WLS国際関係私法基礎

47100126 西村 拓也

問題1について

 小問(1)について

  一 結論

    YとZとの間の父子関係の成立は、日本法によって判断し、YとZとの間には嫡出父子関係の成立が認められる。

  二 理由

   1 本件において、日本で婚姻関係にある妻Xと夫Yとの子ZとYの父子関係の成立が問題となっている。かかる問題は第一に、ZがYの子として嫡出推定されるかが問題となる。そして第二に、仮にZが嫡出推定されたとしても、YはZが自分の子ではないのではないかと疑っているので嫡出否認をするのではないかが問題となる。以下、順次検討する。

   2 嫡出推定の問題について

   (1) 嫡出推定における単位法律関係は嫡出親子関係の成立であり、通則法28条1項の問題となる。そして、通則法28条1項によれば、子が嫡出推定されるか否かは、その出生当時の父又は母の本国法によって定めることになる。かかる趣旨は、選択的連結[1]により子の嫡出子たる身分の与えられる機会をなるべく増やそうという連結政策に基づくものである[2]

   (2) 本件についてこれをみると、Yの本国法はA国法であり、Xの本国法は日本法である。

Zは、XとYの婚姻成立の日から210日目に出生している。

この点について、A国の民法によれば、婚姻成立の日から230日を経過した後に出生した子は嫡出推定されるので、A国法によるとZは嫡出推定されない。他方、日本の民法によれば、772条2項により、婚姻成立の日から200日を経過した後に出生した子は嫡出推定されるので、日本法によるとZは嫡出推定される。

   (3) したがって、Zは日本法によりYの子として嫡出推定され、推定の及ぶ嫡出子となる。

   3 嫡出否認の問題について

   (1) Zが嫡出推定されたとしても、YはZが自分の子ではないのではないかと疑っているので嫡出否認をするのではないかが問題となる。

  (2) では、嫡出否認の単位法律関係をいかに解するべきか、通則法28条1項が「…により子が嫡出となるべきときは、その子は嫡出である子とする」と規定していることから、嫡出推定だけを単位法律関係にしているようにも思えるので問題となる。

この点について、嫡出推定と嫡出否認は表裏一体の関係にあるから、嫡出否認の単位法律関係も嫡出親子関係の成立と解すべきであり[3]、通則法28条1項により判断すべきである。解釈論としては、「子が嫡出となるべきとき」という文言を、嫡出推定と嫡出否認の両方を含むものとして解釈することになる[4]

したがって、嫡出否認の単位法律関係は嫡出親子関係の成立であり、通則法28条1項の問題となる。

(3) そして、上述のように28条1項の趣旨が選択的連結により子の嫡出子たる身分の与えられる機会をなるべく増やそうという連結政策に基づくものであることに鑑み、父母双方の本国法により嫡出否認が認められなければ嫡出否認されないと解する(水戸家審平成10年1月12日家月50巻7号100頁[5])。

(4) 本件についてこれをみると、ZはそもそもA国法では嫡出推定されないので、A国法による嫡出否認の問題は生じ得ない。他方、Zは日本法により嫡出推定される。したがって、YのZに対する嫡出否認の可否は日本法により判断される。

    日本の民法によれば、777条により嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならない、と規定している。

    本件の場合、Zは3歳でありYとZは平穏な家族生活を送っていたことから、YがZの出生を知った時から3年が経過しており、1年以内という出訴期間を超過している。

    したがって、Yは日本法によりZを嫡出否認することができない。

4 以上により、YとZとの間の父子関係の成立には@嫡出推定とA嫡出否認が問題となる。@については日本法により判断され、Zは嫡出推定される。Aについても日本法により判断され、YはZを嫡出否認することはできない。

よって、YとZとの間には嫡出父子関係の成立が認められる。

 

 小問(2)について

  一 結論

    YのZに対する親権喪失の可否は、日本法によって判断し、日本の家庭裁判所はYのZに対する親権の喪失を宣告することができる。

  二 理由

   1 本件において、Xは、Zを保護するために、YのZに対する親権を喪失させることができるか否かが問題となっている。

かかる問題の単位法律関係は親子間の法律関係であり、通則法32条が問題になると解する。なぜならば、親権とは父母の養育者としての地位・職分から派生する権利義務の総称であり、親権者には子の福祉のために身上監護権や財産管理権が認められるからである。また、成立後の親子関係については親子関係のタイプにかかわらず、親子関係の身分的効力・財産的効力にかかわらず一律通則法32条で処理することが子にとって平等といえるからである[6]

2 先決問題について

そして、親権は親が未成年の子に対して行使するものであるから、通則法32条適用の先決問題としてZが未成年であるか否かが決定される必要がある。

(1) では、Zが未成年であるといえるか否かはいずれの国の法律によって判断すべきか、先決問題の処理の仕方と関連して問題となる。

     この点について、国際私法はわれわれの生活関係を単位法律関係に分解してそれぞれについて準拠法を定めるという構造を有している以上、先決問題として問題とあろうとも、法廷地の国際私法によって定まる準拠法によって解決すべきである(法廷地国際私法説)[7]

また、最高裁判所も「渉外的な法律関係において、ある一つの法律問題(本問題)を解決するためにまず決めなければならない不可欠の前提問題があり、その前提問題が国際私法上本問題とは別個の法律問題を構成している場合、その前提問題は、本問題の準拠法によるのでも、本問題の所属する国の国際私法が指定する準拠法によるのでもなく、法廷地である我が国の国際私法により定まる準拠法によって解決すべきである。」(最判平成12年1月27日民集54巻1号1頁[8])として法廷地国際私法説を支持している。

(2) そして、法廷地たる日本の国際私法に照らすと、Zが未成年といえるか否かは、Zが単独で有効に法律行為をすることができる能力を有するか否かの問題と同視できる(東京高判昭和33年7月9日家月10巻7号29頁[9])ので、単位法律関係は行為能力であり、通則法4条1項の問題となる。

    したがって、通則法4条1項により、Zの行為能力はZの本国法によって判断される。

(3) これを本件についてみると、Zは日本とA国との二重国籍を有している。かかる場合、通則法38条1項本文前段は、当事者が重国籍を有する場合には、当事者が常居所を有する国があるときはその国の法を本国法とすることを定めている。

この点について、Zは3歳まで日本に居住し生活をしているので、Zが常居所を有する国は日本である。

したがって、Zの本国法は日本法である。

(4) 日本の民法によると、4条は20歳をもって成年とする、と規定している。

    よって、Zは3歳なので未成年であり、親権が問題となる。

3 親子間の法律関係について

ここで、通則法32条前段をみると、父又は母の本国法と子の本国法とが同一であれば、子の本国法によると規定している。

(1) これを本件についてみると、子Zの本国法は日本法であり、父Yの本国法はA国法であるから同一とはいえないが、母Xの本国法は日本法であるから同一であるといえる。

したがって、YのZに対する親権喪失の可否は日本法により判断される。

(2) 日本の民法によると、834条は親権者に著しい不行跡が見受けられる場合には、子の福祉に特に弊害が顕著であるので、一定の者の請求によって家庭裁判所が当該親権者の親権の喪失を宣告することができる、と規定している。

    本件の場合、YはZを虐待している。父親が3歳の子を虐待することは子の心身に重大な影響を及ぼすとともに子の健全な成長を阻害するものである。したがって、Yは親権者として著しい不行跡が見受けられる。

    よって、家庭裁判所はXの請求によって、YのZに対する親権の喪失を宣告することができる。

4 以上により、YのZに対する親権喪失の可否には、@親子間の法律関係とAその先決問題としてZの行為能力が問題となる。Aについては日本法により判断され、Zは未成年者とされる。@についても日本法により判断され、家庭裁判所はYのZに対する親権の喪失を宣告することができる。

よって、XはYのZに対する親権を喪失させることができる。

 



[1] 選択的連結とは、複数の連結点を定めた上で、指定された複数の準拠法上のいずれかを択一的に適用するという方法である。[松岡博編『国際関係私法入門(第2版)』24頁(有斐閣 2009年)]

[2] 澤木敬郎・道垣内正人著『国際私法入門(第6版)』127頁(有斐閣 2010年)

[3] 木棚照一・渡辺惺之・松岡博著『国際私法概論(第5版)』229頁(有斐閣 2007年)

[4] 澤木敬郎・道垣内正人著『国際私法入門(第6版)』125頁(有斐閣 2010年)

[5] 櫻田嘉章著『国際私法判例百選(新法対応補正版)』61事件(有斐閣 2007年)

[6] 野村美明編『ケースで学ぶ国際私法(初版)』79頁(法律文化社 2008年)

[7] 澤木敬郎・道垣内正人著『国際私法入門(第6版)』25頁(有斐閣 2010年)

[8] 櫻田嘉章著『国際私法判例百選(新法対応補正版)』2事件(有斐閣 2007年)

[9] 櫻田嘉章著『国際私法判例百選(新法対応補正版)』71事件(有斐閣 2007年)