早稲田大学法科大学院2015年度冬「国際関係私法基礎」試験問題
ルール
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参考文献その他の調査を行うことは自由ですが、他人の見解を求めること及び他人の見解に従うことは禁止します。
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解答作成時間は自由ですが、解答送付期限は、2015年12月20日(日)21:00です。
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解答は下記の要領で作成し、[email protected]宛に、添付ファイルで送付してください(emailアドレス中の_はアンダーバーです)。
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メールの件名は、必ず、「WLS国際関係私法基礎2015」として下さい(分類のためです)。
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文書の形式は下記の通り。
・ A4サイズの紙を設定すること。
・ 原則として、マイクロソフト社のワードの標準的なページ設定とすること。
・ 頁番号を中央下に付け、最初の行の中央に「WLS国際関係私法基礎2015」、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載してください。
・ 10.5ポイント以上の読みやすいフォントを使用し、また、全体として読みやすくレイアウトしてください。
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枚数制限はありません。不必要に長くなく、内容的に十分なものが期待されています。
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判例・学説の引用が必要です。他の人による検証を可能とするように正確な出典が必要です。
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答案の作成上,より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成してください。
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これは、成績評価のための筆記試験として100%分に該当するものにするものです。
問題1
日本法人Xは、長年の研究投資の結果、画期的な性能を有する蓄電池αを開発した。Xはαの製法について、特許出願せずノウハウとして事実上の独占し、日本工場において厳格な機密管理体制を実施してαを生産している。αは高価格ではあるものの、各国での販売は順調で、大きな利益を上げていた。ところが2年後、甲国法人Yがほぼ同等の性能を有する蓄電池βをより安価な価格で販売を始めた。もっとも、Yの生産能力はまだ低く、βの販売先は甲国と世界最大の市場である乙国との2カ国に限られている。
その1年後、Xの元従業員Aが、Xから持ち出した蓄電池の製法に関する技術情報をYに提供することと引き替えに、3億円相当のY社株式と、Yの創業者が設立した大学の教授への就任という見返りを得たことを示す物証が、Yを不祥事で辞めた元従業員BからXに持ち込まれた。そこで、Xは、Yに対して甲国でのβの製造の差止めと、甲国及び乙国で被っている損害の賠償とを求める訴えを東京地裁に提起した。
以下の(1)から(4)の設問はそれぞれ独立しており、すべて、日本の裁判官の立場で、民事訴訟法、法の適用に関する通則法(それぞれ以下、「民訴法」・「通則法」という。答案においても同じ。)等の日本法に照らして答えなさい。
(1) Yは日本には営業所を有していないが、AがXに勤務している当時から、Yの従業員数名が頻繁に日本を訪問してAと接触し、Aにαの製法に関する技術情報の提供を求めていたこと、そして、Aはそれに応じてXから当該技術情報を持ち出して甲国でYに提供したことが証明されたとする。この場合、東京地裁はこの訴えについて国際裁判管轄を有するか。
(2) Yは、Aから確かに蓄電池に関する情報は得たが、それはAがXを退社後、Aが突然に甲国にあるYの本社を訪れて、博士号を有するA自身が思いついたものだとして持ち込んできたものであり、それがXからAが盗んだ情報であるとは知らなかったとする。
(a) この場合、東京地裁はこの訴えについて国際裁判管轄を有するか。
(b) この場合において、Yは日本に営業所を有し、βはまだ日本では販売していないものの、Yの他の製品の日本での販売等の業務を行っているとするとする。民訴法3条の3第4号又は5号に基づき、東京地裁はこの訴えについて国際裁判管轄を有するか。
(3) (1)の事実関係のもとで、東京地裁はこの訴えについて国際裁判管轄を有するとする。
(a) Xの請求のうち、Yに対する甲国でのβの製造差止請求の準拠法はいずれの国の法か。
(b) Xの請求のうち、Yに対する甲国及び乙国で被っている損害の賠償請求の準拠法はいずれの国の法か。
(c) Yは日本にもβを輸出しているとし、Xは日本での損害の賠償も請求しているとする。この請求の準拠法はいずれの国の法か。
(4) Yは、甲国においてβの製法について甲国の特許を取得した上で、日本市場においてβの販売を始めた。そして、(1)の事実関係があることに加え、βの日本での販売開始を機にYは東京及び大阪に営業所を設置して、販売活動をしているとする。Xは東京地裁においてこの甲国の特許無効確認請求の訴えを提起することができるか。
問題2
講義を通じて、国際私法について、なるほどと思ったこと、疑問に思うこと等を10行以内で書いてください。どこかに書いてあることを書き写すのではなく、自分で積極的に考えた結果であることを評価します。(プラスの方向にのみ評価し、道垣内担当の部分の評価50点のうち、最大10点で加点します。)
[参考]
不正競争法防止法(抄)
(定義)
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一から三 [略]
四 窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(以下「不正取得行為」という。)又は不正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為(秘密を保持しつつ特定の者に示すことを含む。以下同じ。)
五 その営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為
六 その取得した後にその営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為
七 営業秘密を保有する事業者(以下「保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為
八 その営業秘密について不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為
九 その取得した後にその営業秘密について不正開示行為があったこと若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為
十以下 [略]
(差止請求権)
第三条 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む。第五条第一項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができる。
(損害賠償)
第四条 故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、第十五条の規定により同条に規定する権利が消滅した後にその営業秘密を使用する行為によって生じた損害については、この限りでない。