2009年度早稲田大学法学部「国際民事訴訟法(含倒産手続)II」試験問題(道垣内正人)
ルール
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参考文献その他の調査を行うことは自由ですが、他人の見解を求めること及び他人の見解に従うことは禁止します。
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答案作成時間は自由ですが、答案送付期限は、2009年12月27日(日) 13:00です。
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答案は下記の要領で作成し、[email protected]及び[email protected]の2ヵ所宛に、添付ファイルで送付してください。前者のアドレスのmasatoとdogauchiの間はアンダーバーです。
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メールの件名は、必ず、「国際民事訴訟法II」として下さい(分類のためです)。
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文書の形式は下記の通り。
・A4サイズの紙を設定すること。
・原則として、マイクロソフト社のワードの標準的なページ設定とすること。
・頁番号を中央下に付け、最初の行の中央に「国際民事訴訟法II」、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載すること。
・10.5ポイント以上の読みやすいフォントを使用し、また、全体として読みやすくレイアウトすること。
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枚数制限はありません。不必要に長くなく、内容的に十分なものが期待されています。
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判例・学説の引用が必要です。他の人による検証を可能とするように正確な出典が必要です。
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答案の作成上、より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成してください。
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これは、成績評価のための筆記試験として100%分に該当するものにするものです。ただし、講義への出欠を何回か記録しているので、採点に当たってこの記録を考慮します。
問題
1. 電子製品製造会社Y(日本法人)は、アメリカ市場向けの製品αを商社A(韓国法人)から受注し、これを生産してAに引き渡した。Aはこれを小売業者B(カリフォルニア州法人)に売り、Bはこれを全米の自社の小売店網を通じて販売した。
Xは、この製品αをニューヨーク所在のBの小売店で購入して使用していたところ、製品が異常に発熱し、大やけどを負った。そこで、Xは、B・A・Yを被告とする訴訟をニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所に提起し、B・A・Yは連帯して500万ドルを支払え、との判決が下され、確定した(以下、「本件ニューヨーク判決」という)。この500万ドルの内訳は、Xの被った損害を填補するための100万ドルと、B・A・Yが重大な過失により危険な商品を流通に置いたことを理由とする懲罰的損害賠償400万ドルであった。
この判決の直後、BとAは倒産したため、Xは東京地方裁判所においてYに対し、本件ニューヨーク判決の執行を求める訴えを提起した。
以下の各設問はそれぞれ独立しており、それぞれに記載した事実はその設問についてのみのものとする。また、日本には国際裁判管轄についての明文の定めとして、Annex記載の規定があると仮定する。
(1) 民事執行法24条3項により適用される民事訴訟法118条の各要件のうち、1号の要件をこのニューヨークの判決は具備しているか。
(2) ニューヨークでの訴訟に関する訴状及び呼び出し状のYへの送達について、Xの代理人であるニューヨーク州弁護士Cは知り合いの日本の弁護士Dにこの業務を依頼し、これを
引き受けたDは、Yの受領確認ができるCE運送会社の宅配サービスを利用してY宛てにこの訴状及び呼び出し状を送付し、Yの配送物受領担当者の署名がある受領確認書をCに送付したとする。本件ニューヨーク判決の日本での執行にあたって、このような方法で訴訟の開始に必要な送達が行われたことはどのように評価されるか。
(3) Yの代理人である日本の弁護士Eは、本件ニューヨーク判決の日本での執行について、その判決を下したニューヨークの裁判所の判決を仔細に検討した。そして、本件ニューヨーク判決が認定した事実の中には、Yに重大な過失があったことを示すものはなく、Bが商品αの品質検査を全くしなかったことが認定され、Bほどの大きな小売業者に期待される市場への責任を果たさなかったことを理由として懲罰的損害賠償の支払いを命じらレ邸れていることを発見した。そこでEは、Bに対してであればともかく、Yに対して懲罰的損害賠償の支払いを命ずることは不合理であり、したがって、このような事実認定及び判決理由に不備のある本件ニューヨーク判決の執行は全面的に拒否するべきことを主張する方針である。あなたが、この方針でよいか否かについてYから意見(セカンド・オピニオン)を求められた弁護士である仮定して、日本の判例等に照らして、この方針についてどのようにコメントするか。
(4) ニューヨークでは、本件ニューヨーク判決確定後、Xの代理人であるニューヨーク州弁護士Cがこの訴訟の過程でこれに参加した複数の陪審員にX勝訴の評決をしてくれれば金品を渡すことを約し、実際にこれを渡していたことが発覚し、C及び陪審員に対する刑事裁判が始まっている。また、本件ニューヨーク判決についてYは再審手続を開始している。そのような状況において、Xが本件ニューヨーク判決の日本での執行を求めているとすると、日本法上、これらの事情はどのように評価され、どのような判断が示されるであろうか。
(5) Yの弁護士EFは、本件ニューヨーク判決が確定する前の段階で、Xを被告として、東京地裁に債務不存在確認請求訴訟を提起することを検討していた。仮にその段階でこの対抗訟を提起していたとした場合、どのような点が問題とされ、その訴えはどのように扱われたであろうか。
Annex:
国際裁判管轄ルール
P条「@日本の裁判所は、日本国内に事務所又は営業所を有する者に対する訴えでその事務所又は営業所における業務に関するものについて、管轄権を有する。」
A「日本の裁判所は、日本において事業を継続して行う者に対する訴えでその者の日本における業務に関するもの(前項の訴えを除く。)について、管轄権を有する。」
Q条「日本の裁判所は、不法行為に関する訴えについて、不法行為があった地が日本国内にあるときは、管轄権を有する。ただし、外国で行われた加害行為の結果が日本国内で発生した場合において、日本国内における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは、この限りでない。」
R条「裁判所は、訴えについて管轄権を有することとなる場合においても、事案の性質、当事者及び尋問を受けるべき証人の住所、使用すべき検証物の所在地その他の事情を考慮して、当事者間の衡平を害し、又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があると認めるときは、訴えの全部又は一部を却下することができる。」