早稲田大学法学部2013年度前期「国際民事訴訟」試験問題
道垣内正人
1
外国国家に対する訴えを日本の裁判所において提起する場合に問題となる裁判権免除の問題のうち、その訴えが商業的取引に関するものであるか否かの判断基準について論じなさい。(25点)
2
XはYに対する訴訟を東京地方裁判所に提起した。次の各場合に国際裁判管轄が認められるか否か、その理由は何かを述べなさい。各場合の事実関係は相互に独立し、無関係です。(各15点、計75点)
(1)
日本法人Xと甲国法人Yとは、Yの製造する製品をXが購入する売買契約を締結した。当該契約によれば、Yが手配する船舶で東京港渡しでXに引き渡すとされていたが、届いた当該製品には欠陥があり、Xは販売することができなかった。そこで、XはYに損害賠償請求訴訟を提起した。
(2)
日本法人Xと甲国法人Yとは、Yの製造する部品をXが購入する売買契約を締結した。当該契約によれば、Yは乙国にあるXの工場に納入し、Xはその部品を組み込んだ製品を製造して丙国において販売した。しかし、当該部品の欠陥により、Xは丙国での信用を失ったばかりか、丙国の購入者から丙国において巨額の損害賠償請求を受けている。Yは日本支店を設置しているが、当該売買契約は、Yの甲国にある本社の直轄ビジネスであり、Y日本支店の関与は、上記のトラブル処理の段階からである。XはYに対して損害賠償請求訴訟を提起した。
(3)
日本法人Xと甲国法人Yとは、乙国の希少資源開発プロジェクトを共同して進めていた。Xは、X・Y間の契約に反してYが必要な技術の提供をしなかったため、巨額の赤字を計上したとしてYに対して10億円の損害賠償請求訴訟を提起した。Yは、本件とは無関係なものであるが、多数の日本の特許権を有しており、その経済価値は1億円である。
(4)
日本法人Xと甲国法人Yとは競争関係にあるところ、Xを退職した従業員Z1が設立したコンサルティング会社Z2が、Yに対してXの機密情報を提供した疑いがある。Xの主張によれば、Yは甲国工場において当該機密情報を用いて製造した製品を乙国で販売し、Xは乙国市場で大きな損害を被っている。そこで、XはYに対して損害賠償請求訴訟を提起した。
(5)
日本法人Xは甲国法人Yとの間でライセンス契約を締結し、Xの特許の使用を許諾し、Xはこれを用いて甲国で製造を行っているところ、YはXの特許発明にわずかな変更を加えただけの発明について甲国で特許権を取得した。そこで、Xは当該甲国特許を無効とすることを求める訴えを提起した。
(六法等の持ち込みは禁止です。裏面に、「外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律」及び「民事訴訟法」の一部の条文があります。)
外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律
(商業的取引)
第8条 外国等は、商業的取引(民事又は商事に係る物品の売買、役務の調達、金銭の貸借その他の事項についての契約又は取引(労働契約を除く。)をいう。次項及び第十六条において同じ。)のうち、当該外国等と当該外国等(国以外のものにあっては、それらが所属する国。以下この項において同じ。)以外の国の国民又は当該外国等以外の国若しくはこれに所属する国等の法令に基づいて設立された法人その他の団体との間のものに関する裁判手続について、裁判権から免除されない。
2 ・・・
民事訴訟法 抜粋
(契約上の債務に関する訴え等の管轄権)
第3条の3
次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定めるときは、日本の裁判所に提起することができる。
1 契約上の債務の履行の請求を目的とする訴え又は契約上の債務に関して行われた事務管理若しくは生じた不当利得に係る請求、契約上の債務の不履行による損害賠償の請求その他契約上の債務に関する請求を目的とする訴え |
契約において定められた当該債務の履行地が日本国内にあるとき、又は契約において選択された地の法によれば当該債務の履行地が日本国内にあるとき。 |
・・・ |
|
3 財産権上の訴え |
請求の目的が日本国内にあるとき、又は当該訴えが金銭の支払を請求するものである場合には差し押さえることができる被告の財産が日本国内にあるとき (その財産の価額が著しく低いときを除く。)。 |
4 事務所又は営業所を有する者に対する訴えでその事務所又は営業所における業務に関するもの |
当該事務所又は営業所が日本国内にあるとき。 |
5 日本において事業を行う者 (日本において取引を継続してする外国会社 (会社法(平成十七年法律第八十六号) 第二条第二号に規定する外国会社をいう。)を含む。)に対する訴え |
当該訴えがその者の日本における業務に関するものであるとき。 |
・・・ |
|
8 不法行為に関する訴え |
不法行為があった地が日本国内にあるとき (外国で行われた加害行為の結果が日本国内で発生した 場合において、日本国内におけるその結果の発生が通常予見することのできないものであったときを除く。)。 |
(管轄権の専属)
第3条の5
1 ・・・
2 登記又は登録に関する訴えの管轄権は、登記又は登録をすべき地が日本国内にあるときは、日本の裁判所に専属する。
3 知的財産権 (知的財産基本法(平成十四年法律第百二十二号)第二条第二項に規定する知的財産権をいう。)のうち設定の登録により発生するものの存否又は効力に関する訴えの管轄権は、その登録が日本においてされたものであるときは、日本の裁判所に専属する。
(特別の事情による訴えの却下)
第3条の9
裁判所は、訴えについて日本の裁判所が管轄権を有することとなる場合(日本の裁判所にのみ訴えを提起することができる旨の合意に基づき訴えが提起された場合を除く。)においても、事案の性質、応訴による被告の負担の程度、証拠の所在地その他の事情を考慮して、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し、又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があると認めるときは、その訴えの全部又は一部を却下することができる。