早稲田大学法科大学院2013年度冬「国際私法I」試験問題

 

ルール

-      参考文献その他の調査を行うことは自由ですが、他人の見解を求めること及び他人の見解に従うことは禁止します。

-      解答作成時間は自由ですが、解答送付期限は、20131231()23:00です。

-      解答は下記の要領で作成し、[email protected]宛に、添付ファイルで送付してください(emailアドレス中の_はアンダーバーです)。

-      メールの件名は、必ず、「WLS国際私法I」として下さい(分類のためです)。

-      文書の形式は下記の通り。

A4サイズの紙を設定すること。

原則として、マイクロソフト社のワードの標準的なページ設定とすること。

頁番号を中央下に付け、最初の行の中央に「WLS国際私法I」、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載してください。

10.5ポイント以上の読みやすいフォントを使用し、また、全体として読みやすくレイアウトしてください。

-      枚数制限はありません。不必要に長くなく、内容的に十分なものが期待されています。

-      判例・学説の引用が必要です。他の人による検証を可能とするように正確な出典が必要です。

-      答案の作成上,より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成してください。

-      これは、成績評価のための筆記試験として100%分に該当するものにするものです。

 

問題

 

A(日本人・女性)は、日本で生まれ、日本で大学卒業まで生活をしていた。その後、A23歳で甲国に留学し、25歳の時、自宅のガレージで蟻の運動機能の研究に打ち込んでいた同じ歳のB(出生以来甲国在住の国人・男性)と知り合い深い関係になった。しかし、ABは結婚には至らず、30歳の時にAは甲国から日本に帰国し、Bとは音信不通となっていた。

Aの帰国後10年を経過した頃、Bは小型ロボットに関する大発明をし、日本で特許権(以下、「本件特許権」という。)を取得した(他の国の特許権は取得していない。)。そしてBは来日して、ある日本企業に本件特許権の排他的実施権を3年間、3億円で与えるライセンス契約を締結し、3億円から税金を差し引いた残額で金塊(以下、「本件金塊」という。)を購入し、日本にある銀行の貸金庫に保管した。

その上で、Bはそのまま日本に滞在して、日本に住むAを探す努力をし、ついにAを探し出した。そして、ABともに未婚であったので、両者は直ちに甲国の在日大使館において甲国法に定める外交婚をした。もっとも、日本の戸籍法上の婚姻届は提出しなかった。Bは日本に住むことにし、ABはその後3か月(Bの来日から4か月)は日本で幸せな生活を送ったが、Bは事故で即死してしまった。Bが死亡した時のBの財産は、本件特許権と本件金塊に加え、甲国のBの住まいに放置されていた3000万円相当の宝石(以下、「本件宝石」という。)だけであった。

なお、Bは謎の多い人物であり、その両親は死亡し、兄弟、配偶者、子等もいない天涯孤独の天才発明家であるとの噂があったが、確証のある情報は一切知られてこなかった。

以下の設問は、日本において、法の適用に関する通則法(以下、「通則法」という。答案においても同じ。)等に照らして答えなさい。

ちなみに、末尾に日本の特許法76条とともに、甲国の民法の一部を掲げている。なお、甲国は不統一法国ではなく、甲国からの反致もないものとする。

設問1

ABの相続人となることができるか。なお、甲国民法によっても、日本民法による場合と同じく、被相続人の配偶者は相続人となるとされている。

設問2

Bの相続人の捜索はどのように行われるべきか。本件特許権、本件金塊及び本件宝石についての相続人の捜索は異なるのか否かに留意して解答しなさい。

設問3

Bには相続人はいないことが確定したとする。Aは、特別縁故者として本件特許権・本件金塊・本件宝石を取得することができるか。

設問4

 Bには相続人はなく、特別縁故者に該当する者はいないことが確定したとする。甲国社会福祉財団は、甲国民法g条に基づき本件特許権・本件金塊・本件宝石を取得することができるか。

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(以下、資料)

 

日本の特許法

 

(相続人がない場合の特許権の消滅)

76  特許権は、民法第958 の期間内に相続人である権利を主張する者がないときは、消滅する。

 

甲国の民法

 

a(相続人のない財産の管理人)

1 相続人の存否が明らかでないときは、裁判所は、・・・被相続人の親族その他利害関係人又は検事の請求により、相続財産管理人を選任し、遅滞なく、これを公告しなければならない。

2 ・・・。

 

b(財産目録提示及び状況報告)

 相続財産管理人は、相続債権者又は遺贈を受けた者の請求があるときは、いつでも、相続財産の目録を提示し、その状況を報告しなければならない。

 

c(相続人の存在が明らかになった場合)

1 相続財産管理人の任務は、その相続人が相続の承認をした時に終了する。

2 前項の場合は、相続財産管理人は、遅滞なく、その相続人に対して管理の計算をしなければならない。

 

d(相続人のない財産の清算)

 a条第1項の公告があった日から3月内に相続人の存否を知ることができないときは、相続財産管理人は、遅滞なく一般相続債権者及び遺贈を受けた者に対して、一定の期間内にその債権又は受贈を申告すべき旨を公告しなければならない。その期間は、2月以上でなければならない。

 

e(相続人捜索の公告)

 前条第1項の期間が経過しても相続人の存否を知ることができないときは、裁判所は、相続財産管理人の請求により、相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。その期間は、2年以上でなければならない。

 

f(特別縁故者を特別相続人とする決定)

1 前条までの規定により、d条の期間内に相続権を主張する者がないときは、第d条の期間の満了後2月以内に、家庭裁判所は、義務なくして無償で、被相続人を療養看護した自然人又は被相続人にその他の便益を与えた自然人を特別相続人と認めることができる。

2 特別相続人が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。

3 特別相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべき義務を負う(次条において同じ。)

 

g(最後の特別相続人としての甲国社会福祉財団)

前条の規定により特別相続人となる者がないときは、甲国社会福祉財団を被相続人の特別相続人とする。