早稲田大学法科大学院2011年度春「国際民事訴訟法」+国際私法II」試験問題
ルール
- 参考文献その他の調査を行うことは自由ですが、他人の見解を求めること及び他人の見解に従うことは禁止します。
- 解答作成時間は自由ですが、解答送付期限は、2011年7月20日(木)23:00です。
- 解答は下記の要領で作成し、[email protected]宛に、添付ファイルで送付してください。masatoとdogauchiの間はアンダーバーです。
- 答案は科目ごとに作成し、メールの件名は、必ず、「国際民事訴訟法」又は「国際私法II」として下さい(分類のためです)。
- 文書の形式は下記の通り。
・ A4サイズの紙を設定すること。
・ 原則として、マイクロソフト社のワードの標準的なページ設定とすること。
・ 頁番号を中央下に付け、最初の行の中央に「国際民事訴訟法」又は「国際私法II」、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載してください。
・ 10.5ポイント以上の読みやすいフォントを使用し、また、全体として読みやすくレイアウトしてください。
- 枚数制限はありません。不必要に長くなく、内容的に十分なものが期待されています。
- 判例・学説の引用が必要です。他の人による検証を可能とするように正確な出典が必要です。
- 答案の作成上、より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成してください。
- 2011年7月1日現在の日本法を前提とします。
問題1( 国際民事訴訟法・国際私法II共通)
日本在住の日本人大学生Aは、甲国及び乙国への観光旅行を計画し、格安の航空券を日本で購入した上で、インターネットで探した丙国の旅行会社B社との間で、(i)甲国でのホテルCの予約、(ii)甲国を出発して乙国の観光地をめぐって甲国に戻るD社による観光バス・ツアーの予約、以上の手配をする契約(以下、「本件契約」という。)を締結し、B社のウェブサイトの所定の箇所にクレジット・カード番号等を入力することにより決済を済ませた。
本件契約は、すべて英語によるものであり、AはB社のウェブサイトに英語で記入し、約款の画面を含めて複数のページを確認し、「OK」をクリックしたことにより締結されたものである。ウェブサイト上に表示された本件契約書には、ホテルやバス運行のサービスを提供するのは複数の別会社であり、B社はそれらの別会社のサービスを「手配」するだけであって、それらの別会社が提供するサービスの質、サービス提供の過程での事故その他一切のトラブルについては責任を負わない旨の定めがあるが、Aはそれらの事項は読んでいなかった。
旅行に出かけたAが甲国に到着してみると、B社を通じて予約したはずのホテルCは3ヶ月も前に倒産して閉鎖されていた。そのため、深夜に甲国に到着したAは、その日は空港に戻って一夜を過ごすほかなかった。そして、空港内で睡眠中、Aは強盗に遭って金品を強奪され、負傷した。
そのような災難にもかかわらず旅行を継続したAは、D社の観光バスで乙国を旅行中、バスの運転手が急死しため、崖からバスが転落するという事故に遭い、大けがを負った。Aを含む被害者は乙国の救急病院で治療を受けたが、Aについては極めて困難な手術を要するため、事故から2日後に、Aの両親が手配した特別機により乙国から日本に帰国してその手術を受けた。
以上を前提として、以下の問いに答えなさい。なお、各問は独立のものとする。
日本の法律家として、日本での法律問題として解答しなさい。
国際民事訴訟法の試験問題(1)から(4)
(1) Aは、ホテルCの閉鎖を知らされていないことにより強盗に遭ったと主張し、その損害の賠償をB社に求めた。これに対し、B社は、上記契約上の「この契約をめぐる一切の紛争は丙国の首都を管轄する地方裁判所の管轄に服する。」との条項に基づいて、丙国の裁判所に債務不存在確認請求訴訟を提起した。そして、丙国の裁判所は、A欠席のまま、B社の請求を認める判決を下し、これは確定した。この丙国判決は日本の民事訴訟法118条1号の要件を満たすか。
(2) (1)とは一部事実関係が異なることとする。Aは、(1)と同じ損害の賠償をB社に求めたところ、B社は、上記契約上の「この契約をめぐる一切の紛争は丙国の首都に所在する仲裁機関Eの仲裁規則による仲裁により解決する。」との条項に基づき、丙国で債務不存在確認を求める仲裁申立てをした。Aは適法な送達を受けたが、仲裁には応じなかった。そして、仲裁廷は、A欠席のまま、B社の請求を認める仲裁判断を下した。この仲裁判断は日本で承認されるか。
なお、丙国は「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」(いわゆるニューヨーク条約)の締約国ではないとする。
(3) (1)・(2)と異なり、本件契約には管轄合意条項も仲裁合意条項もないとする。AのB社に対する(1)記載の損害の賠償請求訴訟について、日本の裁判所に国際裁判管轄はあるか。
(4) A及びその両親が、バス事故により被った損害の賠償請求訴訟を日本の裁判所においてD社に対して提起した場合、日本の裁判所に国際裁判管轄はあるか。
国際私法IIの試験問題(a)から(d)
(a) 本件契約には準拠法条項はない。その場合、本件契約の準拠法は何か。
(b) 仮に、本件契約に準拠法条項があり、それによれば、丙国法が準拠法として指定されていたとする。Aの常居所地国である日本の消費者保護のための特別ルールが適用されるとすれば、どのような条件が満たされた場合か。旅行先国である甲国の消費者保護のための特別ルールが適用されることがあるか。あるとすればどのような場合か。
(c) 強盗に遭ったことによる損害について、AはBに対して本件契約上の責任とともに、不法行為責任を追及したいと考えている。この不法行為の準拠法はどこの法か。
(d) Dに責任があるか否かを定める準拠法はどこの法か。
問題2 国際民事訴訟法
Y国政府は、日本の航空機メーカーXから、沿岸警備及び海難救助用の航空機3機(本件航空機)を購入する契約を締結し、そのすべての引き渡しを受けたが支払いをしない。契約によれば、本件航空機の引き渡し場所も代金支払場所もいずれもXの本社のある名古屋市とされている。
(1) Xは名古屋地裁においてYに対する代金支払請求訴訟を提起した。これに対して、Yは裁判権免除を主張している。本件航空機の購入が公的な目的によるものであるとの主張に対して、どのように判断すべきか。
(2) Yは、Y国憲法上、外国の裁判所での裁判において被告として本案について争うことを禁じられていると主張し、日本で裁判を行うことは事実上防御権行使を不可能ならしめると主張している。この点についてどのように判断すべきか。
問題3 国際私法II
日本在住のYは、A国を旅行中にレンタカーを運転していたところ、同じく旅行でA国を訪れていたB国在住のXと接触する事故を起こした。重傷を負ったXは日本での応急措置ののち、B国に戻って手術を繰り返し受けたものの、結局、Xには半身不随の障害が残った。
Xは日本の裁判所においてYに対する損害賠償請求の訴えを提起した。本件の不法行為債権の準拠法であるA国法によれば(この点は前提とする)、金銭賠償を求める場合、外国通貨による請求を認めていない。しかし、Xは、損害額の算定通貨の問題は不法行為法の範囲外であると主張し、Xの経済的損害はB国通貨により生じているので、遅延損害金も含めてB国通貨による算定をした上で、最高裁昭和50年7月15日判決(民集29巻6号1029頁)に依拠して、事実審の口頭弁論終結時の為替レートにより換算した日本円相当額を支払え、と請求している。
なお、不法行為に基づいて発生する債務の履行が遅延した場合に付される遅延利息は、A国法によれば年1%、B国法によれば年30%、日本法によれば5%である。
日本の裁判所が、Yに対してXへの損害賠償を命ずるとして、通貨及び遅延利息の問題はどのようにすべきか。