HLS2015国際関係法(私法系分野)

2Aクラス 13v9002 小平達也

設問1

1 本件において断絶型養子縁組の成否につき、どの国の法がどのように適用されるか。

2(1)まず、養子縁組の成立という問題は、養子縁組の問題として法性決定されるべきであるところ、養子縁組について定める通則法311項前段(以下法令名略)は、縁組の当時における養親となるべき者の本国法によるべきとしている。

(2)本件において、養夫となるAは日本人であるので、その本国法は日本法である。一方、養母となるBは甲国人であるので、その本国法は甲国法である。養親となる夫婦の本国法が異なるときには、養父、養母それぞれにつき養子縁組ができるかどうかを判断することになる(百選64事件)。それぞれの本国法が単独での養子縁組を認めていれば、それぞれで成立を判断すればよい。しかし、片方の本国法上は夫婦が共同でなければ養子縁組が認められないとされている場合に、もう片方の本国法上は養子縁組が認められないときは、実質法上の制約により、どちらも養子縁組ができないこととなる。

(3)養子と実方の血族との親族関係の終了の問題は、312項の問題である。なぜなら、断絶型養子縁組制度を持たない国の法が準拠法となると、31条で定まる準拠法上いくら断絶型養子縁組を認めていても、その趣旨が実現されない結果となる。このようなことから、養親側の思いの実現を優先させるために、312項により311項前段、つまり縁組の当時における養親となるべき者の本国法によることとなる(百選71事件)。

   この場合にも(2)と同様に、それぞれの本国法が単独での養子縁組を認めていれば、それぞれで成立を判断すればよく、片方の本国法上は夫婦が共同でなければ養子縁組が認められないとされている場合に、もう片方の本国法上は養子縁組が認められないときは、実質法上の制約により、どちらも養子縁組ができないこととなる。

(4)これを本件についてみると、日本法上、配偶者のある者が未成年者を養子にする場合には配偶者とともにしなければならない(民法795条)とされている。従って、Aについて日本法上の断絶型養子縁組の要件を満たすが、Bについて甲国法上の断絶型養子縁組の要件を満たさない場合には、どちらも断絶型養子縁組が認められないこととなる。甲国法上、養子縁組は配偶者とともにしなければならないと規定されている場合に、Bについて甲国法上の断絶型養子縁組の要件を満たすが、Aについて日本法上の断絶型養子縁組の要件を満たさない場合も同様である。また、甲国法上、養子縁組は配偶者とともにしなければならないというような規定がない場合に、Bについて甲国法上の断絶型養子縁組の要件を満たすが、Aについて日本法上の断絶型養子縁組の要件を満たさない場合には、Bについてのみ断絶型養子縁組が成立する。

2 セーフガード条項

311項後段は、養子縁組の際、養子となるべき者の本国法によれば、当人若しくは第三者の承諾・同意又は公的機関の許可その他の処分を要する場合には、それを具備しなければならないとしている(セーフガード条項)。Dは甲国と乙国の二重国籍者であり、常居所が乙国であるので、381項により乙国法が本国法となる。

従って、乙国法上、D若しくは第三者の承諾・同意又は公的機関の許可その他の処分を要する場合には、それも具備する必要がある。

3 本件は、養子縁組の問題なので、その方式は34条により、1項で31条の本国法である日本法か甲国法、2項で行為地の法が適用され、いずれかの方式によってなされれば、形式的成立要件を満たす。

設問2

1 311項後段は、養子縁組の際、養子となるべき者の本国法によれば、当人若しくは第三者の承諾・同意又は公的機関の許可その他の処分を要する場合には、それを具備しなければならないとしている(セーフガード条項)。本件では、この条項との関係で日本の検察官の同意で足りるか問題となる。

2 本件では、養子となるべき者であるDの本国法上、検察官の同意が必要であるとされており、一見するとDの本国法上の検察官による同意が必要であるかのようにも思える。しかし、311項後段により子の本国法に送致されるのは、承諾、同意、許可などが必要とされているか否かだけであり、手続問題についてはDの本国法には送致されていない。従って、日本の手続法上の問題として考えればよく、日本では家庭裁判所での手続以上のことはできず、する必要もない。

3 以上のことから、日本の家事事件手続法上の手続きを利用し、日本の検察官の同意を得ることで足りる。

<確かに、道垣内正人『ポイント国際私法・各論第2版』112(2014)では、手続問題として考える旨書いているのですが、次のように考えることはできないでしょうか。すなわち、セーフガード条項の趣旨から本来は乙国の検察官の同意が必要であり、それに相当にする公益代表者のチェックが日本ででき、それが乙国法の解釈として許されればそれでもよく、日本の検察官が代諾をすれば乙国法上よいとされる可能性が高いが、日本の検察官がそのような行為をしないというのであれば、乙国の検察官の同意をとるべきだという処理です。>

設問3

1 本件では死後認知の出訴期間が問題となるところ、死後認知の出訴期間については嫡出でない子の親子関係の成立の問題なので、29条により準拠法が定まる(百選62事件)。29条の趣旨は、できるだけ容易に認知の成立を認めることで、認知される子の保護を図ることであり、292項が選択的連結を採用しているのは、認知の場合には出生後長期間を経てから認知される場合もあり、その時点でふさわしい準拠法を適用することが適当であるとの考慮とともに、認知の成立を容易にしようとする考慮に基づく。このようなことから、死後認知の出訴期間は最も遅くまで可能とする法によるべきである。

<死後、長期間経過後に死後認知請求がされると、遺産の再処理に困難を来たし、また、認知に反対する側がしかるべく証拠を提出することもできなくなる虞があり、期間が長ければ長いほどよいというわけには否かのではないでしょうか。公序違反の可能性も考えるべきではないでしょうか。>

2 本件において、まず291項前段によれば、準拠法は日本法となり、民法787但書により、死後認知請求はできないこととなる。しかし、292項の子の本国法を準拠法とすれば、丙国法を適用することになり、Fの死後認知請求はAの死亡を知ってから1ヶ月後に提起されたものであるので、丙国法によれば死後認知請求は認められることになる。

3 以上のことから、292項により子の本国法である丙国法が適用され、死後認知請求は認められる。なお、F11歳であり、Aの死亡前に生まれているので、293項の適用はない。

設問4

1 29条はいわゆるセーフガード条項を置いている。同条1項後段は、認知の当時における子の本国法によればその子又は第三者の承諾又は同意があることが認知の要件であるときは、その要件を備えなければならないと規定し、同条2項後段は出生時より後の認知についてこれを準用している。本問ではDが291項後段の「第三者」にあたるかが問題となる。

2 29条のセーフガード条項の趣旨は、親の意思のみで認知が認められると、子に不都合な場合があるから、認知される子の保護を図るためにその子又は第三者の承諾又は同意が必要な場合にその同意を得ることを求めたものである。丙国法上、死亡した父に嫡出子又は養子がいるときにはその全員の同意がいるとされ(以下本件同意規定)、Aの養子であるDは、Fの死後認知に反対している。しかし、死亡した父の嫡出子又は養子の同意を要するかは、認知される子の保護とは何ら関わりのないものである。従って、死亡した父の嫡出子又は養子は29条のセーフガード条項にいう「第三者」には当たらず、29条のセーフガード条項により丙国法上の本件同意規定に送致されることはない。

3 以上のことから、本件の死後認知請求において、Dの同意は不要であり、裁判所はDの同意がなくても、Fの死後認知請求を認めるべきである。

292項の子の本国法として丙国法が適用されることもあります。この場合には「第三者」の範囲の議論ではなく、公序則の適用が問題となります。>

設問5

1 GがDを実子として育てるためには、Dの断絶型養子縁組の成立の無効及び自己とDとの親子関係の成立を主張するか、または、Dの断絶型養子縁組を認めたうえで亡きA及びBとDとの離縁及び自己とDとの親子関係の成立を主張することが考えられる。しかし、Dの断絶型養子縁組は有効に成立している。従って、亡きA及びBとDとの離縁及びGとDとの非嫡出親子関係の成立の主張について以下検討する。

2 まず、亡きA及びBとDとの離縁は、断絶型養子縁組の離縁の問題であるところ、養子縁組の離縁に関する312項は、311項前段に規定によるとしている。311項前段は、縁組の当時における養親となるべき者の本国法によるとしている。本件において、養親であるAとBの養子縁組当時の本国法は、日本法及び甲国法である。

 従って、亡きA及びBとDとの離縁については、日本法及び甲国法が準拠法となる。

3 次に、Gは結婚していないので、GとDの親子関係の成立は、非嫡出親子関係の成立の問題であるところ、これについては29条が定めている。29条は、選択的連結を採用しており、Gの本国法は乙国法であるところ、子であるDは二重国籍者である。Dは甲国と乙国の二重国籍者であり、日本を常居所としているので、Dの本国法は381項により、Dの最密接関係地である日本法となる。

 従って、GとDの親子関係の成立については、日本法又は乙国法のうち、29条の趣旨から、より認知の要件が認められやすいほうが準拠法となる、いずれかにより親子関係の成立(日本法によれば認知を要するが、乙国法によれば認知制度はなく、事実関係により決まるとされている可能性がある)が認められれば親子関係は認められる。

以上