早稲田大学法科大学院2009年度秋「国際関係私法基礎」試験問題(道垣内正人)

 

ルール

-      参考文献その他の調査を行うことは自由ですが、他人の見解を求めること及び他人の見解に従うことは禁止します。

-      答案作成時間は自由ですが、解答送付期限は、20091223()13:00です。

-      答案は下記の要領で作成し、[email protected]及び[email protected]の2ヵ所宛に、添付ファイルで送付してください。前者のアドレスのmasatodogauchiの間はアンダーバーです。

-      メールの件名は、必ず、「国際関係私法基礎」として下さい(分類のためです)。

-      文書の形式は下記の通り。

A4サイズの紙を設定すること。

原則として、マイクロソフト社のワードの標準的なページ設定とすること。

頁番号を中央下に付け、最初の行の中央に「国際関係私法基礎」、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載してください。

10.5ポイント以上の読みやすいフォントを使用し、また、全体として読みやすくレイアウトしてください。

-      枚数制限はありません。不必要に長くなく、内容的に十分なものが期待されています。

-      判例・学説の引用が必要です。他の人による検証を可能とするように正確な出典が必要です。

-      答案の作成上、より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成してください。

 

問題

 

 日本法人A社は、甲国工場で医薬品αを製造し、世界中で販売しているところ、甲国工場の責任者から、洪水によりαの製造に必要な物質βを保管していた倉庫が損害を受け、βが不足し、このままでは甲国工場の製造ラインは停止するとの連絡があった。そこで、Aは、乙国法人B社との間で、純度99.99%以上のβ 50kgkgあたり7,000 USドルでBから購入し、BはBの乙国工場からAの甲国工場宛てに契約締結後10日以内に到着するようにこれを送付することを主要な内容とする契約を締結した(以下、「本件契約」という。)

 日本にはBの支店等の拠点はなく、アジア地区支店をシンガポールに有していることから、本件契約交渉はA本社(東京)の担当者aとBのアジア地区支店の担当者bとの間でされた。このアジア地区支店のここ数年間の売上げは、概ね中国市場60%、日本市場10%、その他の国・地域市場30%となっている。

 本件契約については、ab間の電話での主要な点についての合意の後、A本社から乙国のB本社宛に発注書が送付され、B本社からA本社へ了解した旨の受注確認書が送付されただけであり、BはAへの受注確認書の送付後、直ちにβを発送した。そのため、上記の目的物、価格、納期等の主要な点についてはAの発注書とBの受注確認書との間に相違点はないものの、仔細に見れば相違点もあり、Aの発注書には本件契約の準拠法は日本法であり、本件契約をめぐる一切の紛争は東京地裁の専属管轄とする旨の記載があり、他方、Bの受注確認書には本件契約の準拠法は乙国法であり、本件契約をめぐる一切の紛争は乙国での仲裁により解決する旨の記載があった。

 Aの甲国工場は、製造ライン停止に至る直前にB社製のβが到着したこともあり、十分な検査をすることなくこれを用いて医薬品αの製造を行った。そして、B社製のβを用いたαが丙国に出荷され、消費されてから1週間後、丙国でαが原因とみられる疾病が続発した。Aは直ちに丙国でのαの販売を中止するとともに、甲国工場を停止し、他の国々への出荷を中止する措置をとった。その後のAの調査及び甲国官憲の立入検査の結果、B社製βの純度は80%程度であり、有毒物質が10%以上混入していること、この有毒物質が丙国で発生した疾病の原因であることが判明した。

 なお、乙国は「国際物品売買契約に関する国際連合条約」(以下、「ウィーン売買条約」という)の非締約国である。

 以上を前提として、以下の問いに答えなさい。

 各問いは独立のものとし、法の適用に関する通則法は、答案を含め、「通則法」と略すこととする。また、日本には国際裁判管轄についての明文の定めとして、Annex記載の規定があると仮定する。

 

 (1) 本件契約の準拠法は何か。

 

 (2) AがBに対して不法行為に基づく損害賠償請求をすることができるか否かはいずれの国の法によって定まるか。

 

 (3) AがBに対して日本で契約違反及び不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起した場合、日本の裁判所には国際裁判管轄が認められるか。

 

 (4) 丙国で罹患したCからAに対する訴訟が提起され、丙国の裁判所はAに対して実損額賠償として総額900 US万ドル、懲罰的損害賠償として8,100 USドル、計9,000 USドルの支払いを命ずる判決を下し、これは確定した。この丙国判決は民事執行法243項により適用される民事訴訟法1182号及び4号の要件は具備していると仮定した上で、この丙国判決は日本でAに対して執行することができるか。

 

 (5) 丙国で罹患したCが日本でAに対して損害賠償請求訴訟を提起した場合、Aの損害賠償責任の有無及び範囲についての準拠法は何か。

 

 (6) 丙国で罹患したCが発症前に丁国に旅行し、そこで知人のDに医薬品αを分け与え、そのため、丁国でDが罹患したとする。Dが日本でAに対して損害賠償請求訴訟を提起した場合、Aの損害賠償責任の有無及び範囲についての準拠法は何か。

 

 Annex:

  国際裁判管轄ルール

P条「@日本の裁判所は、日本国内に事務所又は営業所を有する者に対する訴えでその事務所又は営業所における業務に関するものについて、管轄権を有する。」

A「日本の裁判所は、日本において事業を継続して行う者に対する訴えでその者の日本における業務に関するもの(上記@の訴えを除く。)について、管轄権を有する。」

 

Q条「日本の裁判所は、不法行為に関する訴えについて、不法行為があった地が日本国内にあるときは、管轄権を有する。ただし、外国で行われた加害行為の結果が日本国内で発生した場合において、日本国内における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは、この限りでない。」

 

R条「裁判所は、訴えについて管轄権を有することとなる場合においても、事案の性質、当事者及び尋問を受けるべき証人の住所、使用すべき検証物の所在地その他の事情を考慮して、当事者間の衡平を害し、又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があると認めるときは、訴えの全部又は一部を却下することができる。」