WLS国際私法T
47120028 呉夢西
(1)AがBの相続人となることができるかどうかを考えるにあたり、まずは本件においける単位法律関係は相続であるから、通則法36条を適用する。通則法36条より、相続は被相続人の本国法によるため、本件においては被相続人であるBの本国法である甲国法が準拠法となる。
甲国民法によると、被相続人の配偶者は相続人となる。ここで、本問題である相続関係の先決問題として、AはBの配偶者であるといえるか、という点について、検討を加える必要がある。
(2)先決問題の準拠法を決定する方法について、学説には、@本問題の準拠法によるという説、A本問題準拠法所属国の国際私法を適用して定まる準拠法を適用するという説、B法廷地の国際私法によるという法廷地法説、C法廷地法説を原則としながら、具体的に利益衡量をして事案の解決により望ましい結果をもたらすのであれば例外的に準拠法説を用いるとする折衷説がある。
国際的私法生活関係について、国際私法が準拠法を指定してそれによる法的評価を与える作業は、特定の紛争や訴訟が起こってから初めて行われるのではなく、常に日頃から行われているというべきである。よって、ある問題が先決問題という形で争われたかどうかに関係なく、常に法廷地の国際私法が指定する準拠実質法によって画一した解決を与えるべきであると考える。また、私法上の問題を単位法律関係に切り分け、それぞれについて連結点を介して準拠法を決定するという国際私法の構造からいっても、B法廷地法説が妥当であるといえる。平成12年1月27日最高裁判例においても、B法廷地法説が採用されている。
よって、本件においてもB法廷地法説をとると、日本の国際私法である通則法を適用することとなる。
ここで、AがBの配偶者であるかどうかという問題について、単位法律関係としては婚姻の成立に含まれるから、通則法24条を適用することとなる。
(3)では、ABの婚姻は成立しているといえるか。
婚姻の成立要件は、実質的成立要件と形式的成立要件にわけられる。実質的成立要件については、通則法24条1項より、妻・夫各自の本国法上の要件をみたせばよいとする配分的連結がとられている。本件において、婚姻年齢をはじめ、重婚や近親婚、待婚期間等、婚姻の成立を妨げる事実はないことから、AB双方ともに婚姻の実質的成立要件はみたすものと考える。<24条1項と2・3項に適用順序はありませんので、甲国法上の婚姻の実質的成立要件及び事実関係についての十分な記載がない本問においては、実質的成立要件を具備しているかどうかは措くとして、形式的成立要件(方式)について検討する、ということでよいと思います。>
次に、婚姻の形式的要件については、通則法24条2項において婚姻挙行地法が準拠法とされているが、24条3項本文より、選択的連結として当事者一方の本国法による方式も認めている。しかし、通則法24条3項但書きより、婚姻挙行地が日本であり、かつ当事者の一方が日本人であるときは、相手である外国人当事者の本国法の方式ではなく、挙行地法である日本法の方式によらねばならないという、日本人条項が定められている。したがって、本件ABはAが日本人であるため、この日本人条項が適用される結果、ABの婚姻は日本の実質法に従った方式でなされたものでなければ成立が認められないこととなる。
日本の婚姻の方式は、民法739条1項、戸籍法74条より、創設的届出をする必要がある。本件ABは甲国法で認められている外交婚をしているが、日本法に則った創設的届出をしていないため、婚姻は成立していない。
(4)以上より、AとBの婚姻は成立しておらず、AはBの配偶者ではないから、甲国法上Bの相続人となることはできない。
2.設問2について
(1)まず、「相続人の捜索」という問題について、<実体法的要件に関する>準拠法は何によるべきかという点について検討する。
相続人が不存在である場合の法律問題は、@相続という単位法律関係の範疇に含まれるとして、36条を適用するという考え方と、A相続準拠法によらず、領土主権の作用として財産管理地法によるべきであるという考え方がある。
昭和41年9月26日東京家裁審判においては、被相続人に相続人のあることが不分明であるかどうかおよび最終的に相続人が不存在であることが確定できるかどうかの問題については、通則法36条により被相続人の本国法を準拠法と解すべきであるが、相続人のあることが不分明である場合に、相続財産を如何に管理し、相続債権者等のため清算を如何に行うかおよび相続人の不存在が確定した場合に、相続財産が何人に帰属するかの問題については通則法13条の規定の精神に従って、管理財産の所在地法を準拠法と解するのが相当である旨判示されている。
本件「相続人の捜索」という問題は、相続人の不明分または不存在を前提に相続財産の管理及び清算を行う場合とは異なり、相続人の存否が不明分であるかどうか確定できていないことを前提に、公告等によってその者を確定するものである。すなわち、「被相続人に相続人があることが不分明であるかどうか及び最終的に相続人が不存在であることが確定できるかどうかの問題」にあたり、通則法36条を適用すべきであると考える。また、そもそも通則法36条が相続の家族法的側面を重視し、属人法によるとして立法された趣旨からしても、相続人の捜索という被相続人の人的関係・身分関係が問題となる場面においては、通則法36条を適用し本国法を準拠法とするのが妥当であると考える。
よって、相続人の捜索については@相続という単位法律関係の範疇に含まれるとして、36条を適用するという考え方を採用し、通則法36条を適用すべきである。
(2)では、本件特許権、金塊及び宝石について、各々相続人の捜索は異なるか。
2(1)で既述の通り、相続人の捜索という問題については、原則として通則法36条を適用し、本国法を準拠法とすべきである。
しかし、ここで、特許権という権利の特殊性について考慮する必要がある。
特許権等の知的財産権については、属地主義の原則が今なお基本原則とされている。平成9年7月1日最高裁判決、平成14年9月26日最高裁判決において、特許権に関する属地主義の原則の趣旨・定義として「各国の特許権が、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められること」と述べられているが、その根拠については、学説上、行政庁による特許権の設定自体がその国だけの独占権をもたらす処分行為であるとしてこれを自明視する見解や、特許法等が産業政策と密接な関係を有していることから公権力性の度合いの高い強行的適用法規と性質づけられるとする見解、知的財産の利用行為地法によるという国際私法ルールを条理上肯定しようとする見解、パリ条約4条の2に定められる特許独立の原則に基づくとする見解等が挙げられている。
このような属地主義を前提とした上で、(a)特許権をめぐる国際的な法的規律の方法については、各国の特許法を属地的に適用すべきとの立場と、(b)一般の私法的な問題と同様に準拠法を決定・適用すべきとの立場に分かれている。
思うに、ある地でなされた発明の利用・移転・効力等に関して、当該地を統治する国以外の法が適用されるとすれば、法律関係が錯綜し、特許権の適正な利用が不可能になる恐れがある。例えば、特許権の排他的実施権につきライセンス契約を締結する相手方にとって、相続という偶発的事由の発生により、その後当該特許権の帰属や効力がどのようになるかということについて、予測可能性が確保される必要がある。そのため、属地主義の原則とは、利用者に予測可能性を与え、特許権の帰属・移転・効力等に関して、その地を統治する国の法によって判断されるべきであるとの結果を表現したものであると解する。
したがって、(a)特許権をめぐる国際的な法的規律の方法については、各国の特許法を属地的に適用すべきとの立場を採用し、本件のような相続人の捜索の場面においても準拠法決定の余地はないと考える。<このような答案はほかにも少なからずありましたが、たとえば日本の特許権を外国法準拠の契約で譲渡することはできるはずです。また、外国人が特許権者である場合、外国法による相続や相続権者の確定に先決する問題にについて外国法が適用されることもあるはずです。そうだとすれば、相続人の捜索についての実体的要件については外国法によってもいいのではないでしょうか。特許法76条は、外国法が相続準拠法となることがあることを看過しているものであり、外国法が相続準拠法になるのであれば、捜索の期間は当該外国法によるべきだと思います。なお、後述されているように、日本民法にも甲国民法にも反しない期間をとって手続をとるのが現実的でしょう。>
よって、本件特許権については、その特許権を取得した地である日本の法を適用し、日本民法950条以下に定められた規定に従って相続人の捜索を行うべきである。
他方、本件金塊及び宝石については、通則法36条を適用し、本国法を準拠法とすべきであるから、甲国民法の規定に従って相続人の捜索を行うべきである。
(3)通則法36条を適用し、甲国法を準拠法とした場合、裁判所の相続財産管理人選任や、公告等が必要となるが、日本の裁判所においてこれらの行為をなしうるか、という適応問題が生じるが、どのように解決を図るべきか。
<適応問題より前に、外国所在の財産についてまで、日本の裁判所に相続人捜索の手続を行ってよいのか、という管轄の問題があるのではないでしょうか。家事事件手続法203条1号によれば、相続人捜索の国内管轄は相続開始地(これは民法883条により被相続人の住所地となり、その限りでこの民法の規定は手続法であるということになります)を管轄する家庭裁判所であるとされています。これを参考に国際裁判管轄を考える必要があると思います。また、他方、通則法6条2項は、失踪宣告について、外国所在の財産については管轄を否定しています。これらを合わせ考えると、甲国所在の本件宝石については管轄がないという判断もできそうです。もっとも、そのような相続統一主義に反する措置をとることができるか否か、なお検討の余地があります。>
適用問題とは、単位法律関係ごとに準拠法を指定するために、それぞれの単位法律関係について適用された個々の準拠実質法の部分を組み合わせると制度的に矛盾が生じる場合に問題となる。しかし、本件の場合においては、日本の民法952条以下にも相続財産管理人や公告の制度が設けられている。日本民法における規定と、甲国民法における規定とは、厳密に同一のものとはいえないが、規定の構造から解釈するに、両者ともに相続人が不明分である場合に管理人が誰の管理人であるかを明確にし、相続財産が無主物となることを避ける目的で定められたものであり、制度趣旨は同じであると考えられる。また、手続についても、期間等に若干の違いが見られるものの、酷似した手続がとられている。よって、このような場合には、日本の裁判所においてこれらの行為を行ったとしても制度的な矛盾は生じないと思われる。
よって、制度の手続を甲国のものに適応させて、日本の裁判所による相続財産管理人選任・公告等を認めるべきであると考える。
(4)では、具体的にはどのように相続人の捜索が行われることとなるか。
甲国民法の規定では、裁判所による相続財産管理人選任の公告すなわち第1回目の相続人捜索の公告期間は3ヶ月(甲国法a条1項)であり、債権者・受遺者に対する債権申し出の公告すなわち第2回目の相続人捜索の公告期間は2ヶ月以上(d条)、そして最終的な相続人捜索の公告すなわち第3回目の相続人捜索の公告は2年以上(e条)と定められている。
よって、本件金塊と宝石については以上のように期間を定めて相続人の捜索が行われることとなる。
これに対し、日本民法の規定では、第1回目の相続人捜索の公告期間は2ヶ月(民法952条、957条)、第2回目の相続人捜索の公告期間は2ヶ月以上(957条)、第3回目の相続人捜索の公告は6ヶ月以上(958条)と定められている。
よって、本件特許権については以上のように期間を定めて相続人の捜索が行われることとなる。
このとき、第1回目の公告期間はそれぞれ3ヶ月(甲国法)、2ヶ月(日本法)であり、どちらの法においてもその期間内に相続人の存否を知ることができないときは遅滞なく第2回目の公告をしなければならないと定められているため、その期間を引き伸ばすことはできない。しかし、第2回目の公告は両者ともに2ヶ月以上、第3回目の公告はそれぞれ2年以上、6ヶ月以上と定められているため、2(3)において前述したように日本の制度手続を甲国のものに適応させ、日本の裁判所による相続財産管理人選任・公告等を認める以上、特許権と金塊・宝石の適用法律が異なるとしても、第2・3回目の公告期間の終期を合わせることによって、同じ手続内のものとして相続人の捜索を行うことができると考える。
3.設問3について
(1)Bの相続人が存在しないことが確定した場合の特別縁故者への財産分与について、まずは国際私法上どのように法性決定をするかということが問題となる。
2(1)において既述の通り、被相続人に相続人のあることが不分明であるかどうかおよび最終的に相続人が不存在であることが確定できるかどうかの問題については、通則法36条により被相続人の本国法を準拠法と解すべきであるが、相続人のあることが不分明である場合に、相続財産を如何に管理し、相続債権者等のため清算を如何に行うかおよび相続人の不存在が確定した場合に、相続財産が何人に帰属するかの問題については通則法13条の規定の精神に従って、管理財産の所在地法を準拠法と解すべきである(昭和41年9月26日東京家裁審判)。
特別縁故者への財産分与は、被相続人の意思を推定し相続人の範囲を確定するという、相続あるいは遺贈に類似する側面をもつ。しかし一方で、相続人が不存在のとき、相続財産の国庫帰属の一環として家庭裁判所が国家的見地から恩恵的に相続財産を取得させるという、相続財産の処分ともいえる側面ももっている。
思うに、特別縁故者への財産分与は、権利として認められている相続とは異なり、裁判所の裁量で認められるものであるから、相続とは性質を異にすると考える。また、特別縁故者への財産分与が問題となるのは、あくまで相続人の捜索の末に相続人が不存在または存否が不明分と確定した後のことであるから、「相続人のあることが不分明である場合に、相続財産を如何に管理し、相続債権者等のため清算を如何に行うかおよび相続人の不存在が確定した場合に、相続財産が何人に帰属するかの問題」にあたるから、相続財産の処分の場面であると考える。平成6年3月25日家裁審判においても、特別縁故者への財産分与について、相続財産の処分の問題であるとして、条理により相続財産の所在地法によると判示している。
よって、本件においても、相続財産の処分の問題として、通則法13条1項の規定の精神に従って、相続財産の所在地法を準拠法とすべきである。
<設問1について、相続人の範囲は相続問題であって甲国法によるとしているのですから、ここでも、相続人の範囲を甲国に送致し、甲国民法f条の趣旨を考えてみるべきではないでしょうか。F条によれば、表題には「特別縁故者」という文言がありますが、条文中にはなく、義務なくして無償で療養看護その他の便益を被相続人に与えた自然人を裁判所の決定で「特別相続人」とすることができるとされています(甲国で日本語が使われているわけでないので、「特別縁故者」という文言も日本のそれと同じであるはずはありません)。この「特別相続人」を甲国法上、相続人の一種だと解するか否かにより2つに分かれると思います。これが甲国では相続人の一種だとされているのであれば、日本の国際私法としてすべきことは、そのような扱いをすることが公序違反となるかだけです(公序に反するほどではないと思われます)。他方、相続人の一種ではないと解されていれば、上記の通り、相続人不存在の場合の無主物の扱いに関する督促だということになり、通則法36条からの送致範囲には入らない規定だということになり、お書きの通り、通則法13条からの送致範囲に入るということになります。なお、Aが甲国民法f条の要件を満たすか否かという問題もあり、これも甲国法の解釈問題です。>
(2)では、本件特許権、金塊及び宝石について、Aが特別縁故者として取得することができるかについて、各々検討を加える。
ア.まず、本件特許権については、上記2(2)で既述の通り、そもそも属地主義の原則が妥当するというその特質から、特許権をめぐる国際的な法的規律の方法については、各国の特許法を属地的に適用すべきであり、準拠法決定をする余地はない。よって、国際私法上の問題を論ずるまでもなく、特許権を取得した地である日本の法を適用すべきである。<上記の通り、特許権の承継については外国法によってもよいと思います。>
日本特許法76条より、民法958条の期間内に相続人である権利を主張する者がないときは、特許権は消滅すると定められている。本件において、Bの相続人は存在しないことが確定しているから、本条をあてはめると、特許権は消滅する。
したがって、Aは特別縁故者として本件特許権を取得することはできない。
<上記の赤字の立場をとると、甲国法により、Aが特別相続人という相続人として本件特許権を承継するという結論もあり得ると思われます。ただ、特許法76条が民法958条の期間を徒過すると、同法958条の3の適用はせず、特許権を消滅させていることから、甲国法によってAが本件特許権を承継するという結論が通則法42条の公序違反となるか否かが問題となります。他方、甲国法によってもAは相続人ではないとの結論に至れば、Aが本件特許権を承継することはないことになります。>
イ.次に、本件金塊について、3(1)で既述の通り相続財産の所在地法を準拠法とすべきであるから、金塊の所在地である日本の法律が適用される。
<これについても、甲国法上、Aは特別相続人として本件金塊を承継するという筋があり得ます。>
日本民法958条の3より、家庭裁判所は、相当と認めるときは、特別縁故者に清算後残存すべき相続財産の全部または一部を与えることができる。特別縁故者の範囲について958条の3の文言は例示であり、いかなる者が特別縁故者にあたるかは家庭裁判所の裁量に委ねられる。
本件Aは、日本法上Bの配偶者とは認められないが、25歳から30歳の間深い関係をもっており、40歳の頃に日本法においては婚姻成立とは認められないものの外交婚をし、日本においてB死亡までの4ヶ月間生活を共にしていた。内縁関係は当事者の合意により、婚姻意思をもって事実上の夫婦として生活関係が存在すれば成立すると解されるところ、本件ABはその要件を満たすため、内縁関係にあったといえると考える。また、民法958条の3の趣旨は、遺産を国庫に帰属させるよりも、法律上は相続人でないが実際上被相続人と深い縁故をもっていた者に与える方が好ましいということにある。したがって、かりにAが内縁の妻といえない場合であっても、Aと生計を共にし深い縁故をもっている者といえるから、特別縁故者にあたると考える。
したがって、Aは特別縁故者として本件金塊を取得できる。
ウ.そして、本件宝石については、3(1)で既述の通り相続財産の所在地法を準拠法とすべきであるから、宝石の所在地である甲国の法律が適用される。
甲国民法第f条には、相続人捜索の公告期間内に相続権を主張する者がないときは、期間満了後2ヶ月以内に、家庭裁判所は、義務なくして無償で、被相続人を療養看護した自然人又は被相続人にその他の便益を与えた自然人を特別相続人と認めることができる、と定められている。
ここで、甲国民法f条に規定される「特別相続人」の意義が明らかでないため、以下、@「特別相続人」とは、財産を取得するということ以上の意味をもたないものであると解釈する場合、A「特別相続人」と認められると遡って相続人となると解釈する場合、に場合分けをして検討する。<ここだけで「相続人」か否かを検討するのは違和感があります。>
まず、@の場合、ここでも、日本の裁判所においてこれらの行為をなしうるか、という適応問題が生じるが、2(3)で既述の通り、日本民法の特別縁故者に対する財産分与の制度と、甲国民法の特別縁故者を特別相続人とする制度は、遺産を国庫に帰属させるよりも、法律上は相続人でないが実際上被相続人と深い縁故をもっていた者に与える方が好ましいという同一の制度趣旨を有するものであり、また、その手続も、甲国民法では請求を必要としない点、公告の期間満了からの期間の長さが異なる点という違いはあるものの、相似した手続がとられているといえる。よって、このような場合には、制度の手続を甲国のものに適応させて、日本の裁判所による特別縁故者の認定を認めるべきであると考える。
このとき、甲国の制度手続に適応させるから、相続人捜索の公告期間満了後2ヶ月以内に、請求によらずして特別縁故者を認めるべきであると考える。したがって、Aが特別縁故者にあたると認められた場合には、本件宝石を取得しうる。
次に、Aの場合には、甲国法を適用した結果かりにAが特別相続人と認められた場合には、遡って相続人となり、すべての財産を相続することとなる。この場合、通則法を適用して一度決定した相続財産の帰趨が覆る結果となり、法の安定性を欠き、妥当でない。このような場合には、通則法42条の公序条項を発動することによって、この妥当でない準拠外国法の適用結果を回避し、日本法を適用する処理を行うべきであると考える。<このように甲国法が解釈される場合、遡って相続人となるわけではなく、最初からそうなるべき人だということではないでしょうか。>
その場合、日本民法958条の3をもって補充することになるから、イの場合と同じように判断することとなる。したがって、Aは特別縁故者として本件宝石を取得できる。
4.設問4について
(1)Bの相続人が存在せず特別縁故者に該当する者もいないことが確定した場合の、甲国社会福祉財団の相続財産取得について、まず国際私法上の法性決定をする。
甲国法g条の規定では、相続人も特別縁故者もいない場合に甲国社会福祉財団を最後の特別相続人とする旨定められている。これは相続人の捜索の末に相続人が不存在または存否が不明分と確定した後のことであるから、明らかに「相続人の不存在が確定した場合に、相続財産が何人に帰属するかの問題」にあたるというべきである。
<そのような解釈もあり得ると思いますが、相続人の範囲の問題として甲国法に送致し、その結果、甲国社会福祉財団は一定の手続を経た後の最後の相続人なのだということだとすれば、そのような適用結果が通則法42条の公序に反するか否かという問題になるのではないでしょうか。>
したがって、相続財産の処分の問題として、通則法13条1項の規定の精神に従って、相続財産の所在地法を準拠法とすべきである。
(2)では、本件特許権、金塊及び宝石について、甲国社会福祉財団が取得することができるかについて、各々検討を加える。
ア.まず、本件特許権については、上記2(2)で既述の通り、そもそも属地主義の原則が妥当するというその特質から、特許権をめぐる国際的な法的規律の方法については、各国の特許法を属地的に適用すべきであり、準拠法決定をする余地はない。よって、国際私法上の問題を論ずるまでもなく、特許権を取得した地である日本の法を適用すべきである。
日本特許法76条より、民法958条の期間内に相続人である権利を主張する者がないときは、特許権は消滅すると定められている。本件において、Bの相続人は存在しないことが確定しているから、本条をあてはめると、特許権は消滅する。
したがって、甲国社会福祉財団は本件特許権を取得することはできない。
<甲国社会福祉財団が甲国法上は相続人だとされていても、本件特許を当該財団が取得するとの適用結果は、特許法76条の趣旨に反し、公序違反だと思われます。>
イ.次に、本件金塊について、4(1)で既述の通り相続財産の所在地法を準拠法とすべきであるから、金塊の所在地である日本の法律が適用される。
日本民法959条より、相続人も特別縁故者もいない場合に、処分されなかった相続財産は国庫に帰属することとなる。したがって、日本の国庫に帰属するから、甲国社会福祉財団は本件金塊を取得することはできない。
ウ.そして、本件宝石については、4(1)で既述の通り相続財産の所在地法を準拠法とすべきであるから、宝石の所在地である甲国の法律が適用される。
ここでも、甲国民法g条に規定される「特別相続人」の意義が明らかでないため、以下、@「特別相続人」とは、財産を取得するということ以上の意味をもたないものであると解釈する場合、A「特別相続人」と認められると遡って相続人となると解釈する場合、に場合分けをして検討する。
@の場合、甲国の社会福祉財団は、相続人も特別縁故者もいないときに残存した財産が帰属するから、この場合甲国における社会福祉財団は日本における国庫と同じ役割を果たすのみであるといえる。よって、両制度は趣旨を同じくするものであり、その手続も何ら異なるものではないと考えるから、日本の959条の制度を甲国のものに適応させて、956条2項の規定を準用しつつ、残存する相続財産を甲国社会福祉財団に帰属させるべきであると考える。
したがって、甲国社会福祉財団は本件宝石を取得することができる。
<ここでも本件宝石についてのみ、甲国法上は当該財団が相続人であるとの解釈もあり得ることに触れていますが、ここだけの問題ではないのではないかという疑問は上記の場合と同じです。もっとも、私見によれば、本件金塊を当該財団が取得するという結果は、本件特許権についてほど明らかに公序違反とは言えないように思われるものの、日本法との違いは顕著であり、日本との関連性も十分にあるので、公序違反となるように思われます。>
Aの場合、甲国法を適用した結果かりに甲国社会福祉財団が特別相続人と認められた場合には、遡って相続人となり<上記参照>、すべての財産を相続することとなる。この場合、通則法を適用して一度決定した相続財産の帰趨が覆る結果となり、法の安定性を欠き、妥当でない。よって、このような場合には、通則法42条の公序条項を発動することにより、この妥当でない準拠外国法の適用結果を回避し、日本法を適用する処理を行うべきであると考える。
その場合、日本民法959条をもって補充することになるが、本条によると相続人も特別縁故者もいない場合に、処分されなかった相続財産は国庫に帰属することとなるから、甲国社会福祉財団は本件宝石を取得することはできない。
以上