上智大学法科大学院2014年度夏「国際民事紛争処理」試験問題

 

ルール

-      参考文献その他の調査を行うことは自由ですが、他人の見解を求めること及び他人の見解に従うことは禁止します。

-      解答作成時間は自由ですが、解答送付期限は、201476()21:00です。

-      解答は下記の要領で作成し、[email protected]宛に、添付ファイルで送付してください(emailアドレス中の_はアンダーバーです)。

-      メールの件名は、必ず、「Sophia国際民事紛争処理」として下さい(分類のためです)。

-      文書の形式は下記の通り。

A4サイズの紙を設定すること。

原則として、マイクロソフト社のワードの標準的なページ設定とすること。

頁番号を中央下に付け、最初の行の中央に「Sophia国際民事紛争処理」、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載してください。

10.5ポイント以上の読みやすいフォントを使用し、また、全体として読みやすくレイアウトしてください。

-      枚数制限はありません。不必要に長くなく、内容的に十分なものが期待されています。

-      判例・学説の引用が必要です。他の人による検証を可能とするように正確な出典が必要です。

-      答案の作成上,より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成してください。

-      これは、成績評価のための筆記試験として100%分に該当するものです。

-      各設問記載の事実関係は、当該設問においてのみ妥当するものとします。

 

問題 

 

日本法人Aは、テニスの世界チャンピオンを決定する全く新しいトーナメントの興行を企画し、Aの独自基準に照らして世界でトップから8位までの選手であると判断した8名の選手と出場交渉を行った。そして、201453日から5日までの期間で日本の有明コロシアムでその大会が開催された。

これに関して、いくつものトラブルが発生した。

1.       1のトラブル

1のトラブルは、参加予定となっていたスペイン人Bが突然出場をキャンセルしたため、7名の大会となってしまったことである。Bはキャンセルの理由をインフルエンザに罹患したためであると連絡してきたが、医師の診断書は送付されてきておらず、また、未確認ではあるものの、大会前日にBの自宅があるバルセロナのレストランで食事中のところを目撃されたとの情報がある。

ABとのトーナメント出場契約には、大会の日時・場所、出場金(これは大会での勝敗にかかわらず支払われる最低保証の契約金)・賞金(1位に最高額が与えられ、以下、金額が逓減する)(いずれも円で表示)などはもちろん、不可抗力による契約解除権等に関する条項は存在するが、裁判管轄及び準拠法の合意条項は存在しない。契約交渉は、Aの社員がスペイン・バルセロナに赴き、Bのマネージャー及び代理人弁護士との間で行われた。契約書はAがドラフトした英文のものであり、基本的は8名の出場候補選手すべてについて同じ内容のものであるが、必要に応じて選手ごとに一部修正されることが予定されており、事実Bの要求により若干の修正がされた。そして、最終的に、Aの本社でA代表者が署名した契約書をAの社員がスペインに持参し、B自身が署名して、この契約は締結された。

2.       2のトラブル

2のトラブルは、テニスの4大タイトルを複数回獲得しているウクライナ人C(ロシア系ウクライナ人でありアメリカ・マイアミ州在住)が、来日後、Aと各プレイヤーとの出場契約が選手ごとに異なっていること、そして、出場に消極的であった英国人Dに、Cに対するよりも高額の出場金が支払われていることを知ったことに端を発するものである。Cは、このような差をつけられたことにより名誉を傷つけられたと主張し、当初の出場金の5倍の金額を支払わなければ、出場を拒否すると主張した。このトラブルはトーナメント開始目前に勃発したため、Aはその通り5倍の額をCに支払う旨の修正契約を締結せざるを得ず、その通りの支払いをした。

ACとの間の契約は基本的には第1のトラブルにおけるABとの間の契約と同様のものであるが、Cの主張により、ウクライナの東部国境に近い都市ルハンシクの一審裁判所を専属管轄裁判所とする管轄条項とアメリカ合衆国法を指定する準拠法条項が置かれていた。

3.       3のトラブル

3のトラブルは、出場選手として予定されていないスウェーデン人Eが来日し、大会数日前の有明コロシアムでの公開練習に現れたことである。Eは、EAのエージェントであるFの手配によりこのトーナメントに係る出場契約を締結していると主張した。Fは、Aのエージェントであると称し、Aの代表者の署名のある委任状を提示し、FAの代理人として出場契約に署名していた。しかし、Aは、当初はFAのために契約交渉をする権限を与え、数人の選手との交渉を依頼していたものの、交渉は難航し、契約締結が予定通り進まなかったことから、Fへの代理権付与契約を解除していた(この解除は法律上有効にされているとする)Aは、そもそもEは出場交渉対象プレイヤーのリストには含まれていないことから、Eの主張を拒否し、実際、Eは出場することができなかった。

AFと間の委任契約には、日本法を準拠法とする旨の明文の条項が存在する。また、FEとの契約交渉をもっぱらスウェーデンで行われ、契約締結も同国でされた。AEとの間の契約とされる出場契約(基本的には第1のトラブルにおけるABとの間の契約と同様のもの)には、Eの主張に基づき、スウェーデン法を指定する準拠法条項と、ストックホルムの一審裁判所を指定する専属管轄合意条項が置かれている。

4.       4のトラブル

4のトラブルは、このトーナメントのスポンサーとなったドイツのスポーツ用品メーカーGが、大会が盛り上がりに欠け、スポンサー契約に定められているAが最低限確保すべき観客動員数を確保できなかったことから、契約違反に基づく損害賠償請求を求めていることである。

AGとの間の契約は、GA5億円を支払い、Aはトーナメントを盛り上げる最大限の努力をし、少なくとも一定の成果は上げること、トーナメントにおいてG及びその製品の広告を行うこと等を定めるものである。契約交渉は、双方の代理人としていずれもニューヨーク州の弁護士が当たり、契約書は英語で作成され、契約締結地はニューヨークであった。この契約には準拠法条項はなく、紛争解決手続については、AG対して申し立てる場合にはベルリンにおいてドイツ仲裁協会の規則に基づく仲裁により、GAに対して申し立てる場合には東京において日本国際仲裁裁判所の規則に基づく仲裁による旨の仲裁条項が置かれている。この「日本国際仲裁裁判所」という機関は存在せず、当事者の調査不足が原因であり、現実に存在する「日本商事仲裁協会」の規則による仲裁を定めるつもりであったとも解されるが、当事者の真意がどうであったのかを窺わせる証拠は存在しない。

 

 以下の設問のうち、網掛け部分(偶数番)は試験範囲外です。したがって、奇数番のみ解答しなさい(講義の最終回で講評をしますが、その際には偶数番についても若干触れます)

 

(1)      1のトラブルについて、ABに対する損害賠償請求の訴えを東京地裁に提起したとする。東京地裁はこの訴えについて国際裁判管轄を有するか。

(2)      1のトラブルについて、日本で裁判を行うと仮定した場合、ABとの間の契約の準拠法は何か。

(3)      2のトラブルについて、ACに対して、修正契約は無効であり、元の出場金の4倍に当たる支払部分をCは不当に利得していると主張し、不当利得返還請求訴訟を東京地裁に提起した。これに対して、Cはウクライナ・ルハンシクの一審裁判所を指定する専属管轄合意があるので、この訴えは却下されるべきであると主張している。ルハンシクの2014630日現在の状況を前提として、東京地裁はどのように判断すべきか。

(4)      2のトラブルについて、ACに対する不当利得返還請求訴訟は日本の裁判所で本案の審理がされると仮定した場合、不統一法国であるアメリカ合衆国法による旨の準拠法条項のもとで、準拠法はどう決定されるべきか。

(5)      3のトラブルについて、EAに対する出場契約違反に基づく損害賠償請求訴訟が提起されたストックホルムの一審裁判所は、当該契約中の専属管轄条項により国際裁判管轄を肯定した上で、AE5,000万円余りを支払えとの判決を下し、これが確定したとする。この判決の日本での執行に際して、民事訴訟法1181号の適用上、Aは、Fは無権代理人にすぎず、AEとの契約とされるものは不存在ないし無効であるから、当該契約中の専属管轄条項も不存在ないし無効であると主張している。この執行判決請求訴訟において、日本の裁判所としては、この点をどう判断すべきか。

(6)      3のトラブルについて、Fの仲介により、AEとの間の出場契約が有効に成立したか否かを判断する準拠法は何か。

(7)      4のトラブルについて、Gは、仲裁条項中の「日本国際仲裁裁判所」に該当する機関が現実に存在しない以上、Gが申し立てる場合には東京で仲裁を行うという条項は効力がないと主張し、Aに対する損害賠償請求訴訟を東京地裁に提起した。この仲裁条項の効力を判断する準拠法は何か。

(8)      4のトラブルについて、日本で仲裁がされる場合、AGとの間の契約の準拠法は何か。