早稲田大学法科大学院2008年度夏「国際民事訴訟法」試験問題
ルール
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解答作成時間は自由ですが、解答送付期限は、2008年7月13日(日)21:00p.m.です。
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枚数制限はありません。ただ、あなたが法律事務所のアソシエイトであり、パートナーからメモの作成を依頼されたと想定して、不必要に長くなく、内容的に十分なもの(判例・学説の適度な引用を含む。)が期待されています。
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問題
次の中間判決の後、被告が敗訴したと仮定し、その控訴理由書の中の本案前の争いに関する部分を起案しなさい。
債務不存在確認請求事件
東京地方裁判所平成一七年(ワ)第二二九五一号
平成19年3月20日民事第三七部中間判決
原告 株式会社 みずほ銀行(以下「原告みずほBK」という。)
同代表者代表取締役 杉山清次 ほか二名
上記三名訴訟代理人弁護士 島田邦雄
同 浦中裕孝
同 中山靖彦
同 吉野彰
被告 U.S.O.コーポレーション(以下「被告USO」という。)
同代表者President 甲野太郎
同訴訟代理人弁護士 松尾翼
同訴訟復代理人弁護士 金子浩子
被告 破産者甲野松夫破産管財人 松田耕治(以下「被告松田」という。)
同訴訟代理人弁護士 齋藤朋子
主 文
被告らの本案前の主張はいずれも理由がない。
事 実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
(1)原告らと被告らとの間において、別紙「損害賠償債務等目録」記載(1)ないし(5)の各債務が存在しないことを確認する。
(2)訴訟費用は被告らの負担とする。
二 被告らの本案前の答弁
(1)(主位的申立て)
ア 本件訴えをいずれも却下する。
イ 訴訟費用は原告らの負担とする。
(2)(予備的申立て)
本件訴訟手続をいずれも中止する。
第二 当事者の主張
一 請求原因
(1)当事者等
ア 原告ら
原告らは、いずれも銀行持株会社である株式会社みずほフィナンシャルグループの子会社である。
イ 被告ら等
(ア)被告USO等
〔1〕甲野松夫(以下「甲野」という。)は、旭工業株式会社(以下「旭工業」という。)、有限会社アサヒホーム(以下「アサヒホーム」という。)、有限会社アサヒコーポレーション(以下「アサヒコーポレーション」という。)、サンフーズサービス有限会社(以下「サンフーズ」という。)、アサヒマネージメント株式会社及び被告USO(以下、これらの各社を併せて「旭工業グループ」という。)の代表取締役であったものであり、その親族とともに、上記各社の株主としてこれら各社を運営していた。
なお、旭工業、アサヒホーム及びアサヒコーポレーションは、その所有する不動産により賃貸業を、また、アサヒマネージメント株式会社はその不動産管理業を、それぞれ行っていた。
〔2〕被告USOは、平成二年三月ころ、旭工業が、アメリカ合衆国(以下「米国」という。)イリノイ州シカゴ市西マジソンストリート181所在のペイン・ウェバータワー(以下「本件投資不動産」という。)を所有していたパートナーシップ(以下「大パートナーシップ」という。)の持分を有するリミテッドパートナーシップ(以下「小パートナーシップ」という。)の持分を取得する形式による不動産投資案件に参加するために設立した米国デラウエア州法人である。
〔3〕原告みずほBKは、平成一四年四月一日、旧株式会社日本興業銀行(以下「IBJ」という。)の会社分割及び合併により、IBJが有していた旭工業グループに対する債権債務を承継した。
なお、小パートナーシップ持分に関する収益や小パートナーシップ解散に伴う持分配当金(以下「本件配当金」という。)は、すべて日本のIBJ東京支店内の預金口座に入金されていた。
(イ)被告松田
〔1〕甲野は、平成一六年五月一九日、旭工業、アサヒホーム、アサヒコーポレーションと共に、東京地方裁判所に対して民事再生手続開始の申立てを行い,同月二七日、同裁判所から、それぞれ同手続の開始決定を受け、いずれも被告松田が監督委員に選任された。
〔2〕その後、旭工業、アサヒホーム及びアサヒコーポレーションは、平成一七年五月一二日、東京地方裁判所の職権により、また、甲野は、有限会社アグラパートナーズの債権者申立により、同裁判所から、それぞれ破産手続開始決定を受け、被告松田が、甲野、旭工業、アサヒホーム及びアサヒコーポレーションの各破産事件の破産管財人に選任された。
(2)被告USO及び甲野による米国イリノイ州における提訴等
ア 被告USO及び甲野は、平成一七年四月二二日、米国イリノイ州クック郡巡回裁判所衡平法部に対し、原告らのほか、株式会社みずほプロジェクト、みずほ証券株式会社、弁護士池田靖等を各被告として、主に別紙預金担保目録記載の預金が債務の弁済に充てられたことにより損害を被ったことなどを理由に、別紙「損害賠償債務等目録」記載(1)ないし(5)の各債務の履行を含む、不法行為あるいは不当利得又は契約違反(信認義務違反又は信義則違反)等に基づく各請求に係る損害賠償等を求める訴えを提起した(同裁判所の事件番号05CH05848)(以下「本件イリノイ訴訟」という。)。
なお、その後、甲野は、同訴えを取り下げた。
イ 本件イリノイ訴訟は、イリノイ州北部連邦地方裁判所に移送された(同裁判所の事件番号06C0459)。
ウ 原告らは、被告USOが本件イリノイ訴訟において主張する不法行為あるいは不当利得又は契約違反(信認義務違反又は信義則違反)等と評価されるような行為は一切行っていないが、被告らはこれらにつき争っている。
(3)まとめ
よって、原告らは、被告らとの間において、別紙「損害賠償債務等目録」記載(1)ないし(5)の各債務が存在しないことの確認を求める。
二 被告らの本案前の主張
(1)裁判権等について
ア 主位的主張
(ア)裁判管轄について
〔1〕被告USOは、平成二年三月ころ、旭工業が出資者となり、小パートナーシップの持分を取得する方法によって本件投資不動産に投資することを業務として、デラウエア州法に準拠して設立された。そして、その設立後一〇年間は、本件投資不動産から生じた利益の配当を受け続け、平成一三年に本件投資不動産が売却された際に、米国イリノイ州シカゴにおいて、小パートナーシップから、本件配当金として六九七万五四二二・一三米ドルを受領した。
〔2〕旭工業は、平成五年ころから、メインバンクであるIBJ主導の下、IBJを含めた債権者銀行等(北陸銀行、商工組合中央金庫、日本債券信用銀行等)との取り決めにより、債権者銀行等に、プロ・ラタ返済を行うようになった。
すなわち、旭工業は、当初は上記債権者銀行等から長期の貸付を受けていたが、この取り決めにより、これらは、期限一年の手形貸付の形式とされ、毎月利息のみを支払い、元本については、毎年末に旭工業の一年間の利益の中から元本返済総額を定めてこの返済総額を各銀行等に対して割り付けて返済することになった。
〔3〕しかし、平成一三年当時、旭工業の債権者となる銀行等のうち、本件投資不動産が売却されることを知っていたのはIBJだけであった。そして、IBJは、当該売却の事実を他の債権者銀行等に秘し、上記売却により生じる本件配当金を自行のみの担保として債権を回収することを企図し、同年九月初旬ころ、被告USOが本件配当金を受領する前に、被告USOからサンフーズへの送金と、サンフーズ名義で旭工業の債務を担保するための預金担保差入れを行うための書類等に、甲野に記名・押印あるいはサインをさせた。
なお、同年当時、被告USOがサンフーズに金員を送金する合理的な理由は皆無であり、それはIBJの担当者も熟知していた。
〔4〕IBJが上記のとおり甲野に記名・押印あるいはサインをさせた書類は、サンフーズの銀行預金口座をIBJ東京支店に開設するための書類、被告USOからサンフーズへの送金依頼書及びサンフーズ名義の定期預金担保差入証で日付・数字などはブランクであった。そして、本件配当金六九七万五四二二・一三米ドルは、小パートナーシップのIBJ本店の預金口座から日本円八億〇九〇三万七〇六九円に転換の上、被告USOのIBJの東京支店の預金口座に振り込まれ、更に同口座からサンフーズのIBJ東京支店の預金口座に振り込まれた。さらに、サンフーズは、IBJに対し、その有していた別紙預金担保目録記載の預金を、旭工業がIBJに負担する債務を担保するため、同目録記載の担保を設定した(以下「本件預金担保」という。)。その後、IBJを合併した原告みずほBKは、平成一五年三月三一日、本件預金担保を実行した(以下「本件預金担保の実行」という。)。
〔5〕このように、違法・不当な本件預金担保設定等により、実質的には八億〇九〇三万七〇六九円の不法な取得という不法行為が米国イリノイ州で行われているから、本件訴訟については、同州がその国際裁判管轄を有している。
また、被告USOは、米国において、米国に存在する本件投資不動産への投資を目的として、米国弁護士により設立されたものであるから、本件訴訟について、米国の裁判所において米国弁護士や米国公認会計士等の証言をとる必要がある。
〔6〕したがって、本件訴訟については、米国に国際裁判籍がある。
(イ)国際的二重起訴について
〔1〕日本法の下でも、土地管轄が競合する場合には原告は自分に都合の良い管轄地を選ぶことができる。外国と日本との裁判地の選択においても、ある当事者が自国でもできる訴訟を外国ですることが直ちに非難されるべきではない。そこで、もっとも効果的な訴訟を行える国が、裁判権を行使するのであれば、その国での訴訟が許されてしかるべきである。問題は何をもって「効果的」であると認めるべきかである。各国はいずれも歴史ないし文化的な理由からそれぞれ異なる裁判制度を有するのであるから、他の国の制度を利用するのは許されてしかるべきである。
〔2〕ところで、外国で提起された訴えについて、我が国で提起された後訴が許されるかについて、外国判決は、承認要件(民訴法一一八条)を充たせば我が国でも効力を有するので、将来の承認可能性が予測される場合には先行する外国裁判所における訴えを優先させるという考え方(いわゆる承認予測説)があるが、承認予測の要件を民訴法一一八条の一号、二号、四号だけで判断することは多少硬直的にすぎる難点がある(なお、同条三号については、事前の判断は不可能ないし困難であるから、重大な疑義がない限り要件を充たすものと解するべきである。)ので、後訴の提起の可否を広義の訴えの利益の問題として考えるべきである。
すなわち、我が国で既判力を獲得する必要がある場合、外国判決が主観的又は客観的効力において紛争解決に十分でない場合、当該外国では「法律によって設けられた独立の公平な裁判所による合理的な期間内の公正な公開の審理(ヨーロッパ人権規約六条)が保障されない場合(たとえば、外国での訴訟が極端に遅延する場合、ディスカバリー等による不相当に高額な費用負担がかかり日本原告の資力を考えると、日本原告に外国先行訴訟での訴訟追行を強いるのが不当な場合)には広義の訴えの利益があり、日本における後訴が適法とされると解すべきであり、後訴の利益を判断する際には、当事者の意図も見るべきである。
この観点からすると、米国の裁判所で下される判決が我が国で承認される可能性があるのであれば、特段の事情のない限り、我が国では後訴を追行させるべきではないと解するのが相当である(後訴の広義の訴えの利益については、原告がこれを主張立証すべきである。)。
本件の場合、民訴法一一八条のうち、一号、二号、四号の角度から判断して、米国の裁判所の判決が我が国で承認されないと考えるべき事情がうかがわれないから、承認されるべき可能性があると認められる。
また、上記特段の事情については、原告らがこれを主張立証すべきところ、原告らにおいては特段の主張はなく、又、原告らが、本件イリノイ訴訟の提訴後約八か月もたってから本件訴訟を提起したことからすると、原告らにおいて差し迫った事情はなかったことが推認される。さらに、原告らは我が国でも有数の大企業であるから、外国での応訴を強いることが不当であるとはいえない。
〔3〕さらに、他方、二重起訴禁止を定める民訴法一四二条所定の「裁判所」とは、日本の裁判所であり、外国の裁判所を含むものではなく、国際的二重起訴を規律する明文の規定はない。しかし、外国における訴訟係属を無視することは現在の社会情勢に適合するとは考えられず、国際的訴訟競合につき、何らかの規律をすべきである。
すなわち、先行する外国訴訟は、我が国における訴え提起と同様に原則として尊重されるべきであり、同一訴訟物に関して起こされた日本での訴訟は、次の事情があるので、原則として許されないと解するべきである。
a 米国の訴訟制度は、日本のものとは差異があり、本案審理前の、証拠開示手続等の段階が長いのであり、本案審理に至っていないことをもって、国際的二重起訴に抵触しないとするのは妥当ではないし、本件では、本件イリノイ訴訟の当事者である池田靖と株式会社みずほ証券との間で、証拠開示手続も一部開始されているのであるから、本件イリノイ訴訟が本案判決に達する可能性は高い。
b 本件イリノイ訴訟においては、平成一七年三月に訴訟が提起されて以来、多くの訴訟活動がされており、上記訴訟活動を無駄にしたのでは、訴訟経済に反する。
c 原告らは、本件イリノイ訴訟を遅延させるため、平成一八年一月に、本件イリノイ訴訟を上記連邦地方裁判所に移送する旨の申立てをし、本件イリノイ訴訟は、同裁判所で審理されることとなった。
d 被告USOは、IBJの指示により設立された会社であり、その関連会社や支配会社の子会社が、アセットマネージャーや出資管理業務者として本件投資不動産に関与していたのであるから、原告らは、米国イリノイ州で訴訟の被告となりうることを予測していたというべきである。そして、上記(ア)のとおり、本件配当金の不法な取得は、実質的には米国イリノイ州で行われたものである。
〔4〕したがって、本件訴えは、本件訴えに先行して係属している本件イリノイ訴訟との関係で、国際的二重起訴における後訴に当たるとして却下されるべきである。
イ 予備的主張
(ア)仮に、本件訴えが適法であり、又は本件訴えを現時点で却下すべきか否かの判断を下すことが困難である場合は、国際的に矛盾抵触する確定判決が併存する事態を避けるため、本件イリノイ訴訟の判決がなされるまで、あるいは少なくとも当分の間、本件訴訟手続を中止すべきである。
すなわち、本件イリノイ訴訟が不当であるとされる理由は見当たらず、原告らには応訴のための大きな負担が生じるが、原告らは世界有数の大企業であり、本件イリノイ訴訟において米国の裁判所がどのような対処をするかは明確に予測することができないので、そのなりゆきを見守るためには、手続き中止が相当である。
(イ)また、本件訴えは却下されるべきであるが、本件イリノイ訴訟がまだ本案訴訟に至っていないことからすると、米国の裁判所において、管轄なしと判断される可能性が存在するので、手続を停止しておくことが相当である。手続停止の制度は、我が国の民訴法典には存在しないが、民事調停規則五条などに見られる規律であるから、受け入れ難いものではない。
(2)クリーン・ハンズの原則違反、訴権の濫用及び信義則違反について
ア クリーン・ハンズの原則違反
原告らは、本件訴訟の提起をもって被告USOが正義の実現を求めて提起した本件イリノイ訴訟を妨害するものであるから、本件訴えは、クリーン・ハンズの原則に違反し日本法上の公序に反するものとしてこれを却下すべきである。
イ 訴権の濫用
本件訴えは、最高裁昭和五三年七月一〇日第一小法廷判決(民集三二巻五号八八八頁)に照らしても、本件イリノイ訴訟が係属しているなどの状況下では不当であるから、訴権の濫用として許されないので、これを却下すべきである。
ウ 信義則違反
本件訴えは、国際的二重起訴における後訴に当たるので、最高裁昭和四七年七月一四日第一小法廷判決(民集二〇巻六号一一七三頁)に照らしても、民事訴訟法二条所定の信義則に違反するから、これを却下すべきである。
三 被告らの本案前の主張に対する原告らの主張
(1)裁判権等について
ア 裁判管轄について
(ア)どのような場合に我が国の国際裁判管轄を肯定すべきかについては、国際的に承認された一般的な準則が存在せず、国際的慣習法の成熟も十分ではないため、当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により条理に従って決定するのが相当であり、我が国の民訴法の規定する裁判籍のいずれかが我が国内にあるときは、原則として、我が国の裁判所に提起された訴訟事件につき、被告を我が国の裁判権に服させるのが相当であるが、我が国で裁判を行うことが当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があると認められる場合には、我が国の国際裁判管轄を否定すべきである。
(イ)上記基準に照らすと、以下のとおり、本件訴訟については我が国に国際裁判管轄がある。
〔1〕普通裁判籍
被告USOの日本における主たる事務所は、旭工業の事務所所在地と同一の、東京都渋谷区《番地略》であり、また、被告USOの代表者である甲野太郎の自宅住所は東京都渋谷区《番地略》であるから、民訴法四条五項により、東京地方裁判所に被告USOの普通裁判籍が認められる。
〔2〕特別裁判籍(不法行為地)
被告らが不法行為として主張する本件預金担保の設定及びその実行は、いずれも日本国内で行われたものであるから、民訴法五条九号により、東京地方裁判所に特別裁判籍が認められる。
(ウ)特段の事情の不存在
〔1〕本件預金担保の設定及びその実行、本件預金担保の対象となった預金の原資となる小パートナーシップからの本件配当金の送金行為、その他被告USOや旭工業グループとの間の銀行取引は、すべて日本国内で行われたものである。
〔2〕被告USOの当時の代表者である甲野や現在の代表者である甲野太郎を含めた当事者は我が国に住所を有しており、重要な証拠はすべて日本国内に存在する。
〔3〕被告USOは、設立の準拠法が米国デラウエア州法であるものの、実質は、小パートナーシップの持分を有するためだけに設立されたものにすぎないし、その出資者である旭工業の関連会社として、甲野が日本国内において支配していた会社である。
〔4〕本件預金担保の設定及びその実行は、原告みずほBKと旭工業グループとの間の銀行取引の一環として行われたものであるところ、原告みずほBKと旭工業、アサヒコーポレーション、アサヒホームとの各銀行取引約定においては、東京地方裁判所を専属管轄とする旨の合意がされているのであるから、原告みずほBKと旭工業グループの一つである被告USOとの間にも、東京地方裁判所を専属管轄とする黙示の合意が成立したものというべきである。
〔5〕被告らと米国イリノイ州との関係については、被告USOがその持分を有していた小パートナーシップが、同州所在の本件投資不動産を保有する大パートナーシップの持分を有していたという、間接的かつ極めて重要性の低い事実しか存在しない。
〔6〕本件イリノイ訴訟における被告USOの主張は、明らかに事実に反しており濫訴に当たる。
〔7〕したがって、本件に関する訴訟を米国イリノイ州で行うことこそが、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念に反するというべきであるから、上記特段の事情はない。
イ 国際的二重起訴について
(ア)民訴法一四二条にいう「裁判所」とは、我が国の裁判所を意味するものであり、外国の裁判所を含まないと解すべきであるから、国際的二重起訴は実定法上規制されていない。
(イ)もっとも、民訴法が一定の承認要件の下に外国判決の国内的効力を承認する制度を設けている趣旨から、国際的な二重起訴の場合にも、先行する外国訴訟について本案判決がされてそれが確定に至ることが相当の確実性をもって予測され、かつ、その判決が我が国において承認される可能性があるときは、判決の抵触の防止や当事者の公平、裁判の適正・迅速、更には訴訟経済といった観点から、二重起訴の禁止の法理の類推の余地がありうるが、以下のとおり、本件に二重起訴の禁止法理の類推適用をする余地はない。
〔1〕本件イリノイ訴訟においては、同訴訟の被告である本件原告らに訴状送達がすべて完了したのは平成一七年八月二九日にすぎず、そして、本件原告らがその答弁書を提出したのは同年一一月一八日であって、訴訟当事者全員の参加の進行協議期日が平成一八年一月一九日に指定されるなどしているものの、いまだ本案については審理すら開始されていないのであるから、将来において本件イリノイ訴訟についての本案判決が下され、それが確定するに至るかどうかについて、現段階において、相当の確実性をもって予測することができないことは明らかである。
なお、原告らの本件訴訟提起は平成一七年一一月二日であるから、本件イリノイ訴訟の訴状の送達を受けてから約二か月後の提訴であるので、被告らの主張は失当である。
〔2〕本件イリノイ訴訟の本案判決が確定に至るか否かは現段階では不明であるから、外国判決の承認条件である民訴法一一八条各号の要件の該当性につき判断することはできず、我が国における承認の可能性が認められるともいえないことも明らかである。
(ウ)したがって、本件においては、その前提となるべき基礎的事実を欠いていることは明らかであるから、二重起訴の禁止法理の類推適用により本件訴訟が却下されるべきではない。
(3)本件訴訟手続の中止について
我が国の民訴法上では、訴訟手続の中止が認められるのは、裁判所の職務執行不能による場合(同法一三〇条)及び当事者の故障による場合(同法一三一条)に限られており、国際的な二重起訴の場合に裁判所に訴訟手続を中止する権限を認める成文上の根拠はないから、被告らの主張は失当である。
(4)被告松田の訴訟行為等について
ア 被告松田は、甲野らの民事再生手続につき監督委員であったが、その監督委員の同意なく提起された本件イリノイ訴訟は、莫大な訴訟費用を要するものであって、民事再生法四一条等に反する違法行為である。
イ 被告松田は、平成一七年一二月六日の本件第一回口頭弁論期日において、被告USO及び甲野の提起した本件イリノイ訴訟における甲野の原告らに対する請求には法的理由がないことを理由に、本件訴訟については請求を認諾する意向を表明していた。しかも、被告松田においては、甲野の提起した本件イリノイ訴訟を取り下げている。にもかかわらず、被告松田は、本件訴訟について本案前の答弁をし、被告USOの主張を援用するなどしているので、当該訴訟行為は、訴訟手続上の信義則に違反する。
四 被告松田の反論
(1)民事再生手続中における訴えの提起は、監督委員の同意を要する事項とされていないのであるから、原告ら主張の訴訟提起は何ら違法な行為ではない。
(2)原告らの信義則違反の主張は争う。
理 由
第一 裁判権等について
一 本件経過等
《証拠略》によると、以下の事実が認められる。
(1)IBJは、旭工業との間で昭和五四年二月二八日に、アサヒコーポレーションとの間で平成四年二月二八日に、アサヒホームとの間で同年一二月二八日に、それぞれ銀行取引約定を締結したが、同取引に係る訴訟については、いずれも東京地方裁判所を専属管轄とする旨の合意がされている。
(2)IBJは、旭工業に対し、平成二年二月二八日、被告USOへの出資費用として、平成七年二月二八日に一括返済する旨定めて、一五億円を貸し付けた(以下「本件貸付」という。)。そこで、旭工業は、本件貸付金を原資として被告USOに出資し、被告USOは、同資金を利用して小パートナーシップ持分を取得した。
(3)旭工業及び被告USOの当時の代表取締役であった甲野は、平成一三年七月二六日、IBJに対し、本件貸付の目的が前項のとおりであること、小パートナーシップからの配当金を本件貸付の返済に充当することを確認し、同内容の確認書(以下「確認書」という。)を作成した。
(4)被告USOは、平成一三年九月二五日、小パートナーシップから、本件配当金として六九七万五四二二・一三米ドルを受領した。本件配当金は、小パートナーシップが当時IBJの本店に有していた預金口座より、米ドルから日本円で八億〇九〇三万七〇六九円に転換の上、被告USOのIBJ東京支店の別紙預金目録一記載の預金口座に振り込まれ、更に、同口座からサンフーズのIBJ東京支店の預金口座に振り込まれた。
(5)サンフーズは、IBJに対し、平成一三年九月二八日、本件確認書に従い、旭工業がIBJに対して負担する債務を担保するために、IBJに対して有していた別紙預金担保目録記載の預金に、第三者担保提供の形で、旭工業とIBJとの間の銀行取引約定の内容を承認した上で、本件預金担保を設定した。
なお、サンフーズは、当時被告USOの一〇〇パーセント株主であった会社であり、甲野がその一〇〇パーセントの株式を有し、かつ代表取締役を務めていた。
(6)IBJの旭工業グループに対する権利義務を承継した原告みずほBKは、旭工業が、平成一四年一二月三〇日を期限とする債務(平成一三年一二月三〇日付け手形貸付に基づく六八億九五〇〇万円の貸付債務)の返済を遅滞したため、平成一五年三月三一日、サンフーズに通知の上、本件預金担保の実行をし、八億〇九三四万四九一九円(預金元金八億〇九二九万五九六一円、利息金四万八九五八円)を旭工業の上記貸付債務に充当した。
(7)甲野は、平成一六年五月一九日、旭工業、アサヒホーム、アサヒコーポレーションと共に、東京地方裁判所に対して民事再生手続開始の申立てを行い(甲野につき同裁判所同年(再)第九三号、旭工業につき同第九〇号、アサヒホームにつき同第九一号、アサヒコーポレーションにつき第九二号)、同年五月二七日、同裁判所から、それぞれ同手続の開始決定を受け、いずれも被告松田が監督委員に選任された。その後、旭工業、アサヒホーム及びアサヒコーポレーションは、平成一七年五月一二日、東京地方裁判所の職権により、また、甲野は、有限会社アグラパートナーズの債権者申立により、同裁判所から、それぞれ破産手続開始決定を受け、被告松田が、甲野、旭工業、アサヒホーム及びアサヒコーポレーションの各破産事件の破産管財人に選任された。
(8)被告USO及び甲野は、上記民事再生手続中の平成一七年三月三〇日、米国イリノイ州クック郡巡回裁判所衡平法部に対し、本件イリノイ訴訟の訴状を提出し,同年四月二二日、同裁判所から、第一回修正訴状を受理する旨の決定を受けた。
(9)原告みずほBK及び原告みずほFSは、平成一七年八月二四日に本件イリノイ訴訟の訴状の送達を受け、また、原告みずほCBは、同月二九日に同訴状の送達を受けたので、原告らは、米国イリノイ州クック郡巡回裁判所衡平法部に対し、同年一一月一八日、訴状の却下の申立書を提出した。
(10)甲野は、被告松田を通じて、米国イリノイ州クック郡巡回裁判所に対し、平成一七年一二月二一日、本件イリノイ訴訟の訴え取下書を提出した。
(11)原告らは、イリノイ州北部連邦地方裁判所に対し、平成一八年一月二五日、本件イリノイ訴訟につき、移送の申立てをした。被告USOは、上記移送の不適法を主張して、本件イリノイ訴訟をイリノイ州裁判所に差し戻す旨の申立てをしたが、平成一八年七月二八日、イリノイ州北部連邦地方裁判所は同申立てを却下した。同裁判所においても、同訴訟につき、いまだに本案審理は開始されていない。
(12)原告らは、当庁に対し、平成一七年一一月二日、本件訴訟を提起した。
二 本件訴訟の国際裁判管轄について
(1)被告が我が国に住所を有しない場合であっても、我が国と法的関連を有する事件について我が国の国際裁判管轄を肯定すべき場合のあることは、否定し得ないところであるが、どのような場合に我が国の国際裁判管轄を肯定すべきかについては、国際的に承認された一般的な準則が存在せず、国際的慣習法の成熟も十分ではないため、当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により条理に従って決定するのが相当である(最高裁昭和五六年一〇月一六日第二小法廷判決・民集三五巻七号一二二四頁、同平成八年六月二四日第二小法廷判決・民集五〇巻七号一四五一頁)。そして、我が国の民訴法の規定する裁判籍のいずれかが我が国内にあるときは、原則として、我が国の裁判所に提起された訴訟事件につき、被告を我が国の裁判権に服させるのが相当であるが、我が国で裁判を行うことが当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があると認められる場合には、我が国の国際裁判管轄を否定すべきであると解するのが相当である(最高裁平成九年一一月一一日第三小法廷判決・民集五一巻一〇号四〇五五頁)。
(2)我が国内の裁判籍について
ア 被告USOは、デラウエア州法に基づいて設立された外国の社団であるところ、その日本における主たる営業所は、東京都渋谷区《番地略》にあり、また、代表者である甲野太郎の住所は、東京都渋谷区《番地略》であるから(なお、設立時の代表者である甲野の住所も同じである。)、民訴法四条一項、同条五項により、当裁判所が管轄する東京都に被告USOの普通裁判籍が認められる。
イ 被告松田は、甲野の破産管財人として本件訴訟を提起されているところ、被告松田の事務所所在地は、東京都千代田区《番地略》であることが記録上明らかであるから、民訴法五条五号により、当裁判所が管轄する東京都に被告松田の特別裁判籍が認められる。
ウ そこで、更に他の規定による裁判籍の有無についても検討する。
(ア)別紙「損害賠償債務等目録」(1)記載に係る債務不存在確認請求について
原告らの別紙「損害賠償債務等目録」(1)記載の債務不存在の確認請求は、不法行為に基づく損害賠償債務の不存在を確認するものであるところ、民訴法五条九号にいう「不法行為があった地」とは、不法行為の実行行為がされた地及び損害が発生した地というべきであって、実行行為は、その一部がされた地も含むというべきである。
本件においては、上記損害賠償の請求をする被告USOがその請求原因を明確にしないため、必ずしも不法行為の実行行為が特定されているものと断定することはできない。しかし、弁論の全趣旨によれば、少なくとも、IBJが本件預金担保を設定し、それを原告みずほBKが実行したことが不法行為として主張されていることが認められる。
そして、上記一の認定事実と《証拠略》によれば、本件預金担保は我が国の東京都内において設定されたこと、本件配当金は、小パートナーシップがIBJ本店に有していた預金口座から被告USOの同東京支店の預金口座に振り込まれ、更に同口座からサンフーズの同銀行の同支店の預金口座に振り込まれたこと、IBJを承継した原告みずほBKは、旭工業が、平成一四年一二月三〇日を期限とする債務(平成一三年一二月三〇日付け手形貸付に基づく六八億九五〇〇万円の貸付債務)の返済を遅滞したため、平成一五年三月三一日、サンフーズに通知の上、本件預金担保の実行をし、八億〇九三四万四九一九円(預金元金八億〇九二九万五九六一円、利息金四万八九五八円)を旭工業の上記貸付債務に充当したことが認められる。
そうすると、民訴法五条九号により、上記請求については、我が国の東京都に不法行為地の裁判籍があるというべきである。
なお、被告らは、上記不法行為は実質的にはイリノイ州でされたものである旨主張するが、その主張自体分明ではないのみならず、これを裏付ける的確な証拠はない。
(イ)その余の債務不存在確認請求について
被告USOは、別紙「損害賠償債務等目録」(2)ないし(5)記載に係る請求について、その請求原因を明らかにしないが、弁論の全趣旨によれば、上記(ア)の行為と密接に関連するものであることが認められるから、民訴法七条により、(ア)のとおり別紙「損害賠償債務等目録」(1)記載に係る請求につき裁判籍を有する東京地方裁判所にその裁判籍が認められる(最高裁平成一三年六月八日第二小法廷判決・民集五五巻四号七二七頁)。
(ウ)そうすると、本件各請求につき、我が国の民訴法の規定する裁判籍が我が国内にあることが認められる。
(3)そこで、我が国で裁判を行うことが当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があるか否かについて検討する。
ア 被告らは、もっとも効果的な訴訟を行える国が、裁判権を行使するのであれば、その国での訴訟が許されてしかるべきである旨主張する。
しかし、上記一の認定事実と《証拠略》によると、被告USOは、設立の準拠法が米国デラウエア州法であるが、その設立目的は小パートナーシップの持分を有するためであり、米国での営業活動等の実体はないこと、被告USOの代表者であった甲野及び現在の代表者である甲野太郎は我が国に住所を有しており、本件預金担保の対象となった預金の原資となる小パートナーシップからの本件配当金の送金行為並びに本件預金担保の設定及びその実行は、いずれも日本国内で行われたものであり、その関係証拠は人証及び書証を含めて日本国内に存在することが認められ、準拠法も日本法であると認めるのが相当である。
そうすると、被告らの上記主張はその前提を欠いており採用することができない。
イ 次に、被告らは、米国の裁判所で下される判決が我が国で承認される可能性があるのであれば、特段の事情のない限り、我が国では後訴を追行させるべきではないこと、本件の場合、民訴法一一八条のうち、一号、二号、四号の角度から判断して、米国の裁判所の判決が我が国で承認されないと考えるべき事情がうかがわれないから、承認されるべき可能性があること、原告らが本件訴訟を提起したのは本件イリノイ訴訟の提起から約八か月もたってからのことであって、原告らにおいて差し迫った事情はなかったことから、原告らの本件訴訟について、わが国の国際裁判管轄を否定すべきである旨主張する。
しかし、上記一の認定事実によると、本件イリノイ訴訟はいまだ本案審理に至っておらず、管轄等を争っている段階にあること、そして、同訴訟につき本案判決がされてそれが確定することは不確実な状況にあり、同判決を相当の確実性をもって予測することはできないこと、そもそも、原告らは単に先行訴訟である本件イリノイ訴訟に対抗するために債務不存在確認訴訟を提起したものではなく、本件イリノイ訴訟に係る紛争は本来我が国の裁判所において解決をはかるべき案件であるとの理由で本件訴訟を提起したものであること、さらに、原告みずほBK及び原告みずほFSは、平成一七年八月二四日に本件イリノイ訴訟の訴状の送達を受け、また、原告みずほCBは、同月二九日に同訴状の送達を受けたが、原告らは、当庁に対し、同年一一月二日、速やかに本件訴訟を提起していることが認められる。
そうすると、被告らの上記主張は理由がない。
ウ さらに、被告らは、先行する外国訴訟は、我が国における訴え提起と同様に原則として尊重されるべきであり、同一訴訟物に関して起こされた日本での訴訟は、原則として許されないと主張する。
しかし、先行する外国訴訟があることをもって、ただちに我が国で裁判を行うことが当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があるということはできない。
もっとも、被告らは、証拠開示手続も一部開始されているので、本件イリノイ訴訟が本案判決に達する可能性は高い旨主張するが、これを具体的に認めるに足りる証拠はない。
また、被告らは、本件イリノイ訴訟においては、訴訟提起後多くの訴訟活動がされており、上記訴訟活動を無駄にしたのでは、訴訟経済に反すると主張する。しかし、上記のとおり、本件イリノイ訴訟の審理としては、いまだ本案審理には至っていないから、被告らの上記主張は失当である。
加えて、被告らは、原告らが本件イリノイ訴訟を遅延させるため、平成一八年一月に、本件イリノイ訴訟を上記連邦地方裁判所に移送する旨の申立てをするなどしていると主張する。しかし、移送の申立てをしただけで訴訟の遅延目的と断定することはできないのみならず、本件全証拠によっても、原告らが本件イリノイ訴訟を遅延させるための訴訟活動をしていることを裏付ける具体的事情を認定することはできないから、被告らの上記主張は理由がない。
さらに、被告らは、原告らが米国イリノイ州で訴訟の被告となりうることを予測していたと主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠はない。
エ その他、本件訴訟について我が国の裁判所の国際裁判管轄を否定すべき特段の事情があるとは認められない。
三 国際的二重起訴について
被告らは、本件訴えは国際的二重起訴に当たるから、却下されるべきであると主張するが、民訴法一四二条の「裁判所」は、我が国の裁判所をいうのであって、外国の裁判所を含まないというべきであり、また、国際的二重起訴を禁止する慣習、条理があるとまでは認められないから、上記主張を採用することができない。
四 本件訴訟手続の中止について
被告らは、本件訴訟が国際的二重起訴に当たりうることを理由に本件訴訟を中止すべきであると主張するが、民訴法上、訴訟手続の中止が認められるのは、裁判所の職務執行不能による場合(同法一三〇条)及び当事者の故障による場合(同法一三一条)に限られており、上記主張は明文の根拠を欠くものであるから、同主張は採用しない。
なお、被告ら主張の手続停止は相当ではないというべきである。
第二 クリーン・ハンズの原則違反、訴権の濫用及び信義則違反について
一 クリーン・ハンズの原則違反
被告らは、本件訴えがクリーン・ハンズの原則に違反する旨主張するが、本件全証拠によってもこれを裏付ける具体的な事情を認定することはできない。
したがって、被告らの上記主張は理由がない。
二 訴権の濫用
被告らは、本件訴えが訴権の濫用として許されない旨主張し、最高裁昭和五三年七月一〇日第一小法廷判決(民集三二巻五号八八八頁)を援用する。
しかし、上記最高裁第一小法廷判決は、有限会社の社員総会決議不存在確認を求める訴えの提起に関する事案に対するものであって、本件とは事案を異にするものである。のみならず、被告ら主張の訴権の濫用を裏付ける具体的な事情を認めるに足りる的確な証拠はないから、原告らの本件訴訟の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものと認めることはできない。
そうすると、被告らの上記主張は理由がない。
三 信義則違反
被告らは、本件訴えが民事訴訟法二条所定の信義則に違反する旨主張し、最高裁昭和四七年七月一四日第一小法廷判決(民集二〇巻六号一一七三頁)を援用する。
しかし、本件全証拠によっても、被告ら主張の信義則に違反する具体的な事情を認定することはできないから、被告らの上記主張はその前提を欠いており失当である。
第三 結論
よって、被告らの本案前の主張はいずれも理由がないので、主文のとおり中間判決する。
(裁判長裁判官 河野清孝 裁判官 北澤純一 齊藤学)
別紙 損害賠償債務等目録
(1)原告みずほBKが別紙預金担保目録記載の預金担保の実行として平成一五年三月三一日に八億〇九三四万四九一九円を取得したことに基づく不法行為を原因とする原告みずほBK、原告みずほCB及び原告みずほFSの被告USOに対する損害賠償債務
(2)原告みずほBKが別紙預金担保目録記載の預金担保の実行として平成一五年三月三一日に八億〇九三四万四九一九円を取得したことに基づく不当利得を原因とする原告みずほBK、原告みずほCB及び原告みずほFSの被告USOに対する返還債務
(3)原告みずほBKが別紙預金担保目録記載の預金担保の実行として平成一五年三月三一日に八億〇九三四万四九一九円を取得したことに基づく債務不履行を原因とする原告みずほBK、原告みずほCB及び原告みずほFSの被告USOに対する損害賠償債務
(4)原告みずほBKと甲野松夫との間の銀行取引に関し、原告みずほBKの債務不履行(信認義務違反又は信義則違反)又は不法行為を原因とする原告みずほBKの甲野松夫に対する損害賠償債務
(5)原告みずほBKと甲野松夫との間の銀行取引に関する、原告みずほBK、原告みずほCB、原告みずほFS、みずほ証券株式会社、池田靖、興和リアルティ(アメリカ)LTD甲野松夫、旭工業株式会社、有限会社アサヒホーム、有限会社アサヒコーポレーション、サンフーズサービス有限会社及び被告USOに対する共同不法行為を原因とする、原告みずほBK、原告みずほCB及び原告みずほFSの被告USOに対する損害賠償債務
別紙 預金担保目録
設定日 平成一三年九月二八日
担保提供者 サンフーズサービス有限会社
債務者 旭工業株式会社
被担保債務 旭工業株式会社が株式会社日本興業銀行に対し現在並びに将来負担する一切の債務
預金債権
種類並びに期間 一年
証券番号 《略》
金額 八億〇九〇三万七〇六九円
預入日 二〇〇一年九月二八日
期日 二〇〇二年九月二八日
特約 増額自動継続
別紙 預金目録
一 支店 東京支店
種類 外貨普通預金
口座番号 《略》
口座名義人 被告USO
二 支店 東京支店
種類 外貨普通預金
口座番号 《略》
口座名義人 被告USO