早稲田大学法科大学院2010年度夏「国際私法II」試験問題
ルール
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参考文献その他の調査を行うことは自由ですが、他人の見解を求めること及び他人の見解に従うことは禁止します。
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解答作成時間は自由ですが、解答送付期限は、2010年7月14日(水)9:00a.m.です。
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解答は下記の要領で作成し、[email protected]宛に、添付ファイルで送付してください。(emailアドレスの名前と氏の間の _ は、アンダーバーです。)
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メールの件名は、必ず、「WLS国際私法II」として下さい(分類のためです)。
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文書の形式は下記の通り。
・ A4サイズの紙を設定すること。
・ 原則として、マイクロソフト社のワードの標準的なページ設定とすること。
・ 頁番号を中央下に付け、最初の行の中央に「WLS国際私法II」、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載してください。
・ 10.5ポイント以上の読みやすいフォントを使用し、また、全体として読みやすくレイアウトしてください。
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枚数制限はありません。不必要に長くなく、内容的に十分なものが期待されています。
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判例・学説の引用が必要です。他の人による検証を可能とするように正確な出典が必要です。
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答案の作成上,より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成してください。
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これは、成績評価のための筆記試験として100%分に該当するものにするものです。
問題
日本法人Xは総合商社であり、希少資源の獲得のため投資先を探している。甲国在住の甲国人Yは資源ブローカー(個人)であり、いくつかの途上国の政権中枢に太いパイプを有し、それらの国の資源への投資を先進国企業に働きかけることにより、需要と供給をマッチさせ、両者から報酬を得るというビジネスを展開している。YはXの希少資源担当部長Mに乙国の希少資源αへの投資を働きかけた。MとYとは、email、電話等での連絡・協議に加え、ジュネーブ、オタワ、ナイロビ、東京でそれぞれ数回の直接交渉を重ね、2009年6月1日に、売買契約(本件売買契約)を締結するとともに、覚書(Memorandum of Understanding)(本件覚書)を交わした。
本件売買契約は、投資に先立つ試験的なものであり、2009年12月1日までにXはYから150万ドルで純度99%のα10kgを購入することを内容とするものである。他方、本件覚書によれば、本件売買契約が問題なく行われることを条件に、乙国の資源会社Aの発行する新株を500万ドルで取得し、Aの株式の30%を有する株主となるとともに、1200万ドルで純度99%のαを年間100kg、10年間引き取る権利を取得することを主な内容とする契約(本件投資契約)を2010年7月1日までにAとの間で締結する旨定められている(本件投資契約が締結されればYはAから報酬を得ることになっている)。
本件売買契約に基づくα10kgは、M自身が乙国に赴き、乙国の銀行Bの会議室においてYへ150万ドルを支払うのと引き替えにMが直接受領した。Mは、乙国から丙国経由で日本に帰るため、乙国の空港でこのα10kgを機内に持ち込もうとしたところ、丙国の航空会社RFから規則上αのようなものは機内には持ち込めないと言われ、貨物室に入れることを余儀なくされた(日本への一貫運送は心配であったので、中継地の丙国の空港でいったん引き取ることとした)。Mは丙国の空港でこのα10kgの入った容器を受け取るべく待ったが、引渡場のコンベア上には出てこなかった。
その後、Xは、このα盗難事件の裏にYがいるとの情報を得たこともあり、2010年3月1日、覚書により予定されていた本件投資契約の締結を取りやめることをYに通告した。
以上が共通事実である。下記(1)から(4)は独立しており、それぞれに記載されている事実は、それぞれの設問においてのみ存在する事実である。すべて日本の国際私法に照らして判断すること。
(1) 本件売買契約の準拠法(方式以外の点について)はどこの法か。
(2) 紛失したα10kgは、乙国内で空港職員Pが盗み、これを知り合いの国際窃盗団のQに売りさばくよう依頼し、Qはこれを丙国に持ち出し、丙国内でRに売却した。そして、Rはこれを日本に持ち込み、Xに購入を働きかけた。これに対して、Xは、Rの持参したα10kgは乙国で盗難に遭ったものに違いないことに気づき、Rに返還を求めた。しかし、Rはこれを拒否している。Rが所有権を有するか否かはいずれの国の法で判断すべきか。Xは、所有権のいかんはともかく、Rが盗品を占有していることは確かであり、現在の所在地は日本であり、盗難からまだ2年以内であるので、民法193条又は194条により、無償で又は有償で、これを回復することができると主張している。この主張は認められるか。
(3) Xの本件投資契約の締結中止に対して、Yは、第1次的に、本件投資契約は基本的な要素は合意済みであるので、これは成立していること(それを解除するのであれば、同契約中の違約罰の規定に基づく賠償を要する)、第2次的に、仮に本件投資契約が不成立であっても、本件売買契約は問題なく履行され、α10kgが盗難にあったのは専らX側の事情であるので、条件は成就しており、本件投資契約の締結を拒否することは本件覚書違反である、以上のように主張している。これらの主張を判断する準拠法はどこの法か。
(4) Yは、Xがα10kgの盗難に関与したとの噂を少なくとも日本及び乙国において広めたため、Yの信用は著しく害され、少なくとも両国におけるYの資源ブローカーとしてのビジネスに支障が生じていると主張し、その損害の賠償を請求している。この準拠法はどこの法か。