所にしているが、Ｃは、英国で行うべきと主張している。

２．身分関係事件

前述のとおり、財産関係事件についてはマレーシア航空事件判決が確立している。

これに対し、本件のような身分関係事件についてはまた別の考慮が必要である。

（１）まず、離婚事件の国際裁判管轄について、昭和３９年３月２５日（民集１８巻３号４８６頁）判決が、韓国人同士の離婚につき判断している。

「離婚の国際的裁判管轄権の有無を決定するにあたっても、被告の住所がわが国にあることを原則とすべきことは、訴訟手続上の正義の要求にも合致し、また、いわゆる跛行婚の発生を避けることにもなり、相当に理由のあることではある。」

「しかし、他面、原告が遺棄された場合、被告が行方不明である場合その他これに準ずる場合」には、「国際私法生活における正義公平の理念にもとる結果を招来する」場合もあり、「本件訴訟はわが国の裁判管轄権に属するものと解するを相当とする。」

かかる判決については、１９６１年の「法例改正要綱試案（婚姻の部）」７離婚の裁判管轄件第１５の甲案の立場をとったものであるといわれる。

これに対し、学説では、当事者の国籍を管轄の基礎とすべきであるという見解がある（上記試案の乙案もこれを取り入れたもの）。もっとも、３９年判例が国籍主義を完全に否定したかは不明確である。

下級審裁判例においては、当事者の一方が日本人である場合にもその後適用されている。[4]

そのような中、日本人男性（Ｘ）とドイツ人女性（Ｙ）との間で、Ｙがドイツでした離婚訴訟において離婚及び長女の親権者をＹとする判決が確定した後、Ｘが日本で、離婚及び長女の親権者をＸとすること、慰謝料の支払いを求める訴訟を提起した事案について、最高裁平成８年６月２４日（民集５０巻７号１４５１頁）判決は以下のように判断している。

・離婚請求訴訟においても、被告の住所は国際裁判管轄の有無を決定するに当たって考慮すべき重要な要素で、被告が住所を有する場合に管轄が認められることは、当然

・しかし、被告が我が国に住所を有しない場合であっても、管轄を肯定すべき場合ある

・我が国の管轄を肯定すべきかについては、当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により条理に従って決定するのが相当である。

・そして、管轄の有無の判断に当たっては被告の不利益だけでなく原告の権利の保護にも留意しなければならない。

・本件についてみると、ドイツでは判決の確定により離婚の効力が生じているが、我が国においては、民事訴訟法１１８条２号の要件を欠くため、婚姻はいまだ終了していない。ドイツに離婚請求訴訟を提起しても訴えが不適法とされる可能性が高く、我が国に離婚請求訴訟を提起する以外に方法はないのであり、本件離婚請求訴訟につき我が国の国際裁判管轄を肯定することは条理にかなうというべきである。

・最高裁昭和３９年判決は、事案を異にし本件に適切ではない。

本判決については、３９年判決を外国人間の離婚事件に限定するという立場をとったとみる見解と、本件は国際裁判管轄の条理によれば、管轄を否定�すべきとしても、本件の事情の下では緊急的に管轄を肯定するという判断をとったとみる見解がある。[5]

（２）しかし、離婚事件の場合は財産関係事件と同様に、二当事者対立構造になじむものの、親子関係訴訟においては、そのような対立構造になじむものではない。子どもをめぐる問題の訴訟の場合、子の福祉に対する考慮が必要となるからである。

そこで、親権者指定申立事件につき国際裁判管轄をわが国に認めた大阪家裁平成６年１２月２日審判（家月４８巻２号１５０頁）は、

「本件の国際裁判管轄権につき検討するに，親権者又は監護者の指定事件については，子の生活関係の密接な地での審判がなされることが子の福祉に適合し，かつ，本件では相手方の所在が明らかでないことに照らすと，わが国が裁判管轄権釈�蓿繙就�粮㏍芍��轣蛹≒鳫�笏蜿遐�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就宜隙霞唄郡隙九係隙隙群隙延係隙欝隙厩祁怨⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿畩�圓竜鐔暫呂魎紐蹐垢訶�枷十蠅�馥盍紐躙△鰺④垢襪箸いΔ戮④任△襦�廚箸靴討い襦�

　新親権者指定は子の福祉を考えてなされるべきものであり、婚姻当事者の利害を考慮して決定�されるべき離婚の管轄と必ずしも一致するものではない

　親権者指定については、原則として子の常居所地刻の管轄とすべきであり、子の常居所が日本にあるか否かを検討すべきである。

そこで、かかる子の常居所はいかに定めるかが問題となる。

　とくに、一方がほ釈�蓿繙就�粮㏍芍��轣蛹≒鳫�笏蜿遐�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就銀換感換桶飢霞換感換梓憶換俄干過⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿畩�圓鮹ゼ茲掘�鐱椶貌┐乙△辰燭茲Δ幣豺腓�簑蠅箸覆襦�

この点、「国際的な子の奪取の民事面に関するハーグ条約」によれば、共同親権者の一方の監護権を奪うような子の常居所地国からの連れ去りがなされた場合、連れ去り先の国は早期に戻す等の措置をとるべきとされる。日本はまだ締結していないが、早期に子の常居所地国に子を戻して、そこで裁判をすべきとも思える。

３．本件について

これらの判例を踏まえて、本件について、日本の裁判所に、ＡのＣに対する離婚請求及びＤの親権者指定申立ての訴えについて国際裁判管轄を有するか検討する。

　確かに、被告Ｃはロンドンに住所があるから、原則としては被告の住所地である国、すなわち英国に管轄を置くべきである。

　しかし、当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により条理に従って、被告が住所を有しない場合でも管轄を肯定すべきである。

　そうだとすれば、Ａはイタリア人であるが被告たるＣは日本人であること、3歳の子のＤ自身は日本にいること、ＡはＣからドメスティック・バイオレンスを受けてきており、子に被害が及ぶことをおそれて日本に逃避したこと、これらの事情からすれば、日本で裁判をすることが子の福祉の観点からも適切であると考えられるし、被告に不当な不利益があるともいえない。

したがって、日本の裁判所に国際裁判管轄があるとすべきである。

第三．問題（３）について

１．問題の所在

Ａ・Ｃ・Ｄがロンドンで生活している間に、Ｃは、Ａを被告として英国の裁判所に提訴して、離婚とＤの親権者をＣとすることを求めた。すでにＡとＤはＣと英国内で別居していたが、この英国訴訟についてのＡへの送達は英国法上適法に行われた。

Ａは実質的な反論をしないまま、訴訟係属中、Ｃに無断で、Ｄを連れてＡの家族の住む日本に逃避した。英国の裁判所の判決は、Ｃ・Ａの離婚を認め、Ｄの親権者をＣとするとのものであり、Ａは控訴をしなかったため、そのまま確定した。

これを受けて、Ｃは、東京地裁において、ＤのＣへの引き渡しを求める訴えを提起した。かかる英国判決に基づく日本での強制執行は認められるか。

２．外国判決の承認・執行

外国判決の承認・執行の要件は、民事訴訟法１１８条により定められる。ここでは、外国裁判所の評価を審査してはならない（民事執行法２４条２項）という実質的再審査の禁止が働いている。[6]

　要件は、①「外国」「裁判所」の「確定」「判決」（１１８条柱書）であること、②国際民事訴訟法の原則に従って裁判管轄を有すること（１号）、③公示送達によらないで応訴したこと（２号）、④外国裁判所の判決の内容及び訴訟手続が日本の公の秩序または善良の風俗に反しないこと（３号）⑤相互の保障があること（４号）である。

要件④の公序については、「判決の内容」主文だけでなく判決の理由も含むとされる。

また、判断時期については、判決後の事情も考慮するという東京高裁平成５年１１月１５日（高民集４６巻３号９８頁）判決がある。

事案は、ＸＹ間のテキサス州地方裁判所の離婚決定がなされた後、Ｙが日本に転居したため、ＹにＸに子を引き渡すことを主な内容とする判決（以下、本件外国判決という）が同地方裁判所で言い渡され、Ｘがかかる子の引渡しを命ずる執行判決を求めたというものである。

ア．本件外国判決については、監護権の争い並びにそれに伴う子の引渡請求及び扶養料の支払請求に関する紛争であり，わが国においては，非訟事件裁判によって判断されるべきものであるから，本件外国判決は，民事訴訟法２００条（現１１８条相当）にいう「確定判決」には当たらないものと解すべきであるが，同条１号及び３号の要件を充足する場合には，そのうちの給付を命ずる部分については，民事執行法２４条の類推適用ないし準用により，執行判決を求めることができるものと解するのが相当である。

イ．「民事訴訟法２００条３号の要件が充足されているか否かを判断するに当たっては，当該外国判決の主文のみならず，それが導かれる基礎となった認定事実をも考慮することができるが，更に，少なくとも外国においてされた非訟事件の裁判について執行判決をするか否かを判断する場合には，右裁判の後に生じた事情をも考慮することができると解するのが相当である。」

そして、子が４年も日本に生活し、１１歳ま釈�蓿繙就�粮㏍芍��轣蛹≒鳫�笏蜿遐�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就戟球割梶鬼喝干⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿畩したことやその読み書き能力などの事情を考慮して、アメリカで生活させることは、子の福祉にとって有害であるから公序良俗に反し、本件外国判決は，全体として民事訴訟法２００条３号の要件を欠くというべきである。

３．本件について

では、民事訴訟法１１８条の要件を満たして、本件英国判決を東京地裁において執行することができるか検討する。

①「外国」「裁判所」の「確定」「判決」（１１８条柱書）であること

　本件の英国判決における、Ｄの親権者をＣとする部分は、日本においては非訟事件にあたるものであるから、確定判決といえるのか。

　確かに、本件外国判決は、子の親権者を指定する訴訟であり、非訟事件である（家事審判法９条乙）から「確定判決」には当たらないように思えるが、１号及び３号の要件を充足する場合、その給付を命ずる部分について執行判決を求めることができると考えられる。

②国際民事訴訟法の原則に従って裁判管轄を有すること（１号）

　被告Ａの住所地であるから、日本に管轄が認められる。

③公示送達によらないで応訴したこと（２号）

Ａへの英国訴訟についての送達は英国法上適法に行われ、訴訟係属があった後に日本に帰って、応訴できなかったのであるから、この要件は満たす。

④外国裁判所の判決の内容及び訴訟手続が日本の公の秩序または善良の風俗に反しないこと（３号）

では、本件判決が子の福祉に照らして公序良俗に反しないか。Ｄの事情によって場合わけして論じる。

　まず、Ｄの年齢がある程度高く、日本に来てから数年時間がたち、日本の環境に慣れていて、語学などの本人の能力などにかんがみて、Ｄを英国に戻すのが、教育的福祉的観点から妥当でない場合には、判決の内容が、公序に反するといえ、3号の要件をみたさない。

　したがって、そのような場合は、強制執行が認められないと考える。

それに対して、上記のような事情がなく、たとえば、Ｄがまだ年齢が低く、Ｃが日本に連れてきてからまだ時間がたっていない場合には、判決の内容が公序に反するとはいえず、むしろ、早急に英国にＤを戻すのが子の福祉の観点からしても妥当であるから3号の要件を満たすこととなる。

したがって、そのような場合には、強制執行が認められると考える。

以上

[1] 道垣内正人「新・裁判実務体系　第３巻国際民事訴訟法（財産法関係）」（２００２・青林書院）

[2]貝塚幸雄「国際化社会の民事訴訟」（１９９３・信山社出版）３４１頁

[3]陳一　ジュリスト１２０２号３０２頁

[4] 道垣内正人　ジュリスト１１２０号１３３頁

[6] 道垣内正人「国際私法入門（第６版）」（２００６・有斐閣）２９０頁以下