国際民事紛争処理

E0711007　濵野大樹

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第五　問題（５）

１．問題の所在

本件においては、本件訴訟の判決を日本で得ても、フィンランドは日本の判決を承認執行しないため、無意味な判決になるので、訴えの利益を欠くか、または日本の国際裁判管轄を否定すべき特段の事情があるかどうか、問題となる。

２．外国判決の承認・執行

　裁判は、国家の主権のうちの司法権の一作用としてなされる裁判権の行使の一態様であり、裁判所の判決による裁判権の発現である。裁判権の発現としての裁判の結果は、裁判権を行使した裁判所の属する国の領域内においてのみその効力を生ずる。ある国における裁判の結果は、他国において当然にその効力を生ずるものではない。

外国裁判所の判決の承認とは、外国裁判所の判決がそれを言い渡した国で有する既判力または形成力を、内国でも認めることを意味する。外国裁判所の判決を言い渡した国の法における効力を内国に拡張することから、判決効の内容および範囲は、その判決を言い渡した国の法による。

外国裁判所の判決の執行とは、外国裁判所の判決がその内容の強制的な実現をその言い渡した国の執行機関に命じるものであるから、内国において承認の要件を充足しているかどうかを審査したうえで、改めて外国裁判所の判決について執行判決を付与することを意味する。執行力について、内国における内国法上の執行力の付与と捉え、判決を言い渡した国の執行力は承認の対象にはならない。ただし、外国裁判所の判決は、それが承認および執行がされない場合であっても、それを内国訴訟において証拠方法として利用することはできる。

３．本件について

　ⅰ　訴えの利益について

　　　本件においては、本件訴訟の判決を日本で得ても、フィンランドは日本の判決を承認執行しないため、無意味な判決になるとして、訴えの利益を欠くかどうか、検討する。

　　　この点につき、給付判決を得ても、その給付の実現が法律上または事実上不可能あるいは著しく困難であっても、訴えの利益がないとはいえないとするべきである（最高裁昭和４１年３月１８日第二小法廷判決民集２０巻３号４６４頁）。なぜなら、強制執行が不可能であっても、給付請求権の存在を判決で確定しておくことに意味がある場合も考えられるからである。

　　　これを本件についてみると、Ｘが本件訴訟の勝訴判決を日本で得て、Ｙに対する損害賠償請求権の存在を確定したとき、フィンランドは日本の判決を承認執行しないとしても、Ｙがそれを履行しないことが報道等によりフィンランド国内に知れ渡った場合に、Ｙの企業活動へ悪影響がおよぶことが想定される。また、フィンランドが日本の判決を承認執行しないため、ＸがＹに対して本件と同様の訴訟をフィンランドで提起したとき、フィンランド法にもよるが、その証拠方法として本件訴訟の判決を利用することができることも考えられる。

　　　よって、本件訴訟の判決を日本で得ても、フィンランドは日本の判決を承認執行しないことをもって、訴えの利益を欠くとは直ちにいえない。

　ⅱ　国際裁判管轄を否定すべき特段の事情について

　　　本件においては、本件訴訟の判決を日本で得ても、フィンランドは日本の判決を承認執行しないため、国際裁判管轄を否定すべき特段の事情があるかどうか、検討する。

　　　この点につき、「第二　問題（２）３ ⅱ イ」で述べたとおり、日本の民訴法の規定する裁判籍のいずれかが日本国内にあるときは、原則として、日本の裁判所に提起された訴訟事件につき、被告を日本の裁判権に服させるのが相当であるが、日本で裁判を行うことが当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があると認められる場合には、日本の国際裁判管轄を否定すべきである。

　　　これを本件についてみると、不法行為地である日本に国際裁判管轄が認められるとしても、フィンランド法によればフィンランドに国際裁判管轄が認められるのであれば、フィンランドは日本の判決を承認執行しないため、フィンランドを法廷地とする方が便宜であるから、裁判所の裁量によって、その管轄権の行使を差し控えるべきであるとも考えられる。また、本件訴訟の裁判を日本の裁判所で行う場合におけるＹの利害について検討すると、Ｙは、本件訴訟の裁判が日本の裁判所で行われる場合には、それが、フィンランドの裁判所で行われる場合と比べ、より多くの費用と労力とを支出しなければならないことが予想される。

しかし、本件訴訟の裁判をフィンランドの裁判所で行う場合におけるＸの利害について検討すると、Ｘは、Ｙのように企業でなく一個人であり、本件訴訟の裁判がフィンランドの裁判所で行われる場合には、それが、日本の裁判所で行われる場合と比べ、その裁判の追行に要するＸの費用と労力とは莫大なものになると予想されるため、ＸがＹに対して不法行為の責任を追及することは事実上不可能になると推測される。Ｘにとっては、本件訴訟の裁判を日本の裁判所で行うことの利益と必要性は、重大である。

よって、本件訴訟の判決を日本で得ても、フィンランドは日本の判決を承認執行しないことを理由として、日本の裁判所に本件訴訟の国際裁判管轄権の行使を否定すべき、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情は認められない。