WLS国際関係私法基礎
47122086 鈴木茉由子
問題1
設問a
1、性質決定
契約の単位法律関係は法律行為である。法律行為については、法の適用に関する通則法7条以下が適用されることになり、当事者による準拠法選択があった場合にはその選択された法が(7条)、当事者による選択がない場合には最密接関係地の法が準拠法となる(8条1項)。
2当事者による準拠法選択の有無について
(1) 本件において、明示の合意については、本件契約について準拠法条項が存在せず、その他合意を示す資料もないため、存在しないと考えられる。
(2) 次に、黙示の合意は認められないか。通則法7条の当事者の選択に、黙示によるものが含まれるかが問題となる。
ア. 過去、法例の下においては、黙示意思を認めなければ、契約の準拠法は一律に行為地法に客観的連結されるという規定になっていたため、仮定的な意思をも含めて黙示意思を広く認定することによって、硬直的な規定を修正する方針がとられていた。しかし、現在では通則法8条により、当事者の準拠法選択がない場合は最密接関係地法への客観的連結が規定されたため、その意味では黙示意思を広く認定する必要性は乏しい。しかし、原則が当事者自治である以上、当事者の意思をできる限り尊重すべきであるから、黙示であっても現実的な意思であれば、黙示意思による準拠法選択を認めるべきである[[1]]。<最密接関係地法とは異なる地の法を指定する黙示の意思が認められるか否かが問題であり、取引慣行等により、現実の黙示の意思としてこれが認められるのであれば、それは意味があることだと思われます。道垣内>
イ. では、本件契約において黙示の現実的な意思による準拠法選択が認められるか。
本件においては、取引の契約書は英語で作成されているが、これのみをもって準拠法の選択とみることはできず、その他黙示の意思を認めることのできる事情も存在しない。
したがって、本件には黙示の準拠法選択も存在しない。
(3)以上より、本件契約においては当事者による準拠法選択が存在しないと認められる。
3、通則法8条以下の適用について
当事者による準拠法選択がない場合、法律行為の準拠法は、通則法8条1項により、当該契約の最密接関係地法となる。
(1)さらに、8条2項により、特徴的給付をする者の常居所地の法が最密接関係地の法と推定されることになる。ここでいう特徴的給付とは、当該契約を特徴づける給付をさす。たとえば、本件のような双務契約の場合には、金銭給付は他の契約一般にも見られるものであるので、金銭給付の反対給付が特徴的給付とされる。[[2]]
また、特徴的給付を行う当事者が当該契約に関係する事業所を有する場合は当該事業所の所在地の法が最密接関係地法として推定される。当該契約に関係する複数の事業所で異なる法域に所在するものを有する場合、その主たる事業所の所在地の法となる(8条2項かっこ書き)。
(2)以上を本件について検討すると、特徴的給付者は納品する側であるAとなる。したがって、当該契約に関係するAの事業所の所在地法が最密接関係地法になる。
本件では、Aは日本において詳細設計を行い、タイの工場で部品を製造している。したがって、この二つの事業所が本件契約に関係するといえる。8条2項かっこ書きによれば、この場合には、主たる事業所の所在地が最密接関係地とされることになる。
Aは日本の会社であるから、本社が存在するのは日本であると考えられる。したがって、Aの主たる事業所は日本であるから、最密接関係地は日本となる。
(3)なお、8条2項はあくまでも最密接関係地法の「推定」条項にとどまるものであり、別の地の方が最密接関係地法であるとの反証によって推定を覆すことができる[[3]]。しかし、本件では他に最密接関係地が存在することを証明するような事実は見当たらない。
(4)以上より、本件契約の準拠法は最密接関係地の法である日本法となる。
設問b
1、日本の国際裁判管轄規定について
自国の国際裁判管轄の有無については、自国法に従って判断される。本件の場合、東京地方裁判所に国際裁判管轄があるかどうかは日本の民事訴訟法によって判断されるため、民訴法3条の2〜3条の8、146条3項のいずれかに該当し、3条の9の特別の事情がない場合に管轄が認められることになる。
2、民訴法3条の3第一号の適用について
(1)民訴法3条の3第一号によれば、契約上の債務に関する訴えについては、当該債務の履行地にも国際裁判管轄が認められる。
(2)では、本件訴えは契約上の債務に関する訴えと言えるか。
本件では、AのBに対する代金支払請求訴訟であり、AB間の契約に基づくBの代金支払義務の履行を求めるものであるから、契約上の債務に関する訴えと言える。
(3)また、本件契約は双務契約であるが、契約から複数の債務が発生する場合、それぞれの債務ごとに管轄の有無が判断される[[4]]。したがって、代金支払債務についての管轄は、代金支払い債務の履行地によって判断される。
本件については、代金支払債務の履行地は振り込まれる口座の所在地であるAのM銀行丸の内支店であり、日本ということとなる。
(4)したがって、本件代金支払請求は民訴法3条の3第一号の要件に該当する。
3、民訴法3条の9の適用について
(1)民訴法3条の9は、3条の2以下に基づき日本の国際裁判管轄が一応肯定される場合であっても、事案の性質、応訴による被告の負担の程度、証拠の所在地その他を考慮し、「当事者間の衡平を害し、または適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情」がある場合には管轄を否定している。
(2)以上を本件代金支払請求訴訟について検討すると、本件請求のもととなるAB間の契約は、台湾企業Bからの概括的な注文に基づき、日本企業AとBの双方の担当者が行き来して詳細を詰め、日本において詳細設計を固めており、日本と事件との関連性がとりたてて大きくないとはいえないし、証拠が特定の日本以外の所在地に集中しているような事情も認められない。また、被告であるBも企業であって、資力が十分でないために法廷地である日本へのアクセスが困難であるというような事情も認められず、応訴の負担の程度は高くないと考えられる。<このように事案の事情を羅列するのではなく、「特別の事情」に該当することがあるか否か、それが訴えを却下するほどのことかに絞って検討すべきかと思います。特に、日本と関連性がある点を挙げることは、この検討プロセスの趣旨に合致しません。日本以外の国と関係する点のうち、「特別」といえるものがあるかないかを指摘すべきであり、台湾からの注文に基づく製造であること、タイ工場で製造したこと等を挙げ、これらはいずれも日本での訴えを却下するほどの「特別の事情」とはいえないという点を指摘すれば足りると思われます。なお、他の答案の中には、東京地裁昭和61・6・20判決を探し出し、日本と台湾との間には正常な国交がなく、司法共助により台湾所在の証拠を日本で利用することができないことが「特別の事情」に該当する旨指摘するものもありました。ただ、その判決で問題となっていたのは航空機墜落事故の原因であり、事故発生地である台湾に証拠があり、証人がいるケースでしたが、本件では、代金支払問題であって、台湾所在の証拠等がポイントになる訳ではないことを指摘して、訴えを却下するほどの事情ではないという判断をすべきでしょう。道垣内>
(3)したがって、本件代金支払請求訴訟には、日本に管轄を認めたとしても当事者の衡平等を害するような事情は認められず、民訴法3条の9の適用はないと考えられる。
4、結論
以上より、東京地方裁判所には国際裁判管轄が認められる。
設問c
1本件契約の準拠法
契約の単位法律関係は法律行為であるから、通則法第7条により、当事者の合意により選択された法が準拠法となる。
したがって、第Q条により、本件契約の準拠法は英国法となり、日本法を適用することは原則としてできない。
2絶対的強行法規について
(1)ただし、法廷地法において準拠法の如何を問わずに適用すべき規定は、絶対的強行法規として適用されることになると考えられる[[5]]。これに関する明文の規定はないが、準拠法に入っていなくても、それとは別に、社会的、経済的その他の公共的な目的から制定されている法律がある場合、その適用範囲に入るときには、その規定を適用すべきであると考えられるからである[[6]]。
(2)本件では、法廷地は日本である。したがって、日本における絶対的強行法規は、たとえ準拠法が日本法でなくとも適用されることになるため、下請代金支払遅延等防止法(以下、下請法という)が絶対的強行法規であれば、これに基づいて請求を行うことができることになる。
3、下請法が絶対的強行法規にあたるか
(1)ある法律の規定が絶対的強行法規であるかどうかは、その規定の趣旨が、国際私法によって指定される準拠法を問わずに適用されるべきものとして立法されたものであるかどうかによって判断される[[7]]。
(2)下請法は、独占禁止法に規定されている優越的地位の濫用規制についての特別法として制定されたものであって、弱い立場におかれることが多い日本の下請事業者の不利益を擁護することを目的とする法律であり(下請法第一章)、第4条の2は、その下請事業者の保護を具体化するにあたり、遅延利息を上乗せすることによって、支払の遅延防止を図る趣旨であると考えられる。その趣旨からすれば、たとえ事業の相手が外国企業であっても、下請事業者が日本企業である場合は、その保護をする必要が生じるのであるから、準拠法がなんであろうとも、下請法の適用がされるべきであると考えらえる。<これに続いて、その立法趣旨に照らして、本件の事情がその適用範囲に入るか否かの検討をする必要があります。下請法は、発注主が日本企業である場合に適用されるべきものか、下請事業者が日本企業である場合に適用されるべきものかの検討です。下請事業者の保護に鑑みれば、後者が決め手となると考えられ、本件は同法の適用対象に入るべき事案であるということになりそうです。道垣内>
したがって、下請法は強行法規であると考えられる。
4、公法との関係について
(1)なお、下請法を私法ではなく公法とみた場合は、国際私法の枠外で、域外適用が許されるか否かという問題になり、下請法の目的から必要があれば許されることになる。
(2)しかし、国際私法の適用の対象となるべき法律関係は,法の互換性が高く、法律の所属する国家の利益に直接関係しないものであるところ[。<この部分の記述の必要性は疑問です。道垣内>[8]]、本件のような契約に基づく代金支払請求は国家の利益が直接に反映されることがなく、国際私法の対象となるべき法律関係である。したがって、それに関わる下請法の規定もまた、私法的効果をもつ規定であり、国際私法の枠内で適用の有無を判断すべきであると考えられる
5、結論
よって、日本において訴訟を提起する場合には、下請法4条の2に基づく請求を行うことができる。
設問d
1、仲裁合意の独立性
本件では、仲裁合意が本件契約の1条項として規定されているため、第R条に基づく仲裁合意の有効性は、主契約の有効性とともに、主契約の準拠法によって判断すべきか、あるいは独立に判断すべきかが問題となる。
仲裁法13条6号では、仲裁合意が主契約の1条項として規定されている場合であっても、主契約と仲裁合意はそれぞれ独立の合意と解され、主契約が無効となっても、仲裁合意は当然には無効とされない。したがって、仲裁合意が有効か無効かは、主契約とは別に、仲裁合意の準拠法によって独自に判断される[[9]]。<リングリングサーカス事件最高裁判決は、仲裁条項だけを取り出して、その準拠法を検討していますが、仲裁条項にだけ契約全体の準拠法とは別の準拠法が適用されるようにしよういう意思が通常の当事者の意思であるというのはいかがなものかと思います。仲裁法13条6項は、必ずしも仲裁条項が別の準拠法を持つという根拠にはならないと思われます。したがって、下記の筋道とは異なり、契約全体の準拠法は何かを等という筋道もあり得ると思われます。道垣内>
2、仲裁合意の準拠法
(1)仲裁合意の有効性を判断する準拠法について、通則法施行前の判例は、仲裁合意の有効性が裁判において妨訴抗弁として問題になった場合に、仲裁は当事者の合意を基礎とする紛争解決手段であるから、法律行為の成立についての準拠法を定める規定に従い、当事者の意思によってまず準拠法を定めるべきであり、そして、明示の合意による準拠法選択がない場合であっても、当事者による黙示の準拠法の合意があると認められるときにはこれによるべきである、としている[[10]]。この判例の立場に従うと、現在では、通則法7条以下に従い、まず当事者自治を認め、当事者による指定がない場合には8条1項により最密接関係地法として仲裁地法によることになると考えられる。
(2)しかし、日本は外国仲裁判断の承認および執行に関する条約(以下ニューヨーク条約という)の締約国である。ニューヨーク条約は5条1項aで、外国仲裁判断の承認・執行拒否の場面で仲裁合意の有効性を判断する準拠法について、当事者が準拠法として指定した法律または指定がなかったときは仲裁地の法によって判断するとしている。
ここでもし、締約国の裁判所がニューヨーク条約2条3項に基づき妨訴抗弁の場面で仲裁合意の有無を判断するにあたって、5条1項aとは異なる準拠法を選択すると、一度はある法によって仲裁合意の成立を認めて訴えを却下しておきながら、仲裁判断の承認・執行拒否の場面では、5条1項aに基づく別の法により仲裁合意の成立を否定することになる可能性がある。 したがって、ニューヨーク条約には、仲裁合意の有効性判断はすべて5条1項aの準拠法を適用するという規定が組み込まれていると解するべきである。なお、仲裁法45条2項2号にもニューヨーク条約5条1項aと同様の規定があるため、仲裁法についても同様の解釈が可能である[[11]]。
したがって、仲裁合意の有効性判断の準拠法は、妨訴抗弁の場面においても、仲裁判断の承認・執行の場面においても、当事者が準拠法として指定した法律、または指定がなければ仲裁地法によることになる。
3、本件における仲裁の準拠法
(1)本件では、仲裁は国際商業会議所の仲裁規則に従うとされているほか、準拠法に関する規定はない。
国際商業会議所の仲裁規則によると、仲裁の準拠法については、規則17条1項により、当事者の合意によることができ、合意がない場合には仲裁廷が適当と認める法規を適用できるとある。したがって、準拠法について、明示の合意はないといえる。
(2)次に、黙示の同意合意についても、設問aで述べたとおり、認めることはできない。
(3)よって、当事者による準拠法選択がないので、仲裁地法が仲裁合意の有効性判断の準拠法となることになる。本件の仲裁地はロンドンであるから、英国法となる。
4、結論
以上より、R条に基づく仲裁合意の有効性については、英国法によって判断される。
問題2
<省略>