国際私法U

47090026 上田綾乃

 

 

問題1(国際民事訴訟法・国際私法U共通)

問題(a)本件契約には準拠法条項はない。その場合、本件契約の準拠法は何か。

1.本件契約の性質決定

(1)本件契約は、日本人大学生Aと旅行会社B社との間に締結された契約であるところ、通則法は契約一般について7条以下で規定しているのに加えて、特則として消費者契約について11条以下で規定していることから、本件契約が11条にいう消費者契約に該当するかが問題となる。

(2)ここで、111項によれば、消費者契約とは、以下の要件を充足するものをいう。

   @一方の当事者が個人である消費者であること

   Aその個人は事業として又は事業のために契約の当事者となる場合でないこと

   B相手方は事業者であること

   C上記の当事者間で締結される契約であること

   Dただし、労働契約ではないこと

(3)では、本件契約は上記要件を充たし11条の適用対象たる消費者契約に該当するか。

   まず、本件契約の一方当事者たるAは個人であり自らの観光旅行のために本件契約を締結した者であることから、要件@Aを充たす。また、その相手方たるB社は旅行会社であるから要件Bを充たし、本件契約はそのような両当事者間で締結されたものであり、労働契約ではないことから要件CDも充たす。

   従って本件契約は消費者契約に該当する。

 

2.通則法7条・9条について

(1)以上のように、本件契約は消費者契約に該当し、通則法11条の適用対象となるところ、同条は一般の契約についての7条・9条の適用を排除するものではない。よって本件契約においても、そのような当事者自治による準拠法の指定・変更が存したか、という点がまず問題となる。

(2)そこで本件契約締結に際して、7条のいう当事者による準拠法の「選択」があったかにつき検討する。

   ここで、7条にいう「選択」は、当事者の明示的な意思表示のみならず黙示的な意思表示でもよいというのが旧法下からの判例の立場[1]であった。このような見解は現行法改正時に敢えて文言を変更しなかったことから、現在においても採用しうると考えられる。しかし、旧法下と異なり、当事者の準拠法選択がない場合には8条の最密接関係地法によるとされたことから、従来のように妥当な準拠法選択を導くために強引に当事者の黙示の意思による選択を認定する必要性は存しない。従って、現行法下において黙示の選択の有無は、明示的でないにせよ8条による準拠法と異なる法を当事者が敢えて選択していると言い得るか否かという点から検討すればよい[2]と考えられる。

(3)以上を前提に本件を検討するに、本件契約には準拠法条項はなく、明示的な意思表示は認められない。また、ABB社のウェブ・サイト上の契約書とそれに対するAの「OK」のクリックのみを前提に契約が締結されていることから、両者間に敢えて最密接関係地法と異なる準拠法を選択しようとの黙示の意思表示も認められない。

   従って本件においては当事者による準拠法の選択はなく、また9条にいう変更の事実も存しない。

 

3.通則法112項の適用

(1)上述のように、本件消費者契約の成立について、79条の規定による準拠法の選択がないため、112項により、8条の規定にかかわらず、当該消費者契約の成立及び効力は、消費者の常居所地法によるべきとされる。

(2)しかし、11条にいう消費者契約に該当する場合でも、常に11条により消費者の常居所地法上の強行規定が適用されるようでは、事業者側に不合理なコストが発生し、結局それは全消費者を含む市場全体が負担することになり妥当ではない。そこで、通則法は、11条6項各号に該当する場合には、11条による消費者保護のための特別ルールは適用されない旨規定している。

   具体的には、11条6項1号2号が能動的消費者についての例外、3号4号は契約相手方の消費者性およびその住居所地に関する事業者の期待を保護すべき場合をそれぞれ規定している。

(3)そこで、本件消費者契約につき116項各号該当性が認められるかを検討する。

ア.第1に、いわゆる能動的消費者についての例外を定める11条6項1号2号は、事業者の事業所で消費者契約に関係するものが消費者の常居所地と法を異にする地に所在した場合において、消費者が事業者の事業所と同一の法域に赴いて契約を締結した場合(1号)、またはその地において当該消費者契約に基づく債務の全部の履行を受けもしくは受けることとされていた場合(2号)につき規定している。これら規定の趣旨は、そのような能動的消費者については、その常居所地法上の保護が与えられないとしても、消費者の期待を害するとはいえず、他方、事業者にとっても、他の法域から訪れる消費者との間の契約に当該消費者の常居所地方が適用されるというのでは、準拠法に関する事業者の予測可能性を害すると考えられる点にある[3]

これを本件につき検討するに、まず1号につき、本件契約締結はインターネット上のB社ウェブ・サイトにおいてなされていることから、このような場合も、同項1号にいう消費者が事業者の事業所と同一の法域に赴いて契約を締結した場合に該当するかが問題となる。

ここで、1号が消費者の常居所地法による保護を除外する趣旨は、消費者の積極的態様に着目したものであることからすれば、世界中どこのサイトにも容易にアクセスし得るインターネット上の契約締結によっては、消費者につきそのような積極性を見出すことはできず、1号には該当しないとすべきである。

従って、本件契約は1号に該当しない。

また、2号については、本件消費者契約に基づく債務の履行地は専ら甲国であって、B社の事業所のある丙国ではないため、同号の該当性は認められない。

 イ.第2に、本件契約は、その締結に際してB社がAの常居所地を把握していたかが明らかでないことから、1163号の消費者の常居所地の誤認の場合に該当しないかが問題となる。すなわち、同号は事業者が消費者の常居所を知らず、かつそのことにつき相当の理由がある場合を例外として規定するところ、当該「相当の理由」がどのような場合に認められるべきか。

   ここで、同条3号の趣旨が、事業者の準拠法に対する予測可能性保護の点にあることからすれば、「相当の理由」は、具体的には消費者が自己の常居所を偽った場合や、取引形態からして事業者が消費者の常居所を知らないことが通常である場合に認められるべき[4]と考えられる。

   そこで、本件においては、取引形態からして事業者が消費者の常居所を知らないことが通常である場合と言い得るかが問題となる。

   ここで、本件契約が甲国におけるホテルの予約のみならず甲国と乙国にまたがる海外旅行に関する手配を内容とするものであるところ、海外旅行は危険も多くまた旅行者と目的地の文化の差異によるトラブルも多く考えられることから、当該旅行者の常居所がどこであるかは契約の前提とされるべきである。とすれば、本件における事業者はそのような海外旅行を手配する旅行会社であるから、本件契約締結に際しては、消費者の常居所を知っていることが通常であると考えられる。

   従って、本件においては1163号にいう「相当の理由」は認められない。

(3)以上により、A112項にいう消費者として保護されるため、本件契約については、8条の適用が排除され、Aの常居所地法たる日本法が準拠法となる。

 

問題(b)仮に、本件契約に準拠法条項があり、それによれば、丙国法が準拠法として指定されていたとする。Aの常居所地国である日本の消費者保護のための特別ルールが適用されるとすれば、どのような条件が満たされる場合か。旅行先国である甲国の消費者保護のための特別ルールが適用されることがあるか。

1.問題文:前段について

(1)本件契約においては、ウェブ・サイト上で表示された本件契約書において、Bが手配したサービスの一切の事故・トラブル等につきBは免責される旨の条項が含まれている。このような条項が、日本の消費者保護のための特別ルールによって、効力を否定される余地はあるか。

まず、通則法に基づいて日本の消費者保護のための特別ルールが適用される場合につき検討する。

ここで、本件契約の準拠法が、当事者により丙国法と指定(7条)されている場合においても、本件契約が消費者契約である場合には、その成立及び効力につき、111項により当該消費者の常居所地法である日本法の消費者保護規定が適用される余地がある。

   では、本件において、どのような条件を充たす場合に11条に基づき消費者保護のための特別ルールが適用されるか。

前提として、本件契約が11条にいう消費者契約に該当し、また116項各号の消費者契約保護の例外となる場合にあたらないことは上述の通りである。

(2)第1に、111項は、消費者の常居所地法以外の方が選択された場合の消費者契約の成立及び効力につき、消費者が常居所地法上の「特定の強行規定を適用すべき旨の意思を事業者に対し表示した」ことを要求している。

 ア.そこで問題となるのが、消費者の上記意思表示に際して、強行規定の特定はどの程度なされることが要求されるか、という点である。

 イ.ここで考慮すべき事項として、一方に当該規定を適用しなければならない裁判官の負担がある。同規定により適用される強行規定が日本法であるとは限られないため、その負担軽減という観点からは、消費者に出来る限り強行規定の特定の責任を負わせることが望ましい。

   他方で、民事訴訟法上法適用は裁判官の職権によるとされていることからすれば、消費者に特定の法律名・条文番号まで挙げることを必須とさせるのは妥当ではない。また、経済的弱者たる消費者に複雑な抵触規則を理解させ、常居所がどの国にあるかを正確に認識し、選択された法よりも自己の常居所地法の方が消費者保護に厚いことを理解したうえで、その常居所地法上の特定の強行規定の効果まで主張することは期待できないことからも、消費者に過度の特定を求めるべきではない。

 ウ.このような考慮事項を前提とすれば、消費者が常居所地法上の特定の法的効果までは主張していない場合であっても、抽象的に常居所地法を援用している場合において、その意思表示から常居所地法中の特定の強行規定を適用すべき旨が客観的に認識出来れば足りる[5]とするのが妥当であると考える。

(3)従って、本問において日本法の消費者保護のための特別ルールの適用が認められるためには、Aは常居所地法中の特定の強行規定を適用すべき旨が客観的に認識しうる程度の意思表示を事業者に対してしなければならない。

(4)次に、日本の消費者保護のための特別ルールである日本法が、通則法の規定なくして、わが国の国際私法上、本件において適用される余地があるか検討する。

 ア.ここで、後述するように、いわゆる絶対的強行法規については、通則法11条の適用を待たずに、当該法規と法域を同じくする法廷地においては適用されると考えられている。

そして、この場合には、通則法111項の要求する当事者による当該法規の適用を求める意思表示(上記(2)ウ.)を要しない。なぜなら、絶対的強行法規の保護法益は社会的、経済的その他の公益であって、当事者の利益を守るものではないことから、上記当事者による意思表示は不要とされる[6]のである。

 イ.従って、問題文からは明らかでないものの、仮にAが本件契約に基づくB責任を追及すべく日本の裁判所に訴訟を提起した場合で、かつ、当該日本の消費者保護のための特別ルールが絶対的強行法規に該当する場合には、当該特別ルールが適用されることとなる。

 

2.問題文;後段について

(1)当事者の指定する準拠法でもなく、消費者の常居所地法でもない甲国法のなかの消費者保護のための特別ルールが適用されることはあるか。

(2)まず、通則法11条は、消費者の常居所地法の適用を問題とするにとどまり、通則法には上記のような消費者保護規定の適用を定める明文は存しない。

   しかしながら、わが国の国際私法上、国家利益・社会政策の実現を目的とする特に強行性の強い法規については、準拠法如何にかかわらず適用される余地を認めるべきとも考えられる。そして、そのような強行法規を絶対的強行法規と呼ぶ。

(3)では、絶対的強行法規が通則法によらず適用されるのはどのような場合か。

   ここで、従来からの議論としては、通常の抵触規則によって契約準拠法が決定されることで、当該法秩序の絶対的強行法規も含めて一体的に送致されると考えられてきた。また、法廷地の絶対的強行法規は、法廷地の法秩序を守るための「積極的公序」として、あるいは「内国公法の属地的効力」に基づいて、準拠法如何に拘わらず必ず適用されると考えられている[7]

(3)しかしながら、Aがわが国でBの責任を追及する訴訟を提起した場合には、本件契約の準拠法は丙国法、法廷地法は日本法となるため、旅行先国である甲国法は11条によっても、法廷地法という理由によっても適用されない。では、わが国の国際私法上、このような第三国の絶対的強行法規が適用される余地はないか。

  ア.このような問題につき、絶対的強行法規が抵触法体系の前提となる等価性・互換性のある私法上の法規とは異なる以上、内国及び外国の絶対的強行法規は、各々固有の法理に基づいてその適用範囲を画定するのが妥当であろうとの見解[8]も存する。

    しかしながら、そもそも絶対的強行法規を明確に区別するのが困難であることに加えて、上記見解の提案する基準もまた不明確なことからすれば、そのような見解を採用することは困難であるように思える。

イ.これに対して、わが国の多数説は、旧法例以来の解釈論として、第三国の絶対的強行法規の直接的な適用は認められないとする立場にたっている[9]。このように解したとしても、契約準拠法上の公序良俗、信儀則等の一般条項の枠内で、あるいは履行不能の判断において、当該絶対的強行法規を(事実の一つではあるが、)考慮することはできる[10]。準拠法でも法廷地法でもない第三国法の適用については、どのような場合に適用を認めるべきかという明確な基準を定立することは困難であることからすれば、このような一般条項において間接的に考慮すれば足りるのではないかと考える。

(4)よって、上記多数説を前提とするならば、甲国の消費者保護のための特別ルールが絶対的強行法規に該当する場合であっても、それが第三国の絶対的強行法規である以上直接適用されることはない。但し、本件契約の準拠法たる丙国法の一般条項における考慮要素の1つとして、当該甲国の特別ルールが判断の前提とされる余地が存するに止まる。

   

問題(c)強盗に遭ったことによる損害について、ABに対して本件契約上の責任とともに、不法行為責任を追及したいと考えている。この不法行為の準拠法はどこの法か。

1.通則法17条について

(1)不法行為の準拠法については、通則法17条が原則として結果発生地法によるとしつつ、その地における結果発生について予見可能性のない場合には加害行為地法によることを規定している。

(2)そこでまず、本件における結果発生地がいずれの国であるかが問題となる。

   ここで、結果発生地とは、被害者が被った被害という事実そのものが発生した地を意味し、例えば人身に傷害を受けた場合には、当該傷害を受けた地が結果発生地であり、それにより発生する逸失利益や治療費等の具体的な損害に着目して結果発生地が定められるわけではない[11]と考えられる。

   とすれば、本件においては、Aは甲国の空港において強盗により金品を強奪され、また負傷したのであるから、Aの被害という結果は甲国において発生しているといえる。

(3)では、本件において甲国における結果発生について、丙国の旅行会社であるB社に、予見可能性が認められるか。

   ここで、Aの上記結果は、B社がAに対する甲国のホテルの手配を怠ったことによって生じたものであることからすれば、甲国での結果発生は十分に予見可能であったと言える。

(4)従って、通則法17条によれば、本件不法行為の準拠法は結果発生地法たる甲国法になる。

 

2.通則法20条について

(1)通則法20条によれば、同17条に基づく準拠法が属する法域よりも明らかに密接な関係を持つ他の法域があれば、その法が準拠法となる。一般に例外条項と呼ばれ、不法行為が様々な態様で発生しうることに鑑み、準拠法の決定に一定の柔軟性をもたせたものである。

(2)では、20条による17条の準拠法の修正はどのような場合に認められるか。

  ア.ここで20条は、より密接な関係が認められる事情として、特に、

   @不法行為の当時において当事者が法を同じくする地に常居所を有していたこと、

   A当事者間の契約に基づく義務に違反して不法行為が行われたこと、

   を挙げている。

  イ.このうちAについては、不法行為が当事者間の基本関係に基づいて発生した場合には、それが国際私法上も不法行為の問題となるとしたうえで、当該基本関係の準拠法によるべきとする、附従的連結を採用したものである。その根拠としては、上記のような場合には、基本関係の準拠法を適用することが当事者の合理的期待にかなうこと、また実際にも、両準拠法を一致させることで、困難な性質決定および適応問題の処理を回避できることが挙げられる。

ウ.そして、上述の@Aは20条による最密接関係地の判断の考慮要素の例示として規定されているにとどまるため、Aに該当する場合でも必ずしも20条によって修正がされるとはいえない。しかしながら、少なくともAについては当事者間の基本関係の準拠法を最密接関係地とすることに上述の通り十分な根拠が認められること、及び当事者間における法的安定性の観点からすれば、Aの事情が認められる場合には、原則として20条による修正を認めるべき[12]と考える。

(3)以上を前提に本件において通則法20条に基づく修正が認められるか検討するに、本件Bの不法行為はAB間の海外旅行を手配する契約に基づく義務に違反して行われたものであるから、上記Aの事情が認められ、20条により、原則として不法行為についても日本法を準拠法とすべきように思われる。

   これに対しては、本件の場合のように、基本関係たる契約の準拠法が、7条〜9条ではなく、11条によって決定されている場合においても、当該準拠法を20条にいう、より密接な関係のある地の法とすることには疑問が存する。すなわち、11条の適用によって選択された消費者の常居所地法は、消費者保護の観点から、当該契約との関係の程度に拘わりなく、また準拠法選択についての当事者の意思にも拘わらず、定められたものである。よって、17条の準拠法よりも密接な関係地法への修正を目的とする20条の趣旨に反し、当事者(事業者側)の予測可能性を害する。そして、当事者間の基本関係たる契約と準拠法を異にすることにより、適応問題が生じる可能性があるとしても、国際私法の構造上適応問題を完全に回避できないのはやむを得ないことである。

   以上を前提とすれば、本件契約の準拠法は日本法であり20条の例示(上記Aの事情)に該当するため、原則としては20条による修正を認めるべきであるが、本件では当該準拠法が11条によって決定されたが故に、それのみで日本法がBAに対する不法行為につき明らかにより密接な関係がある地の法であるとは言えないとすべきである。そして、実際に本件契約と日本にそのような関係は認められない(本件契約の最密接関係地となり得るのはおそらく特徴的給付のなされる甲国と考えられる)から、17条によって決定された準拠法である国法が20条によって修正されることはないとすべきである。

 

3.本件不法行為の準拠法

   以上より、本件Bの不法行為については、その準拠法は17条によって決定される国法とすべきと考える。

 

 

問題(d)Dに責任があるか否かを定める準拠法はどこの法か。

1.DAに対する不法行為責任の存否について

(1)Dの責任を不法行為責任として追及する場合には、Dの責任の有無を判断する準拠法は、不法行為につき規定する17条によって決定されることとなる。

(2)そこで、本件事故の結果発生地はいずれの国であるか検討するに、上述の通り、人身に傷害を受けた場合には、当該傷害を受けた地が結果発生地となることから、Aが大けがを負った乙国が結果発生地となり、Aが日本において手術をし、手術費用が日本で発生したとしても、日本が結果発生地となるものではない。

   これに対して、旧法下において(法例111項の原因事実発生地の認定につき)、具体的な損害の発生地に着目した裁判例[13]が存する。すなわち、カナダのスキー場における事故につき、原告が求めた日本における治療費、通院交通費、休業損害等は「いずれも日本において現実かつ具体的に生じた損害である」として、日本法を準拠法としたものが存する。

   しかしながら、通則法においては、準拠法選択の妥当性を確保する手段として例外条項として20条が置かれている以上、上記裁判例のように通則法17条の「結果」を広く解する必要性はないとすべきである。

(3)よって、本件事案における結果発生地は乙国となり、乙国への観光バスを運営するD社は当然に乙国における結果発生を予測しえたといえる。

(4)以上より、本件においてDの責任を不法行為として追求する場合には、その責任の有無は乙国法によって判断されることとなる。

   但し、下記によってAD間において契約の成立が認められる場合には、上記準拠法は20条により修正される余地はある。

 

2. DAに対する契約責任の存否について

(1)次に、本件においてAからDに対して契約責任を追及しうるかにつき検討する。

・・・

 ア.ここで、AD間のバスツアー契約の準拠法は、消費者Aと事業者Dの間の契約であるため11条の適用の存否が問題となる。

しかし、ADによる甲国発着の観光ツアーという債務の履行を、Dの事業所所在地である甲国において受けていることからすれば、1162号の能動的消費者に該当するため、11条の適用はない。ここで、

 イ.よって、本件においては一般の契約と同様に準拠法を決定すべきこととなるところ、AD間に準拠法の選択(7条)がなされたという事情は現れていない。

   そこでAD間契約の最密接関係地(8条)はいずれかを検討するに、当該契約において特徴的給付が甲国法人Dのみによって行われていることから、Dの常居所地法たる甲国法が最密接関係地法であると推定される(82項)。そして、ADは当該契約締結に際して、甲国以外の地で接触をもっていないこと等からも、上記推定は覆るものではないと考えられる。

 ウ.以上により、仮にAD間に直接の契約関係がBの行為地法により認められた場合には、8条により甲国法が準拠法とされ、Dの契約責任の有無は甲国法によって判断されることとなる。

 



[1] 最判昭和53420日民集323616頁(定期預金契約の準拠法決定)

[2] 澤木=道垣内『国際私法入門<第6版>』(2007年、有斐閣)200

[3] 神前禎『解説法の適用に関する通則法』(2006年、弘文堂)97

[4] 小出ほか「法の適用に関する通則法の解説」NBL83816

[5] 前掲注(3)神前91頁、西谷裕子「消費者契約及び労働者契約の準拠法と絶対的強行法規の適用問題」国際私法年報9号(2007年、信山社)34

[6] 前掲注(2)道垣内224

[7] 前掲注(5)西谷46

[8] 前掲注(5)西谷47

[9] 横山潤「国際私法における公法」『国際私法の争点<新版>』(1996年、有斐閣)24

[10] 東京地判平成10530日判時1676129頁もこのような契約準拠法理論を採用したものであると評価する学説がある。

[11] 前掲注(3)神前118

[12] 中西康「法適用通則法における不法行為」国際私法年報9号(2007年、信山社)81頁、須網=道垣内編『国際ビジネスと法』(2009年、日本評論社)156頁は、法的安定性に加えて、20条の立法経緯からしても、附従的連結の要件が満たされる場合には積極的に17条よりも20条の適用を優先させるべきとする。

[13] 千葉地判平成9723日判時163986