早稲田大学法科大学院2008年度冬「国際私法I」試験問題

 

ルール

n  参考文献その他の調査を行うことは自由ですが、他人の見解を求めること及び他人の見解に従うことは禁止します。

n  解答作成時間は自由ですが、解答送付期限は、200912()21:00です。

n  解答は下記の要領で作成し、[email protected]宛に、添付ファイルで送付してください。

n  メールの件名は、必ず、「国際私法I」として下さい(分類のためです)。

n  文書の形式は下記の通り。

-          A4サイズの紙を設定すること。

-          原則として、マイクロソフト社のワードの標準的なページ設定とすること。

-          頁番号を中央下に付け、最初の行の中央に「国際私法I」、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載してください。

-          10.5ポイント以上の読みやすいフォントを使用し、また、全体として読みやすくレイアウトしてください。

n  枚数制限はありません。ただ、あなたが法律事務所のアソシエイトであり、パートナーからメモの作成を依頼されたと想定して、不必要に長くなく、内容的に十分なもの(判例・学説の適度な引用を含む。)が期待されています。

n  これは、成績評価のための筆記試験として、100%分に該当するものにするものです。

 

問題 1

 

 A国人Zは、A国において、A国人父X1A国人母X2の間に生まれた生後6ヶ月の女子である。X1ら一家の生活は極めて貧しく、Zを養子に出すことを考えていた。

 日本人夫Y1B国人妻Y2とは、実方の親族関係から断絶されるタイプの養子縁組(以下、「特別養子縁組」という。)をすることを望み、その仲介を業としているC国人Pに、2歳未満の女子であることその他若干の条件を提示し、それらの条件を具備する子を探すことを依頼し、相当額の着手金を支払った(成功報酬は着手金の3倍とする約束)

 Pは、様々なルートを使って上記条件を満たす子を探していたところ、A国人QからZの存在を知らされた。Pは、Qに一定の報酬を支払って、X1X2から養子縁組についての同意書の取得、Zのパスポート取得等をさせ、A国の空港でQからZの引渡しを受け、ZA国から日本に連れてくることに成功した。そして、Pは、日本の空港で成功報酬と引き替えにZY1Y2に引き渡した。

 その1年後、Y1Y21歳半になったZとの間で特別養子縁組をする手続を始めるため、あなたのところに法律相談のため訪れた。

 

 A国法には、特別養子縁組制度はなく、日本民法792条から817条までに定めるところと全く同じ養子縁組(以下、「普通養子縁組」という。)のみがある。

 B国法には、日本法と同じく特別養子縁組制度があるが、特別養子縁組について夫婦共同縁組とするか否かの点と離縁については両者の法制は相違している。異なる点は、以下の点である。

-          日本民法817条の3は、養親となる者は配偶者のある者でなければならない旨定めているところ、B国法は配偶者がある者であっても、単独で特別養子縁組をすることができるとしている。

-          離縁の申立権者として、CB国法は、日本民法817101項所定の者のうち、検察官は挙げていない。

-          離縁の理由として、日本民法817101項では同項所定の2つの理由がともに必要とされているところ、B国法は、「養親による虐待、悪意の遺棄その他養子の利益を著しく害する事由があること」と「養親と養子との間の性格の不一致等、養子縁組を維持し難い重大な事由があること」とが選択的に挙げられている(したがって、これらのいずれかの事由と「実父母が相当の監護をすることができること」が満たされ、養子の利益のために特に必要があると認められれば、離縁が認められる)

 

 以上を前提に、以下の問いに答えなさい。以下の設問の事実関係はそれぞれ独立しており、それぞれひとつの設問においてのみ前提とすること。

 

(1) X1は、Y1Y2の住所を探し当て、X1が同意したのはA国にもある普通養子縁組をZY1Y2との間ですることであって、特別養子縁組という制度があることは知らなかったこと、もし特別養子縁組をするということであれば同意をするはずもなく、同意書には何ら効力はない、旨主張している。X1の意思表示に瑕疵があったか否か、瑕疵があった場合にそれが本件特別養子縁組にいかなる効果をもたらすかについて、いずれの法によって判断されるか。

 

(2) X1は、Y1Y2の住所を探し当て、A国においては、日本民法798条と同じく、未成年者を養子とするには裁判所の許可が必要であり、それは必ずA国の裁判所でなければならないはずであって、したがって、まずはZA国に戻して、A国の裁判所の許可を得る手続をとるべきであると主張している。この主張にどのように対応すべきか。

 

(3) ZA国を出国する際、PZの実親であるように装うため、Pのパスポートが偽造されていた。そのため、A国では、PA国の公文書偽造罪で指名手配されている。このような状況において、本件の特別養子縁組に適用される準拠法上、どのように判断されるか。

 

(4) 将来、日本に離縁の裁判の国際裁判管轄が認められる場合、日本の検察官は離縁を申立てることができるか。この点、Y1Zの間の特別養子縁組とY2Zの特別養子縁組とを分離して判断することができるか。

 

(5) 将来、日本に離縁の裁判の国際裁判管轄が認められる場合、「養親と養子との間の性格の不一致等、養子縁組を維持し難い重大な事由があること」と「実父母が相当の監護をすることができること」との双方の要件が具備される場合、離縁は認められるか。この点、Y1Zの間の特別養子縁組とY2Zの特別養子縁組とを分離して判断することができるか。 

 

問題 2

 

 Pの相続財産である日本所在の土地建物をめぐる争いについて第一審裁判所の判決が下され、その中で、準拠法の決定について次のとおり判断がされたとする。この点について、準拠法は日本法とすべきではないかとの立場から、控訴理由書をドラフトしなさい。ただし、事実認定及び言及されている内容の外国法の存在は認めることを前提とする。

 

1 法の適用に関する通則法(以下、「通則法」という。)第36条の規定によれば、相続準拠法は「被相続人の本国法」であるところ、Pは死亡当時ロシア連邦の国籍を有していたと認められるから、その準国際私法により、ロシア連邦内のいずれの共和国の法律によるかを定めることになる。
 2 ロシア連邦においていかなる準国際私法が行われているかは明らかでない。しかし、PQ共和国の市民権を有し、同共和国の選挙権を有していたこと及びPの最後の常居所地がQ共和国にあったことが認められることを考慮すれば、Pの属人法はQ共和国法であると考えられる。したがって、相続準拠法は、Q共和国法になる。
 3 ロシア連邦の国際私法は、動産の相続については本国法によるが、不動産の相続についてはその所在地法が適用されるものとしており、この規定は相続分割主義を採用したものと認められる。したがって、本件土地建物の相続については日本法に反致されるが(通則法第41条)、ロシア連邦の国際私法は一般に反致を認めるので、日本に上記の反致規定が存在することにより、ロシア連邦から見ればロシア連邦法によるとされていることを理由に、結局、相続準拠法はQ共和国法になる。