WLS国際関係私法基礎

47110051 正畠大生

 

問題1

・小問(1)について

1、YAの婚姻の問題点

Yは、Aとの婚姻が成立する以前に、既にXと婚姻関係にある[1]。したがって、YA間の婚姻は重婚にあたり、婚姻の実質的成立要件を欠いている可能性がある。そこで、これを判断するための準拠法が問題となる。

2、YAの婚姻の実質的成立要件の準拠法

法の適用に関する通則法(以下、通則法とする)24条1項は、婚姻の実質的成立要件の準拠法を各当事者の本国法としている。そして、Y・Aは、共に甲国籍であるから、いずれの本国法も甲国法となる。

したがって、YA間の婚姻の実質的成立要件は、甲国法を準拠法として判断される。

3、実質的成立要件の欠缺の有無

そこで、甲国法を基準にYAの婚姻が実質的成立要件を充足しているかを検討すると、甲国では、男性による重婚は容認されており、婚姻の障碍事由とはされていない。したがって、甲国法による限りでは完全に有効な婚姻であることになる。

しかし、甲国法をそのまま適用し、重婚関係を認めることは、日本の一夫一婦制の原則に反する可能性がある。この点について、通則法42条は、外国法の規定の適用が公の秩序又は善良な風俗に反するときは、これを適用しないとしている。そこで、甲国法に基づき、重婚であるYAの婚姻を有効とすることは、本条の公序良俗違反にあたるかが問題となる。

まず、本条の言う公序とは、国家的公序である。もしこれを超国家的な普遍的公序とすれば、適用する外国法の内容を批判することに他ならなくなり、妥当ではないと思われる[2]。とはいえ、日本法の強行規定に反すれば、必ず適用が排除されるわけではない。本条が適用されるのは日本の私法秩序が著しく害されるような場合に限定されるべきである[3]

そこで、かかる場合にあたるか否かは、適用結果の異常性と事案の国内関連性の相関関係を考慮して決定される[4]。本件では、確かに、YAの夫婦生活は完全に甲国内で営まれている点では国内関連性は希薄であるとは言いうるが、現在も継続されている重婚関係を許容することは、日本の身分法秩序の基本原則である一夫一婦制を無視するものであって、適用結果の異常性は大きく、また、前婚の一方当事者は、日本人とて生活基盤を国内におき、相手方も定期的に来日しているのであるから、異常性を無視しうる程に国内関連性が希薄だということはできない。

したがって、重婚を認める甲国法の規定の適用は排除され、YAの婚姻には婚姻障害が存在することになり、実質的成立要件を欠く。

4、YAの婚姻の評価

上述のように、YAの婚姻が実質的成立要件を欠くとして、かかる婚姻は法的にどのように評価されるか。すなわち、実質的要件を欠くとしても、無効とすべきか、取り消しうるに過ぎないのか、若しくまたは、届出等の形式的要件がいったん満たされた以上もはや取消もできないのか、が問題となる。通則法は、同法42条によって外国法の適用が除外された場合の処理について何ら規定を設けていない。

判例は、かかる場合には国内法の規定が補充的に適用されるとしている[5]。しかし、このように解すると、損害賠償額の算定等の場合において適用が排除される場合とそうでない場合とで逆転現象が生じる可能性があり妥当ではない。したがって、日本の国家的公序を害しない限度として考えられた規範を適用すれば足りるとすべきである。

このように考えたとき、やはり、重婚関係の解消を認めない限り、国内の私法秩序を回復することはできない。とはいえ、まったく無関係の者に無効主張させなければならない性質の問題ではない。日本民法も取り消しうるものとしているに過ぎない(民法744条)。したがって、YAの婚姻は取り消しうるものと評価されることになる[6]

・小問(2)について

1、離婚請求の可能性

上記のとおり、YAの婚姻は重婚であり、取得るものと評価されることから、YがAと結婚したことは、Yの貞操義務違反に当たり、前婚の妻であるXの離婚請求が認められる可能性がある。

2、XYの離婚の準拠法

 <本件では、日本人であるYが日本に常居所を有するか否かを検討し、それを肯定した上で、通則法27条但書を適用すれば済むので、同条本文を適用するという迂遠な記述は不要です。>

離婚の準拠法ついて、通則法27条は、同法25条を準用し、一次的には夫婦の同一の本国法を、次いで夫婦の同一の常居所法を、それでも決定されない場合は、夫婦の最密接関係地法を準拠法とすることを規定している。そこで、XとYそれぞれの国籍と常居所を特定する必要がある。

(1)Yの国籍と常居所

Yの国籍が甲国籍であることは明らかである。

Yの常居所は、甲国か日本か。たしかに、Yは12年前から約9年間日本に生活の中心として滞在していたのであるから、その当時は常居所が日本であったと言えるが、その後、二年間は完全に生活の中心は甲国であって、日本には年に1ヶ月程度滞在しているに過ぎない。Yが未だ甲国籍であることも考えると、もはやYの常居所は甲国であると言わざるを得ない。

したがって、Yの本国法、常居所法はともに甲国法である。

(2)Xの国籍と常居所

Xの国籍はいくつかの場合が考えられる。それは、イスラム圏の国では、その国の男性との婚姻によって、外国人女性に当然にその国の国籍が付与されるという制度がとられていることに起因する[7]

この場合、Xの国籍は3通りの状態が想定できる。

@一つは、国籍選択制度の下で日本国籍を選択し、甲国籍を離脱している場合。このとき、Xは日本国籍者であり、本国法は日本法である。

Aもう一つは、甲国籍を選択し、日本国籍をそうしている場合である。このとき、Xは甲国籍者であり、本国法は甲国法である[8]

B最後は、日本国籍を選択したものの、甲国籍を未だ離脱していない場合である。この場合、Xは、日本国籍と甲国籍の二重国籍者となる。このとき、本国法は通則法381項但書によって当然に日本法となる。

Xの常居所が日本であることは明らかである。

したがって、Xの本国法は、甲国法、日本法のいずれの場合も考えられ、常居所法は日本法である。

以上のことからすると、Xの本国法が甲国法である場合、XYの本国法が同一であるから、甲国法が準拠法になる。一方、Xの本国法が日本法である場合、本国法・常居地法ともに同一ではないから、夫婦の最密接関係地法が準拠法となる。では、本件で夫婦の最密接関係地はどこか。Yは、ここ2年間は、一年の大半は甲国にいるものの、XYの婚姻挙行地は日本であり、以後2年間は実質的に日本で夫婦生活を営んでいたため、最後の夫婦の同一常居地は日本であったと言える。そして、その後の2年間もXは引き続き日本に滞在している。かかる事情を考慮すると、XY夫婦の最密接関係地は日本であるといえる。したがって、この場合、準拠法は日本法である。

3、離婚請求の可否について

(1)甲国法が準拠法である場合[9]

甲国がイスラム国家であることから、甲国法においては夫に一方的な専断的離婚権を保障しており、妻からの離婚はかなり限定されていることが考えられる。したがって、妻が病弱でない限り自分の同意を得ないで第二夫人を迎えてはならないといった条件で夫のタラークを委譲していない限り、離婚宣言(タフウィード)は認められないと予想される。また、裁判上の離婚においても、甲国法民法典が重婚を適法としている以上、これが離婚事由となっているとは考えづらい。

そうであるならば、甲国法を適用した場合には、Xの離婚請求は認められないことになる。しかし、その場合、妻からの離婚請求を認めなければ、公序に反することになるから、前述のとおり通則法42条により適用は排除され、離婚請求は認められると考えられる。

(2)日本法が準拠法である場合

日本法を準拠法とすれば、民法77011号に該当し、離婚請求が認められる。(既にYAが正式な婚姻関係に入っている以上、同条2項により請求棄却されることもないと考えられる。)

・小問(3)について

手続法は法によるという原則に従い、Xの離婚訴訟の国際裁判管轄は法地法である日本法によって決定される。

<民訴法の国際裁判管轄規定は、施行されても財産事件だけを対象としており、人事訴訟法には国際裁判管轄の規定はないことから、当面、明文の規定を欠く状態が続きます。>

そこで、日本の民事訴訟法を見ると、日本の国際裁判管轄に関して、民事訴訟法及び民事保全法の一部を改正する法律(平成二三年五月二日法律第三六号。以下、改正法とする。)によって民事訴訟法が改正され、明文で規定されるにいたった。しかし、本改正は現在未施行であるため、現時点でXが離婚訴訟を提起すればこれを直接適応することはできない(改正法附則21項)。したがって、国際裁判管轄に関しての明文を欠くことになるため、いかなる基準で国際管轄権の有無を判断するかが問題となる。

これについて、判例[10]は、「離婚の国際的裁判管轄権の有無を決定するにあたっても、被告の住所がわが国にあることを原則とすべきことは、訴訟手続上の正義の要求にも合致し、また、いわゆる跛行婚の発生を避けることにもなり、相当に理由のあることではある。しかし、他面、原告が遺棄された場合、被告が行方不明である場合その他これに準ずる場合においても、いたずらにこの原則に膠着し、被告の住所がわが国になければ、原告の住所がわが国に存していても、なお、わが国に離婚の国際的裁判管轄権が認められないとすることは、わが国に住所を有する外国人で、わが国の法律によっても離婚の請求権を有すべき者の身分関係に十分な保護を与えないこととなり(法例一六条但書参照)、国際私法生活における正義公平の理念にもとる結果を招来することとなる。」と判示している。したがって、まずは、被告の住所地が日本国内にあると言えるかが問題となる。

そこで、被告であるYの住所地を考えると、Yは、甲国で生まれ、<出生地は住所地の認定には使えないと考えられます。>現在生活のほとんどを甲国で生活していることからすると、住所地は甲国であると言わざるを得ない。

では、それでも例外的事情として、日本に裁判管轄を認めることはできないか。これについて、前掲判例は、被告による原告の遺棄、被告の行方不明、若しくはこれに準ずる場合に限定してこれを認めているようにも思える。しかし、上記の条件は、具体的な事実の下で、「当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念により条理にしたがつて決定」したもの[11]であると考えられる。そうであるならば、夫婦の最後の共通の常居所地国になお一方が常居所を有している場合にその国に管轄権を認めたとしても上述の条理に反するものであるとは言えない。<この部分については理由の記述が必要でしょう。>

本件では、XYの最終の常居所地は日本であり、Xはなお日本に常居地を有している。また、Yは、現在もなお定期的に日本に訪れていることを考慮すれば、Yが日本で応訴することが特に不利益となるような特段の事情も存しないと言える。したがって、XのYに対する離婚請求訴訟には、日本の裁判所に国際裁判管轄権が認められる。

 


 

問題2

1、被告の住所地

まず、3条の21項の被告の住所地が日本国内にあるときにあたるかが問題となる。しかし、本件で、被告はドイツに住所地があるため、これによって、管轄は認められない。

2、債務の義務履行地

次に、3条の31号にあたるかが問題となる。ここで、義務履行地がどこであるかが問題となる。

本件では、もともとの契約内容は、ドイツ国内での自動車の買い付けの仲介を請け負ったに過ぎないのであるから、被告の主たる債務について、日本において履行すべき義務は何ら存在しない。3条の31号は、「主たる債務」を問題とはしていません。問題となるのは、原告の請求に関係する債務です。>

では、信用条状決済でおこなわれる預託金の返還債務について、義務履行地が日本であるか。これについて、当該義務の履行地については何らも明示の合意は存在しない。また、特に義務履行地を日本とするような黙示の合意があったというべき事情は見受けられない。したがって、当該義務の履行地は、本契約の準拠法によって定められることになる。

そこで、本契約の準拠法を考える。まず、通則法7条によって、当事者の合意によって決定される。しかし、かかる合意があったという事情は見受けられない。そこで、通則法81項によって最密接関係地法によって準拠法が決定される。本件では、返還義務を被告が一方的に追うことになるから、被告の常居所地法であるドイツ法が最密接関係地法と推定される。さらに、もともとの契約の締結などもドイツ国内で行われたことも考慮すれば、かかる推定を覆す事情もないと考えられる。したがって、本契約の最密接関係地法はドイツ法であり、ドイツ法が準拠法となる。

そして、ドイツ法では、金銭債務は原則として取立債務であるとされており、よって被告の住所地が義務履行地となる。したがって、預託金の返還債務の履行地もドイツである。3条の31号の適用上、通則法8条によって決まる準拠法上の法定義務履行地は管轄原因とはなりません。合意された履行地又は明示的又は黙示的に合意された準拠法上の法定義務履行地が日本にあることが必要です。したがった、上記の網掛け部分は無益な記述です。>

以上のことから、同条項においても日本の裁判所に管轄権は認められない。

3、財産上の訴え

では、3条の33号によって管轄が認められるか。この場合、本件の訴えは金銭の支払いを求めるものだから、差押ができる被告の財産が日本国内にあるときには管轄権が認められる可能性がある。この点について、裁判では何ら事実認定されておらず、被告が日本に財産を有しているか否かは不明である。ただし、被告は日本人であるから、日本に何らかの財産を持っている蓋然性が高く(例えば、親からの相続財産など)、これを差し押さえることは可能であろう。よって、かかる財産の存在を原告が証明すれば、日本の裁判所に管轄権が認められることになる。

ただし、かかる場合においても、3条の9が規定する「特段の事情」が存在する場合には訴えを却下される可能性がある。本件においては、たまたま、被告の財産が日本の国内にあったとしても、長年ドイツで生活し、営業ももっぱらドイツで行っていることから考えると、被告が日本で応訴する負担は相当程度に高いことが予想される。また、契約の締結過程を考えれば、もっぱらドイツ国内で交渉・締結が行われているから、本件訴えにかかる証拠も多くはドイツに存在すると思われる。そうであれば、当事者の衡平、ないし適正・迅速な審理の実現を妨げる特段の事情が存在することになりそうである。したがって、同条によって本件訴えは却下される。

以上のことから、3条の33号によって本件訴えの国際裁判管轄が一応は認められる可能性があるものの、3条の9によって訴えは却下されうるると解される

 



[1] XYの婚姻が有効なものでなければ、YAの婚姻について重婚の問題は生じない(溜池良夫『国際家族法研究』(有斐閣、1985年)73頁参照。)ため、XYの婚姻の有効性が先決問題となるものの、本件では、XYの婚姻の有効性を疑わせる事情は存在しないため、これを有効なものとして扱う。

[2] さらに、澤木=道垣内『国際私法入門[第6版]』(有斐閣、2007年)61頁は、本条によって被本日本法の適用までもが排除されることになることを理由として挙げる。

[3] 櫻田嘉章『国際私法[第5版]』(有斐閣、2006年)121頁参照。

[4] 神前=早川=元永『国際私法[第2版]』(有斐閣、2006年)86頁。

[5] 最判昭和59720日(民集38巻8号1051頁)

[6] なお、このように解した場合、取消権者の範囲が問題となる。この点について本文の観点からすれば、本件においては、各当事者と前婚の相手方に取消を認めれば十分であると考える。民法7441項は、各当事者の親族に取消権を認めるが、これを認めなければ公序に反するとは言えない。また、公益の代表者たる検察官についても同様に取消権を認めるが、本件ではYAの婚姻自体は、戸籍法などの日本の身分関係制度に関わるわけではないため、検察官が特に代表して行使しなければならない事情はないだろう。

[7] イラン民法典など。(笠原俊宏『国際家族法要説[新訂補正版]』(高文堂)223頁参照。)

[8] 特に、国籍選択制度で、法務大臣の催告後に日本国籍を選択することなく一ヶ月が経過し、甲国の単一国籍となった場合には、実効的国籍論を採用すると、Xが自ら望んで甲国籍を取得した訳ではない本件事情においては甲国法を準拠法とするのは不適切であると判断される可能性がある。しかし、そもそもかかる理論を採用することは、身分関係の準拠法として求められる安定性を害するため、妥当でない(前掲澤木=道垣内『国際私法入門』95頁参照)。

[9] 以下に述べるイスラム離婚法について、湯浅道男『イスラーム婚姻法の近代化』(成文堂、1986年)58頁以下を参照。

[10] 最判昭和39325日(民集183486頁)

[11] 最判昭和561016日(民集3571224頁)