国 際 私 法 II

城石 恵理

 

(1)について 

1 Bの主張は、B社を解任された役員と第三者Aが結んだ契約につきBが無効を主張できるか、すなわち法人Bの機関であった役員の対外的権限の発現に関する事項であるといえる。また、関連して、B内部での役員の解任の正当性といった法人内部事項も判断する必要があろう。そこで、法人に適用される準拠法は何か、単位法律関係及び連結点について検討する必要がある。

@ まず単位法律関係については、法人の内部組織に関する事項及び外部関係に関する事項という、法人という権利主体から発生することが考えられる法的問題をひとつの単位法律関係として、単一の準拠法を適用するのが妥当である。というのも、法人はいわば法律上のフィクションとして法人格を与えられ権利主体となっている。とすると、法人を規律する法律は、法人という主体から発生する法的問題相互間に矛盾が生じないような整合的な規律を行っているものと考えられるので、国際私法上もこれらの問題をひとつの単位とするのが適当と考えられるからである。

A 次に、法人の準拠法(従属法)の連結点は何か、ということが問題となる。これについては、法人の本拠地を従属法とする本拠地法説と、法人設立の際に準拠した法によるとする設立準拠法説があり、判例はどちらの立場を取るか明確にはしていない(最判昭和50年7月15日、民集29巻6号1061頁)。

   本拠地法説は、最密接関係地という国際私法の基本的考え方に忠実な見解ではあるが、本拠地概念が曖昧であることや、本拠地以外の法に準拠して設立された場合に会社の成立を認めないのかといった問題が生じる。

   一方で、設立準拠法説は、法人が法人格を認められるのはまさに設立準拠法によって認められているという点であることを根拠とし、一義的かつ明確に確認することができ取引の安全に資する見解ということができる。さらに、日本の関連規定(会社法2条2号・同821条等)と整合的である。また、法人格の付与の問題は、外国法によっていかなる権利能力が法人に与えられるかの問題であって、抵触法上の問題ではなく、当然に設立準拠法が従属法となるとする考え方もある。以上の点を勘案すると、設立準拠法説が妥当であると考える。

2 本件では、B社はポルトガル法人であって、ポルトガル法が設立準拠法と考えられる。そこで、B社の従属法はポルトガル法である。本件で問題となるであろう、B社役員の解任等の効力についてはポルトガル法によって判断されることになる。

3 さらに、法人機関の対外効力としての契約の成否(すなわち本件契約がB社に帰属するか否か)についても、法人の従属法であるポルトガル法が適用されるものと考える。

確かに、この部分については第三者も関係する契約上の問題であるし、法人の機関と第三者の契約ということで代理または事務管理の単位法律関係になると考えることもできる。

しかし、上記述べたとおり、法人は主として経済活動を行うために考え出された法的フィクションであって、法人の権利能力を定める法規には法人の機関が行う契約等の対外的な権利関係についても必ず定められているはずである。また、設立準拠法を従属法とするのは取引の安全のためという側面もあり、第三者保護に欠けているとまでは言うことはできないと解する。よって、A社に対する関係を判断する上でも、B社の主張は法人の従属法であるポルトガル法が準拠法となるものと考える。

 

(2)について 

1 A社からB社に対する請求は、AB間の契約違反に基づく損害賠償請求という契約の効力の問題であることから、かかる請求についても本件契約の準拠法が適用されることになると考えられる。そこで、本件契約の準拠法が何であるかが問題となる。

契約準拠法について、通則法では7条で当事者自治の原則を採用して契約における準拠法決定を当事者の合意に任せており、さらに9条で当事者の合意によってその準拠法を事後的に変更することも認めている。一方、8条によって当事者の意思が不分明な場合には最密接関係地法によるものと定めている。

7条における当事者間の準拠法選択は、契約当事者が最密接関係地法(8条)とは異なる法をあえて選択しているということであれば黙示的な合意でも足りる。黙示の準拠法指定については、判例・学説の中には当事者の黙示の合意の中に合理的な準拠法選択の推定をも含ませ、客観的連結点に近い準拠法を当事者の黙示合意として認定する考え方もある。しかし、8条によって客観的連結が採用された通則法の下では、7条の当事者意思を認定するにあたって、合理的な準拠法選択の推定といったものをも含めて考慮する必要はなく、その場合は端的に8条を適用すれば足りることになる。よって、7条における当事者間の黙示合意とは、現実に当事者間で存在していた合意を契約時の諸般の事情から認定することを意味すると解する。

2 本件契約では、代金決済についてのみポルトガル法による旨の準拠法条項が存在し、その他の事項についてはAB間に明示の意思表示は存在しない。

@ この点について、まずAB間には当然に本件契約についてはポルトガル法を準拠法とする黙示の合意があったものであるが、代金決済は契約の肝心な点なのであえて契約書に準拠法条項として明記したと考えることができる。そうだとすれば、AB間には本件契約準拠法はポルトガル法という合意があることになるので、損害賠償請求にも同法が適用されることになる。

A また、かかる準拠法条項が、準拠法の分割指定ということも考えられる。分割指定を否定した裁判例もあるが、当事者自治の原則からは当然に認めることができるものと考える。とすると、本件契約の代金決済についてはポルトガル法が準拠法として指定されており、その他の点について黙示の合意を認定するような事情は本件には見られない。そこで、代金決済以外の点については8条により最密接関係地法が適用されることになると考えられる。

   では、本件契約における最密接関係地法は何か。8条2項では特徴的給付の理論が採用されている。これは、実際にその契約において特徴となる債務を負担している側の法が、一般的に見て契約自体に最も密接な関係を有していると考えられることから、推定規定として設けられたものである。本件契約はワインの売買契約であり、B社がA社に対して給付するワインが本件契約における特徴的給付ということができる。よって、B社の所在地と考えられるポルトガル法が本件契約の最密接関係地法となるので、損害賠償請求にも同法が準拠法として適用されることになる。