実務国際私法II(2008)テスト
氏名 兒山明彦
問題1(1) 親子関係存在又は認知請求の訴えの国際裁判管轄について
1 国際裁判管轄の判断基準
国際裁判管轄の有無を判断するにあたり、国際裁判管轄を規律する法があればそれによることとなる。具体的には、条約があればそれにより、条約がない場合には国内法による。
まず、条約の締結の有無であるが、日本は、国際裁判管轄について一般的に定める条約に加盟しておらず、特定事項について国際裁判管轄の規定を有する条約に加盟しているにとどまる[1]。そして、これらの条約の中で、本件のような身分関係事件について規律する条約はない。
そこで、日本の国内法を検討することになるが、日本法には、国際裁判管轄についての規定は存在しないと一般に解されている[2]。
このように国際裁判管轄の規定が存在しないと考えると、国際裁判管轄の決定については、法の欠缺として条理により補充するほかないこととなる。この点について、逆推知説と管轄配分説の対立がある。
逆推知説は、民事訴訟法の土地管轄規定の存否から国際裁判管轄の存否を推知するという見解である[3]。基準が明確であり、法的安定性・予測可能性の面で優れているといえるが、国内管轄の決定は国際裁判管轄の存在を前提とするものであり判断の順序が逆転していること、及び、国内管轄規定をそのまま用いる結果、渉外事件の特性を十分に考慮できず、場合によっては妥当でない結果をもたらすものとなる。このように、理論的にも実質的にも問題があり、逆推知説は採ることができない。
これに対し、管轄配分説は、ある特定の渉外事件について、いずれの国の裁判所で裁判をするのが当事者の公平・裁判の適正・迅速等の手続法理念に合致し、またそのことがより渉外的生活関係の安定や安全に資する結果となるかという観点から、国際的規模で裁判管轄権の場所的配分を合理的に行うべき、とする見解である。基準の客観性の面では逆推知説に劣るものの、硬直的な運用を避け、妥当な結論を導くことが可能であり、この見解が妥当であると考える。
2 親子関係事件における国際裁判管轄
(1) 上述のように管轄配分説に拠るべきであると考えるが、具体的な国際裁判管轄の決定については事案ごとに検討することが必要となる[4]。それでは、本件のような親子関係存在や認知請求の訴えといった親子関係事件について、国際裁判管轄はどのように決定されるべきか。
裁判例には、@原告および被告の双方が日本に住居を有していたことを理由とするもの[5]や、A被告の住所を原則としながら、特段の事情がある場合には原告住所地たる我が国の国際裁判管轄を肯定するもの[6]、B子である原告の住所が我が国にあることを理由として国際裁判管轄を肯定するもの[7]、等が存在する。このうちAは、離婚事件に関する最大判昭和39年3月25日民集18巻3号486頁(以下、「39年判例」とする。)に従ったものと考えられる。39年判例は、「離婚の国際的裁判管轄権の有無を決定するにあたっても[8]、被告の住所がわが国にあることを原則とすべきことは、訴訟手続上の正義の要求にも合致」する、としつつも、「原告が遺棄された場合、被告が行方不明である場合その他これに準ずる場合」においては例外的に原告住所地である我が国に管轄が認められる、としたものである。
学説においては、39年判例に従うべきであるとする見解が多数説といえる。他方、C親子関係の存否の確定は、本国における戸籍等の身分関係の登録制度と密接な関連があり、その記載を真実に合致させるために事件が申し立てられる場合も少なくないので、当事者(特に子)の国籍を管轄原因とすべき、とする見解も存在する。
それでは、どのように考えるのが妥当か。まず、親子関係事件であっても、通常の訴訟と同様に当事者対立構造をとり、受動的立場にある被告の保護を図る必要性は変わるところはない。したがって、被告の住所地を原則的な基準とすること(相手方住所地主義)が訴訟法的正義公平の理念に沿うものといえ、この点については39年判例に従うことは妥当である。
他方、親子関係事件については、当事者は対等とはいえない点、及び、子の利益のための手続である点において離婚訴訟とは別個の考慮が必要である。この点からは、39年判決で示された例外をそのまま用いることには賛成できない。すなわち、「原告が遺棄された場合、被告が行方不明である場合その他これに準ずる場合」とする基準を緩和すべきである。具体的には、相手方住所地主義の原則が子の出訴を事実上阻止する結果になるといえるような場合(相手国へ行き訴訟をする費用が捻出できないといった場合も含む)であれば、原告たる子の住所地国にも管轄権を認めるべきである。
なお、国家が公的関心を有する事件である点から国籍を管轄原因とすることも考えられるが、当事者の公平、裁判における事実認定、証拠の収集・評価、裁判の迅速・経済といった要請に優先する要素であると考えるべきではない。したがって、国籍を管轄原因とすることは妥当でない。
(2) 以上を前提に本問について検討する。本件の親子関係存在又は認知請求の訴えの被告であるDは、現在カリフォルニア州に在住している。したがって、相手方住所地主義の原則により、日本に国際裁判管轄が認められないのが原則である。
もっとも、原告たるCは3歳児であり、その法定代理人たるAも現在は定職がなく、水商売系のアルバイトをして生活費を稼ぐ程度の収入しかない。このような状況からすると、相手国へ行き、訴訟を継続する費用が捻出できない場合に該当すると考えられる。したがって「相手方住所地主義の原則が子の出訴を事実上阻止する結果になるといえるような場合」といえ、例外的にCの住所地国たる日本に国際裁判管轄が認められると考える。
問題1(2) 扶養料請求の訴えの国際裁判管轄について
1 扶養料請求の訴えのような扶養関係事件においても、国際裁判管轄に関する条約には加盟しておらず、また国内法も存在しない(家事審判規則に国内土地管轄権に関する規定があるのみである)。したがって、やはり条理により決定されることとなり、管轄配分説によって個別具体的な判断がなされることとなる。
2 裁判例としては、当事者双方が日本に住んでいることを理由に国際裁判管轄を認めたものがある[9]ほか、夫婦の婚姻費用分担事件について原則として義務者たる相手方の住所国が管轄権を有するとしたうえで、「夫婦が最後に婚姻共同生活をしていた住所地から相手方が去って別居し、申立人がなおもとの婚姻住所地にそのまま引き続きとどまっている場合」に、その夫婦の最後の共通住所国にも管轄権をみとめるべきものとして、日本の裁判所の管轄権を肯定した審判例がある[10]。もっとも、実際に扶養事件で国際裁判管轄が争われた事例はないため、裁判所がどのように判断を下すか定かではない。
学説においては、@相手方(扶養義務者)の住所地国のみに管轄を認める見解、A相手方住所地国のほか、未成年の子の扶養請求については申立人の住所地国にも管轄を認める見解、B相手方住所地国のほか、「扶養義務者が遺棄された場合、扶養義務者が行方不明の場合、その他これに準ずる場合」には、申立人の住所地国にも管轄を認める見解、C端的に、扶養権利者(申立人)および扶養義務者(相手方)の双方の住所地国に管轄を認める見解、等がある。学説上は、C扶養権利者の居住地国に管轄を認めるべきであるとの見解が有力である。
以上を前提として扶養関係事件の国際裁判管轄について検討する。
まず、扶養関係事件においても相手方(扶養義務者)の住所地を基準とすることは、受動的な立場たる扶養義務者の権利保護に資するものであり、妥当である。さらに、扶養権利者の住所地国に国際裁判管轄を認めるべきか。扶養関係事件は、子の扶養が問題となる場合にはもちろん、夫婦間の扶養(または婚姻費用分担)が問題となる場合にも扶養権利者の生活が困窮している点では変わりがなく、一般の身分関係事件の場合より強く扶養権利者の利益保護の必要性が高い。また、扶養権利者の生活状態の調査や扶養料額の算定などに必要な資料の収集にも最も都合が良いのは不要権利者の住所地国である。これらの点を考慮すると、扶養義務者の不利益を考慮しても、(「特段の事情」や例外的処理としてではなく)扶養権利者の住所地国に国際裁判管轄を認めるのが妥当であると考える[11]。なお、扶養料請求は財産上の給付を求める訴えであり、国籍を考慮することは親子関係事件以上に不適当というべきなので、国籍は管轄原因とならないと考える。
したがって、扶養関係事件においては、扶養権利者・扶養義務者双方の住所地国に国際裁判管轄が認められると考える。
3 本件においては、扶養義務者たるDはニューヨーク州に在住しているが、扶養権利者たるCは日本に居住していることが認められる。したがって、日本に国際裁判管轄は認められる。
問題1(3) 婚姻関係侵害を理由とする損害賠償請求の訴えの国際裁判管轄について
1 本件のような事件においても、日本は国際裁判管轄についての条約に加盟しておらず、また国内法も存在しないので、条理によって国際裁判管轄が決定されることになる。
2 婚姻関係侵害を理由とする損害賠償請求は、婚姻関係という要素が含まれているものの、通常の不法行為に基づく損害賠償請求と同様に扱ってよいと考えられる。なぜなら、身分法上の要素が含まれているといっても、婚姻関係という身分そのものが問題となっているわけではなく、単なる財産上の給付の問題に過ぎないので、身分関係訴訟のような管轄上の配慮は不要であるといえるからである。
そして、財産関係事件においては、民事訴訟法の土地管轄規定を出発点としつつ、当事者の公平、裁判の適正・迅速を期するという、民事訴訟の理念に反する「特段の事情」があれば結論を調整するという判例法理が確立されている[12](脚注8)。これは、管轄配分説に拠りながらも、国内管轄の決定と国際裁判管轄の決定は理念的に共通する点が多いと考えられていることから、国内土地管轄規定を参酌するものである。
不法行為に関する訴えにおいては、「不法行為があった地[13]」を管轄する裁判所に訴えを提起できることが規定されている(民事訴訟法5条第9号)。そして、これは国際裁判管轄の決定基準としても妥当するものと考えられている。なぜなら、不法行為地では証拠の収集が容易であり、裁判の適正や迅速性の要請に適うといえ、また、加害者(被告)は不法行為地での応訴を予測しうるし、被害者の迅速かつ容易な権利実現にもかなうからである。判例も同様に解している[14]。
以上から、不法行為地国に国際裁判管轄が認められると考える。
3 本件において問題となっている不法行為は、Dが当事Bの配偶者であったAと性的関係を持ったという行為であり、これは、Dが日本に立ち寄った際に行われたものであるので、日本が不法行為地である。そして、本件では、日本に国際裁判管轄を認めることについて民事訴訟の理念に反するような「特段の事情」は存しない。
したがって、日本に国際裁判管轄は認められる。
問題2 カリフォルニア判決の既判力は、Zらが提起する訴訟に及ぶか
1 Zらが提起しようとしている損害賠償請求訴訟について、カリフォルニアの裁判所がした和解に基づく判決(以下、「本件外国判決」とする。)の既判力が及ぶか否かは、本件外国判決が、民事訴訟法118条に定める要件を満たし外国判決として承認されるか否かによる。
よって、以下、民事訴訟法118条の要件を具備しているか検討する。なお、日本では、一定の承認要件を具備している外国判決は、特別な手続を必要とすることなく当然に承認されるという自動的承認制度を採用しているので、既判力が及ぶか否かについても民事訴訟法118条の検討のみで足りる。
2 まず、承認の対象となるのは「外国裁判所の確定判決」である(民事訴訟法118条柱書)。
「外国」とは日本以外の国または地域を指し、「裁判所」とは、その名称を問わず、判決国法上、裁判権の行使権限を認められている司法機関であれば足りる。「確定」とは、判決国法上、通常の不服申立手段によっては裁判の取消し・変更が許されなくなった状態をいう[15]。そして、「判決」とは、決定・命令など、その名称、手続や形式を問わず、外国裁判所が私法上の法律関係について終局的にした裁判をいう[16]。
本件外国判決は、カリフォルニア州の裁判所が和解に基づく判決を行っているので、「外国」「裁判所」の「判決」といえる[17]。「確定」しているかは問題文中からは明らかではないが、通常の不服申立手段を採ることができなくなっていれば、「確定」判決といえ、民事訴訟118条柱書の要件を満たす。
3 次に、民事訴訟118条各号の要件を満たすか検討する。
(1) まず、1号の要件を具備するか検討する。1号によれば「法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること」が必要である。これは、国際裁判管轄の規律が各国国内法に委ねられる結果、事案と十分な関連性をもたない国が管轄権を行使しうることを考慮し、そこで不利な判決を受けた被告の手続的保護を図るとともに、専属管轄事件につき内国がもつ利益を守るための要件である。このことから、間接管轄の有無は、承認国である我が国の基準に照らして判断されなければならない。判例も同様に解している[18]。
また、直接管轄と間接管轄の関係について議論があり、@間接管轄の有無は直接管轄の基準によって判断されるとする見解(鏡像理論)と、A間接管轄は直接管轄よりも緩やかな基準で判断されてよいとする見解[19]がある。
A説は、間接管轄が事後的評価であり、跛行的法律関係発生防止の要請を考慮するものであるが、そもそも我が国の直接管轄決定の基準においては、「特段の事情」によって妥当な結論が保たれるようになっている以上、A説を採る必要性はなく、@説を採ることが国家間の平等といった理念に適合的であり妥当である。
以上から本件について検討すると、消費者向け製品Pを生産していたY1・Y2・Y3は、Pの出荷価格について談合を行い、不当に安い価格で世界各国の市場で販売していたとされ、これは不法行為に該当すると考えられる。そして、当然カリフォルニア州においても販売されていたと考えられるので、不法行為地としてカリフォルニア州に国際裁判管轄が認められるのが原則である(民事訴訟法5条第9号)。そして、カリフォルニア州に管轄を認めることが民事訴訟の理念に反する結果となるような特段の事情も存在しないと考えられる。
したがって、我が国の基準に照らして、直接裁判管轄が認められるので、間接管轄も認められ、1号の要件を満たす。
(2) 次に、2号の要件について検討する。2号は、「敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと」が必要であるとする。これは、手続開始時点での審問請求権や手続関与権の保障のため要求されるものである。
本件外国判決は、和解に基づく判決という形であるが、これを通常の判決と同様に解するならば、敗訴したのはY1・Y2・Y3側であると考えられる。そして、敗訴被告たるY1らに2号に該当するような送達がなかったとは考えられない。よって、2号の要件も満たすと考える(なお、和解に基づくものである点を考慮して一部認容判決と構成したとしても、Zらは「被告」たる地位にあるとはいえないため、やはり要件を満たすことになる)。
(3) では、3号の要件を満たすか。3号は「判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと」が必要であるとする。これは、外国裁判所の判決内容およびその前提となる訴訟手続が日本での公の秩序または善良の風俗に反する場合に、その効力を認めることは我が国の公序良俗を害することになるから、これを否定したものである[20]。
まず、判決内容に関する公序(実体的公序)に反しないか、検討する。本件では、「原告は誰でも被告らに対して被告らの製品を今後3年間のうちに10個まで割引価格で購入することができるクーポンを請求することができる」という判決が下されている。これは、日本では見られない内容であるが、この一事をもって直ちに公序に反するということはできない[21]。そして、クーポンを請求できるとすることは、日本における法秩序の基本原則と相容れないものということもできないと考えられる。したがって、実体的公序には反しない。
では、訴訟手続に関する公序(手続的公序)に反しないか、以下検討する。手続的公序に反する場合としては、制度的に公正な判決手続の保障が欠けている場合や、手続権の保障が欠けていた場合などが挙げられる。
本件外国判決は、クラス・アクションという制度を利用して下されたものである。この制度は、ある原告Xが多数の同様の立場の者を代表することついて裁判所の認定を受けると、その旨が公告され、潜在的な原告らは、Xを代表者とすることに反対する旨の意思表示をしない限り、Xを代表とすることに賛成したものとみなされ、Xのする訴訟行為及びその結果に拘束されるとするものであるが、@まず、公告が徹底されていない場合、潜在的原告の手続権の保障が欠けていた場合といえる。本件では、日本の複数の新聞において日本語で掲載されるという形で公告がなされているが、そもそも新聞を購読していない者については無意味であるし、購読していたとしても、クラス・アクション制度についての公告が載っているという前提で新聞を読んでいるはずはないのであるから、気づかない可能性も大いにある。Aまた、仮に潜在的な原告らが公告を受けていたと認められたとしても、クラス・アクション制度自体に大きな問題があると考えられる。本件のようなクーポンを和解内容とする判決は「クーポン和解」と呼ばれ、必ずしも(潜在的)原告らの利益を目的として行われるものではないことが指摘されている。すなわち、(a)一方で、弁護士が弁護士報酬欲しさに、初めから和解(判決)狙いで訴訟を無理に作り出し、集めたクラス構成員の数の多さに物を言わせて被告企業を攻撃するために用いられ(被告企業は、過大な損害賠償を命じられることを恐れ、社会的評価の低下を防ぎ、あるいは高額な訴訟費用がかかることを嫌い、事実上和解(判決)に応じざるを得ないことになる)、また、被告企業側が、先手を打って自らの言いなりになる弁護士を見つけてクラス・アクションを起こさせ、他の被害者からの訴訟提起を封じ込めることをしてしまう。(b)他方で、被告企業としても、クーポン和解に応ずることは、多額の損害賠償等に怯える必要がなくなるばかりか、自社の製品の販売促進につながることからメリットとなるものであるといえる。つまり、クラス構成員の利益を忘れて、原告弁護士と被告企業の利益だけのために利用される危険がある制度なのである。このような制度は、少なくともオプト・アウト型である限りでは、我が国の民事訴訟法の基本理念たる当事者の手続保障を全く欠くものといえ、公正な判決手続の保障が欠けている場合に該当するものといえる。
したがって、手続的公序に反するといえ、3号の要件を満たさない。
4 以上から、本件外国判決は民事訴訟法118条3号の要件を満たさず、外国判決として承認されない。よって、日本においてZらがY1に対して提起しようとしている損害賠償請求訴訟に、カリフォルニアの判決の既判力は及ばない。
以上
(参考文献)
・澤木=道垣内「国際私法入門(第6版)」
・本間=中野=酒井「国際民事手続法」
・石黒「国際民事訴訟法」
・最高裁判所事務総局家庭局監修「渉外家事事件執務提要(上)(下)」
・岡垣=野田編「講座・実務家事審判法5」
・澤木=青山編「国際民事訴訟法の理論」
・別冊ジュリスト「国際私法判例百選(新法対応補正版)」
・山田=佐野「国際取引法(第3版)」
・齋藤=上田「米国クラス・アクション公正法の評価と日本企業への影響」(商事法務1769号38頁)
[1] 「油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約」・「国際航空運送についてのある規則の統一に関する条約(いわゆるワルソー条約)」・「国際航空運送についてのある規則の統一に関する条約(いわゆるモントリオール条約)」等がある。
[2] 民事訴訟法上の土地管轄規定が、同時に国際裁判管轄をも定めたものであるとする考え方も存在する(二重機能説。ドイツにおいては判例・通説となっている)。
しかし、日本では、民事訴訟法の土地管轄規定の立法過程において国際裁判管轄について若干の意見のやり取りがあったとはいえ、渉外事件の特性・多様性や国際裁判管轄規整のあり方について十分な議論や認識があったわけではない。そうである以上、二重機能説は妥当でない。
なお、財産関係事件である最判昭和56年10月16日民集35巻7号1224頁は、「国際裁判管轄を直接規定する法規もなく」と述べている。
[3] 上掲最判昭和56年10月16日は、一般論として「条理にしたがって決定するのが相当」としながら、結論的には民事訴訟法の国内管轄規定からの逆推知によって、わが国の国際裁判管轄を肯定している。
[4] 一般に、国際裁判管轄を決定する要素としては、当事者の国籍や住所、準拠法の所属国、証拠方法の所在地、行為地、目的物の所在地、相手方の利益保護の必要性、申立人の裁判を受ける権利保護の必要性などが挙げられており、当事者の便宜・公平・予測可能性、裁判の適正・迅速・公正、証拠調べの容易さ、裁判の実効性、法廷地と当該私法的生活関係との密接関連性、準拠法の選択との関連等を考慮して決すべきであると解されている(最高裁判所事務総局過程局監修「渉外家事事件執務提要(上)」10頁)。
[5] 東京家審昭和41年2月23日家月18巻10号87頁、東京地判昭和41年3月5日下民17巻3=4号135頁、東京地判昭和47年4月18日家月24巻12号80頁、名古屋家審昭和49年3月2日家月26巻8号94頁、長崎家審昭和53年2月22日家月31巻7号76頁、東京家審昭和62年10月8日家月40巻10号49頁等。
[6] 大阪地判昭和39年10月9日下民15巻10号2419頁(親子関係不存在確認)、大阪地判昭和55年2月25日家月33巻5号101頁(認知)。
[7] 大阪地判平成4年2月6日判時1430号113頁(認知無効確認訴訟)。
[8] この「あたって『も』」というのは、財産関係事件の場合と同じく、の意味である。財産関係事件においては、民事訴訟法の土地管轄規定を出発点としつつ、当事者の公平、裁判の適正・迅速を期するという、民事訴訟の理念に反する「特段の事情」があれば結論を調整するという判例法理が確立されている。
[9]当事者双方が台湾国籍を有する永住者間の扶養審判事件として東京家審平成4年3月22日家月44巻11号90頁、中国人母子から中国人父への扶養料請求について、当事者双方が日本に住所を有することを理由に国際裁判管轄を認めたものとして東京高決平成18年10月30日判時1965号70頁、等がある
[10] 大阪家審昭和51年2月1日家月32巻10号67頁。権利者たる申立人の利益保護を考慮したものと解される。これは39年判例とその志向を同じくするものといえる。
[11] 扶養権利者の住所地に国際裁判管轄を認める条約・立法例として、「民事および商事に関する国際裁判管轄権ならびに判決の執行に関するヨーロッパ経済共同条約(1968年)」、「子に対する扶養義務に関する裁判の承認および執行に関するハーグ条約(1958年)」、「扶養義務に関する裁判の承認および執行に関するハーグ条約(1973年)」、「スイス国際私法(1987年)」等があり、扶養権利者の住所地国に管轄を認めることは国際的な動向にも沿うものといえる。
もっとも、日本は上記の条約には批准しておらず、必ずしも同様に考えることができるわけではない。特に、外国判決の承認における間接管轄(民事訴訟法118条1号)の要件を具備しているか、という問題との関係で、日本においては上記条約と同様に扶養権利者の住所地国に管轄を認めることは困難であるとする見解もある。
[12] 前掲最判昭和56年10月16日、最判平成9年11月11日民集51巻10号4055頁参照。
[13] 「不法行為があった地」には加害行為地及び損害発生地のいずれも含まれると考えられているが、損害発生地に経済的損害の発生地を含めることはできない。これを認めると被害者の住所の所在地国に住所を認めることと同様の結果になってしまうし、また、不法行為地に管轄を認めた趣旨も妥当しないからである。
[14] 最判平成13年6月8日民集55巻4号727頁(この事件では不法行為の存在についての立証の程度についても述べている)。
なお、本件のような婚姻関係侵害を理由とする損害賠償請求事件について、日本に国際裁判管轄を認めた裁判例として東京高判昭和51年5月27日判タ344号232頁がある。この事件では不法行為地管轄を理由としてはいないが、これは、当事者双方が日本に在住していた事例であり、あえて不法行為地管轄に言及する必要もないケースであったといえる。
[15] その実質的根拠は、承認については、我が国の民事訴訟が既判力の発生を確定判決に結びつけていることに求められる。
[16] この点につき、最判平成10年4月28日民集52巻3号853頁は、民事執行法24条の「『外国裁判所の判決』とは、外国の裁判所が、その裁判の名称、手続、形式のいかんを問わず、私法上の法律関係について当事者双方の手続的保障の下に終局的にした裁判をいうものであり」、と述べ、神戸地判平成5年9月22日判タ826号206頁は(旧)民事訴訟法200条の『確定判決』の意義についても上記最高裁と同旨のことを述べている。
しかし、「手続保障」の問題については、民事訴訟法118条3号(手続的公序)の段階でのチェックが既に予定されている以上、「判決」の解釈において考慮すべき必要性はないと考えるので、「判決」についてこのような定義付けをした。
[17] なお、和解に基づく判決(consent judgment)は、形式は「判決」であるが、その実質は当事者の合意(和解)が裁判調書に記録されただけで、裁判官の実体的な判断をなんら含んでいないものといえ、これを「判決」として取り扱ってよいかについては議論があるようである。本テストにおいては、この点について「判決」として扱ってよいという指示があったので、この点には踏み込まないこととする。
[18] 最判平成10年4月28日民集52巻3号853頁。
[19] 上掲最判平成10年4月28日は「当該外国判決を我が国が承認するのが適当か否かという観点から」と述べていることから、このように解されている。
[20] 民事訴訟法118条3号にいう公序良俗と、民法90条の公序良俗、および国際私法(法の適用に関する通則法42条)上の公序との関係については議論があるが、国際私法上の公序について国家的公序と解する通説からは、これらの間には本質的な相違はないものと考えられる。
[21]懲罰的損害賠償が問題となった最判平成9年7月11日民集51巻6号2573頁は、「外国裁判所の判決が我が国の採用していない制度に基づく内容を含むからといって、その一事をもって直ちに右条件(注:外国裁判所の判決が我が国における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと)を満たさないということはできないが、それが我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相いれないものと認められる場合には、その外国判決は右法条にいう公の秩序に反するというべきである。」と述べている。