早稲田大学法科大学院2012年度冬「国際私法I」試験問題
ルール
- 参考文献その他の調査を行うことは自由ですが、他人の見解を求めること及び他人の見解に従うことは禁止します。
- 解答作成時間は自由ですが、解答送付期限は、2012年12月31日(月)23:00です。
- 解答は下記の要領で作成し、[email protected]宛に、添付ファイルで送付してください(emailアドレス中の_はアンダーバーです)。
- メールの件名は、必ず、「WLS国際私法I」として下さい(分類のためです)。
- 文書の形式は下記の通り。
・ A4サイズの紙を設定すること。
・ 原則として、マイクロソフト社のワードの標準的なページ設定とすること。
・ 頁番号を中央下に付け、最初の行の中央に「国際私法I」、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載してください。
・ 10.5ポイント以上の読みやすいフォントを使用し、また、全体として読みやすくレイアウトしてください。
- 枚数制限はありません。不必要に長くなく、内容的に十分なものが期待されています。
- 判例・学説の引用が必要です。他の人による検証を可能とするように正確な出典が必要です。
- 答案の作成上,より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成してください。
- これは、成績評価のための筆記試験として100%分に該当するものにするものです。
問題
A(甲国人・男性)は、幼いころ甲国から乙国に移住し、乙国で育った。Aは25歳の時、B(乙国人・女性)と知り合った。そして、Bは、子Cを出産し、その直後に死亡した(A・Bは婚姻していない。)。Cの父は不明とされ、乙国国籍法により、Bの非嫡出子として出生により乙国国籍を取得した。そして、Cは、乙国在住のBの父母に預けられ、育てられた。
Aは、Bの妊娠もCの出生も知らないまま、Cが生まれた頃、単身で日本に来た。そして、Aは日本でホテル事業に成功し、50歳の時、D(日本人・30歳)との間で養子縁組をした直後、日本で死亡した。
以下の設問は、日本において、法の適用に関する通則法(以下、「通則法」という。答案においても同じ。)に照らして答えなさい。なお、甲国・乙国は不統一法国ではなく、また、通則法により本国法として甲国法・乙国法が準拠法とされても、反致は成立しないものとする。
設問1
Cは、Aの死亡から1年後にAの死亡を知った。そして、Cは祖父母(Bの父母)からAは父であることを聞いた。そこで、Cは、Aの死亡を知ってから1か月も経たないうちに、日本の家庭裁判所で検察官を被告として、Aの死後認知を求める訴えを提起した。
甲国法は嫡出子と非嫡出子とを区別する法制を採用しており、非嫡出の父子関係の成立には認知を要し、父死亡後は、請求者がその死亡を知ってから3か月以内に司法長官を被告として提訴しなければならないとされている。
乙国法も認知制度を有しているが、死後認知制度は存在しない。
CとAとの間の父子関係は複数の証拠から明らかであるとして、日本の裁判所としてAの死後認知請求を認めるべきか。
設問2
CはAの非嫡出子であるとされたとする。
Cは、AとDとの間の養子縁組は、無効であると主張している。その理由として、この養子縁組は同性婚に代わるものとしてされており、甲国法上の確立した判例によれば、そのような性的目的を有する養子縁組は公序良俗に反して無効であるとされている、と主張した。そして、実際、AとDとの間の養子縁組にはこのような目的があったとの事実認定がされたとする。この養子縁組の有効性について、日本の裁判所としてはどのように判断すべきか。
設問3
CはAの非嫡出子であるとされ、AとDとの間の養子縁組も有効であるとされたとする。
甲国法によれば、相続人である子には、嫡出子・非嫡出子・養子が含まれるが、相続分は、この順に4:2:1とされている。つまり、嫡出子のいない本件では、Aの遺産のうち、Cの相続分は3分の2、Dの相続分は3分の1となる。これについて、Dは、通則法42条により甲国法の適用を排除して、Cの相続分を3分の1、Dの相続分を3分の2とすべきであると主張している。この点について、日本の裁判所としてどのように判断すべきか。
設問4
Aのホテル事業は当初は個人のビジネスであったところ、現在は株式会社により運営されているが、そのホテル事業の中核となっている東京都心の3つのホテルの土地建物(以下、「本件不動産」という。)はAの個人資産であった。上記の設問1から3の問題がもめていた間に、Dは、遺産のうち、本件不動産の持ち分を日本のE株式会社に譲渡した。ただ、Dの持ち分が確定していないため、この譲渡についての登記はされていない。
その後、CはAの非嫡出子であるとされ、AとDとの間の養子縁組も有効であるとされ、Cの相続分は3分の2、Dの相続分は3分の1とされたとする。そして、CとDとの間では、Cがホテル事業を一体的に運営するために本件不動産を含む資産を自己のものとし、本業に直接に関係ない資産の売却やA名義の株式の第三者への売却により現金をつくり、Dには相続分相当額を現金で交付するとの遺産分割協議が成立した。そこで、これに基づき、本件不動産の登記は相続を理由にC名義となった。
これを知ったEは、すでにDから本件不動産の持分譲渡を受けていると主張している。これに対し、Cは、甲国法によれば、遺産分割前の相続持分の譲渡は無効であり、DからEへの本件不動産の持分譲渡は無効だと主張している。日本の裁判所としてどのように判断すべきか。