WLS国際関係私法基礎

47132102

辛鐘建

設問(1)

1 Bに対する請求

1 法性決定

(1) X1X2(Xら」)は、Bが製造した布団乾燥機の欠陥により自宅焼失等の損害を被った事を理由として損害賠償を請求しているところ、かかる請求は、不法行為に基づく請求である。

 不法行為とは、不法行為能力、不法行為の主観的要件、権利又は法律上保護される利益の侵害、損害の発生、行為と結果の因果関係等の不法行為の成立の問題、損害賠償請求権者、賠償の方法、損害賠償の範囲、過失相殺、時効、共同不法行為の連帯責任、損害賠償請求権の譲渡性・相続性等の不法行為の効力の問題をいう。[1]

 したがって、Xらの上記請求は、不法行為の問題に法性決定され、通則法は17条〜22条に不法行為に関する規定をおいており、当該規定の検討が必要となる。

 (2) この点、通則法は17条を一般的規定として定め、18条以下を特別法的規定として定めていることから、18条以下の該当性を検討する必要がある。

 そして、布団乾燥機はBが乙国において製造したものであるところ、「生産され又は加工された物」(18条かっこ書)にあたり、Bは日本の家電量販店Cに輸出しているところ、「生産物を業として生産し…輸出し…販売した者」(18条かっこ書き)にあたることから、生産物責任の問題として通則法18条該当性が問題となる。

2 連結政策

(1) 通則法18条は、18条が本文において、準拠法を「被害者が生産物の引き渡しを受けた地の法による」としているのは、生産物責任と市場流通との密接な関連性を重視し、生産業者と被害者双方の準拠法に関する予見可能性を保障するために、両者の接点ともいえる市場地法を適用する趣旨である。[2]

 被害者の保護と生産者の予見可能性の調和の観点から、「生産物の引き渡しを受けた地」を連結点として定めているといえる。

 本件についてみると、本件布団乾燥機の引き渡しを受けた地は日本であり、従って日本法が準拠法になると解される。

 (2)ア もっとも、通則法18条は、「被害者が生産物の引き渡しを受けた地の法による」としているが、本件布団乾燥機の引き渡しを受けたのは死亡したAであり、Xらではないことから、18条適用の前提を欠くとも思われ、いわゆるバイスタンダーの問題になるとも思える。

  イ 18条が本文において、準拠法を「被害者が生産物の引き渡しを受けた地の法による」としているのは、生産物責任と市場流通との密接な関連性を重視し、生産業者と被害者双方の準拠法に関する予見可能性を保障するために、両者の接点ともいえる市場地法を適用する趣旨である。[3]

 そうだとすると、被害者と生計を同一にする同居の親族であれば、引き渡しを受けた者と同視しても、生産業者の予見可能性を害することにはならないと解する事が出来る。

 (3) 本件においては、XらはAと生計を同一にする同居の親族であったから、引き渡しを受けた者と同視できる。

 そして、本件布団乾燥機が引き渡された地は日本であることから、本件請求に適用される法は日本法であるといえる。

 (4) なお、18条ただし書の該当性が問題になるが、Bは日本の家電量販店Cに輸出しており、Cが日本国内で第三者に引き渡すことについては予見可能であったと認められることから、ただし書には該当しない。

2 Cに対する請求

1 法性決定

 Cに対する請求も、前述と同様に18条の問題になると解する

2 連結政策

 そして、18条の生産業者には「生産物を輸入し、又は販売した者」も含まれることから、Cも生産業者に当たるといえる。

 そして、引き渡された地は日本国内であることから、日本法が適用されると解される。

3 問題点

(1) しかし、本件請求における当事者は、日本の量販店と日本国籍を有する者及び日本に常居所を有する者である。

(2) この点、国際私法とは、国際的な私法生活関係に対してどこの国の法律を適用するかを決定する法律である[4]ことからすると、そもそも国際私法による準拠法決定の問題が生ずる場面ではなく、単純に日本国内における、民事訴訟であるといえる。

 したがって、先述した通則法による準拠法決定のプロセスを経るまでもなく、そもそも日本法が適用されると解する。

(3) この点に関して、純粋な国内事案に内国法が適用されるのも国際私法を通じて内国法が準拠法として指定されているからであるとする見解が対立する。[5]

(4) しかし、国際私法は渉外的事案であるときに現実に問題になり、渉外的事案の処理のために生まれてきたものである事からすると、かかる見解はとりえない。

 

設問(2) [符号のシステムが乱れているようであり、既述がわかりにくいため、省略します。]

 

設問(3)

1 ドラフト修正

以下のように、ドラフトを修正すべきであると考える。

 「甲国の相続法については、その一端すら明らかになっておらず、甲国法上の条理を合理的に推認することも極めて困難である。そこで、明確性及び法的安定性の見地から、Aの相続については、日本法を適用するのが相当である。」

2 理由

1 外国法の内容がいくら調べても不明の場合の処理については、学説が激しく対立しており、@請求棄却説、A法廷地法説、B補充的連結説、C条理説、D近似法説があるとされている。[6]

 通説的見解とされているのは、準拠外国法の適用を諦めず、その内容を条理によって決定すべきとの見解である。しかし、条理の内容は不明確であり、法的安定性に欠けるといえる。

 もっとも、基本的には、得られた情報を活用し、近似している他の外国法を参考にしながら、不明な外国法の内容を合理的に推認すべきであると解する近似法説が最近は有力であるとされている。

 しかし、外国法の内容が全く不明で、その条理の合理的な推認も極めて困難である場合には、その国の条理や近似する国家の法を参考にすることも困難であり、また国際私法上の条理という概念も明確性に欠け、条理説や近似法説では限界がある。

 この点、法廷地法説は、国際私法を介して外国法を適用するという事態は例外的な婆愛であり、国際私法によって指定された外国法の内容が不明であれば原則に戻り、法廷地の実体法を適用すべきであるとする見解である。[7]

 かかる見解に立つことで、他説の不明確性を回避することができ、簡明かつ信頼のおける法廷地法によることは実質的にも有益であるといえる。

 したがって、法的安定性と明確性に長ける法廷地法によるべきであると解する。

2 本件ドラフトは、一見すると法廷地法説によっているかのようであるが、他方では、条理説にもよっている様に思える。

 しかし、本件ドラフトが参考にしている条理は日本の条理であって、そもそも国際私法上準拠法を決定するにおいては国際私法上の条理を探索・参照すべきところ、本件ドラフトは日本における条理を参考にしている点で誤っているといえる。[相続準拠法である甲国法の内容が不明である場合に、日本との関連性を云々している点が問題ではないでしょうか。少なくとも、内容不明な甲国法に代えて日本法を適用する理由として、死亡原因となった火災の発生地も、相続人の国籍等も不適切である点を指摘すべきではないでしょうか。Aの相続にとって日本が相当に密接に関係しているという点を挙げるのであれば、Aの常居所が日本であったことを挙げるべきであろうかと思います。ただし、そのことが日本法の適用を正当化するとは思えません。]

3 したがって、外国法の内容及び条理が不明である本件においては、明確性と法的安定性の見地という理由に基づいて、法廷地法である日本法によるべきとする結論に修正した。

 

設問(4)

1 準拠法が甲国法と指定された場合、その適用結果が日本において認められるか

(1)問題意識

 準拠外国法の適用結果が日本において認められるかどうかは、当該結果が通則法42条に規定される公序則に反しないかという問題である。

 (2)判断基準

 通則法42条は、準拠法決定が日本の国際私法の原則として各国実質法の内容を見ることなく行われる結果、一旦決定した準拠法を適用すると日本の法秩序にとって容認しがたい結果をもたらすおそれもあることから、このような事態を回避し外国法の適用を退けるための道具として用いることをその趣旨としている。[8]

 公序則に反するかどうかの判断は、42条が「規定の適用が」としていることや、外国法の内容自体を非難して適用を回避しようとするのではないことに鑑みると、まずは日本における適用結果の異常性を審査すべきである。

 そして、42条が準拠外国法の適用結果による日本の法秩序の混乱を回避する為の規定であることから、当該事案の内国関連性を審査し、関連性が密接である場合すなわち準拠外国法の適用結果が日本の法秩序に与える影響が大きい場合に公序条項が発動されると解する。

2 適用結果の異常性

(1) 日本民法は、配偶者と子が相続人の場合には、前者の相続分を2分の1、後者の相続分を2分の1と定める(日本民法9001)

 そして民法9004号は、子供が数人いるときは相続分を頭数で等しくする旨の規定をおいている。

 これは、日本民法は配布者と子を異なる地位と見ながら、配偶者という地位について生活の絶対的保障及び妻に対する戦前の不当な差別という歴史的経緯から相続分を2分の1確保し、配偶者と子という地位相互間においては公平の観念から相続分を平等に定めているものといえる。

(3) 本件について見ると、甲国法による相続分は配偶者であるX1の相続分は10分の1、子であるX2の相続分は10分の9となる。かかる結果は、仮に本件事案に日本民法を適用した場合の結論となる2分の1ずつとなる場合と大きく結論を異にするものであり、生存配偶者の生活の絶対的保障という上記の日本民法における相続規定の趣旨に反する。

(4) したがって、甲国法の適用結果は、上記1において述べた「適用結果が異常であり日本国内の法秩序を乱し、混乱をきたす」ことになるといえるから、日本において異常性が認められる。

3 内国関連性

(1) 本件事案は、日本でこれまで20年近く生活してきて、さらに将来も生活することが強く推認できるAX1X2という家族の生活の本拠である自宅の焼失についての損害賠償請求である。

(2) X1は日本国籍を有する者であり、Aと婚姻後から現在まで日本で生活しており、これからも継続して日本に居住することが容易に考えられる。

(3) X2は、重国籍者ではないものの本件では国籍は明らかになっていない。しかし、母であるX2は日本国籍を有する者であり、父であるAも甲国国籍保有者であるがX2の出生前から日本で婚姻をしてX2を出生している。X2自身も、出生以来日本に居住し、X2が日本国籍保有者であることから、これからも日本に居住すると考えるのが合理的である。

(4) 以上の事柄を総合すると、本件事案は日本との関連性が密接であり、甲国の適用結果を排除しなければ、上述した日本の相続規定に関する趣旨が害されることになってしまい、日本の法秩序に与える影響が大きいといえる。

4 結論

 上述のとおり本件事案は日本との関連性が強いものであり、適用結果の異常性も充分に認められることから、通則法42条の公序則の発動によって、甲国法の適用は排除され、日本法が適用されると解する。

 したがって、甲国法の適用結果は日本において認められない。

 

設問(5)

1法性決定

 (1) X1X2がこの損害賠償請求権を相続するか否かの問題は、どのような財産が相続財産になるかという問題であるから、設問2と同様の理由によりまずは相続の問題に法性決定される。

(2) もっとも、当該損害賠償請求権が相続財産を構成し得る性質を有しているかは、債権の属性の問題としての性質を有する。

 そこで、相続の問題か債権の問題か、どちらに法性決定されるか問題となる。

2(1) この点に関して、裁判例大阪地判昭和62227日・判時126332頁は、カリフォルニア州での自動車事故で負傷した日本人が、死亡した日本人運転手の遺族に対して、遺族が損害賠償債務を相続したことを理由に、その債務の支払を求めた事案において、相続の準拠法(日本法)と不法行為の準拠法(カリフォルニア州法)がともに相続を認める場合でなければ損害賠償債務は相続されないと判示している。[9] 

 (2) しかし、損害賠償債務の相続性という一つの問題を、相続と不法行為の二重に法性決定していることになり、法性決定は国際私法を構成する個別的な抵触規則の事項的適用範囲の問題であるから、二重の法性決定はあり得ないという強い批判がある。[10]

3(1) 学説においては、上記裁判例のように、相続財産が被相続人のいかなる権利義務によって構成されるかは相続準拠法によるのであって個々の権利義務の準拠法がそれを相続財産と認める場合でも、相続の準拠法がそれを相続財産としない場合には相続財産から除外されるが、相続財産とする権利義務も、その権利義務の固有の準拠法がこれを相続財産たることを認めない場合には、それが相続財産から除外されるとする説明が通説的であった。[11]

(2) しかし、判決と同様に二重の法性決定をすることは国際私法の原則に反するものであり妥当でない。

 そこで、相続財産に含まれるかどうかは、個々の権利義務の準拠法にしたがって決定されると解する。[道垣内の見解とは異なりますが、そのような説もなくはないです。ただ、理由付けを要するのではないでしょうか。]

4 以上のことから、X1X2AB及びCに対して有する損害賠償請求権を相続するか否かという問題は、個々の権利義務である債権の問題に法性決定される。

 したがって、不法行為債権の準拠法である日本法によって判断されるべきことになる。

 

設問(6)

1 本件において問題となっているのは、布団乾燥機の瑕疵と各損害との因果関係の存否である。準拠法を決定するにあたり、この問題を如何に法性決定すべきか問題となる。

 まず、不法行為の問題であることからすると、1719条の問題となる。そして、布団乾燥機という生産物の生産者・販売者に対する請求であることから。18条の生産物責任の問題であるとも解される。

 他方で、本件では、そもそも瑕疵と損害の間の因果関係が問題となっており、生産物によって損害が発生したとは準拠法決定の段階では明確ではないことから、一般的な不法行為の問題として17条に基づくべきではないかという悩みが生ずるところである。

2 私は、以下の点から、18条の問題として法性決定すべきであると考える。(私見)

(1)理由@

 まず、18条の規定について瑕疵と損害との間に因果関係が存在することが前提となるのではないかとの疑問が生じたが、18条は「債権の成立及び効力」に関する規定であり、瑕疵と損害との間に因果関係があることを前提にするのではなく、債権の成立の判断の過程で因果関係の有無を判断していくものであるから、生産物の瑕疵が原因になっていると思われる不法行為に基づく損害賠償が請求されている以上は、生産物責任の特則の問題と法性決定し、因果関係は、準拠法の実質的な内容判断のところでなされるものであると解する。

(2)理由A

 そして、17条と18条の関係は、17条が一般的な不法行為について定め、18条が引き渡し地を連結点とすることで、生産者にとって結果発生地及び加害行為地よりも損害発生の予見可能性が可能な範囲に限定し予見可能性の保護を図り、被害者にとっても引き渡し地を連結点とすることで準拠法確定に明確性と法的安定を確保することを趣旨として、特定として別個の単位法律関係を構成していることから、一般法と特別法の関係にあり、17条の検討の後に18条を検討し、18条と法性決定されると17条に戻る余地はないと解する。[12]

3 以上のような検討に基づくと、瑕疵と損害の因果関係が不明の場合であっても、18条が保障しようとする適用準拠法の予見可能性は担保されるのであり、18条によって指定された準拠法の実体法的判断の中で因果関係の存否を判断すればよいとの結論になる。

4 したがって、18条の規定に基づき、引き渡し地である日本法が準拠法として指定され、不法行為に基づく損害賠償請求権の存否の判断の中で、布団乾燥機の欠陥と各種損害の因果関係が判断されると解する。

 よって日本法によって判断すべきと解する。

 



[1] 澤木敬郎・道垣内正人『国際私法入門』有斐閣双書(20123月・第7版)223

[2] 櫻田嘉章・道垣内正人編『注釈 国際私法(1)』有斐閣(201112月)471

[3] 櫻田嘉章・道垣内正人編『注釈 国際私法(1)』有斐閣(201112月)471

[4] 松岡博編著『国際関係私法入門―国際私法・国際民事手続法・国際取引法』有斐閣(20124月・第3版)4

[5] 前掲注(1)・道垣内6

[6] 前掲注(4)・松岡57

[7] 前掲注(4)・松岡57

[8] 櫻田嘉章・道垣内正人編『注釈 国際私法(2)』有斐閣(201112月)332

[9] 前掲注(4)・松岡240

 櫻田嘉章・道垣内正人編『国際私法判例百選』有斐閣(20126月・第2版)79事件中西康

[10] 前掲注(14)・百選79事件 解説

[11] 前掲注(14)・百選79事件 解説

[12] 前掲注(4)・松岡120