早稲田大学法科大学院2013年度夏「国際民事訴訟法」試験問題
ルール
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参考文献その他の調査を行うことは自由ですが、他人の見解を求めること及び他人の見解に従うことは禁止します。
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解答作成時間は自由ですが、解答送付期限は、2013年7月7日(日)21:00です。
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解答は下記の要領で作成し、[email protected]宛に、添付ファイルで送付してください(emailアドレス中の_はアンダーバーです)。
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メールの件名は、必ず、「WLS国際民事訴訟法」として下さい(分類のためです)。
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文書の形式は下記の通り。
・ A4サイズの紙を設定すること。
・ 原則として、マイクロソフト社のワードの標準的なページ設定とすること。
・ 頁番号を中央下に付け、最初の行の中央に「WLS国際民事訴訟法」、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載してください。
・ 10.5ポイント以上の読みやすいフォントを使用し、また、全体として読みやすくレイアウトしてください。
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枚数制限はありません。不必要に長くなく、内容的に十分なものが期待されています。
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判例・学説の引用が必要です。他の人による検証を可能とするように正確な出典が必要です。
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答案の作成上,より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成してください。
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これは、成績評価のための筆記試験として100%分に該当するものです。
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各設問記載の事実関係は、当該設問においてのみ妥当し、他の設問における事実関係は構成しない。
問題
肥満治療の世界的な権威である甲国人Aは、甲国の大学教授であったところ、食品メーカーの日本法人Bからその研究所での研究開発をするよう勧誘を受け、2007年12月に来日して研究環境等をチェックするとともにBと交渉を行った。そして、2007年12月15日付けの雇用契約(英文)に双方が署名し、2008年4月1日から勤務を開始することとされた。
その雇用契約によれば、(a)
Bは日本と乙国とに2つの研究所を有しているので、Aは双方の研究所を行き来しつつ肥満軽減に関する研究活動に従事すること、(b) BからAへの報酬は年俸制(4月から翌年3月までを1年間とする。)とされ、基本給として年3,000万円に、毎年12月31日までの過去1年間における研究実績に応じたボーナスを加え、3月31日に支払われること、(c) このボーナスの額は一次的にはBの人事担当重役が査定し、Aがそれに不服がある場合には、3名の報酬鑑定人(A・Bが各1名を選定し、選定された2名の報酬鑑定人が3人目を選定する。)の判断を仰ぎ、3名が示す金額のうち、差が少ない2つの金額の平均額とすること、(d) この雇用契約をめぐる一切の紛争について東京地方裁判所が専属裁判管轄を持つこと、などが定められていた。
Aは日本に家族とともに生活の本拠を置いたが、Bの日本研究所及び乙国研究所を年間5回程度行き来しつつ、肥満軽減に関する研究に従事した。滞在期間は、日本:乙国=3:2であり、乙国ではもっぱらホテルに滞在していた。
AのBでの勤務開始から2年間はボーナス支払いの対象となるような成果はなかったが、3年目の2010年10月に、Aが主任研究員をつめる日本研究所チームが、肥満軽減の顕著な効果があり、あらゆる食品に添加することができる可能性のある物質αを発見した。そこで、2011年1月に、Bはその成果に対して5000万円のボーナスを提示したが、Aはこれを拒否した。
そして、雇用契約の定めに従ったボーナス額確定手続が開始されたが、それには時間を要し、その決着が付く前の2011年3月31日にAはBを退社した。退社に際して、AとBとの間で、@3年目のボーナスについては、その金額確定手続により定まる金額をBはAに速やかに支払うこと、AA はBにおいて知り得た秘密を漏らしてはならないこと(守秘義務)、BAは、B退社後3年間は、食品・医薬品分野での競業他社に就職しないこと(競業避止義務)、Cこの契約をめぐる一切の紛争は東京地方裁判所の専属管轄とすること、以上を主たる内容とする2011年3月31日付けの退社契約(英文)が締結された。
その後、Bは、上記の物質の安定的な製法の確立に時間を要していた。これに対し、Aは乙国に居住し、B辞職から1年後の2012年4月1日に乙国法人のコンサルティング会社Cを設立し、世界各国の食品・医薬品メーカーに研究開発に関する助言を行うビジネスを始めた。
Aの活動がその原因となっているか否かはにわかには判明しないが、Bが物質αを添加した食品を発売した直前の2013年6月1日に、Cの顧客のひとつである甲国法人のDがほぼ同様の化学組成を有する物質βを甲国工場で生産し、これを添加したクッキー、アイスクリーム等を甲国・乙国・日本で発売し、大ヒットとなっている。Bは2013年秋に物質αを添加した食品の発売を計画しているが、出遅れたために売り上げを大きく伸ばすことは困難であるとの見方が社内で広がっている。
なお、BもDもそれぞれ、物質α及び物質βについて特許出願をしておらず、その製法をノウハウとして秘匿することにより、長期にわたってそれを独占する企業戦略をとる方針である。
(1)
AはBに対し、Aが退社したのはBの人事担当重役からの嫌がらせがあったからであると主張し、慰謝料を含む損害賠償請求訴訟を乙国の裁判所に提起したところ、乙国の裁判所は、2007年12月15日付けの雇用契約の(d)の条項に基いてBが提出した無管轄の抗弁を認めず、本案についても、BはAに4000万円を支払えとのB敗訴の判決を下した。この乙国判決は日本の民事訴訟法118条1号の要件を具備するか。
(2)
Bは、AのC設立とその活動は、2011年3月31日付けの退社契約の定める守秘義務及び競業避止義務に違反するものであると主張し、同契約のCの条項に基づき、違反行為の差止め及び既に生じた損害の賠償を請求する訴えを東京地方裁判所に提起した。これに対して、乙国に現在は住んでいるAは、Cの条項は弱者である労働者にとって不利益を課す不当なものであり、その効力は否定されるべきであると主張している。このAの主張は認められるべきか。
(3)
Dは、甲国・乙国・日本のみを市場としてビジネスを展開しており、物質βを添加した食品もこの3カ国で販売している。また、Dは情報網を世界各国に張り巡らしており、日本にも駐在員事務所を置き、情報の収集を行ってきた。Bの得た情報によれば、DはAがBに在職していた当時からAと接触し、物質αの開発に係る情報はその日本駐在員を通じてAからDに継続的に渡されていたと確信している。そこで、Bは、DがBの営業秘密を不正に取得した不法行為を行ったと主張し、(ア)甲国での物質βを添加した食品の生産差止め、(イ)甲国・乙国・日本でのその販売差止め、(ウ)甲国・乙国・日本の市場を奪われたことによる損害賠償、以上の請求をしようとしている。これらの請求について、日本の裁判所は国際裁判管轄を有するか。
(4)
2013年7月1日、BにおけるAの3年目のボーナスにつき、所定の方法により選定された日本人・甲国人・乙国人の3名は乙国に集まり、A・Bの代理人からの資料の提出、主張を聴き、それぞれ、5000万円、9000万円、8000万円が適当であると判断したため、ボーナス額は8500万円とされた。この判断は日本において乙国でされた仲裁判断として扱われるべきか。そうではないとすれば、どのように扱われるべきか。