早稲田大学法科大学院2010年度夏「国際民事訴訟法」試験問題
ルール
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参考文献その他の調査を行うことは自由ですが、他人の見解を求めること及び他人の見解に従うことは禁止します。
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解答作成時間は自由ですが、解答送付期限は、2010年7月15日(木)9:00a.m.です。
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解答は下記の要領で作成し、[email protected]宛に、添付ファイルで送付してください。(emailアドレスの名前と氏の間の _ は、アンダーバーです。)
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メールの件名は、必ず、「WLS国際民事訴訟法」として下さい(分類のためです)。
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文書の形式は下記の通り。
・ A4サイズの紙を設定すること。
・ 原則として、マイクロソフト社のワードの標準的なページ設定とすること。
・ 頁番号を中央下に付け、最初の行の中央に「WLS国際民事訴訟法」、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載してください。
・ 10.5ポイント以上の読みやすいフォントを使用し、また、全体として読みやすくレイアウトしてください。
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枚数制限はありません。不必要に長くなく、内容的に十分なものが期待されています。
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判例・学説の引用が必要です。他の人による検証を可能とするように正確な出典が必要です。
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答案の作成上,より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成してください。
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これは、成績評価のための筆記試験として100%分に該当するものにするものです。
問題
日本法人Xは、A国法人Y1との間で、Xが指定する仕様の製品(本件製品)をY1が50万個製造し、これをXに納入すること等を定めた製造委託契約(本件契約)を締結した。本件契約には、本件契約の準拠法は日本法とする旨の条項がある。
B国法人Y2はY1の株式の100%を有するY1の親会社であるところ、本件契約に関連し、Xからの要請に基づき、Y2はXに対して、「Y2は親会社として、Y1がXのために完全な履行をすることを確保し、保証します」との書簡を送付している。この書簡は極めて簡単なもので、このことのほかは、日付と署名がある程度のものである(本件保証書簡)。
Xは、Y1から納入された本件製品を日本市場に出荷した。その後しばらくして、本件製品を使用していると頭痛がする等のクレイムが消費者から寄せられ、さらに、本件製品の瑕疵によると見られる体調不良の事例が発生していると報道されるに至った。そこで、Xは、本件製品はY1に製造委託したものであることを公表するとともに、本件製品購入契約の解除を希望する消費者は、販売店に本件製品を持参すれば引き替えに一律その販売価格の倍額を支払う旨発表した。そして、この措置を実施したために、最終的に、手続費用等を様々なコストを含めて計120億円の損害をXは被った。
XとY1とは、この120億円の負担について協議を行ったが、両者の主張は対立した。すなわち、本件製品の瑕疵による損害であるのでY1が全額を負担すべきであるとXが主張したのに対して、Y1は、科学的には本件製品には何ら瑕疵はなく、誤った報道に対して不適切な対応をしたXに責任があるので、Xが負担すべきであると主張した。Y1のこの主張の真偽は現時点では不明である。
以上が共通事実である。下記(1)から(3)は独立しており、それぞれに記載されている事実は、それぞれの設問においてのみ存在する事実である。
(1) 上記の協議が難航している中で、Y1はA国の裁判所においてXを被告として、本件契約に基づく取引に関連してXに対する債務は存在しないことの確認を求める訴えを提起した。その後、Xは、東京地裁においてY1を被告として、Y1の本件契約違反又は不法行為を理由として、120億円と遅延利息の賠償を求める訴訟を提起したところ、Y1は、先にA国で提起している訴訟と競合する訴訟であることを理由に訴え却下を求めた。東京地裁はY1のこの本案前の抗弁についてどのように判断すべきか。
(2) 本件契約には、「この契約に関する一切の紛争についての訴えは、a(A国の首都)地方裁判所にのみ提起する」との管轄合意条項(A国管轄合意条項)が存在している。Xからの120億円の負担を求める主張には全く根拠がないと考えているY1は、本件製品に瑕疵があることを前提してXがとった措置はY1の信用を著しく害し、Y1の他のビジネスにも重大な悪影響を与えていることから、Y1からXに対して50億円の支払いを求める損害賠償請求訴訟をXの本社のある東京地裁に提起した。A国管轄合意条項に反して日本で提訴した理由として、Y1は、Xの資産はA国には全くなく、かつ、Xの資産のある日本とA国との間には、日本の民事訴訟法118条4号の相互の保証がないとされることは確実で、A国の判決は日本では執行できないと予想されるため、A国管轄合意に従ってA国で提訴することは実効性を欠くからであると主張している。東京地裁はA国管轄合意条項にもかかわらず、このY1の訴えについて管轄を認めてよいか。
(3) 本件契約には、「この契約に関する一切の紛争についての訴えは、東京地方裁判所に提起する」との管轄合意条項(日本管轄合意条項)が存在している。Xは、東京地裁においてY2を被告として、本件保証書簡に基づく保証義務の履行を求める訴えを提起した。Y2は本案では保証義務は負っていないことを主張する予定であるが、本案前の抗弁として、日本国管轄合意条項はX・Y1間の契約中の条項であり、その効力はY2に対しては及ばないと主張している。東京地裁がこの主張の当否を判断する準拠法は何か。