WLS国際関係私法基礎

47130012 尾形達彦

第1 (1)について

 1 X1・X2の請求の単位法律関係

   X1・X2のBに対する損害賠償請求は、X1・X2とBの間に契約関係が無いことから、不法行為に基づく損害賠償請求となる。従って、本件における、損害賠償請求権の存否という問題の単位法律関係は、不法行為(通則法17条 以下、通則法である場合には、条文のみ示す)である。

もっとも、(損害賠償請求の原因である)自宅の焼失、その他X1・X2が被った損害は、Bが製造しCが販売した布団乾燥機の欠陥により生じているから、本件の単位法律関係は、生産物責任(18条)ではないか。以下検討する。

   まず、「生産物」とは、「生産され又は加工された物」をいうところ、布団乾燥機は、Bにより製造された物であるから、「加工され」た物にあたり、「生産物」にあたる。次に、「生産業者」とは、生産物を業として生産し、加工し、輸入し、輸出し、流通させ、又は販売した者」いう。「生産業者」がこのように定義される趣旨は、生産物の生産から販売までの一連の流通過程に関与した者を広く含めた上で、種々の生産業者に対する請求につき、同一の法選択規則を適用することにある[1]Bは布団乾燥機を「生産」し、Cは布団乾燥機を「販売」したから、両者は「生産業者」にあたる。しかし、X1は、Aと違って、生産物を直接に取得した者以外の者(バイスタンダー)[2]であるが、バイスタンダーからの生産業者に対する損害賠償請求も、生産物責任の単位法律関係に含まれるか。

   この点、通則法18条は、原則的な連結点として、「被害者が生産物の引渡しを受けた地」という規定振りであり、文言上、生産物の引渡しを受けた者のみが「被害者」であることを前提としている[3]から、バイスタンダーは「被害者」であるとは考えられない。また、バイスタンダーとは無関係の「引渡しを受けた地」の法を適用する理由がない。従って、バイスタンダーからの生産業者に対する損害賠償請求は、生産物責任の単位法律関係に含まれない。

   そうだとしても、X1・X2は、布団乾燥機の引渡しを受けた「被害者」であるAの、同居の親族である。このような場合には、例外的に、バイスタンダーによる生産業者に対する損害賠償請求が、生産物責任の単位法律関係に含まれるとは言えないか。

   被害者保護の観点からは、より多くの者を「被害者」に含めるのが好ましい。しかし、上記の通り、18条は、文言上、生産物の引渡しを受けた者のみを「被害者」としており、趣旨として被害者保護が強く押し出されているわけではない。つまり、やはり、生産物の引渡しを受けていない者を被害者に含めることは考えられない。従って、X1・X2からBに対する損害賠償請求は、生産物責任の単位法律関係に含まれない。

   以上より、本件における、損害賠償請求権の存否という問題の単位法律関係は、不法行為(17条)である。[例外的に同居の親族はAと同じ扱いをすることができるとの説が多く、答案の多くもそうでした。]

2 本件の準拠法

通則法17条は、不法行為の準拠法を、原則として「不法行為の結果が発生した地の法」とする。そして、その地における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは、「加害行為が行われた地の法」とする。

本件では、Cは、日本で布団乾燥機を販売しているから、結果発生を通常予見できたといえる。しかし、Bは、日本で布団乾燥機を製造していたのではない。そこでBは、結果発生を通常予見できたといえるかが問題となる。

まず、結果発生地の予見可能性の判断基準については、当該事案の加害者と同一状況にある一般人を基準にすべきか、加害者の主観を考慮すべきかで争いがあるが、前者を採用すべきである。なぜなら、加害者の主観をも考慮すると、事実上、加害者に恣意的な準拠法の選択を認める結果となるとともに、加害者の主観的事情をめぐる争いが泥沼化して訴訟遅延のおそれがあるからである。

本件では、Bは、布団乾燥機を日本に輸出している。Bと同一状況にある一般人からすると、日本に輸出した製品が、その欠陥のために日本で火事の原因となり、損害を発生させることは、通常予見できる。従って、Bは、結果発生を通常予見できたといえる。

以上より、B及びCは共にX1・X2に生じた損害という結果発生を、通常予見できたといえるので、X1・X2のBCに対する損害賠償請求の準拠法は、「不法行為の結果が発生した地の法」である。「結果が発生した地」とは、人・物に対する物理的な侵害の場合には、その人・物の所在地である。精神的な損害については、現実に精神的苦痛を受けた人の所在地ないし常居所地である。

本件では、X1・X2の「自宅の焼失」という物理的な損害が生じたのも、「その他自らが被った損害」(精神的損害が含まれると考えられる)が生じたのも、日本であるから、「結果が発生した地」は、日本である。

よって、X1・X2のBCに対する損害賠償請求に適用されるのは、日本法である。

 

第2 (2)について

 1 X1・X2が相続人かは、いずれの国の法で判断されるべきか

   X1・X2が相続人かどうかの問題の単位法律関係は、相続である。相続の準拠法につき定める通則法36条は、被相続人の本国法によるべきとしている。

   本件において被相続人Aは甲国人であり、本国法は甲国法であるから、準拠法は、甲国法となる。

   甲国法の内容については、明らかではないので、以下、X1・X2につき、場合分けしてAの相続人となるかは、いずれの国の法で判断されるべきかを述べる。

 (1)X1が相続人となるかは、いずれの国の法で判断されるべきか

ア 反致(41条)

     甲国の国際私法が、相続人の決定について日本法を指定している場合には、反致が成立するので、X1が相続人かは、日本法で判断されるべきである。

イ 公序(42条)

以下、反致が成立しない場合を検討する。

まず甲国法が、配偶者を相続人としていない場合は、X1は相続人とはならないのが原則である。つまり、原則として甲国法が適用される。しかし、配偶者が相続人とならない結果は、日本法の配偶者に少なくとも2分の1の相続分を認め(民法900条1号ないし3号)、被相続人死後の配偶者の生活を保障するという基本的私法秩序に著しく反するものである。その上、本件相続人決定問題は、日本において発生しているものなので、内国関連性もある。従って、仮に甲国民法が配偶者を相続人としないとしていても、そのような規定は公序(42条)に反し、適用しないこととなる。

     この場合、甲国法が適用されない後、どのように処理されるかが問題となる。この点、準拠外国法の適用排除によって法規範の欠缺が生じ、その欠缺を日本法で補うとする説がある(内国法適用説)。判例もこの立場である(最高裁判決昭和59年7月20日)。しかし、公序に反するということは、当該外国法の準拠法としての資格を奪うものではあるが、それは必ずしも内国実質法に準拠法としての資格を付与するものではない[4]。従って、外国法の適用を排除することにした段階で、すでに具体的な結論が出ており、法規範の欠缺は生じていないとみて、改めていずれかの国の法を適用するなどして法規範の補充をする必要はない(欠缺否認説)。

従って、X1は相続人かを決定する際に適用されるのはいずれの国の法でもなく、甲国法が適用されないという結果が残るのみである。

     次に甲国法が、配偶者を相続人としている場合、X1は被相続人Aの配偶者であるから、相続人となる。つまり、適用されるのは甲国法である。

    (2)X2は相続人か

ア 反致

      甲国の国際私法が、相続人の決定について日本法を指定している場合には、反致が成立するので、X2が相続人かは、日本法で判断されるべきである。

イ 公序

以下、反致が成立しない場合を検討する。

まず甲国法が、子を相続人としていない場合は、X1は相続人とはならないのが原則である。しかし、子が相続人とならない結果は、日本法の、子に相続分を認め(民法887条1項)、被相続人死後の子の生活を保障するという基本的私法秩序に著しく反するものである。その上、本件相続人決定問題は、日本において発生しているものなので、内国関連性もある。従って、仮に甲国法が配偶者を相続人としないとしていても、そのような規定は公序(42条)に反し、適用しないこととなる。 この場合、甲国法が適用されない後、どのように処理されるかが問題となるが、前述のとおり、欠缺否認説が妥当である。

      従って、X2は相続人かを決定する際に適用されるのはいずれの国の法でもなく、甲国法が適用されないという結果が残るのみである。

次に甲国法が、子を相続人としている場合、X2は被相続人Aの子であるから、相続人となる。つまり、適用されるのは甲国法である。

 2 X1・X2の相続分はどのくらいかは、いずれの国の法で判断されるべきか

(1)X1の相続分

上記検討の通り、甲国法の規定がどのようなものであっても、X1は、Aの相続人となる。相続分についても、単位法律関係は相続であるから、反致が成立しない限りAの本国法である甲国法が準拠法となるのが原則である。

    ただし、甲国法が、配偶者の相続分をあまりに低く規定し、配偶者に少なくとも2分の1の相続分を認め(民法900条1号ないし3号)被相続人死後の配偶者の生活を保障する日本民法の基本原則に反する程度に達している場合には、相続分の問題が日本において発生していることから、内国関連性があり、公序が適用される。この場合、甲国法の適用が排除され(42条)、いずれの国の法が適用されるわけでもない(欠缺否認説)。

(2)X2の相続分

    上記検討の通り、甲国法の規定がどのようなものであっても、X2は、Aの相続人となる。相続分についても、単位法律関係は相続であるから、反致が成立しない限りAの本国法である甲国法が準拠法となるのが原則である。

    ただし、甲国法が、配偶者の相続分をあまりに低く規定し、子に相続分をみとめ(民法887条1項)被相続人死後の子の生活を保障する日本民法の基本原則に反する程度に達している場合には、相続分の問題が日本において発生していることから、内国関連性があり、公序が適用される。この場合、甲国法の適用が排除され(42条)、いずれの国の法が適用されるわけでもない(欠缺否認説)。

 3 その他の問題点

以上の検討の中で、甲国法が準拠法となる場合で、甲国が地域的不統一法国または人的不統一法国であるときには、前者では甲国の規則に従い指定される法(そのような規則がない場合にあっては、当事者に最も密接な関係がある地域の法)が(38条3項)、後者では、甲国の規則に従い指定される法(そのような規則がない場合にあっては、当事者に最も密接な関係がある法)が(40条1項)となる。

また、相続人の確定にあたっては、通常、X1がAの妻であるか、X2がAの子であるかが先決問題としてその準拠法が問題となるが、本問では、相続人が誰かを確定するのではなく、単に、相続人が誰かがいずれの国の法で判断されるべきかを問われているので、問題とならない。

第3 (3)について

1 学説の状況

   日本において、外国法の内容が不明のとき、裁判所はどのように対処すべきであるかは、学説が激しく対立しているところである。主な学説としては、@請求を棄却する(請求棄却説)A日本法を適用する(内国法適用説)B当該外国法と最も近似しているとみられる法を適用する(近似法説)C条理により判断する(条理説)D段階的連結等、国際私法の規定に次順位の連結点が定められている場合には次順位の連結点による(補充的連結説)説があげられる[5]Cは、C-1一部判明している外国法や近似国法の内容を手がかりに当該外国法における条理を探求するものと、C-2必ずしも当該外国法の枠にとらわれず様々な要素を考慮する等して当該事案においてどのような解決が望ましいかを判断するものがある。

   判例は、@に関して、準拠外国法の内容は原告が主張すべきとしたもの(福岡地裁小倉支判昭和37・1・22)、Aに関して、日本法を適用すべきであるとしたもの(京都地判昭和62・9・30)、Bに関して、北朝鮮法が不明であるとして韓国法を適用したもの(福岡地判昭和33・1・14)C-1に関して、遺産分割に関する中国法の内容が明らかでないとした上で、「共同相続を認める以上、遺産分割の合意も条理によっても認められるべき」としたもの(東京地判昭和62・8・28)、C-2に関して、国際海上物品に関するインド法の内容が明らかでないとして、英米法や国際条約、日本法の内容を参考に、条理の内容を確定したもの(神戸地判昭和58・3・30)がある。Dに関する判例は、未だ出ていない[6]

   これらの学説のうち、妥当なのはいずれであろうか。まず、@については、外国法の確定の職責は、当事者ではなく裁判所にあるから、確定できないことによる不利益を原告に負担させるべきではないので、不当である。Bについては、近似国がどこかであるか確定できない場合が多いであろうし、基準として余りに不明確であるため、当事者にとってどの国の法律が適用されるのかの予測可能性を欠き、当事者に酷であるから不当である。C‐1については、条理の探求が不可能であるほどに外国法の内容が全くわからない場合、その後の処理ができない上、条理という曖昧な基準を使うと、当事者にとってどの国の法律が適用されるかわからず、当事者に酷であるから不当である。C-2については、確かに、具体的妥当性が最も図れると思われるが、裁判所の恣意によって適用される法律が決まるおそれが大きく、当事者にとっては、どの国の法律が適用されるか予測可能性を欠き、当事者に酷であるから不当である。Dについては、次順位の連結点が定められていない場合も多く(相続等)、問題の統一的解決の面で不備があるため不当である。そこで、「外国法の内容が確定できない場合には日本法を適用する」という明確な基準を用意し、当事者の予測可能性を担保出来る点、法廷は日本にあり、外国法が確定できない場合は日本法が適用されても止むを得ないと考えられる点から、Aが適当である。

2 ドラフトの問題点

 ドラフトは、条理を探求しようとし、A死亡の原因となった火災がどこで発生したかや、Aの妻子であるX1・X2の国籍など様々な要素を考慮して、日本法を適用するとしている点で、条理説(C-2)を採用していると考えられる。しかし、上記の通り、C-2は不当であり、Aが妥当であるから、ドラフトの思考過程は、妥当ではない。すなわち、ドラフトは、条理の探求をしようとし、A死亡の原因となった火災がどこで発生したかや、Aの妻子であるX1・X2の国籍など様々な要素を考慮した結果、日本法を適用するのが相当としているが、「甲国の相続法については、その一端すら明らかになって」いない段階で、端的に日本法が適用されるとすべきであった。[相続準拠法である甲国法の内容が不明である場合に、日本との関連性を云々していることから、Dの補充連結説を採用しているようにも読めなくはないですが、そうであっても、相続の準拠法を定めるに当たって、死亡原因となった火災の発生地は無関係であり、また、相続人の国籍等も通常は無関係ですので、これらは理由として不適切であるという内在的問題点を指摘することもできるかと思います。]

3 修正結果

以上より、ドラフトの「甲国の相続法については、その一端すら明らかになっておらず」より後、「本件においては、Aの相続について、日本法を適用するのが相当である。」より前の部分は全て削除すべきである。そして、甲国の相続法が確定できないことが日本法を適用する直接の理由となるから、この2文の趣旨を、理由を表す文言でつなぐべきである。

   結果、ドラフトは、「甲国の相続法については、その一端すら明らかになっていない。そのため、本件においては、Aの相続について、日本法を適用するのが相当である。」と修正されるべきである。

 

第4 (4)について

1 問題点

まず、X1・X2がAの相続人であるという甲国の適用結果は、X1が配偶者、X2が子であり、日本において配偶者と子を相続人とする(民法890条、887条1項)ことから、日本法の適用結果と合致し、公序に反しない。

次に、被相続人の配偶者X1と子X2の相続割合を1:9とする甲国法の適用結果は、日本民法の、配偶者と子との相続割合を1:1とする規定(民法900条1号)を適用した場合の結果と合致せず、大きくかけ離れている。そこで、X1とX2の相続割合を1:9とするのが、日本法の公序(42条)に反しないかが問題となる。

2 公序則違反の基準

 公序に違反するかどうかは、@準拠外国法適用結果の具体的不当性およびA準拠外国法適用結果の内国関連性、との相関関係によって判断される。

(1)適用結果の差異が公序違反と直結するか

そもそも、本件では、甲国法の適用結果と日本民法の適用結果とが異なるが、この点をもって公序違反を肯定できないか。この点、東京地裁平成4年6月26日判決は、「相続分ないしは遺留分割合は、各国が当該国の家族制度、風俗慣習等それぞれの事情に応じて定めているものであるから、旧法例二五条適用の結果、相続分や遺留分割合に日本民法を適用した場合との間で差異が発生することは、法が当然に予想し是認しているところであり、中華民国民法の相続分ないし遺留分の割合に関する規定が原告らの主張のようなものであるからといって、直ちに相続分ないし遺留分の割合に関する同法の右規定の適用が排除されるものではなく、右規定を適用すると、わが国の私法的生活において維持されなければならない公の秩序、善良の風俗が害されるおそれがある場合に限り、旧法例三〇条によって外国法の適用が排除されるにすぎないというべきである。」として、適用結果の差異が必ずしも公序違反を導くものではないとしている。この考えは、国際私法が、準拠法を選択するものであり、その適用結果については原則として問わないとする姿勢と合致しているし、具体的妥当性の面からも妥当であると考えられる。

従って、甲国法の適用結果と日本民法の適用結果とが異なるが、この点をもって公序違反を肯定できない。

(2)@準拠外国法適用結果の具体的不当性について

   では、どの程度、日本法と準拠法の適用結果がかけ離れていれば、公序に違反するといえるのか。

   公序条項の機能は、実質法の内容と適用結果を考慮せずに準拠法を指定する国際私法の安全弁として働き、妥当でない準拠外国法の適用結果を回避し国内の公序良俗を守ることにある[7]。公序良俗のこの機能と、国際私法が準拠法を選択するものであり、その適用結果については原則として問わないとする姿勢をとっていることを考慮すると、公序良俗を破壊するような適用結果とは、日本の基本的私法秩序を破壊する結果である必要がある。

   本件における日本の基本的私法秩序を破壊する結果とは、日本において子または配偶者に保障される遺留分すら認めない結果であると考えられる。以下理由を述べる。遺留分制度の趣旨は、被相続人の財産処分の自由と遺族の生活保障との調和にあるとされ、被相続人によっても害することのできない遺族の生活保障のための最低限の相続分といえる。そうすると、準拠外国法の結果が遺留分の保障割合以下であると、遺留分制度の趣旨を害することになり、日本の基本的私法秩序と相容れない結果となると言える。

   本件における配偶者と子の遺留分は被相続人の財産の2分の1である(民法1028条2項)。そして、遺留分の配分は法定相続分により、配偶者と子の法定相続分は1:1である。そうすると、配偶者と子(子が一人の場合)はそれぞれ被相続人の財産の4分の1まで遺留分が保障されていると考えられる。結果、配偶者と子(子が一人の場合)の間では、1:3が公序に反しない限界の割合であると考えられる。

   これをX1とX2についてみると、配偶者X1と子X2の相続割合が1:9であり、1:3を超えて配偶者の相続割合を低くしている。したがって、この準拠法適用結果は、公序に反する程度に具体的不当性を有する。

(3)A準拠外国法適用結果の内国関連性について

   たとえ、準拠法適用結果が公序に反する程度に具体的不当性を有していても、内国関連性を欠けば、公序に反しないこととなる。相続における内国関連性は、被相続人の国籍、被相続人が死亡した場所、被相続人が死亡した原因の生じた場所、被相続人の内国との関わり、相続人の国籍、相続人の住所、相続が具体的に行われる場所等を考慮して判断する。

 本件では、確かに、被相続人Aの国籍は甲国であり、死亡した場所は甲国であって日本ではない。しかし、Aが死亡した直接の原因は、Aが日本において購入した布団乾燥機の欠陥にあり、Aが死亡した原因は日本において生じたと言える。Aは、日本人と結婚し、来日してから20年近く日本に住んでおり、人生の3分の1以上を日本で過ごしているから、Aの日本との関わりは非常に強い。相続人X1・X2の国籍は日本である。相続人の住所は日本にある。相続が具体的に行われるのは、X1・X2が日本に住所を有することから日本であると考えられる。以上の理由から、準拠外国法適用結果の内国関連性は、非常に強いといえる。

3 結論

 以上より、X1・X2の相続割合を1:9とする甲国法の適用結果は、公序に反する程に、具体的不当性を有し、甲国法の適用結果は、内国関連性が非常に強い。

   よって、X1・X2の相続割合を1:9とする甲国法の適用結果は、公序に反し、排除される。この場合、適用されるのはいずれの国の法でもない(欠缺否認説)。[設問は公序に反するかというだけですので、与えるべき解決を示す必要はないですが、欠缺否認説によれば、X1・X2の相続割合を1:3とする、ということになろうかと思います。そして、この点において、欠缺否認説は内国法適用説と異なる結果になります。]

 

第5 (5)について

1 問題の所在

 どのような財産が相続財産になるかという問題は、相続の準拠法によって決定される[8]

本件では、被相続人Aの国籍は甲国であるから、相続の準拠法は、甲国であるから(36条)、損害賠償請求権も、甲国法により相続財産になるか判断されるようにも思え   

る。

しかし、本件における損害賠償請求権の準拠法は、日本法である。日本法では、債権債務は一身専属権でない限り、包括的に相続の対象となる(民法896条)から、上記債権も、相続の対象となる。ここで、仮に甲国法が上記債権の相続性を否定しているとすると、甲国法の適用結果と日本法の適用結果は矛盾する。では、上記債権が相続財産になるかは、甲国法と日本法どちらにより判断すべきか。これを解決する規定は明文上存在しない。そこで、相続の準拠法と、相続財産の発生原因(損害賠償請求権)の準拠法との関係が問題となる。

2 裁判例

   この点大阪地裁昭和62年2月27日判決は、「本件債務の相続性につき、法例一一条一項と同二五条とは、相矛盾する内容の二個の準拠法の適用を命じているものといわなければならず、しかも、そのうちのいずれかを優先的に適用すべきものとする根拠も見当らないといわざるをえないのである。そうであるとすれば、本件債務の相続性を肯定しこれが相続によつて被告らに承認されることを肯認するには、不法行為準拠法である加州法も相続準拠法である日本法もともにこれを認めていることを要するものといわなければならず、そのいずれか一方でもこれを認めないときは、結論としてそれを否定すべきものと解するよりほかはない。」として、相続の準拠法と不法行為の準拠法がいずれも、財産の相続性を認めていなければ、その相続性を認めないとする。つまり、相続準拠法と損害賠償債務(相続財産の発生原因)の準拠法を累積適用した[9]

3 私見

   しかし、本判決は、損害賠償債務の相続性という1つの問題を、相続と相続財産の発生原因という2つの問題として二重に法性決定している。法性決定とは、国際私法を構成する個別的な抵触規則の事項的適用範囲の画定の問題であるから、そのような二重の法性決定は許されない。

 そこで、相続財産の発生原因の準拠法のみによって相続性を判断すべきである。このように解することの利点として、処理が簡明であるから裁判所および当事者の負担軽減につながること。相続財産の発生原因の債権債務が相続後も存続しやすくなることで、相続財産の発生原因の準拠法に指定された国の法の尊重につながることが挙げられる。批判としては、相続準拠法の国の法律をないがしろにすることになることが挙げられる。しかし、これに対して、相続準拠法が規律するのは、相続財産の画定にとどまらないので、一概にないがしろにするとは言えないと言える。

 従って、相続財産の画定については、相続財産の発生原因の準拠法により判断すべきである。

4 結論

   本件では、相続財産の発生原因(損害賠償請求権)の準拠法は、日本法であるから、X1・X2がAの損害賠償請求権を相続するかは、日本法により判断されるべきである。

 

第6 (6)について

1 単位法律関係

   @日本から甲国への移動費用A甲国での呪術師による加療費用BAの死亡により増加した損害賠償額等の請求の可否は、いずれも布団乾燥機という「生産物」(18条)の欠陥とAの死亡との因果関係が問題とされている。従って、@ないしBの請求の可否は、単なる不法行為の問題ではなく、生産物責任の問題である。

2 生産物責任の連結点及び準拠法

   生産物責任の準拠法は、原則として「引渡しを受けた地の法」である。その趣旨は、生産業者と被害者の双方にとって中立的かつ密接に関係する地を指定することにある。また、例外的に、その地における生産物の引渡しが通常予見することのできないものであったときは、「生産業者等の主たる事業所の所在地の法による」としている。その趣旨は、生産業者等の予測可能性の確保にある。

3 @ないしBの検討

 まず、「引渡し」は、所有権等の移転は不要であり、占有の移転で足りる。

(1)Cについて

Aが布団乾燥機の占有の移転を受け「引渡し」を受けたのは、日本のCの店舗においてである。従って、Cに対する@ないしBの請求については、「引渡しを受けた地の法」である日本法が準拠法である。

(2)Bについて

Bは日本に布団乾燥機を輸出しているから、Aへの布団乾燥機の引渡しが通常予見するこのできないものであったとはいえない。すなわち、生産者が、商品を輸出している国において、その商品が引渡されることは当然予測できる。また、生産者は、生産物を流通させる市場の安全基準を考慮にいれるべきであり、被害者は当該生産物を取得した地の保護を期待すること[10]からも、結論の妥当性が導かれる。従って、Bに対する@ないしBの請求についても「引渡しを受けた地の法」である日本法が準拠法である。

4 結論

   以上より、@ないしBの請求の可否は、日本法により判断すべきである。

 

以上



[1] 松岡博『国際関係私法入門(第3版)』[2012] 有斐閣p127

[2] 松岡・前掲p129

[3] 澤木敬郎=道垣内正人『国際私法入門(第7版)』[2012] 有斐閣p229-230

[4] 中西康=北澤安紀=横溝大=林貴美『国際私法』[2014] 有斐閣p117

[5] 櫻田嘉章=道垣内正人編・前掲237p 117事件 解説 森下哲朗

[6] 櫻田嘉章=道垣内正人編・前掲237p 117事件 解説 森下哲朗

[7] 松岡・前掲p61

[8] 松岡・前掲 240p

[9] 櫻田嘉章=道垣内正人編・前掲160p 79事件 解説 中西康

[10] 松岡・前掲128p