WLS国際民事訴訟法

                                    47122013   

                                    石井隆寛  

 

(略)

 

(4)について

1AB間でなされた退社契約の@の条項が仲裁判断として扱われるかどうかは、@の条項が仲裁合意にあたるかどうかが問題となる。

本件で、AB間に争いがあるのはボーナスに関する額であり、報酬鑑定人に判断を求める合意をした際には支給額に関する争いが生じていないことから「将来において生ずる」(仲裁法21)の要件を満たすが、あくまで支給額を争っているだけであり「一定の法律関係」に関する紛争であるとはいえない。

したがって、本件での合意は仲裁合意ではなく、鑑定仲裁契約であると考える。

よって、乙国の仲裁判断として扱われるべきではないので確定判決と同一の効力が与えられることはない。

2.では、この鑑定仲裁契約はどのように扱われるべきかについて検討する。

本件のような、鑑定仲裁契約は事実の確定を第三者に対して委ねるものでありその証明のための証拠方法に関する当事間の合意であることから証拠契約である。

これは、訴訟上の効果発生を目的とする意味で訴訟契約としての性質をもつ。その効力については、主要事実について当事者の自白が認められている以上,同じ事実を第三者の判定に委ねることを排斥する理由に乏しいから,その効力が認められると考えるべきである[1]

そして仲裁関係が判断した当該事実について他の証拠方法が提出された場合にその証拠方法は排除されることになる。

したがって、裁判所はボーナスの額について仲裁鑑定以外の証拠方法からこれを認定することは許されない。

                                   以上



[1] 伊藤眞『民事訴訟法』〈4版〉(有斐閣・2011)350