WLS国際私法T

47092012 長塚 希

設問(1)

1 親子関係成立についての準拠法

法の適用に関する通則法(以下「通則法」)は親子関係の成立を判断する準拠法について、嫡出親子関係(28条)と非嫡出親子関係(29条)に分けて規定している。

28条と29条の適用関係については、@29条の「嫡出でない子」に限定して親子関係の成否を判断するという構造から、28条の準拠法により嫡出子となる者については非嫡出親子関係の成否は問題とならないと考えられていること、A一般に非嫡出親子関係よりも嫡出親子関係の方が子の利益保護にかなうと考えられることから、まず28条で定まる準拠法により嫡出親子関係が成立するかを検討し、それが成立しない場合に、29条により定まる準拠法が適用され、非嫡出親子関係の存在が判断される[1]

2 YZとの間の父子関係成立の準拠法

(@)嫡出親子関係の成立

ア 本件のYZとの間の父子関係の成立については、まず通則法28条により、Z出生当時のXの本国法である日本法か、またはYの本国法であるA国法により嫡出親子関係が成立するかどうかを判断し、少なくともどちらか一方により嫡出性が認められればZYの嫡出子となる。

[なお、28条により適用される準拠法が嫡出・非嫡出の区別をしない法である場合には、「嫡出となるべきとき」に該当しないので、28条を適用せずにはじめから29条を適用することになるが[2]、日本民法もA国民法も嫡出推定の規定を有しており、嫡出・非嫡出の区別をしているから、この点は問題にならない。](注2の箇所の記載は、28条を適用しないということではなく、28条を適用した結果として適用される夫婦いずれの本国法上も嫡出子という制度を有していない場合には、29条の適用に移るという趣旨です。赤字は道垣内。以下同じ。)

イ さらに、28条は当事者の本国法によるべき場合なので、反致(通則法41条)が成立しないかどうかが問題となる。

本件の場合は、A国国際私法によれば、父子関係は嫡出・非嫡出を問わず、父の本国法によるとされ、この場合はYの本国法であるA国法によることとなり、日本法によるべきときにあたらないから、反致は成立しない。

ウ 本件ではZXYの婚姻成立の日から210日目に出生しているため、A国法上は嫡出推定を受けないが、日本民法上婚姻中に懐胎したものと推定され(民法7722項)、嫡出推定を受けるから(同条1項)、Yとの関係でも嫡出子となる。

ただ、YZが自分の子ではないのではないかと疑っており、Zの嫡出性を否認しようとすることが考えられる。嫡出であるとは、嫡出の推定をうけ、否認されないことをいうから、嫡出否認の問題もまた通則法28条の問題となる[3]。そして、本件のように夫婦の一方の本国法のみにより子が嫡出推定を受ける場合に、夫婦双方の本国法の定める否認の要件をともに具備しなければ嫡出否認ができないとするのは不合理であるから、嫡出推定される夫婦の一方の本国法の定める要件を具備するだけで嫡出否認が認められると解すべきである[4]

(A)非嫡出親子関係の成立

 仮にYZとの間の嫡出親子関係の成立が否定された場合、次に通則法29条で非嫡出親子関係の成立を判断することになる。この場合父との間の親子関係の成立については、Zの出生当時における父Yの本国法であるA国法によることとなり、28条の場合と同様A国国際私法による反致もないから、そのままA国法が準拠法となる。

ただし、本件の場合、非嫡出親子関係が問題になるのは嫡出否認の訴えによりYZとの父子関係が否定された場合であるから、YZ間に非嫡出親子関係が成立することは通常考えられない。

 

設問(2)

1 嫡出親子関係の成立

 先に検討したとおり、YZの間の父子関係について、Z出生当時のXの本国法である日本法か、Yの本国法であるA国法の少なくとも一方により嫡出親子関係が認められればZYの嫡出子となる。

 ただし、本問では設問(1)と異なり、A国国際私法が父子関係の成立について父の常居所地法によるとしている。そして、父であるYは日本生まれでそのまま日本で生活を続けており、その常居所地は日本であると言えるからA国国際私法上の「常居所」が日本にあるとされる必要があることに触れるべきでしょう。)、常居所地法は日本法である。よって、A国国際私法によれば通則法41条の「日本法によるべきとき」にあたり、反致が成立する。

 よって、YZの間の嫡出親子関係成立については、Zの出生時のXの本国法によるとしても、Yの本国であるAの国際私法が指定する常居所地法によるとしても、結局日本法により判断される。

なお、この結果を設問(1)の場合と比較すると、設問(1)では日本法またはA国法により嫡出性が認められればYZの間に嫡出親子関係が成立するとされたのに対し、設問(2)では日本法で嫡出性が認められなければ嫡出親子関係が成立しないこととなり、嫡出親子関係が成立しにくくなっている。

このように、28条について反致を認めると準拠法選択の幅が狭くなり、親子関係の成立をできるだけ容易にするために選択的適用主義を採用した立法の趣旨に反することになるため、反致を認めないという見解、一般に反致の適用を肯定した上で、例えば、いずれか一方の本国法によれば子は嫡出子となるのに、日本法に反致する結果、日本法によれば嫡出子とされないような場合には、反致の成立を否定する見解、さらに、本国法への指定を実質法への指定と解し、それらの方により実親子関係の成立が認められない場合に限り、この利益の立場から日本法への反致を認めるべきであるとする見解もある[5]。しかし、41条の解釈論としては無理があるから、この場合にも反致があり得ると解すべきである[6]

2 非嫡出親子関係の成立

非嫡出親子関係の成立についても嫡出親子関係の場合と同様反致が成立するから、Zの出生当時におけるYの本国であるBAの国際私法が指定するYの常居所地法である日本法により判断されることになる。

 

設問(3)

1 親権の喪失は、親子間の法律関係の問題として、通則法32条により準拠法を決定すべきである[7]。また、XZを保護するためにYZに対する親権を喪失させる手続をとることができるかという親権喪失の請求権者の問題についてもやはり32条が適用されると考えられる。

2 32条は、子の本国法が父又は母の本国法と同一である場合には子の本国法により、その他の場合には子の常居所地法が準拠法となるとしている。このようないわゆる同一本国法によるとされる場合は、扶養義務の準拠法に関する法律21項但書、31項のように当事者の共通本国法によるべきとされる場合とどう異なるのか。共通本国法の決定にあたっては、二当事者がそれぞれ有する国籍の中に一致するものがあるかが検討され、それが存在すればその国の法律が共通本国法とされる。これに対して、同一本国法の決定にあたっては、段階的連結において、本国法としてその国の法が適用されるという関係を有する国が一致していることにウェイトがおかれていると考えるべきであり、本国法を決定する際には機能しない国籍はカウントすべきでないと解される。そこで、当事者の一方又は双方が重国籍者の場合には、まず381項の規定により重国籍者について本国法を絞り込んだ上で、その本国法が他方の当事者の本国法と同一であるか否かを判断することになる。)(この部分は不要でしょう。)

3 本件では、子Zは日本とA国の二重国籍者であるから、まず通則法38条により本国法を決する必要があり、381項ただし書により、日本法がZの本国法となる。したがって、Zの本国法は母Xの本国法と同一となるから、親子間の法律関係については日本法が準拠法となり、YZに対する親権喪失の可否についても日本法により判断される。

 

設問(4)

1 設問前段について

 B国法によれば、親権を喪失させるには「後見人候補者」を定めるための「家庭問題裁判手続」をとり、後見人候補者を用意しておかなければならないとされる場合、日本の家庭裁判所において「後見人候補者」を定める手続をとることが可能か。

 まず、B国法上要求されているのはB国法上の家庭問題裁判手続による後見人候補者選任であり、これが外国の裁判所による手続を含む規定と解することはできない。

 また、B国法が後見人候補者を定めるために裁判手続をとることとしているのは、成立要件であるから、これを単に法律行為の方式の問題と考えて通則法342項により行為地法である日本の方式によればよいと考え、例えば裁判所が後見人候補者として相応しいかどうかを審査し、親権者であるXが遺言で未成年後見人を指定する(民法839条)というような方法をとることはできない[8]

そこで、B国法が定める裁判所の役割を日本の家庭裁判所が代行することができるという見解もある。しかし、準拠法上一定の公的機関の関与が定められているとしても、その特定の機関の関与という点は公法的性格を有するその国の手続法であって、送致範囲には入っていないと考えられる。したがって、日本において後見人候補者を定めようとする場合には「手続は法廷地法による」との原則により、日本法が適用される。そこで、日本法上裁判所に与えられた権能のうちで準拠法であるB国法の実体法を適用実現するために利用できそうな手続があれば、可能な限りそれを修正することによってB国実体法を適用実現するべきである[9]

家裁の審判例でも、父の本国法であるミズーリ州法が親子間の法律関係についての準拠法となっている場合に、同州法によれば子の投資信託解約は検認裁判所によって選任された後見人がなすことが必要とされた事案で、日本法上の特別代理人選任の手続によりミズーリ州法を適用実現することとするとしたものがある[10]

本件では、日本法上は親権喪失の宣告をする際に(民法834条)後見人候補者の選定をする必要はないため、後見人候補者を定める手続自体は存在しないが、未成年後見人選任の手続(民法840条、家事審判法91項甲類14号)を利用することにより家庭裁判所において後見人候補者を定めることができると考える。

2 設問後段について

(@)上で検討したように、日本の家庭裁判所で後見人候補者を定めること自体は可能である。では、本件で家庭裁判所での後見人候補者を定める手続をとらなくても日本でB国法に基づくYの親権喪失の手続をとることができる可能性があるか。

 まず前提として、後見人候補者選任の準拠法について検討する必要がある。後見人候補者を定めることは、親権喪失の手続の前提となる問題であるから、先決問題として本問題である親権喪失についての準拠法によるという見解や、本問題準拠法所属国の国際私法によるという見解もある。しかし、国際私法は様々な問題を単位法律関係に分解してそれぞれについて準拠法を定めるという構造を有している以上、先決問題として問題となろうとも、法廷地の国際私法によって定まる準拠法によって解決すべきであり、また当事者による裁判所への問題の持ち出し方如何により準拠法が変わってしまうことは妥当でないから、前提となる問題についても独自に法性決定すべきであり、先決問題という概念は不要である[11]

また、後見人候補者選任について独自に法性決定すべきであるとしても、親権喪失に密接に関わる問題であるから通則法32条により準拠法を決する見解もあり得る。しかし、夫婦の一方の子に対する親権を喪失させる場合に他方の配偶者以外の後見人候補者の選定を要求するのは、親権を行う者がいなくなった場合に備えて未成年者を後見すべき者をあらかじめ定めておくことで未成年者を保護する趣旨と考えられ、そうであるとすれば、親子間の法律関係に関する問題というよりはむしろ後見の問題として通則法35条によるべきである。

 なお、通常未成年後見は親権者のない場合にはじめて設定されるものであるから、35条が適用されるのは32条により決まる準拠法により親権者がいない場合であるとされるが[12]、本件のように親権者が存在するにも関わらず後見人を選任する必要がある場合には、32条と35条は同時並行的に適用されると考えられる。家裁の審判例でも、カリフォルニア州法に基づき、父母が存在する場合であるが、平成元年改正前法例23条により子の保険金請求・受領のための後見人を選任したものがある[13]

 本件についてみると、通則法351項は、後見については被後見人の本国法によるとしており、先に検討したとおり、本件でZの本国法は日本法であるから、後見についての準拠法は日本法となる。

(A)ところが、日本法によると、Zには親権者が存在するため、後見開始の原因が存在せず(民法838条参照)、後見人選任の手続をすることができない。親子間の法律関係と後見についての準拠法が異なっているために、両者に整合性がなく、親権喪失が認められ得なくなってしまうという適応問題が生じているといえる。

 そこで、これをどう調整するかが問題となる。このような妥当でない結果が生じてしまう場合に、実質私法的利益を衡量し、準拠実質法秩序の中において、実質法の解釈・適用を操作すべきという見解もある。しかし、パッチワーク構造を採る国際私法においては、本来一体であるべきものが分断されることは枚挙にいとまがなく、最終的な結果は公序条項(通則法42条)によってのみチェックされるのであり、論理矛盾が生じない限り、何らかの実質法的基準で妥当か否かをチェックすることは国際私法上予定されていない[14]。本件では、もしYZに対する親権喪失を認めないことが公序に反すると判断されれば、B国法の適用が排除され、親権喪失の手続をとることができる。

 公序違反とされるか否かは、適用結果の異常性と内国関連性の相関関係で決せられるところ、本件を具体的に検討すると、父YZを虐待しており、母Xがいるのに後見人候補者を定めない限り父の親権を喪失させることができないというB国法の適用結果は異常性が高い。またYZは日本で生活していることから内国関連性も高い。よって、公序則により、後見人候補者を定めずとも親権喪失の手続をとることが認められる可能性が高いと考えられる。

設問(5)

1 Yの代理人の主張

YZを虐待したことによるZYに対する損害賠償請求は、不法行為による損害賠償請求であると考えられる。不法行為債権の成立及び効力は通則法17条により結果発生地の法によるとされるが、通則法20条は明らかに結果発生地の法よりも密接な関係がある他の地があるときは、その地の法が準拠法になるとしている。

Yの代理人の主張は、この20条の明らかにより密接な関係がある地がYZの共通国籍国の法であるA国法であるというものである。

 20条が明らかにより密接な関係がある地がある場合の例として挙げているのは、当事者が同一常居所地を有している場合と当事者間の契約に基づく義務に違反して不法行為が行われた場合であるが、本件ではYZの常居所地は日本であるし、また契約に基づく義務に違反した不法行為が問題となっているわけでもないので、これらにはあたらない。

しかし、「その他の事情に照らして」とあるように、これら2つの場合は例示に過ぎず、結果発生地よりも明らかに密接な関係がある他の地があればその法が適用されるから、Yの代理人が主張するように、本件でA国法がこのような明らかにより密接な関係がある地の法といえるかどうかを検討する。

2 本件における最密接関係地

たしかに、Yの代理人の主張するように、子が父親に対して損害賠償請求できるか否かかという問題は親子間の関係にとって本質的な問題であるから共通本国法が結果発生地の法より密接な関係を有するとも考えられそうである。しかし、20条の存在によって、不法行為となるかどうか、その場合にどのような責任が発生するかが不明確になり、審理の長期化や円滑な和解交渉が妨げられる懸念もあることから、例示されている場合に該当すればともかく、「その他の事情に照らして」別の準拠法が適用されるということはあくまで例外として、慎重であるべきである[15]

また、そもそも不法行為についての準拠法が原則として結果発生地の法とされている根拠として、不法行為に関する法律が、自国内で行われた行為については、行為者の国籍・住所の如何を問わず適用される、いわゆる一般法の性質をもつこと、不法行為における加害者の責任と被害者の救済の問題は、侵害行為のなされた社会の公益に関係するところが大きいこと、被害者が賠償を求めるのは通常不法行為地であるから、その地の法によることが被害者の利益に適すること等があげられており[16]、さらには本件の事情として、XYA国籍を有しているとはいえ、日本で生まれて日本において生活をしていること等を考慮すると、日本においてZYから虐待された場合に、その不法行為に関する問題が結果発生地である日本よりも親子の共通国籍国であるA国に明らかにより密接な関係があるとは到底いえないであろう。

よってYの代理人の主張は妥当でない。

以上



[1] 青木清・国際私法判例百選[新法対応補正板]119

[2] 澤木敬郎・道垣内正人『国際私法入門[第6版]』129

[3] 松岡博『現代国際私法講義』217

[4] 山田鐐一『国際私法[新版]』476477

[5] 前掲 山田475

[6] 道垣内正人『ポイント国際私法 総論』228

[7] 前掲 山田521

[8] 養子縁組決定についての山形家裁平成732日審判参照

[9] 澤木敬郎・道垣内正人『国際私法入門』29頁、135

[10] 東京家審昭和401220

[11] 前掲 澤木・道垣内2526

[12] 前掲 山田169

[13] 東京家審昭和48103

[14] 前掲 道垣内122頁以下

[15] 前掲 澤木・道垣内248

[16] 前掲 山田356