早稲田大学法科大学院2012年度夏「国際私法II」試験問題
ルール
-
参考文献その他の調査を行うことは自由ですが、他人の見解を求めること及び他人の見解に従うことは禁止します。
-
解答作成時間は自由ですが、解答送付期限は、2012年7月15日(日)21:00です。
-
解答は下記の要領で作成し、[email protected]宛に、添付ファイルで送付してください(emailアドレス中の_はアンダーバーです)。
-
メールの件名は、必ず、「WLS国際私法II」として下さい(分類のためです)。
-
文書の形式は下記の通り。
・ A4サイズの紙を設定すること。
・ 原則として、マイクロソフト社のワードの標準的なページ設定とすること。
・ 頁番号を中央下に付け、最初の行の中央に「国際私法II」、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載してください。
・ 10.5ポイント以上の読みやすいフォントを使用し、また、全体として読みやすくレイアウトしてください。
-
枚数制限はありません。不必要に長くなく、内容的に十分なものが期待されています。
-
判例・学説の引用が必要です。他の人による検証を可能とするように正確な出典が必要です。
-
答案の作成上,より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成してください。
-
問題1と問題2は、事実関係等において全く関係がありません。
-
これは、成績評価のための筆記試験として100%分に該当するものにするものです。
問題
問題1
日本の大手メディアAは、国際的に多方面のビジネスを展開しているアラブ系の実業家Bがテロリストに資金を提供している疑いがある旨のドイツ人ジャーナリストC氏の記事を、その出版する週刊誌に掲載した。この記事は、世界的に注目を集め、B氏が80%の株式を保有し、D国株式市場に上場している同国法人E社の株価は暴落し、1週間のうちにE社の時価総額のうち日本円で1000億円が消失し、回復していない。
(1) Bは、東京地裁において、A・Cを被告とし、名誉毀損に基づく慰謝料10億円及びE社の株主としての損害900億円の支払いを求める損害賠償請求訴訟を提起した。この訴訟の中で、Bは、身の安全のために常居所地を明かすことはできないが、D国において生じた損害についてD国法に基づいて請求する旨主張している。これに対し、A・Cは、あくまでもBの常居所地法を適用すべきであり、B氏は自宅の番地まで明らかにする必要はなく、常居所地国を特定すればいいのであるから身の安全という理由は成り立たず、それでも、常居所地国を法廷で明らかにしないのであれば、準拠法が定まらないことを理由に、請求は棄却すべきであると主張している。また、A・Cは、いずれにせよ、Bがテロリストに資金提供していたことは事実であり、Bの請求は成り立たない朋主張している。
東京地裁の担当裁判官として、Bの損害賠償請求の準拠法につき、どのように判断するか。
(2) D国法人のE社は、Aによる根拠のない報道により、業績自体も不振となり、また、予定していた新株発行による資金調達もできなくなったと主張し、その損害1500億円の支払いをAに求める訴訟を東京地裁に提起した。
東京地裁の担当裁判官として、E社の損害賠償請求の準拠法につき、どのように判断するか。
(3) (1)の訴訟に関連して、AはCに対して、仮にB勝訴に終わった場合には、Aに生ずる損害についてCに請求すると予告している。Aは、その根拠として、Cが記事をAに持ち込んだ際、A・C間で契約が締結されており(この契約の用語は英語であり、準拠法条項も紛争解決条項もない。)、その中に、Cはその執筆内容に全責任を負い、Cには一切のご迷惑をおかけしませんとの条項があることを指摘している。AのCに対する請求の可否・効力を判断する準拠法は何か。
問題2
P氏が経営するQ会社は資金難に陥り、Pの親族Rとの間で、Q所有のタイ所在の倉庫の在庫をRに1億円で売却する旨の契約(準拠法条項はない。)を締結し、実行された。Qの債権者(イングランド法を準拠法とする6億円の融資契約をQとの間で締結しており、一部返済済みであるので、現時点の債権額は5億円)である英国の銀行Lは、QがRに売却した在庫は、当時の価値で10億円を下らないものであり、事実、Rはそれをベトナムにおいて12億円で売却し、11億円の利益を得ており、このQ・R間の取引は詐害行為に当たると主張し、その取消しを求めている。P・Rは、日本在住の日本人、Qは香港法人であり、Qはまだ倒産していない。
この取引が詐害行為に当たるか否かは、いずれの国の法によって判断すべきか。