2008年度冬e-mailを通じて実施

道垣内正人

 

実務国際私法II(2008)テスト

 

ルール

 

-      著書・論文の渉猟その他の調査を行うことは自由ですが、この問題について他人の見解を求めて相談すること及び他人の見解を参考にしたり、それに従うことは禁止します。

-      解答作成時間は自由ですが、解答送付期限は、200912()正午です。

-      解答は下記の要領で作成し、[email protected]及び[email protected]宛に、添付ファイルで送付してください。

-      メールの件名は、必ず、「実務国際私法II(2008)テスト」として下さい(分類のためです)。

-      文書の形式は下記の通り。

A4サイズの設定とすること。

原則として、マイクロソフト社のワードの標準的なページ設定とすること。

頁番号を中央下に付け、最初の行の中央に「実務国際私法II(2008)テスト」、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載してください。

10.5ポイント又は11ポイントの読みやすいフォントを使用し、また、全体として読みやすくレイアウトしてください。

-      枚数制限はありません。ただし、あなたが法律事務所のアソシエイトであり、パートナーからメモの作成を依頼されたと想定して、不必要に長くなく、内容的に十分なもの(法令・判例・学説の適度な引用を含む。)が期待されています。


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問題1

 

登場人物は以下の4名。

A:    日本・フランスの二重国籍を有する27歳女性。幼少の頃から日本在住。下記B7年前に婚姻したが、1年前に離婚し、現在、独身。離婚後、定職はなく、水商売系のアルバイトをして生活費を稼ぐ程度。

B:    日本国籍を有する30歳男性。出生以来、日本在住。Aの元夫。下記Cを自分とAとの間の子と信じていたが、Cが怪我をした際にCの血液型から自分がCの父ではあり得ないことに気づき、1年前にAと離婚。現在、独身。

C:    Aを母として出産。日本・フランスの二重国籍を有する3歳男子。

D:   アメリカ国籍を有する26歳男性。オハイオ州生まれ。大学入学までオハイオ州在住。大学4年間はカリフォルニア州在住。卒業後、直ちにニューヨーク州で起業。現在はニューヨーク州在住。起業後3年余りでビジネスは大成功し、最近、自社株のNY証券市場への上場を果たし、持ち株の一部売却により1億ドルの売却益を取得。年収500万ドル。独身。大学4年生の時、アジア各国を旅行したことがあり、日本に1週間立ち寄り、Aと両者同意のもとに1度だけ性的関係をもったことがある。

 

1ヵ月前、DAから、「CDの子であるので、扶養料を支払ってもらいたい」との連絡を受けた。それには、日本で撮影されたADの写真、そのときの記念の品、そして、Cの写真が同封されていた。Dは直ちに弁護士に対応を相談し、その弁護士からあなたに次の点について質問があった。それぞれについて日本の弁護士として日本法についてのメモランダムを作成しなさい。

 

(1)        CAを法定代理人として、Dに対して、親子関係存在確認又は認知請求の訴えを日本の裁判所に提起したとすれば、国際裁判管轄は認められるか。 (20)

 

(2)        CAを法定代理人として、Dに対して、扶養料請求の訴えを日本の裁判所に提起したとすれば、国際裁判管轄は認められるか。 (20)

 

(3)        BDに対して、婚姻関係侵害を理由に損害賠償請求の訴えを日本の裁判所に提起したとすれば、国際裁判管轄は認められるか。(20点)

 

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*          上記の国際裁判管轄について規定している法律は存在しないが、裁判例は若干ある。

**          一般に、大陸法系の法域では、婚姻外で出生した子と父との間の親子関係は認知によって成立するのに対して、英米法系の法域には認知制度はなく、事実関係に基づき親子関係の存在が判断される。上記に登場する法域もこれが該当することを前提とする。

 

問題2

 

消費者向け製品Pを生産し、世界各国の市場で販売している日本法人Y1・ドイツ法人Y2・カリフォルニア州法人Y33社(3社を合計すると世界シェア50%、アメリカ市場シェアは70%)は、出荷価格について談合を行い、不当に高い価格で販売していたとされ、アメリカ・カリフォルニアの裁判所におけるクラス・アクションの被告とされた。

 

このクラス・アクションとは、原告が多数である場合、ある原告Xが多数の同様の立場の者(潜在的原告)を代表することについて裁判所の認定を受けると、その旨が公告され、潜在的な原告らは、Xを代表者とすることに反対する旨の意思表示をしない限り(すなわちオプト・アウトしない限り)Xを代表者とすることに賛成したものとみなされ、Xがする訴訟行為及びその結果に拘束されるという制度である。

 

カリフォルニアの裁判所は、このクラス・アクションを世界中の潜在的原告を代表する訴訟と認定し、巨額の賠償請求について審理を開始した。なお、このクラス・アクションがXを代表者として行われること、それに反対であれば、そこに記載された通話料無料の電話番号に電話すればオプト・アウトをするための用紙を郵送すること等を記載した公告が、製品Pの主要消費国の新聞等に掲載され、日本でも複数の新聞に日本語で掲載された。しかし、誰も反対の意思表示をしなかった。

 

その後、XY1Y2Y3の間で、クラスに含まれる原告は誰でも被告らに対して被告らの製品を今後3年のうちに10個まで割引価格で購入することができるクーポンを請求することができる旨の和解が成立し、このカリフォルニアの裁判所がその和解に基づく判決(consent judgment)た。

 

日本に居住する日本人Zは、上記の和解の内容に不満をもち、日本における被害者に共同告となることを呼びかけ、日本においてY1を被告とする損害賠償請求訴訟を提起しようとしている。上記のカリフォルニアの判決の既判力はこれに及ぶか。 (40)