大阪地裁平成25年 3月21日判決
平22(ワ)6727号
損害賠償請求事件
一部認容、一部棄却
控訴
2013WLJPCA03216005
大阪府堺市〈以下省略〉
A承継人 原告X1(以下「原告X1」という。)
大阪府堺市〈以下省略〉
同承継人 原告X2(以下「原告X2」という。)
同法定代理人親権者母X1
大阪府堺市〈以下省略〉
同承継人 原告X3(以下「原告X3」という。)
同法定代理人親権者母X1
大阪府堺市〈以下省略〉
同承継人 原告X4(以下「原告X4」という。)
同法定代理人親権者母X1
原告ら訴訟代理人弁護士 西博生
同 太田洋一
東京都渋谷区〈以下省略〉
被告株式会社Y
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士
田治之佳
主文
1 被告は,原告X1に対し,4619万0400円及びこれに対する平成21年10月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告X2に対し,1539万6800円及びこれに対する平成21年10月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告X3に対し,1539万6800円及びこれに対する平成21年10月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は,原告X4に対し,1539万6800円及びこれに対する平成21年10月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は,これを10分し,その3を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。
7 この判決は,第1項ないし第4項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は,原告X1に対し,6334万3591円及びこれに対する平成21年10月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告X2に対し,2111万4530円及びこれに対する平成21年10月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告X3に対し,2111万4530円及びこれに対する平成21年10月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は,原告X4に対し,2111万4530円及びこれに対する平成21年10月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告らの自宅で火災が発生し,これにより,故A(以下「A」という。)が死亡したのは,被告が輸入したふとん乾燥機の欠陥が原因であるとして,Aの妻及び子である原告らが,被告に対し,製造物責任法に基づき,損害賠償金(原告X1につき,6334万3591円,原告X2,原告X3及び原告X4につき,それぞれ2111万4530円)及びこれらに対する上記火災の日である平成21年10月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。
1 前提となる事実(証拠番号を付さない事実は,当事者間に争いがない。)
(1) 当事者等
ア Aは,1965年○月○日生まれのナイジェリア連邦共和国(以下「ナイジェリア」という。)籍の男性であり,日本における永住資格を有していた(甲3,37)。
原告X1は,昭和53年○月○日生まれの女性であり,平成13年7月10日,Aと婚姻した。
原告X2,原告X3及び原告X4は,いずれもAと原告X1の子である(甲1)。
イ 被告は,理美容電化製品,小型家電製品等の製造販売等を目的とする株式会社であり,ふとん乾燥機(形名:〈省略〉)の販売者である。
ウ 原告X1は,平成20年7月10日,同年1月15日に製造されたふとん乾燥機(形名:〈省略〉)1台(以下「本件機械」という。)を購入した(甲9,29)。
(2) 本件火災の発生
平成21年10月26日午前9時ころ,大阪市〈以下省略〉所在の当時原告ら及びAが居住していたマンション居室(以下「本件居室」という。)において,火災が発生した(以下「本件火災」という。)。Aは,本件火災発生後に消防隊員が現場に立ち入った際,本件居室内のリビングに倒れているところを発見された(本件居室の構造及びAの発見位置については別紙1のとおり。甲27)。
Aは,救急車で独立行政法人国立病院機構大阪医療センター(以下「大阪医療センター」という。)に搬送され,遷延性意識障害,一酸化炭素中毒,気道熱傷,角膜熱傷及び顔面・頚部・両手熱傷との診断を受け,同病院に入院した(甲10)。
(3) Aの死亡
Aは,本件火災による受傷後,大阪医療センター,医療法人共生会吉栄会病院(以下「吉栄会病院」という。)において入院治療を受け,その後,平成22年6月3日にナイジェリアに帰国し,同国のメンフィス神経外科病院において入院治療を受けた後,同国において自宅治療を続けたが,平成23年3月10日,同国において死亡した(甲49の1,2,50の1,2,弁論の全趣旨)。
2 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) Aの死亡による相続に関する準拠法(争点(1))
(原告らの主張)
ナイジェリア国籍であるAの相続については,ナイジェリアの現地法が適用されることとなる。
しかし,本件では,適用されるべきナイジェリア法の内容が不明であり,また,仮にナイジェリアの現地法が被相続人の配偶者や長男以外の子に相続権を認めないという規定であったとしても,そのような規定は公序(法の適用に関する通則法42条)に反するものとして適用されないと解するのが相当である。
よって,本件におけるAの死亡による相続については,日本法を適用すべきである。
(被告の主張)
争う。
(2) 被告が本件機械の「製造業者等」(製造物責任法2条3項)に該当するか(争点(2))
(原告らの主張)
被告は,本件機械を輸入した者であり,製造物責任法2条3項1号の「製造業者」に該当する。
被告が本件機械の輸入者ではないとしても,本件機械の本体,取扱説明書,外箱のいずれにも被告の社名である「Y」のロゴが記載されており,同取扱説明書には,アフターサービスの主体及び保証書の名宛人として,被告の会社名と会社所在地が記載されていることから,被告は,「当該製造物にその製造業者と誤認させるような氏名等の表示をした者」(同法2条3項2号)又は「当該製造物にその実質的な製造業者と認めることができる氏名等の表示をした者」(同法2条3項3号)に該当する。
(被告の主張)
否認ないし争う。
被告は,本件機械の販売者ではあるが,製造者ではない。また,本件機械は,a株式会社が輸入したものである。
本件機械の本体,取扱説明書及び外箱の「Y」の記載は,販売者としての被告を表示したものに過ぎず,被告は,「当該製造物にその製造業者と誤認させるような氏名等の表示をした者」(同法2条3項2号)又は「当該製造物にその実質的な製造業者と認めることができる氏名等の表示をした者」(同法2条3項3号)に該当しない。
(3) 本件機械に製造物責任法にいう欠陥があるか(争点(3))
(原告らの主張)
ア 本件火災の出火場所
西消防署の報告書,火災実況見分・原因判定書によれば,本件火災は,本件居室の6畳間和室の北西床面を基点として出火し燃焼拡大したものであり,また,出火原因については,たばこ,放火,電気関係に出火の可能性は低いとしたうえで,残る出火原因としては,本件機械が考えられるものの,製品自体に何らかの欠陥があるのか,使用上の不注意なのか,出火に至る経過を立証するに至らず,本件火災の出火原因を不明とした旨の記載がある。
上記記載内容に加えて,6畳間和室やふとんが置いてあった付近の焼損状況,本件機械の置いてあった位置や,他に本件火災を発生させる原因が発見されていないことからすれば,本件火災は本件機械から生じたものである。
イ 本件機械の欠陥
(ア) 本件機械からの火災発生機序としては,以下の2種類の可能性が考えられる。
a 本件機械内の2本のリード線にはいずれにも芯線に達するような合計3箇所の傷があり,これらの傷が,何らかの原因が引き金となってモーター固定板と接触を繰り返し,これによって,上記各傷とモーター固定板との間で自続放電現象が発生し(これによりモーター固定板に2箇所の孔と溶融痕が形成された。),これによってリード線が燃え上がり,タイマー部を燃焼させ,本件火災に至った(以下「機序1」という。)。
b 本件機械のタイマースイッチの接点間にスパークが発生し,そのスパークによって接点に酸化被膜が発生し,接触抵抗が増えた結果,接点を流れる電流により,接点が発熱・発火し,タイマー部に燃え移り,本件火災に至った(以下「機序2」という。)。
(イ) 製造物責任法は,従来の過失責任の考え方を超えて,過失の有無を問わず,製品の客観的性状である欠陥を要件とすることにより,被害者の立証の負担を軽減しようとするものであり,被害者側に立証の負担を過度に求めるのであれば,同法の趣旨に背く結果となる。
また,家電製品は製品がブラックボックス化していることが多く,技術的専門的な知識や情報を持たない被害者にとって,事故原因や発生メカニズムを具体的に特定し,主張立証することは困難である一方,製造業者は,その製造する製品についての技術的専門的知識を最も多く保有し,危険回避・安全確保のために,可能な限り調査及び研究を尽くすべき立場にある。また,家電製品の事故については,その原因が使用者の使用方法に起因することは,いわゆる誤用の場合を除いてあまり考えられないことから,事故原因が製品の性状にあるものと推認することが合理的である。
そこで,上記製造物責任法の趣旨や,本件で問題とされる製造物である本件機械が家電製品であること及びその通常予見される使用形態からして,製造物責任を追及する原告ら側としては,本件機械を通常の用法に従って使用していたにもかかわらず,身体・財産に被害を及ぼす異常が発生したことを主張立証すれば,欠陥の主張立証としては足りるというべきであり,それ以上に,具体的欠陥等を特定したうえで,欠陥を生じた原因,欠陥の科学的機序まで主張立証責任を負うものではないと解すべきである。
(ウ)a 本件火災は,原告らによる本件機械購入から約1年3か月後に発生しているところ,本件機械のモーター,スイッチ等の耐久性の目標寿命が5年間と設定されていることからすれば(乙4),本件火災が本件機械の合理的使用期間内に発生している。
b 原告X1は,その子どもらが夜尿をしたときかつ雨の日にのみ本件機械を使用していたのであり,その使用頻度は通常の範囲内であった。そして,原告X1は,本件機械を,取扱説明書に記載されているとおりの方法で使用しており,かつ,手入れも適切に行っていた。
さらに,原告X1は,本件火災当日も正常な方法で使用しており,同日午前8時ころに120分のタイマーをセットして使用を始めてから原告X1らが自宅を出た午前8時50分ころまで,本件機械に異常は生じていなかった。
c 大阪医療センターの患者診療録(乙3の1)には,原告X1が「子どもが…乾燥機の中に何か入れた,多分紙だと思う」と発言した旨の記載があるが,原告X1は,子どもが本件機械の中に何かいれたかもしれないという趣旨の発言をしたことはあるものの,「多分紙だと思う」との発言をしてはいない。
また,原告X1の上記発言は,本件火災発生前に,原告X3から,原告X4が本件機械を触っており,何か入れたかもしれない旨聞かされてされたものであるが,これを聞いた直後に原告X1が本件機械のふたを開け,付属品を取り出して内部を確認し,ノズルの中を見て,手を入れて,さらに本件機械をひっくり返すなどして異物が出てこないかを確認したものの,何も発見されなかったことから,結局,原告X4が本件機械に異物を混入させた可能性はない。
また,本件機械にいかなる異物をどのように混入すれば火災が発生するのかについて,被告側は何ら主張立証をしない。
(エ) 以上によれば,原告らは,本件火災以前には本件機械を通常予定される方法により使用しており,本件火災発生直前にも,本件火災に繋がるような誤使用をしていた事実はなく,したがって,通常の用法に従って使用していたものである。しかるに,上記のとおり,本件機械から火災が発生したのであるから,本件機械は通常有すべき安全性を欠いており,欠陥があったといえる。
(被告の主張)
否認ないし争う。
ア 本件火災の発生場所
本件火災が本件機械から発生したとの点は,否認する。
消防署作成の本件火災に関する火災調査報告書には,「発火源:不明」,「本件火災の出火原因は不明」と記載されており,また,火災実況見分・原因判定書にも,「本件各部品毎に見分した結果,出火原因として可能性は低い。」「布団乾燥機の本体内部及び外部からの出火の可能性を特定できない状況である。」と記載されている。
イ 本件機械の欠陥の不存在
(ア) 原告らの主張する機序1は,本件機械のリード線に芯線に達するような傷が合計3個存在したことを前提としているが,各リード線の被覆は頑丈であり,また,原告らが傷の存在を主張する部分の付近には接触しそうな金属部品やネジ等で押さえ込む作業を要する箇所はなく,このような場所に合計3個もの芯線に達する傷が存在したとは考えがたい。また,機序1は,自続放電エネルギーによって,リード線の傷から発火して同リード線を燃え上がらせ,別のリード線に燃え移り,炎がタイマー部まで駆け上がったとするものであるが,リード線の被覆は難燃性で自己消炎性を有していることから,炎が各リード線を燃え上がらせることは考えがたい。原告らが機序1の根拠とする2点の溶融痕は,シャーシをかえして短絡した電気溶痕の可能性があり,同溶融痕を出火原因となった一次痕と判断するのは困難である。
原告らの主張する機序2は,酸化被膜,抵抗値,電流がどの程度であれば発火に至るのか,どの程度の発熱が持続する必要があるのかなどについては明らかにされておらず,何ら具体的根拠がない。また,機序2は,タイマースイッチの端子部分の焼損が激しいことから同部分が発火源であることを前提としているが,同部分がとりたてて焼損が激しいとはいえない。
原告らの主張は,原告側の私的鑑定をしたC技術士(以下「C技術士」という。)の意見に依拠したものであるところ,C技術士自身が,機序1及び機序2が誤りであったことを認めているのであって,結局,原告らによる火災の機序に関する主張には根拠がない。
(イ) 原告X1は,本件火災当日,大阪医療センターにおいて,看護師に対し,「子供が…乾燥機の中に何か入れたの。多分紙だと思う。」などと発言しており,本件火災を巡っては,本件機械の誤使用(子どもたちによるいたずらを含む。)があった可能性が極めて高い。よって,仮に本件機械から出火したとしても,その一事をもって,本件機械に欠陥があったことを推認させるものではない。
(ウ) 本件機械の構造は単純であり,同型の機械を用いることによって,容易に構造等を把握することができるのであって,原告らも,専門家であるC技術士に依頼して,本件機械の同型機3台を用いて本件火災のメカニズム等を解析しようとしている。同解析によっても「欠陥」が解明できなかったのは,本件機械に本件火災を生じさせるような「欠陥」がなかったからに過ぎない。
(4) 損害額(争点(4))
(原告らの主張)
Aは,本件機械の欠陥により,以下の損害を被った。
ア 医療費等 92万2639円
イ 介護費 501万円
事故発生日から死亡日まで,1日あたり1万円
ウ 死亡慰謝料 4000万円
エ 逸失利益 6570万7563円
オ 帰国費用 353万6980円
カ 弁護士費用 1151万円
合計 1億2668万7182円
(被告の主張)
否認ないし争う。
医療費は不知。
介護費について,Aは,平成22年6月3日にナイジェリアに帰国したのであるから,同日以降は,ナイジェリアの物価水準に合わせた介護費用を算出すべきである。
逸失利益について,Aは,本件火災以前から平成22年にはナイジェリアに帰国して同国に永住する予定であったから(乙3の3及び3の4),ナイジェリアの賃金水準を基礎収入として算出すべきである。
また,上記のとおり,本件火災以前からナイジェリアに帰国する予定であった以上,帰国費用は出費が予想されていたといえ,よって,帰国費用は損害賠償の対象にならない。
第3 争点に関する判断
1 争点(1)(Aの死亡による相続に関する準拠法)について
(1) Aは,ナイジェリア国籍の外国人であり,その相続は,本来被相続人の本国法であるナイジェリアの現地法によることとなる(法の適用に関する通則法36条)。しかし,同法の具体的内容は当裁判所に明らかではない。
(2) 甲52(京都大学大学院D教授からの聴取内容を原告ら復代理人がまとめた報告書)によれば,ナイジェリアにおいては,相続に関する争いは,地域ごとに異なる伝統的・慣習的な法令(カスタマリーロー)によって処理されることとなるが,当該法令の内容は,当該地域の住民に聞かなければ分からないと考えられ,日本において資料を入手するのは不可能であるとのことである。
そして,ナイジェリアにおける相続法の内容につき,原告ら代理人が在日ナイジェリア大使館に電話及び書面にて問い合わせをしたうえで,弁護士法23条の2に基づく照会をしたものの,現在に至るまで同大使館から回答を受けることができず,また,当裁判所において在日ナイジェリア大使館等に対する調査嘱託を検討したものの,相当な期間内に必要な回答がされる見込みがなかったものであり,結局,当事者及び裁判所の職権による調査によっても,Aの死亡につき適用されるべき現地相続法の内容を明らかにすることができず,近い将来これを明確にすることも期待し得ない状況にある。
(3) 以上のように,本件においては,ナイジェリアの現地相続法については,その一端すら明らかになっておらず,また,地域ごとに法令の内容が異なることが窺われることからすれば,本件において適用されるべき法令の内容や当該法令における条理を合理的に推認することも極めて困難である。これに加えて,Aの死亡の原因となった本件火災が日本で発生したものであること,同人の妻子である原告らがいずれも日本国籍を有していることなどの本件において認められる事情を考慮すれば,本件においては,Aの相続について,日本法を適用するのが相当である。
したがって,Aの死亡により,同人の被告に対する製造物責任法に基づく損害賠償請求権については,民法887条1項,890条,896条,899条及び900条に基づき,同人の配偶者である原告X1並びに同人の子である原告X2,原告X3及び原告X4が,法定相続分(原告X1が2分の1,原告X2,原告X3及び原告X4が各6分の1)に従ってこれを相続したと認められる。
2 争点(2)(被告の「製造業者等」該当性)について
(1) 認定事実
前記前提となる事実に加え,証拠(甲4,8,34,41,44〈書証は特に記載しない限り枝番を含む。〉)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
ア 本件機械は,中国で製造され,a株式会社により輸入された。
イ 被告のホームページの「会社概要」欄には,被告(株式会社Y)の概要を記載した欄の横に「Y」とのロゴの記載があり,被告の概要を記載した欄に続いて「a株式会社」の記載がある。
また,同ページの「会社概要」欄の下の「事業所のご案内」の欄には,「本社」として「株式会社Y」との会社名と被告の事業所所在地の記載(同所在地は,被告の登記簿上の本店所在地とは異なるものの,弁論の全趣旨によれば,同所在地に被告の主要な事業所が存在していると認められる。)が,「松本工場」として「a株式会社」との会社名と本店所在地の記載がある。
ウ 本件機械本体及びその外箱には,「Y」とのロゴの記載がある。
本件機械の取扱説明書には,「アフターサービスについて」との項目の一番下段に,「株式会社Y」との被告の社名の記載及び被告のホームページにおける記載と同様の被告の事業所所在地の記載がある。
本件機械の保証書には,「株式会社Y」との被告の社名の記載,「本社」として,被告ホームページにおける記載と同様の被告の事業所所在地の記載,「工場」としてa株式会社の本店所在地の記載がある。
エ 本件機械本体,その外箱,取扱説明書及び保証書には,製造者や輸入者の主体は明示されておらず,a株式会社の名称は一切使用されていない。
(2)ア 上記(1)アによれば,本件機械は中国で製造され,a株式会社が輸入したものであるから,被告は,製造物責任法2条3項1号にいう「製造業者」には該当しない。
イ 本件機械及びその外箱には「Y」とのロゴの記載があるところ,上記(1)イのとおりの被告ホームページの記載内容及び被告が同ロゴの記載を販売者としての被告を示したものと主張していることなどに照らせば,同ロゴは,a株式会社ではなく被告を示すものであると認められる上,上記(1)ウ及びエによれば,本件機械の取扱説明書及び保証書には,アフターサービス及び保証を行う主体として,a株式会社ではなく被告が記載されている。他方,本件機械本体,その外箱,取扱説明書及び保証書には,a株式会社及び真実の製造者の名称は一切使用されておらず,むしろ,被告の社名やロゴしか使用されていないのであって,被告以外の主体が本件機械の製造業者であることを窺わせる記載は一切見当たらない。
以上の事実を総合すると,被告は,本件機械に,その製造業者が被告であると誤認させるような会社名及びロゴ等の記載をしたといえ,よって,同法2条3項2号にいう「当該製造物にその製造業者と誤認させるような氏名等の表示をした者」に該当する。
3 争点(3)(製造物責任法上の欠陥の有無)について
(1) 認定事実
前記前提となる事実に加え,証拠(甲6ないし8,27,29,31,33,35,43,45ないし48,53,59,60,67,69,乙1ないし17〈書証は特に記載しない限り枝番を含む。〉)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
ア 本件火災発生当日の事情
原告X1は,平成21年10月26日の朝,原告X2が学校へ出発した後,6畳間和室のふとんで寝ていた原告X3及び原告X4を起こしたところ,同人らがふとんに夜尿をしていたため,本件機械を使用することとし,午前8時ころ,本件機械から,エアマットを取り出してふとんの下に差し入れ,同エアマットに吹出しノズルを装着し,120分のタイマーを設定して,本件機械の使用を開始した。原告X1は,同日午前8時50分ころ,原告X3及び原告X4を連れて外出した。Aは,本件居室内の玄関側の洋室において就寝していた。
イ 客観的焼損状況
(ア) 本件居室のうち,6畳間和室に焼損が見られ,他の部屋及び台所等には煤けのみが認められる。
(イ) 6畳間和室の焼損状況については,北西付近の床面の焼きが激しく,ふとん及びマットレスが焼け,床面まで焼け抜けている。南面及び東面は,ふとんや畳面の表面の焼けにとどまっている。
壁面は,北西面から西面の焼損が強く表面が全て剥離している一方,東面の天井付近に設置されているエアコンや南東床面に置かれた木製の棚及び液晶テレビが原形をとどめているか表面の焼損にとどまっている。北面の壁及び襖は,西側床面を基点として燃焼拡大した様相を呈している。
天井に設置された照明器具は,カバーが全て焼損しており,西側が激しく変形している。
(ウ) 6畳間和室から,たばこの吸殻や灰皿は見分されず,また,布団,マットレス及び畳に,たばこ特有の微小火源による焼込みの痕跡はない。
(エ) 消防隊の到着当時,本件居室の玄関は施錠されていた。また,6畳間和室について,残留濃度の測定の結果,ガソリン及び灯油等の検知反応はなかった。
(オ) 6畳間和室の北面壁のコンセントには,本件機械のプラグが差し込まれており,本件機械に繋がる電気配線は被覆が全て焼損し銅線が露出している。
同コンセントは,表面のみ溶融している。また,同コンセントに差し込まれているプラグの差し歯には,溶痕及び煤けは見られない。銅線が露出した電気配線は,断線箇所が4か所見られるが,いずれも光沢がなく,配線付近に焼込みの焼きは見られない。
(カ) 本件機械は,原形をとどめずに焼損している。
本件機械のうち,モーター固定板には,リード線の溶着痕及び孔が存在している。モーターやコイルには激しい焼損は見られない。
また,ヒーター部は,熱線コイル,配線の接続部及び温度ヒューズが残存しており,ヒーター側面のサーモスタットの内部のバイメタルに溶痕箇所はない。
タイマースイッチの各接点部分には,樹脂の溶融した付着物が見られるが,溶痕箇所は認められず,金属表面に光沢があり綺麗な状態である。
ウ 火災調査報告書及び火災実況見分・原因判定書
(ア) 本件火災に関して消防署が作成した火災調査報告書には,本件火災の出火場所が6畳和室西側であること,出火原因について,放火及び電気関係が考えられるが,実況見分結果及び関係者の供述から検討した結果,確証を得ることができず,本件火災の出火原因が不明となったことなどの記載がある。
(イ) また,本件火災に関して消防署が作成した火災実況見分・原因判定書には,要旨以下のとおりの記載がある。
@ 上記イ(ア)及び(イ)から,本件火災は,6畳間和室の北西床面を基点として出火し,燃焼拡大したものと推察され,本件火災の出火場所は,6畳間和室の北西側と判定する。
A 上記イ(ウ),(エ)及び原告X1の供述等からすれば,出火原因がたばこや外部者による放火である可能性は否定され,また,内部者であるA本人による放火の可能性も否定できないが,非常に低いと考えられる。
B 上記イ(オ)から,コンセントプラグからのトラッキング現象による出火の可能性は否定され,また,本件機械からコンセントまでの電気配線からの出火の可能性は非常に低いと考えられる。
C 上記イ(カ)から,本件機械を部品ごとに見分した結果,出火原因として可能性は低いと考えられる。
D 本件機械の焼損の激しいモーター取付部の金属部分及び数か所の溶痕箇所を,新品の同型機と比較すると,配線と電源コードが束ねられている箇所であり,製造工程において,配線と電源コードを束ねる際に金属部品やネジ等で押さえ込まれるなどの何らかの要因で半断線の状態となり,使用中に短絡し出火した可能性も考えられる。
E 実況見分の結果から,本件機械の本体内部及び外部からの出火の可能性を特定できない。放火の可能性は否定できないまでも,可能性が低いものと推察され,残る出火原因としては本件機械が考えられるが,製品自体に何らかの欠陥があるのか,使用上の注意不足なのか,出火に至る経過を立証するに至らなかったことから,本件火災の出火原因を不明と判定する。
エ a株式会社による発火原因の調査
a株式会社が,本件機械と同型の機械を用いて発火再現実験を行った結果,温度ヒューズが短絡し,モーター回路が遮断された状態で通電した場合と,吹出しノズル側からアクリル板(縦30ミリメートル,横100ミリメートル,厚さ3ミリメートル)を挿入し,吸込口及び吹出口をほぼ塞いだ状態で,サーモスタットを短絡させて通電した場合には発火・延焼が確認できたものの,それ以外の再現実験においては発火・燃焼を再現できなかった。
a株式会社が,上記再現実験の結果及び焼損後の本件機械の分析等を踏まえて作成した分析報告書には,「回収製品の状態が酷く,事故品から出火原因を特定することは難しいが,想定される製品部位からの発火の可能性が極めて低い。」「今回,多角度から発火再現実験を行った結果,唯一外的要因なしにて発火が再現できた『吹き出し側からの異物侵入,停留し燃焼』でさえも,サーモスタット短絡,吸込み口ほぼ全閉での結果であり,製品からの発火の可能性を示すものではない。」との記載がある。
オ 原告X1は,本件火災当日である平成21年10月26日の午後0時ころ,大阪医療センターにおいて,看護師に対し,「子供が,子供が…乾燥機の中に何か入れたの。多分紙だと思う。」との内容の発言をした。
(2) 本件火災の出火場所
ア 前記(1)イのとおりの客観的焼損状況によれば,本件火災が発生したのが本件居室の6畳間和室内であることが認められ,6畳間和室内では,北西付近の床面の焼損が他の部分に比して最も激しく,北面の壁及び襖が西側床面を基点とした様相を呈していることからすれば,本件機械の設置された北西部分の床面が本件火災の出火場所であると認められる。
そして,6畳間和室の北西部分には,同和室の北面壁及び襖のほか,コンセントに繋がれた本件機械が存在していたのみであり,本件機械が原形をとどめずに焼損していること,コンセント部分にはトラッキング等による発火を窺わせる痕跡が何ら存在せず,たばこによる発火を示す痕跡もなく,本件機械以外に本件火災の原因となった具体的可能性のあるものを指摘できないことからすれば,本件火災が,本件機械の発火によるものであることが強く推認される。
イ 前記(1)ウのとおり,消防署作成の火災調査報告書には,本件火災の出火原因が不明である旨,火災実況見分・原因判定書には,本件機械の本体内部及び外部からの出火の可能性を特定できない,本件火災の出火原因を不明と判定する旨の記載がある。
しかしながら,上記火災実況見分・原因判定書の結論は,上記アで検討したとおりの客観的焼損状況を前提に,たばこの火の不始末や,外部侵入者又は内部者による放火の可能性について,個々に検討を加えた結果,いずれも本件火災の原因である可能性が否定されるか,非常に低いとしたうえで,残る出火原因としては本件機械が考えられるが,製品自体の欠陥か使用上の注意不足かについて,出火に至る経過を立証するに至らなかったことを理由に本件出火原因を不明としたものであり,火災調査報告書の結論も,上記火災実況見分・原因判定書における検討を踏まえて出されたものであることからすれば,上記各書面の記載内容も,本件火災の出火場所が本件機械であった可能性が高いことを推認させる内容であるといえる。
ウ 以上によれば,本件火災は,本件機械から出火したと認められる。
(3) 本件機械の欠陥の有無
ア 一般に,本件機械のような家庭用電化製品は,その構造上,内部構造やこれに関連する技術的・専門的情報を製造業者等が詳細に把握している一方,利用者がこれらを詳細に把握することは困難であり,かつ,これらを把握したうえで利用することが予定されていない。これに加え,本件のように火災により当該製造物の大部分が焼損しているような事案においては,製造物に欠陥があることを主張する側が,事故原因や発生メカニズム,それに基づく当該製造物の客観的性状に関する問題点について詳細に特定して主張立証することにはおのずから限界があるというべきであり,この点の主張立証責任を厳格に求めることは,かえって,被害者の保護を図ろうとする製造物責任法の趣旨にも反することとなる。
また,本件機械は,電気回路を利用して熱を発生させ,温まった空気を送風してふとんを乾燥させるという構造を有しており,その利用に際し,電気回路や熱線などに起因する発火を防止するために高度の安全性が要求される製造物であるといえるのであって,外的要因によらずして本件機械から出火したのであれば,本件機械が通常有すべき安全性を欠いていた,すなわち,本件機械に欠陥があったと認めるべきである。
以上のような,本件機械の特性,本件事案の性質及び製造物責任法の趣旨等を考慮すれば,上記(2)のとおり本件機械から本件火災が発生したことが認められる本件においては,原告らが本件機械を通常の用法に従って使用していたといえる場合には,本件火災が本件機械の内部構造以外の外的要因により発生したものであることを被告側が反証しない限り,本件機械に欠陥があると認めるのが相当である。
イ 原告の本件機械の使用状況
(ア) 前記前提となる事実によれば,本件火災は,原告らによる本件機械購入から約1年3か月後(製造から約1年9か月後)に発生しているのであって,本件機械の製品仕様書(乙4資料5−1,5−2)においてモーター,スイッチ,ヒーター等の各部品の目標寿命が5年と設定されていることにも照らせば,本件火災は本件機械に通常想定される耐用期間の範囲内に生じたものといえる。
そして,原告X1は,その子ども達が夜尿したときかつ雨の日に本件機械を使用し,また,取扱説明書に記載されているとおりの方法で使用し,かつ,手入れも適切に行っていた旨を証言しており,その他,原告らが,本件機械を不適切な使用方法により使用していたことを窺わせるに足りる証拠はない。
(イ) 前記(1)アのとおり,原告X1は,本件火災当日の午前8時ころに,本件機械から,エアマットを取り出してふとんの下に差し入れ,同エアマットに吹出しノズルを装着し,120分のタイマーを設定して,本件機械の使用を開始したのであり,その使用方法は,通常の用法の範囲内であると認められる。
ここで,前記(1)オのとおり,Aが同病院に搬送された際,原告X1が看護師に対し,子どもが本件機械に何か入れた,多分紙だと思うとの内容の発言をしたことが認められ,被告は,かかる発言に基づき,子どもによる本件機械への異物の混入という誤使用が,本件火災の原因である可能性が高いと主張する。
しかしながら,かかる発言も,緊急かつ不測の事態に直面する中での推測を交えたものにあることに加え,原告X1は,この点につき,本件火災当日の朝に,原告X3から,原告X4が本件機械を触っていた,何かを入れたかもしれないと聞かされた旨を証言しており,原告X1自身が,原告X4が本件機械に異物を混入したことを直接現認したわけではないことから,原告X1の発言から原告X4による異物の混入を直ちに認めることはできない。
また,前記(1)エのとおりのa株式会社の分析によれば,本件機械と同型機において,吹出しノズルから異物が混入されたとしても,吹出口及び吸込口をほぼ塞いだ状態で,サーモスタットが短絡させて通電した場合でなければ,発火・延焼が確認できなかったところ,子ども達のいたずらにより,本件機械が上記のような状態に至っていたことを示す証拠はない。
よって,本件において,原告らが,本件機械からの発火に至るような誤った方法により本件機械を使用していたとはいえない。
(ウ) 以上によれば,原告らは,本件機械を通常の用法に従って使用していたものと認められる。
ウ 本件火災について考えられる発生原因等
(ア) 原告が本件機械からの火災の発生機序として主張する機序1は,本件機械のモーター固定板に存在する溶着痕及び孔が本件火災の原因となった電気現象により生じた痕跡(一次痕)であることを前提とするものであるが,燃焼により被覆が焼損し裸線状態となったリード線同士が接触し短絡回路が形成された場合でも上記溶着痕及び孔が形成され得ることからすれば,上記溶着痕及び孔が一次痕であると断定することはできないし,リード線の被覆が難燃性で自己消炎性を有していることなどからすれば,本件火災が機序1により発生したとは推認できない。
また,原告の主張する機序2は,タイマースイッチの端子部分の焼損が激しいことを前提としているが,本件各証拠によっても,同端子部分の焼損が特に激しいとは認められず,さらに,発火・燃焼に必要な酸化被膜,抵抗値,電流及び発熱の持続の程度などについて具体的な数値を示した主張がされていないことなどからすれば,本件火災が機序2により発生したと推認することも困難である。
(イ) 以上のように,結局,本件においては,本件機械からの火災発生の具体的機序は不明であるといわざるを得ないが,このことは,限られた資料の中で原告らが推定した発生機序により本件火災が発生したことを認めることができないことを意味するに過ぎない。
他方で,被告の主張立証は,原告らの主張する機序に対する反証に尽きるのであって,本件火災が本件機械の内部構造以外の外的要因により発生したことについては具体的な主張立証をせず,本件各証拠に照らしても,上記外的要因を窺わせる事情は一切見当たらない。
エ 小括
以上検討してきたところによれば,本件火災は本件機械から出火したものであり,原告らは本件機械を通常の用法に従って使用していたと認められるところ,本件火災を発生させうる本件機械の内部構造以外の外的要因も窺われないのであるから,本件機械には製造物責任法にいう欠陥があったといえる。
4 争点(4)(損害額)について
(1) 治療費等
甲20ないし22,55ないし58によれば,Aは,以下のとおり,治療費等として合計92万2639円を支出したものと認められる。
大阪医療センター 15万5340円
吉栄会病院 22万6654円
株式会社ロマンティコ 8万3830円
近畿相互医療機器株式会社 21万9440円
株式会社ヤマシタコーポレーション 23万7375円
(2) 介護費
Aが本件火災により遷延性意識障害に陥り,意思の疎通が不可能な状態となり,近親者よる日常的な介護が必要であったことからすれば,その介護費は日額1万円と認めるのが相当であり,よって,本件火災当日からAの死亡の日までの501日間分の合計501万円の介護費を損害と認めるのが相当である。
なお,被告は,Aが平成22年6月3日にナイジェリアに帰国していることから,同日以降の介護費はナイジェリアの物価水準を基準に算定するべきと主張するが,本件各証拠及び弁論の全趣旨によってもナイジェリアの物価水準の程度は不明であること,介護を行った原告X1が日本人であることなどからすれば,本件における介護費は日本の物価水準を基準として算出すべきであり,被告の主張は採用できない。
(3) 逸失利益
甲24によれば,Aは,本件火災発生当時,b株式会社に勤務しており,同人の平成21年8月ないし10月の給与の月額平均額が40万5933円であったと認められることから,基礎収入は487万1196円と認められる。そして,Aが,本件火災当時44歳であったこと,本件火災により遷延性意識障害の症状となり植物状態に準ずる状態となったこと(甲10,11),本件火災による受傷が原因で平成23年3月10日に死亡したこと(死亡当時46歳),妻である原告X1,子である原告X2,原告X3及び原告X4を扶養していたことからすれば,本件火災による逸失利益は,下記計算式のとおり,4871万1179円であると認められる。
@ 死亡時までの逸失利益
487万1196円×1(労働能力喪失率100パーセント)×1.8594(死亡までの2年に対するライプニッツ係数)=905万7502円
A 死亡後の逸失利益
487万1196円×(1−0.3〈生活費控除〉)×(13.4886〈就労可能年数23年に対するライプニッツ係数〉−1.8594〈死亡までの2年に対するライプニッツ係数〉)=3965万3679円
小計4871万1181円
なお,被告は,A及び原告らが本件火災以前から平成22年にナイジェリアに帰国して永住する予定であったことから,逸失利益についてはナイジェリアにおける賃金水準を基礎収入として算定すべきであると主張するが,Aは,日本の永住資格を有しており,また,証拠(乙3の3,3の4)によれば,A及び原告らがナイジェリアへの帰国を検討していたことは窺われるものの,時期等も含めてこれを確定的に決定していたとは認められないうえ,本件における平成22年6月の渡航が,本件火災による受傷という,上記の従前の検討とは無関係の事由に起因したものであることは明らかであることからすれば,本件における逸失利益は日本における賃金水準を基準に算出されるべきであり,被告の主張は採用できない。
(4) 死亡慰謝料
Aの年齢,家族構成,本件火災の内容その他本件に現れた事実関係を総合考慮すれば,本件におけるAの死亡慰謝料は,2800万円と認めるのが相当である。
(5) 渡航費用
証拠(甲26,51及び弁論の全趣旨)によれば,A及び原告らは,平成22年6月3日,Aの治療のためにナイジェリアに渡航し,同渡航費用及び看護師の付添費用等として,レジェンドトラベルに対して92万1200円,大阪民間救急サービスに対して81万5780円の合計173万6980円を支出したものと認められ,これらの支出は本件火災と因果関係のある損害と認めるのが相当である。
他方,原告らは,同渡航に際し,看護師及び大阪民間救急サービスの代表者の付添渡航費用として,約180万円を支出した旨を主張するが,同付添渡航費用に180万円を支出したことを裏付ける客観的証拠が存在しないことから,上記180万円を損害と認めることはできない。
(6) 弁護士費用
本件における弁護士費用は,800万円と認めるのが相当である。
(7) 小括
以上によれば,本件機械の欠陥によりAが受けた損害は,合計9238万0800円であり,これを原告らが法定相続分に従って相続したものであるところ,各原告の相続した金額は以下のとおりとなる。
ア 原告X1
4619万0400円
イ 原告X2,原告X3及び原告X4
各1539万6800円
5 結論
以上の次第で,原告らの請求は主文第1項ないし第4項の限度で理由があるからこの限度で認容し,その余はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法65条1項本文,64条本文,61条を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 古財英明 裁判官 横地大輔 裁判官 小野健)
〈以下省略〉