早稲田大学法科大学院2009年度秋「国際私法I」試験問題(道垣内正人)

 

ルール

-      参考文献その他の調査を行うことは自由ですが、他人の見解を求めること及び他人の見解に従うことは禁止します。

-      答案作成時間は自由ですが、解答送付期限は、20091227()20:00です。

-      答案は下記の要領で作成し、[email protected]及び[email protected]の2ヵ所宛に、添付ファイルで送付してください。前者のアドレスのmasatodogauchiの間はアンダーバーです。

-      メールの件名は、必ず、「国際私法I」として下さい(分類のためです)。

-      文書の形式は下記の通り。

A4サイズの紙を設定すること。

原則として、マイクロソフト社のワードの標準的なページ設定とすること。

頁番号を中央下に付け、最初の行の中央に「国際私法I」、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載してください。

10.5ポイント以上の読みやすいフォントを使用し、また、全体として読みやすくレイアウトしてください。

-      枚数制限はありません。不必要に長くなく、内容的に十分なものが期待されています。

-      判例・学説の引用が必要です。他の人による検証を可能とするように正確な出典が必要です。

-      答案の作成上、より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成してください。

 

問題

 

 88歳で死亡した甲国人A(男性)は、28歳で日本に移住してきて以来、60年間にわたって日本に居住し、ビジネスで成功を収め、晩年は資産総額で世界のトップ10にランクインしていた。

 Aは、22歳のときに甲国から乙国に移住し、当時20歳の乙国人女性Bと乙国で婚姻して平穏な生活を送っていた。しかし、Aは28歳のある日、Bを放置したまま乙国を出て日本に移住し、以来、AとBと間の音信は途絶えていた。Aの失踪後、Bは他の男性Cと婚姻はしなかったが、婚姻類似の関係をもち、約10年間、同居生活をしていた。現在、Cは既に死亡し、Bは、Aの乙国出国から8ヶ月後にBが出産した子D(現在60)と一緒に生活している。

 Aは、来日後、30歳の時に、Bとの婚姻を隠し、日本において知り合った日本人女性Eと婚姻した。このEとの婚姻はA・Eが居住していた東京都港区長への婚姻届の提出という方式で行った。その際、Aは、甲国が内戦状態にあって、甲国政府がAについて甲国法上の婚姻要件を具備していることの証明書を発行してくれないけれども、自分は独身であって甲国法上の婚姻障害は存在しない旨の申述書を提出し、港区長はそれに基づいて婚姻届を受理したのであった。A・E間に子はない。

 Aは富豪として有名であったことから、その死亡は世界的なニュースとなり、その生い立ちを辿るニュース映像は乙国でも放映され、Bはそれが自分の夫のことであることを知った。そして、BはDとともに直ちに日本にやってきて、Eとの間で遺産争いとなり、日本の裁判所に持ち込まれた。

 以上を前提として、以下の問いに答えなさい。なお、各問いは独立のものとし、法の適用に関する通則法は、答案を含め、「通則法」と略することとする。

 

(1) Aは一生を通じてイスラム教徒であった。Bは出生以来一貫してキリスト教徒である。甲国法によれば、イスラム教徒が異教徒と婚姻することは禁止されているが、乙国には宗教による婚姻禁止ルールは存在しない。乙国の国際私法は婚姻の実質的成立要件について婚姻挙行地法主義を採用していることから、乙国ではA・B間の婚姻は正式な婚姻とされている。日本でのAの遺産処理において、A・B間の婚姻の有効性はどのように判断されるべきか。

 

(2) A・B間の婚姻が有効に成立していると仮定する。そうすると、Aは配偶者を有していながら、Eと婚姻をしたことになるが、Aの本国法(甲国法)では男性の重婚は認められている。日本において、A・E間の婚姻は有効に成立したということができるか。通則法42条の適用上、公序違反か否かの判断時点は、A・Eの婚姻時か、それともAの相続問題の発生時か。Aが港区長に提出した申述書により、Eは、Aが独身であるとBの登場まで信じていたとして、このことは公序違反か否かの判断に影響を与えるか。

 

(3) A・B間の婚姻が有効に成立していると仮定する。甲国法の相続法によれば、男性の被相続人に「配偶者」(甲国は男性の重婚を認めていることから複数形で表記されている。)がいる場合には、その者に相続権があるとされているものの、その規定の解釈に関する甲国の最高裁判所の判例により、当該「配偶者」には、被相続人との婚姻中に、いかなる理由があれ、他の異性との間に婚姻類似の生活関係を持った者は含まないとされている。そのため、甲国法上は、Bには相続権はないとされる。この甲国法の適用結果は通則法42条の公序に違反するか。

 

(4) 甲国法によれば被相続人の子には相続権が認められる。Aの遺産争いの中で、DはAの嫡出子であると主張している。これに対し、Eは、AはBとCとの間の子である可能性が高く、少なくともAの子ではないと主張している。甲国法によれば、婚姻中に妻が懐胎した子は夫の子と推定し、これを覆す嫡出否認の訴えを利害関係人は提起できるものの、その期間は子の出生から3年以内であることが絶対条件とされ、例外は認められない。他方、乙国法によれば、嫡出推定に関する規定はなく、証拠に基づいて判断するとされ、最近の乙国の最高裁判所の判例によれば、DNA検査により定めることとされている。しかし、本件では、Eは個人(死者)の尊厳を理由に亡AのDNAサンプルの提出を拒否している。日本におけるAの遺産処理上、Dに相続権があるか否かはどのように判断されるか。