早稲田大学法科大学院2010年度後期「国際関係私法基礎」試験問題

 

ルール

-      参考文献その他の調査を行うことは自由ですが、他人の見解を求めること及び他人の見解に従うことは禁止します。

-      解答作成時間は自由ですが、解答送付期限は、20101231()21:00です。

-      解答は下記の要領で作成し、[email protected]宛に、添付ファイルで送付してください。(emailアドレスの名前と氏の間の _ は、アンダーバーです。)

-      メールの件名は、必ず、「WLS国際関係私法基礎」として下さい(分類のためです)。

-      文書の形式は下記の通り。

A4サイズの紙を設定すること。

原則として、マイクロソフト社のワードの標準的なページ設定とすること。

頁番号を中央下に付け、最初の行の中央に「WLS国際関係私法基礎」、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載してください。

10.5ポイント以上の読みやすいフォントを使用し、また、全体として読みやすくレイアウトしてください。

-      枚数制限はありません。不必要に長くなく、内容的に十分なものが期待されています。

-      判例・学説の引用が必要です。他の人による検証を可能とするように正確な出典が必要です。

-      答案の作成上,より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成してください。

-      これは、成績評価のための筆記試験として100%に該当するものにするものです。

 

問題

 

1.     X(妻・日本人)Y(夫・A国人)とは日本で婚姻し、そのまま日本で生活を続けている。Xは、XYとの婚姻成立の日から210日目に子Z(日本とA国との二重国籍)を出産した。当初は平穏な家族生活であったが、Z3歳になったころから、YZが自分の子ではないのではないかと疑い、Zを虐待するようになった。なお、A国の民法によれば、嫡出推定は日本民法7722項とは異なり、婚姻成立の日から230日を経過した後に妻が出産した子は夫の子と推定するとされている。

以下の各問題における事実関係は相互に独立したものであり、すべて日本の国際私法に照らして検討することとする。なお、A国法から日本法への反致は成立しないこととする。

(1)   YZとの間の父子関係の成立はいずれの国の法律によって判断するか。

(2)   YZとの間には父子関係があるとする。Xは、Zを保護するために、YZに対する親権を喪失させる手続をとることを検討している。日本の裁判所に裁判管轄があると仮定して、この親権喪失の可否はいずれの国の法により判断されるか。

 

2.    最高裁昭和561016日判決(民集3571224)の事案において、航空機事故で死亡した日本人が観光旅行のためにマレーシアを訪れていた者であったと仮定する。当該日本人の遺族による訴えが下記の規定を含む民事訴訟法が施行された後に日本の裁判所に提起された場合、国際裁判管轄の有無はどのように判断されるか。

 

民事訴訟法及び民事保全法の一部を改正する法律案より抜粋

(http://www.moj.go.jp/houan1/saibankan9_refer02.html等に全文あり。)

 

(被告の住所等による管轄権)

3条の2

1 裁判所は、人に対する訴えについて、その住所が日本国内にあるとき、住所がない場合又は住所が知れない場合にはその居所が日本国内にあるとき、居所がない場合又は居所が知れない場合には訴えの提起前に日本国内に住所を有していたとき (日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有していたときを除く。)は、管轄権を有する。

2 裁判所は、大使、公使その他外国に在ってその国の裁判権からの免除を享有する日本人に対する訴えについて、前項の規定にかかわらず、管轄権を有する。

3 裁判所は、法人その他の社団又は財団に対する訴えについて、その主たる事務所又は営業所が日本国内にあるとき、事務所若しくは営業所がない場合又はその所在地が知れない場合には代表者その他の主たる業務担当者の住所が日本国内にあるときは、管轄権を有する。

 

(契約上の債務に関する訴え等の管轄権)

3条の3

次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定めるときは、日本の裁判所に提起することができる。


1 契約上の債務の履行の請求を目的とする訴え又は契約上の債務に関して行われた事務管理若しくは生じた不当利得に係る請求、契約上の債務の不履行による損害賠償の請求その他契約上の債務に関する請求を目的とする訴え

契約において定められた当該債務の履行地が日本国内にあるとき、又は契約において選択された地の法によれば当該債務の履行地が日本国内にあるとき。

 

 

2 手形又は小切手による金銭の支払の請求を目的とする訴え

手形又は小切手の支払地が日本国内にあるとき。

 

 

3 財産権上の訴え

 

請求の目的が日本国内にあるとき、又は当該訴えが金銭の支払を請求するものである場合には差し押さえることができる被告の財産が日本国内にあるとき (その財産の価額が著しく低いときを除く。)。

 

4 事務所又は営業所を有する者に対する訴えでその事務所又は営業所における業務に関するもの

当該事務所又は営業所が日本国内にあるとき。

 

5 日本において事業を行う者 (日本において取引を継続してする外国会社 (会社法(平成十七年法律第八十六号) 第二条第二号に規定する外国会社をいう。)を含む。)に対する訴え

当該訴えがその者の日本における業務に関するものであるとき。

 

 

6 船舶債権その他船舶を担保とする債権に基づく訴え

船舶が日本国内にあるとき。

 

7 会社その他の社団又は財団に関する訴えで次に掲げるもの

イ 会社その他の社団からの社員若しくは社員であった者に対する訴え、社員からの社員若しくは社員であった者に対する訴え又は社員であった者からの社員に対する訴えで、社員としての資格に基づくもの

ロ 社団又は財団からの役員又は役員であった者に対する訴えで役員としての資格に基づくもの

ハ 会社からの発起人若しくは発起人であった者又は検査役若しくは検査役であった者に対する訴えで発起人又は検査役としての資格に基づくもの

ニ 会社その他の社団の債権者からの社員又は社員であった者に対する訴えで社員としての資格に基づくもの

社団又は財団が法人である場合にはそれが日本の法令により設立されたものであるとき、法人でない場合にはその主たる事務所又は営業所が日本国内にあるとき。

 

 

8 不法行為に関する訴え

 

不法行為があった地が日本国内にあるとき (外国で行われた加害行為の結果が日本国内で発生した

場合において、日本国内におけるその結果の発生が通常予見することのできないものであったときを除く。)。

 

9 船舶の衝突その他海上の事故に基づく損害賠償の訴え

損害を受けた船舶が最初に到達した地が日本国内にあるとき。

 

10 海難救助に関する訴え

 

海難救助があった地又は救助された船舶が最初に到達した地が日本国内にあるとき。

 

11 不動産に関する訴え

不動産が日本国内にあるとき。

 

12 相続権若しくは遺留分に関する訴え又は遺贈その他死亡によって効力を生ずべき行為に関する訴え

相続開始の時における被相続人の住所が日本国内にあるとき、住所がない場合又は住所が知れない場合には相続開始の時における被相続人の居所が日本国内にあるとき、居所がない場合又は居所が知れない場合には被相続人が相続開始の前に日本国内に住所を有していたとき(日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有していたときを除く。)。

 

13 相続債権その他相続財産の負担に関する訴えで前号に掲げる訴えに該当しないもの

同号に定めるとき。

 

(消費者契約及び労働関係に関する訴えの管轄権)

3条の4

1 消費者 (個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。以下同じ。)と事業者(法人その他の社団又は財団及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。以下同じ。)との間で締結される契約(労働契約を除く。以下「消費者契約」という。)に関する消費者からの事業者に対する訴えは、訴えの提起の時又は消費者契約の締結の時における消費者の住所が日本国内にあるときは、日本の裁判所に提起することができる。

 

2 労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争(以下「個別労働関係民事紛争」という。)に関する労働者からの事業主に対する訴えは、個別労働関係民事紛争に係る労働契約における労務の提供の地(その地が定まっていない場合にあっては、労働者を雇い入れた事業所の所在地)が日本国内にあるときは、日本の裁判所に提起することができる。

 

3 消費者契約に関する事業者からの消費者に対する訴え及び個別労働関係民事紛争に関する事業主からの労働者に対する訴えについては、前条の規定は、適用しない。

 

 

(特別の事情による訴えの却下)

3条の9

裁判所は、訴えについて日本の裁判所が管轄権を有することとなる場合(日本の裁判所にのみ訴えを提起することができる旨の合意に基づき訴えが提起された場合を除く。)においても、事案の性質、応訴による被告の負担の程度、証拠の所在地その他の事情を考慮して、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し、又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があると認めるときは、その訴えの全部又は一部を却下することができる。